ボス部屋でだし巻きたまご。
木の扉を開くと、馬ほどの大きさの、青みがかった銀の毛並みの狼が座っていた。
『イオリは下がっていろ』
言われた通りに岩陰に隠れると、ルビーは狼へ向かって行った。
狼はルビーに気づくと、ゆっくりと立ち上がり臨戦態勢をとった。先にしかけたのは狼で、遠吠えをあげてルビーに飛びかかった。
『本気で来い! 狼の姿のままで良いのか?!』
狼の攻撃を避けながらルビーが挑発する。それに応じるかのように遠吠えをして、狼は二本足で立ち上がった。両手足の爪は見る見る鋭利な刃物のように尖り、ルビーに振りかぶる。
狼のとめどない攻撃にも怯まずひらひらと避けて、段々距離を詰めていき狼の懐に飛び込んだ瞬間、ルビーと狼は火柱に呑まれた。
「ルビー!?」
慌てて飛び出して火柱の近くへ走り寄ると、火柱が消えてケロッとした顔で『なんだ?』とルビーが振り向いた。その足元には狼が灰のように崩れ落ちていた。
「いまの火柱って……」
『我のスキルだが』
「死んじゃったかと思ったよ……」
へたりこむ私にルビーは『こんな初級ダンジョンで我が死ぬわけない』と笑った。
『ドロップ品があるぞ』
狼の灰の跡に爪のようなものが残っていた。売れるかどうかはわからないけど、アイテムインベントリに入れて持ち帰る事にした。
『腹が減ったな』
余裕だねルビーさん……!
「ここがダンジョンの最後なんだよね?」
『そうだな、これ以上先は無いようだ。そこに石碑のようなものがあるだろう。それに触れるとダンジョンの入口へと戻れる。だいたいダンジョンの最後にあるものだ、覚えておくといい』
「ルビーってどこかのダンジョンに行った事があるの? 私と会う前は大きな身体だったでしょ」
『我が入れるダンジョンは数は少ないが、あるぞ。別の大陸だが』
「広いんだね、この世界」
『イオリの世界は狭かったのか?……一度見てみたいものだ』
「ルビー、周りに誰も居ないよね」
『……。うむ、居ないぞ』
「買物しよう! ルビーの欲しいものを買おう。ほんの一部分に過ぎないけど、ルビーにも知ってもらいたいよ、私の世界を」
『いいのか? トマトは必ず買う。他にも気になるものがあるのだ!』
ショッピングを使用して、ふたりで店内をまわった。
ルビーが気になっていたものはリンゴだった。トマトも一緒に抱えている。紅竜だから赤いものが気になるのかな……? 私はサラダ油と塩コショウに小さいボウル、顆粒だしや調味料一式と、お惣菜の白ご飯にサラダと玉子と水を買った。
ショッピングを終えて、食べたかっただし巻きたまごを焼く。本当はちゃんとお出汁を取って入れたいんだけど、顆粒だしで代用。どうせルビーも食べるだろうし、たまご4個使って焼こう。
ルビーは気になるのか、リンゴとトマトを持ったまま私の手元をずっと眺めている。出来上がるの待ってくれているのかな? 尻尾ふりふりで可愛い。……戦闘狂だけど。
買ったばかりのボウルにたまごを割り入れて、白身と黄身がきれいに混ざるまでかき混ぜながら顆粒だしを入れる。おしょうゆを少し垂らして、ほんの少ーしだけお砂糖を入れて焼くのが私流!
あんまり上手に巻けてないけど、ご愛嬌で。
ほかほかのだし巻きたまごとサラダでご飯だー! いっただきまーす!
『イオリ、これは果実だな! 甘くてとてもうまいぞ!』
リンゴもお気に召したご様子。トマトもあっという間に食べ終わって、だし巻きたまごが気になるみたい。食べていいよと言うと、おそるおそる食べた。
『ふわふわでこれもうまいな! 食べた事のない味だ!』
「美味しいでしょ。鶏っていう生き物が生んだもので作るんだよ」
『ニワトリ……見てみたいものだ』
「コートが使えるようになったら鶏にしてあげようか? 飛べないけど」
『飛べないのは困るな……』
私もルビーもペロッと全部たいらげ、しばらく寛いでから石碑でダンジョンを脱出した。