初めてがいっぱい。
『(イオリ、起きろ。夜になるぞ)』
ルビーの声でハッと目が覚めると、日が暮れて辺りは薄暗くなり始めていた。昔話を聞きながらうたた寝してしまったみたいだ。
「(うたた寝どころではなかったぞ)」と突っ込まれたけど、気にしない!でも、きっと眠っている間は守ってくれていたんだろうな。ありがとう、とルビーを見るとプイッとそっぽ向いちゃったけど尻尾は正直に揺れていた。
「(折角の町なのだから宿屋にでも泊まったらどうだ?)」
お金ないから無理だよと返すと、またどこからか取り出した金貨をくれた。ルビーいわく、洞窟に引きこもろうと奥に行く途中で宝箱を見つけて、中身をアイテムインベントリに放り込んでいたらしい。
かさばって困るって言ってたな、そういえば。
「(どれほどの価値があるのかもわからぬが、金貨と宝石はまだまだあるぞ)」
まだまだあるのか……。
ルビーと泊まる事の出来る宿屋ってあるのかな?どこに何があるのかさっぱりわからないから、一旦クランに行って尋ねてみる事にした。金貨の価値も知りたいし。ルビーには町の人たちが怯えないように、クランの屋根に居てもらった。
クランには、登録証を作ってくれたブロンドの女の人がひとりで片づけをしていた。手を止めさせてごめんなさいと声をかけ、ルビーと泊まる事のできる宿屋があるのか尋ねてみた。
「クランの宿屋もありますよ。倉庫のまた隣がクランが営む宿屋になっています。よろしければそちらへお泊まりになってはいかがでしょう?」
クランの宿屋だって!それならルビーが泊まっても大丈夫かも!
後はルビーのくれた金貨の価値を知りたいのですが、と取り出した金貨を見せると、ブロンドさんは目を見開いて「それ一枚でクランの宿屋なら一ヶ月ほど泊まる事ができる上に、豪遊してもお釣りがきます……」と言われた。
ルビーさん、あなたの持つ宝箱の中身でどうやらしばらく遊んで暮らせそうです……。いや、遊ばないけどね……。
ブロンドさんに、ありがとうございます行ってみますとお礼を言って、倉庫の隣にある宿屋へ行くよとルビーに伝えるとぱたぱたと屋根から屋根へと飛んで来ていた。
カランと聞き慣れた音をたてて扉を開くと、なんと受付にはエドさんが居た。
「イオリさん、いらっしゃいませ!うちの宿屋にお泊まりになられますか?町中でお見かけしなかったので、外に出られたのかと思っていましたよ〜!」
「町の人たちがルビーを見ると、怯えてしまわれる様子だったので町外れで二人でのんびりしていました」
「そうでしたかぁ……最初にこちらの宿屋へご案内していれば良かったですね、すみません」
「いえいえ、私も気がつかなくて町の人たちに悪い事をしてしまいました」
エドさんと謝りあいながら案内された部屋は簡素なものだったけれど、魔物あふれる大自然とは比べものにならないほどの快適さだった。
前払いとのことで、ひとまず一泊分としてさっきの金貨を手渡した。日本円でいう百万円の束がこの金貨一枚に匹敵するようで、じゃらじゃらとお釣りが手渡された。お釣りをアイテムインベントリに入れようとすると、お財布のように機能する場所があったのでそこへ入れると残金が表示された。
「ゆっくりしてくださいね。ルビーさんもお呼びして構いませんよ。お待ちかねのようですし」
くすくすと笑いながらエドさんが窓の外を指差すと、ルビーが張り付いていた。
では失礼しますとエドさんが退室し、入れ替わりにルビーが入ってきた。
「何やってるのよルビー」
『退屈だったのでな、すまぬ』
「良かったね、今日はベッドで寝られるよ」
『宿屋に泊まるのも、ベッドで寝るのも初めてだ』
身体が小さくなったお陰で今まで出来なかった事が出来てとても楽しい、とルビーがはしゃいでいるのを見ながら、二人で一緒に眠った。