紅竜の激励。
問1、なぜ私はこんな所に居るのでしょうか?
『(答えて欲しいのか?)』
答えは知ってる! ルビーが! リブサーペントの肉が食べたいって!! 言ったから!!!
「いやああぁぁぁぁぁ!! きっ、気持ち悪いよぉぉぉぉ!!!」
そう言ったルビーの背に乗せられて半時間程で着いたのは、丘というには高い、山の中。杉の木のような背の高い木々に囲まれた、パッと見た感じではハイキングにでも行けそうな穏やかな森なんだけれど、いざ足を下ろしてみると見渡す限りが沼地みたいに地面がぐじゅぐじゅ。
『ぼく翼があって良かった~』
ぎゃあぎゃあ喚いている私をちらっと見て、エンリルが呟く。くっ、ちょっと憎らしいわ。
【冷たくて気持ちが良いですよ?】
「ああっ! スミちゃん!! お腹が泥だらけ……後で洗わなきゃ……」
スミちゃんは這って歩くから、沼地に直接お腹がくっついちゃうのは仕方ないけれど、気持ち良いってどうなの。
【ごろごろしてもいいですか?】
もうね、そこまで汚れちゃったらいいよ、好きなだけごろごろどうぞ。
『(スミの種族は水を好むからな。濡れることは厭わないが、弱点にもなり得る)』
【わっ!】
小さな悲鳴をあげて、スミちゃんの姿が消える。
『(やれやれ。スミ、気をつけぬか)』
スミちゃんが居たであろう地面に、ずっぽり顔を突っ込むルビー。あぁ、洗わなきゃいけないのが、もうひとり……。
ルビーが咥えて取り出したるは真っ黒の泥に覆われたスミちゃん。どうやら穴が開いていたらしく、そこにはまっちゃったみたい。
【ありがとうございます、はしゃぎすぎました】
このドロドロの道を、一体どこまで歩いて行くのー? 足元はもう見るも無残な事になっちゃっているし、すこぶる気持ち悪い。
『(この先だ)』
ルビーの先導につき歩く。いいね、ルビーさんにも翼があって。お顔だけが真っ黒けのルビーさん、何で私、降ろされたのかな?
『(頭を使いすぎると碌な事がない。頭を使う前に身体を動かせばいいのだ)』
部屋にこもってうじうじしていた私への激励なのかな。励まされている感じは全くしないけれど、きっとこれがルビー流。
『あー! お水がいっぱい!!』
ぱっとひらけた目の前には、今まで歩いてきた沼地とは思えないほど綺麗に澄み切った池が現れた。
【お水が沢山ありますね……!】
スミちゃんはもうだめだよ! 入水禁止!
『(心配ないぞ。ここはただの水が溜まっているわけではない。試しにイオリ、入ってみろ)』
……え。何でいつも私が試行しなきゃなのかな!?
「怖い魔物が居たりしない?」
『(おらぬと思うが)』
アバウト! まあいいや、危なくなったら助けてくれるんでしょ? ためらいがちに足をつけると、ひんやりしたお水の感覚。普通の池と変わらないよ?
『(潜らなければ判らないぞ。さあ)』
促されるままに、少し深みへ進んで潜る。あれ? 息が出来る……?
ザブンという3つの水音と共に、ルビー達も潜って来た。
『(ここの水はエアーを多く含んでいる。ダンジョン、とまではいかぬが広さも相当なものだぞ)』
息は出来るけれど、喋る事は難しいな。のどでうがいしているようにゴボゴボ鳴って、声にならない。それでも呼吸が出来る。不思議。
『(スミは泳げぬから我に捕まっておけ)』
眼前に広がるのは、本当に水の中の世界。水草がなびいていて、お魚も泳いでいる。その中を泳ぐように、歩くように進む。
『主ー、この泳いでるの食べてもいい?』
食いしんぼエンリル健在。いいよ、追いかけて遠くに行ったりしないでね。
嬉しそうに泳ぎ回るエンリル。鳥の姿なのにね……むしろフェニクスなのにお水平気なんだね……。
しばらく進むと、随分深く潜ったはずなのだけれど、更に深くへと続く穴が見えた。もしや、あれに入るのかな?
『(ご名答。リブサーペントは目の前だ! 征くぞ!)』




