初依頼はスパンダー。
クランの倉庫を覗くと、バイモスさんが居た。
「おはようさん!えらく早く来たもんだな。だが頼まれていたものは出来上がってるぜ!」
と、野太い声で言いながらチョイチョイと手招きをして小部屋に促された。まだクランの他の人たちは来ていないようで、バイモスさんの姿しかなかった。
「素材は全部うちで買い取って構わないんだよな?」
そうですね、と返すとバイモスさんは、肉の塊を冷蔵庫のような箱の中からドサドサドサッと出してきた。
「まずはラビークだ。精肉にしてあるからな。耳がうまいんだよなあコイツ! それとピグモールも精肉だ。こいつらは素材が無いから肉だけだな。チューシープは毛と毒牙が買い取り素材だ。肉は少ないが、クセが少なくて食べやすいぞ」
ピグモールは豚肉みたいな肉質だなぁ。チューシープも精肉にしてくれているおかげで、グロさはほとんど無いからありがたい。
「それと、エレクバードだな。魔導石と角、それから皮が素材だ。この魔導石は雷魔導の力を持っていてな、使い勝手がいいんだ。それに、コイツは肉もうまいんだぜ!」
並べられた肉の塊と、解体費用を差し引いた、素材買い取り分の金貨を渡された。ルビーは興味津々で肉の塊をつついている。
「ありがとうございます。あと、プルの実とレグレの根の食べ方を教えてもらえませんか?」
「採ってきたのか? レグレなんぞ最近とんと見なかったが、珍しいな!」
バイモスさんいわく、プルの実は皮をはいだら生でも煮ても焼いても美味しいらしい。レグレの根は、生だとえぐみが強いので火を通して食えとのことだった。
「お忙しい中ありがとうございました!」
「いいってことよ! 肉も金も忘れるなよ!」
と言いながら手を振り、バイモスさんは去っていった。
アイテムインベントリにぜんぶ片付けて、クランの方へ行くとブロンドさんがカウンターで書類を整頓していたので挨拶を交わすと、
「町の外へ行かれるのでしたら、そちらのボードに依頼を貼りだしておりますので、よろしければお引き受けくださいね」
にっこり笑うブロンドさん。
そういえばユトさんも昨日は依頼で出ているって言ってたな。
「依頼って、どうすれば引き受ける事が出来るんですか?」
「貼りだしてある依頼書をお持ちになって、依頼を達成すれば自動で達成の印字がされます。それをこちらのカウンターへ出して頂ければ完了です。ただし素材が依頼の場合は、素材もお持ちして頂くようになっております」
なるほど。何でも屋みたいなものか。
「依頼にはランクがございますので、ご自分に合ったものを皆様選ばれています。特に高ランクの依頼は命を落としかねませんので……」
ランクはEが一番下で上はSSまであるそうだが、「平和な町なので、高ランクの依頼はなかなか出ませんね」とブロンドさんは笑っている。いま貼りだされているものは、EからCランクまでしか無いらしい。
『(イオリ、これを引き受けろ。スパンダーの討伐だ。Cランクだが、レベルアップの足しになる上に報酬もわずかだが出るようだ)』
うーん、何を書いてあるのかさっぱりわからない! ルビーは読めるの?
『(我がどれほどの時を生きていると思っているのだ?)』
そうですね。二千年もあれば世界中の言語をマスター出来そう。
『(これだ)』とルビーがひっぺがした依頼書には、背中にパンダみたいな模様がある蜘蛛が描かれていた。
『(よし、行くぞイオリ!)』
ルビーにまた急かされて、ブロンドさんが頑張ってくださいね〜とひらひら手を振っているのを後ろ手に見ながらクランを出た。
町の外に出るまでは我は屋根伝いに行くから迷わずついてこい、と飛んで行き、私は何の準備も出来ないまま町の外へと連れて行かれたのでした……。