みんなでお買い物。
《色々な物がたくさん並んでいるのね》
『危険ですのでトリシャ様、お手は触れないようにしてくださいね!』
トリシャ様と黒犬は、連れ立ってスーパーの中を歩きまわっている。初めて目にするものばかりで興味津々らしく、手に取ろうとしてはメロウに制されて《もう!》とふてくされている。
私はと言うと、スキルを使って身体が鉛のように重くなったせいで動けずにスーパーの外から眺めている。
それに気づいたトリシャ様が私の所に来て、緑がかった青い液体の入った小さく細長い瓶をくれた。飲みなさいと促され、一気に飲み干すと一瞬で身体のだるさが抜けた。
《どう? 楽になったかしら》
「はい、かなり楽になりました。今のは……」
《魔力回復ポーションよ。エルフに伝わる秘伝のね》
ポーション……メロンソーダみたいな味がした…………。原料はいったい何なんだろう。
「ありがとうございます。秘伝のものをいただいてしまって申し訳ありません」
《気にしないで。スキルを使えと言ったのはわたしですもの。で、貴方のスキルのこれは中に何が並んでいるの?》
近所の商店であること、中に売っているのは私の世界の食料や日用品だと説明した。すると《買う所も見たいわ!》とキラッキラした目で言うものだから、お好きな物を選んでいただいた。
ルビーはトマトを手放さない。どうやら支払いが済まないと食べる事が出来ない仕様になっているようで、齧り付こうとしては跳ね返されている。
《イオリ、わたしこれが気になるわ!》
トリシャ様が持って来たのは、ほうれん草の束だった。謎のチョイスにトリシャ様を見つめていると、《とてもきれいな緑色なんですもの! こんなきれいな草はハイラの森にも無いわ》と言った。
「トリシャ様、それはそのままでは食べる事が出来ないものですが構いませんか?」
食べられない事もないだろうけど、さすがにね。
《これは食べるものなの? 飾ろうかと思っていたのだけど……》としょんぼりしてしまった。まさかの展開。
『トリシャ様を哀しませる人間族め』とか言いながら横で唸らないでもらえるかな、メロウさん……。
「じゃ、じゃあ食べられるようにします。きっとトリシャ様も気に入ると思いますよ」
私は急いで日用品のコーナーからカセットコンロとフライパンと包丁、それと薄型の安いまな板と箸と紙皿を取り、更にバターとベーコンとペットボトルの水を、トリシャ様の選んだほうれん草とルビー熱愛のトマトと共に購入した。
後はメロウにと、こっそりP社のドッグフード(カリカリ)を買ってみた。