スミちゃんの憂い。
イグリスの町は中央にお城があって、それを囲むように家や商店が連なる王道の城下町。町中は人々で賑わっていて活気がある。
【武器の生成に必要な素材が欲しいのです】
……昨日買ったくまで用かな? 歩きながらお店があったら見てみようね。
ルビー達と一緒に歩いていても全然視線が気にならないし、周りの人達もあまり怖がっている様子がない。これだけでイグリスの王様が町を安全に統治出来ている証になる。
『(イオリ、飯屋だ)』
早い早い。もう少し町を歩こうよ。私、まだお腹も空いていないし。ほらほら、市が並んでるよ! 見て行こうよ!
レンガ造りの軒並みに、白いテントをかぶせたように道沿いにまっすぐ並ぶ市。人が行き交って凄く賑やか。
「いらっしゃい! その子達にスーリの実はどうだい!? 甘くて美味しいよ!」
「今日もいい天気だね! 朝から仕入れてきたボンボ鳥の肉が新鮮でおすすめだよ!!」
並ぶ露天の人達が、私達を奇異とも見ずに声を掛けてくれる。見たことのない物が沢山並んでいて、見ているだけでも楽しくなる。
「おねえちゃん、テイマーなの?」
練り歩いていると、ふと足元の方で幼い声が聞こえた。視線を下げるとそこにはルビーを見上げる5歳くらいの女の子。金色と桃色で左右の目の色が違う、オッドアイだ。
「触ってもいい?」
ルビーと私を交互に見上げて、手を伸ばしたそうににぎにぎさせている。
「いいよ。ルビーも触らせてあげてね」
『(仕方ないな)』
フスッと溜め息をついて、ルビーがしゃがむ。背中に居たスミちゃんが驚いているのが見て取れたので、抱き上げた。
「ふわふわね! きれいな毛! おめめも赤くてきれいね!」
女の子は臆すること無くルビーをなで上げる。動物が好きなのかな?
「こりゃ! ミズリー!」
人混みをかき分け、僧衣みたいな薄いクリーム色の服を着たお爺さんが走って来た。
「申し訳ない、少し目を離した隙に見失ってしまって……」
「だいじなお話があるから離れていなさいって言ったの、じじ様じゃないー」
ぶーたれてルビーから離れる、ミズリーと呼ばれた女の子。
「これほど離れろとは言っておらん」
ペンと頭を叩かれて、更にぶーたれるミズリーちゃん。
「お話していただけなので、ミズリーちゃんが迷子にならずに済んで良かったです。動物が好きなのかな?」
ミズリーちゃんに問いかけると、にんまりと笑って頷いた。
「あたしね、今しゅぎょうちゅう? なの! じじ様にね、テイマーになれるように教えてもらっているんだよ!」
まだ就学もしていない齢の子が修行してるのに驚愕。日本じゃ考えられないな。
「ミズリー、まだ行かねばならぬ所がある。迷惑をかけてすまなかった、従伴にもそう伝えてくれ」
「可愛らしい子とお話出来て楽しかったですよ。お引き止めしてすみませんでした」
そう返すと、お爺さんはにこりと笑って、ミズリーちゃんの手を引き歩き始めた。
「おねえちゃん、ありがとう!」
振り返りながら手を振ってくれるミズリーちゃん。
【あの子、……】
スミちゃん、どうかしたの?
【いえ、詮無い事です】
静かな声でそう呟いて、スミちゃんはそれきり黙ってしまった。
―――――――――――――――――
市を一通り歩いて、いっぱいお買い物をした。主に食べ物なんだけれど。空腹に嘆くルビー達のために、荷物を抱えたまま従伴OKのご飯屋さんへと入る。
『(腹が減って死んでしまいそうだ)』
ごめんって。いっぱい食べていいから、ねっ!
『何食べようかなー!』
【……】
やっぱり元気のないスミちゃん。ミズリーちゃんと会ってから後、一言も喋っていない。素材を買いたいって言っていたのに、それすらも。
「スミちゃん、何かあったのなら教えて欲しいな」
お膝に乗せたスミちゃんを撫でながら声をかける。
私を見つめるスミちゃんは、何かを伝えたそうにしているけれど、鈍い私にはそれが読み取れない。
困った挙句、ルビーに視線を移すと、やれやれと言った表情で話してくれた。