豚✕猪=ピグモール
スパンダー討伐の依頼書をブロンドさんに出して、クランの宿屋一泊分の報酬を貰った。そのまま宿屋に行って久しぶりのお風呂だ。火の魔導石を利用して湯を沸かすみたい。ルビーも水浴びがしたいと言うので、二畳ほどの浴室を貸し切りにして一緒に入った。
「ルビーは火の魔導石とか埋まってないの、身体に」
『なぜだ? 取り出して売るのか?』
あるんだ……。取り出しも売り払ったりもしないけど……。
宿屋のお風呂は魔物の脂からこしらえたという石鹸は置いてあったけど、どうにも使う気になれなくて、一旦部屋に戻ってからボディソープやシャンプーなんかをまとめてショッピングした。
そしてわかったこと。
狭い部屋の中でショッピングを使っても、まわりからは私が消えたようにしか見えないらしい。森でスキルを使った時も周りの木に干渉していない様子だったから、ルビーに黙ってショッピング使ったんだけど、店内に入ると外から私を呼ぶ声がきこえた。まさか宿屋の部屋を突き抜けてしまったのかと不安になって、急いで店を出てルビーにどうしたの!? と尋ねると、いきなり私の姿が消えたということだった。
気配探知にも引っかからなかったみたいで、涙目になったルビーがちょっと可愛かった。ステルスとかじゃなくて、姿も気配もわからなかったって。
『とんでもないスキルだな……』
「そうだねえ。突然異世界に放り込まれた私を見兼ねて、神様が恩情をくださったんだよきっと」
『どの属性の神だ?』
ルビーさん、まともに返してこないでよ……。
二人でゆっくりあたたまって、ルビーもとってもいい香りになった。花の匂いがするぞ?! ってわたわたしていたけれど。
部屋に戻って、腹が減ったというルビーのためにピグモールのお肉を焼いてみることにした。私は生でも美味しいというプルの実を、勇気を出して! 食べてみる。
ピグモールのお肉はきれいな豚肉って感じ。少し分厚めに切ってそのまま焼いてみた。野性味あふれる脂の匂いがする。豚肉とは少し違う……あ! ボタン肉に匂いが似てる。一口味見してみると、ワイルドな豚肉のステーキ! 昔イノブタを食べた事があったけど、それにそっくり。ちょっとかたいけど、じゅうぶん美味しい。
『イオリ、それは我にくれるのではないのか』
味見してたの見られちゃった。どうぞと紙皿に乗せて渡すと美味しそうに食べている。私もプルの実を食べてみよう。
確か皮を剥ぐんだったな。手触りはすいかみたい。まず半分に切って……うわー!! 中身、オレンジ色!! 毒々しい! 種はないんだな……。皮は薄い。紫のボディに水玉で中身はオレンジって毒キノコでもなかなかない色合いだよ……。
一口大に切って、口に放り込んでみた。……。甘いのかと思いきや、これはまるできゅうり! でも、出汁がしみてるような味があって瑞々しくておいしい……。ぼりぼり食べてたら、ルビーが顔をしかめてこっちを見ていた。
『うまいか?』
「おいしいよ? 食べる?」
はい、とプルの実を差し出す。
『……いらぬ』
このくだり、既視感があるわ。
お腹もふくれて、早々に休んだ。
疲れていたのか、すぐに眠りにおちた。