討伐完了。
ルビーの案内でシバの町から更に西へ歩くと、十メートルほどの幅の川が流れていて手造りと思わしき小さな橋がかかっていた。川の水は澄んでいて、魚のような影も動いて見えた。
「ルビー、お魚がいるよ! お水も凄く澄んでて気持ちよさそうだよ!」
『あれはキラニアだな』
「……何か、物騒な名前だけど。もしかして肉食で凶暴だったりしちゃう?」
『知っておるのか? 何でも喰うが特に肉を好んで、川に入ってくるものを捕食する』
うーんこの期待を裏切らない感じ……!
「ルビー、この世界にはお風呂ってあるの?」
『あるぞ』
「どっ、どこで入れるのっ!?」
もう、いい加減お風呂に入りたい! 最悪水浴びでもかまわない!
『宿屋にあったであろう。なぜ入らなかったのだ?』
なん……だと……。気づいてたら入ってたよ!! 今日シバの町に戻ったら絶対入るからね!
『そうした方がいい。少し臭うぞ』
……!!
とりあえずルビーをはたき落としておいた。
川を渡りきり、道なりに歩くとまた森の入口が見えた。ハイラの森ほどは深くもなく、初級の冒険者が腕試しで入るような森なんだそうだ。ここにスパンダーがいるらしい。
「ねえ、私丸腰なんだけど」
『我がいるから構わないだろう。友達はちゃんと守るぞ?』
いつものドヤ顔で言われたけど、私も少しは頑張らなきゃいけないしと伝えて、少し道を外れてからルビーに気配探知してもらって、ショッピングを使った。
武器になるようなものが、ただのスーパーには見当たらなくて仕方なく長めの刃の包丁と、トマトを購入した。トマトはルビーが知らぬ間に抱えていて、そのまま支払いされてしまった。ルビーのお金だからいいんだけどね。
『先ほどの気配探知でスパンダーが近くにいるのがわかった。行くぞ』
包丁を手に持ち、ルビーの先導についていく。
ガサガサと背の高い草をかき分けて進むと、ぱっとひらけた場所に出た。たんぽぽみたいな黄色い花が沢山咲いていて、その向こうにスパンダーは居た。
「待って。この距離であの大きさっておかしくない? ゆうに2メートルはあるよ」
『人間族から見れば大きいだろうな。まあいい、行くぞ』
ルビーはためらいなく突撃していき、スパンダーに向かって火を吹いた。そういえばルビーって火吹けるんだったね。
燃え上がったスパンダーは、口のような所から白い糸を吐き出してルビーを狙う。
『ハハハ! 我に敵う筈がないだろう!』
え。ルビーさん、何だかものすごく楽しそう。実は戦うのが好きなの?優しいドラゴンのイメージが崩れ落ちたよ??
『久しぶりに外で戦うのでな、少し楽しい!』と言いながらしばらく戦うルビーを眺めていると、燃え尽きかけ動きが鈍くなったスパンダーを指して、とどめをさせと私に言う。
「ぐーろーいーぃぃ!!!」
『これで討伐完了だぞ。早くしろ』
ルビーに促され、こわごわスパンダーの腹にずぶりと深く包丁を突き刺すと、スパンダーは静かに息絶えた。
持っていた依頼書には新しく赤く光る文字のようなものが浮き出ていた。討伐完了らしい。
『イオリ、よくやった』
……ありがとうルビー。いくら見た目は蜘蛛でも、あんな大きな蜘蛛は怖いというより気持ち悪かったよ……。