シバの町、到着。
菓子パンやお惣菜なんかも売ってて、すごく便利な“ショッピング”なんだけれど、朝ご飯にアンパン買って食べてたらルビーが食べたいって言うから、ちょっと分けると美味い美味いって絶賛し始めて大変だった。ルビーさんてば、何でもイケちゃうんだね。
「やぁーっと着いた! シバ到着ー!」
『昔はここいらに町など無かったはずだが、栄えたな』
……そりゃ二百年も引きこもってればね。
『町に入るには、門番に……「おい!そこの奴、止まれ」
町の入口でうろうろしてたら、門番に槍で制された。
「テイマーと従伴が町に来るとクランマスターから連絡があったが、お前たちか?」
「はい、間違いありません」
『うむ、違いないぞ』
「!? ……従伴のそいつは、フィアバードではないのか……? なぜ、言葉を喋るんだ!?」
え、フィアバードってなに。喋っちゃだめだった感じなの。もう喋っちゃったし、隠しようもないよ……。
「えと、私の連れは紅竜です……」
「紅竜!? 本当なのか!? シバの町に伝わる伝説の竜だぞ!!!」
えぇぇぇーーーっ!!! ルビーが?! トマト大好きルビーさんが、伝説の竜!?
「ク、クランマスターを呼んでくるから、ちょっと待っていろ!」
バタバタバタッと門番が走り去って、ポツンと残される私たち。
「ねぇ、ルビー」
『なんだ』
「フィアバードって、ルビーに似てるの」
『色は似ているな。エレクバードの表皮が赤いものがフィアバードだ。火属性魔導を主に使用するやつだ。あんなものと間違われるなど腹立たしいぞ』
オコなの、ルビーさん。じたばたしてる。
そんなことを話していたら、向こうから小さな子供が走ってきた。
「いやぁーお待たせ致しました!」と、頭を下げてくれる子供は村の子供って言われたら信じちゃうくらいの幼さだ。
「イオリさんに、ルビーさんですね! 初めまして、シバの町のクランマスターのエドと言います! ゴブリン族の血が入っているので小柄なのですが、れっきとした大人なので驚かないでくださいね!」
「初めまして、イオリです。こちらは紅竜のルビーです。町に入っても構いませんか?」
『トリシャから我が紅竜だと伝えられてはいなかったのか?』
「シバの町にようこそ! 歓迎しますよ! トリシャ様から連絡はあったのですが、伝説の紅竜が来るとは門番には言えなくて……」
ごめんなさい、とまた頭を下げられた。
ここでは何ですからクランに行きましょう、と歩きながらエドさんに色んな話をきいた。
この町は地下水が沸いたものが有名で小さい町ながらも湯治で名を上げていること。それは紅竜が地に眠っているからだとか。あながち、地に引きこもっていたんだから間違いではないのよね。後、ゴブリン族は地竜と共に暮らしているらしく、ルビーを見て「地竜と似ていますね……懐かしいです、故郷を思い出します」と言っていた。
「ここです、どうぞ入ってください」
カランと鈴が鳴り扉が開くと中はカウンターが三ヶ所ある、酒屋のような雰囲気だ。町の人や武器を携えている人達で賑わっている。気のせいか、皆の視線がルビーに集中してる、気がする。とりあえずルビーには喋らないでと言っておいた。
「まずはこちらで登録をお願いします」
エドさんに連れられて、カウンターへ。きれいなブロンドの女の人が登録証を出してくれた。
名前や職業を登録するもの、私の世界でいえば住民票みたいなものだった。これがないと、他の町へ行っても入れて貰えないらしい。登録証は、肌身はなさず持っておいて、他の町へ入る時に見せればいいのだそうだ。
ブロンドの女の人に、質問されては答えてを繰り返し登録証を埋めてもらった。登録証は特殊なプレートで出来ていて、クランでしか印字ができないようになっているとのこと。免許証サイズのプレートだから持ち運びも便利そうだ。失くさないように気をつけよう……。
「お疲れ様でした、登録完了です! 少しお話をききたいのでこちらへどうぞ!」
案内されたのは、エドさんの私室だった。
「それでですね! 紅竜、ルビーさんとは従伴契約をしているのですか?」
『しているぞ。友達だからな』
「契約かどうかはわかりませんが、従伴にはなっています。恥ずかしいのですが、テイマーとしてのスキルなんかが全くわからなくて……」
エドさんが、ぽかんとして私を見る。めっちゃ恥ずかしい……。
「ど、どうやってテイマーになったのですか? 普通は適性を調べて、それに応じた訓練などを何年もするものなのですが」
ですよね。というかトリシャ様、私が異世界から来た事は伝えてないんだ。異世界から来たって説明したら早いのに、それをしないって事は言わない方が得策なのかな。
「えと、私、自分で言うのもなんですが、記憶を失っているようで気づいたら紅竜……ルビーとは従伴になっていたのです。なのでテイマーとしてのスキルや、生まれた所や今までどうやって生きて来たのかが曖昧なのです」
横でルビーがうんうんと頷いている。これで良かったんだなとホッとした。
「なるほど! それは大変でしたね……。幸い、うちのサブマスターがテイマーなので、テイマーとしての記憶を取り戻せるように、話をしてみたらどうでしょうか?」
「ありがたいです、ぜひお願いしたいです」
「サブマスターはユトと言う、背の高い……僕からしたら皆高いのですが、獣人族の青年です。今日はちょっと依頼があって隣の町まで出掛けています」
あら、居ないんだね。
「明日には戻るので、今日のところは町の観光でもしていただいてゆっくりされてはいかがでしょう」
「ぜひ、そうさせてもらいます!あの、それとですね、ルビーが捕まえた魔物をさばいてくれる所ってどこかにありますか?」
「普通は皆、自力でさばくのですが、自分でさばけない大型のものはクランでもお引き受けしていますよ! 手数料はかかっちゃいますが」
構わないのでお願いします、と言うと、クランに併設している倉庫みたいな所に案内された。