#8 黒き青の生まれ
冒険者カードを手にした俺は早速【ステータスLv1】で自分を見る。
『白瀬隼人:人間
【レーティング:1000】【ランク:G】
【HP:324/324】【MP:127/127】
【力:234】【敏捷:175】【魔力:47】
〈基本スキル〉
【念話Lv2】【隠蔽Lv1】【観察Lv2】
【意識操作Lv1】
〈上級スキル〉
〈派生スキル〉
〈固有スキル〉
【万象天性Lv1】【強者降臨の贄Lv1】【マギレロベンの肉体Lv1】
【天上界Mリリス通信鍵Lv1】【佐門のサモンLv1】
〈祝福〉
【遊◯王】
』
自分で言うのもアレだけど強いって感じがしないな……。
夕美曰く、昨日の蛮族顔の門番さんの力は100よりちょっと上らしい。
だから、ステータス上では弱いというわけではない。
だけど、スキルや実戦経験を含めると分からなくなる。
まぁ、大剣を片手で好き勝手振り回すことができるので、そこらへんの奴らには負ける気はしないけど。
あと【強者降臨の贄】が見事に死にスキルと化してるしなぁ。
スキルレベルが最高だったらキングオブチートだったんだが。
まぁまだ2日目だし文句を言うには早過ぎるけど。
そして【佐門のサモン】はもはや置物になっている。
今のところリーフィアを召喚しまくって遊ぶぐらいしか使いみちが思いつかない。
あと、このステータス表記は簡略化されているらしく、夕美の眼だとより細かい数値が表示されるとのこと。
もしかしたら【ステータスLv1】のスキルレベルで見える情報が違うのかもしれない。
そのあと、受付嬢から許可を貰って3階に行ってみる。
ギルドの3階に行くと壁にはびっしりと紙が貼られている。
紙に近づいてみると、スキルの体系図や習得方法などが細かく書かれている。
反対側の壁に貼られてある紙を見ると魔物の名前と特徴やイラストなどが書いてある。
変わった展示方法だな。
これって盗まれたりしないんだろうか?
試しに壁から紙を外してみようとするが、ベッタリと引っ付いていて取ることが出来ない。
「紙と壁に魔力が走ってる。たぶん魔法か何かだと思う」
俺の様子を見た夕美が【神秘眼】を使って答える。
さすがにそこらへんのことは考えるか。
壁をぶっ壊して直接盗めばいいかもしれないけど、そんな面倒くさいことするなら記憶したほうがマシだしな。
というわけで、頭の中に詰め込もう。
「どうでした? 知りたい資料はありましたか?」
ギルドの1階に降りると受付嬢が話しかけてくる。
「あぁ、想像以上の量があったから捗った」
特にスキル取得の効率的な訓練方法や、どんな派生スキルや上級スキルがあるかを知れたのがよかった。
あとは”昇華スキル”の存在も初めて知った。
簡単にいえば、上級スキルのさらに上をいくスキルで、開眼した者はいい意味でも悪い意味でも歴史に名を刻むそうだ。
取得方法は上級スキルをLv10にしたのち、”あなたが大きな才を持ち、絶え間ぬ努力をした先にあるだろう”と紙に書かれていた。
要は天才であり努力をするなら取得できるよ、ということだ。
「そういえばハヤトさん達にちょうどいい話があるかもしれません」
「ちょうどいい?」
「はい、実はギルドでは月に1度だけ魔法使いの冒険者に頼んで講習を行っているのですが、その講習がちょうど明日なんです」
ほう、確かにちょうどいいな。
「そうだな、せっかくだから参加するよ」
「分かりました。こちらで登録しておくので明日の10頃にギルドに来てください」
冒険者ギルドを出ると空は夕焼けのグラデーションで染まっていた。
気づかないうちに結構な時間を資料室で過ごしたようだ。
うーん、【強者降臨の贄】のスキルレベル上げに大型犬を狩ろうと思っていたけどどうしようか……。
「悪い、今から大型犬を狩りにいっていいか?」
「私は別にいいですよ。あと大型犬ではなくグレーウルフという名前ですよ」
グレーウルフじゃなくてグレードッグな。
「だけど大型犬と出会うまで時間がかかりそう」
昨日は荒野を数時間歩いて3体だもんな。でもちゃんと対策は考えてある。
「夕美はやたらとあの魔物に好かれているからな。夕美を餌にして……いや冗談だから。リリスに場所を聞いてちゃんと探すから」
最近夕美と仲良くなってきたのに出会った頃に戻りそうだった。
軽はずみな冗談は言っちゃあいかんね。
*****
そのあと、町の外に行き大型犬を瞬殺して贄った。
大型犬の討伐レーティングは2300あるらしいが、俺らにとっては弱すぎる。
討伐レーティングというのは、魔物の脅威度を数値化ものである。
基本的にレーティングが1000違うと戦うのは無謀と言われている。
なので、レーティング1000の俺たちが本来戦う相手ではないが、登録したてで1000なだけなので気にしたら負けである。
俺たちみたいにレーティングと実際の実力が大きく違うことをレーティング詐欺と呼ばれるが、新人にはたまにあることらしい
しかし、あえて自分のレーティングを低くして、舐められたところを返り討ちにする悪質なレーティング詐欺もあるらしい。
まぁでも喧嘩売るほうが悪いけどな。
とにかく荒野で大型犬を探すよりも、別の場所で強い魔物と戦った方が成長できるし金も貯まるだろう。
明日の魔法講習を終えたら3階の資料に書いてあった”魔の森”という場所に行ってみるか。
「そういえば夕美、この魔石を制服に与えてみるか?」
宿に戻った俺はベッドに腰掛けながら夕方に取ってきた大型犬の魔石を夕美に見せる。
「いいの?」
「俺もちょっとどうなるか興味があるからな」
「わかった。やってみる」
夕美に魔石を手渡す。夕美はその魔石を制服に押し当てると溶けるようにして染み込まれていく。
「ユミちゃんどんな感じ?」
リーフィアも横から興味深そうに眺める。
それに対して夕美はんー?んー?とか言いながら首を傾げている。
「ほんのちょっと強くなった? でもステータスは変わってない」
与えた魔石が弱すぎて分からないのかもしれない。
「あんまり変わらないなら大型犬の魔石は売るようにするか。ところで俺もちょっと試したいことがあるから部屋で待っててくれ」
そう言って2人を部屋に残し、宿を出て人気のないところに行く。
「【佐門のサモン】」
その数秒後目の前にリーフィアが現れる。
リーフィアはベッドに腰掛けたまま転送されたせいで尻から地面に倒れる。
「あひッ! へっ? あれ?」
「ふむ……発動に微妙なラグがあるな。これはスキルレベルを上げれば解消するのか?じゃあ次、【佐門のサモン】」
転んだリーフィアに手を貸しながら立たせていると、目の前に夕美が現れた。
「……【佐門のサモン】? でもいつのまに印を付けた?」
ジト目で俺を睨んでくる。
【佐門のサモン】で召喚をする対象には印を付けなければならない。
夕美は知らないうちに何かを付けられたと思っているんだろう。
「この印っていうのがかなり曖昧みたいで、俺が印を付けたと思えばそれだけでいいみたいだ」
俺は夕美の肩を軽く触ったことで印を付けたと認識して無事に召喚できた。
……これ、相手の武器を突然奪ったり、店で触った物を好き勝手盗むこと出来るよな。
ただの駄洒落枠だと思ったらやっぱりチートだったよ。
「嫌いな相手を火山の噴火口に召喚して人知れず殺すことも出来る。想像以上に有用なスキル」
何気にエグいこと考えるんだな。
夕美がこのスキルを持っていなくてよかった。
「まぁ、実験も終わったし宿に帰るか」
*****
次の日の朝。目が覚めると夕美が縛られて転がされていた。
何があったかは聞くまい。
そんなこんなしているうちに、魔法の講習を受けるためにギルドに来ていた。
「ハヤトさん達ですね。魔法講習は2階にある第三部屋でやりますので、そこで待ってて下さい」
俺たちは受付嬢に礼をし、2階に向かう。
言われたとおりに第三部屋で数分待機していると、赤い髪をした20代ぐらいの女性が部屋に入ってくる。
女性は黒い三角帽と長いローブを着ており、見るからに魔法使いという雰囲気を出している。
「こんにちは、私は”蒼い紅葉樹”所属の現役冒険者ペトラ、レーティングは6830のBランクよ。今日の魔法講師をすることになったからよろしくね」
なるほど、先生だったか。
ということは今日の魔法講習を受けるのは俺たちだけか。
ちなみに、蒼い紅葉樹という矛盾めいた名称はパーティ名だ。
ギルドの受付嬢曰く、最近は勢いもあり実力も確かなパーティだそうだ。
ちょっとだけ名前の出自が気になる。
俺たちもペトラに合わせて挨拶をする。
「じゃあ早速だけど、魔力操作を見たいから魔水晶に魔力を流してもらえるかしら」
ペトラは何もないところから3つの水晶取り出して俺たちの前に置く。
よく見ると右手に腕輪を付けている。
「収納リング……」
俺の呟きが聞こえたのか、ペトラが笑みを浮かべながら返答する。
「ふふっ、これはね昔の師匠から貰ったものなの。Bランクでもさすがに収納リングを買う金はないわ」
「Bランクでも買えないものをあげる師匠は一体何者なんだ」
「そうね……”煉獄姫”って呼ばれている人ね」
……誰だ?
俺の反応が薄かったせいかペトラが少し困惑の表情をする。
「……もしかして知らない?【昇華スキル:煉獄】で有名なんですけどね」
そういえばギルドの資料に書いてあったな。
確か“【基本スキル:火魔法】→【上級スキル:豪炎魔法】→【昇華スキル:煉獄】“と書かれていたはず。
「ギルドの資料には小さな山を一瞬で焦げ炭にしたと書いてありましたね」
確かそんなことも書かれていた気がする。
冷静に考えてみるとどれだけ化物染みてるんだよって思わざるをえない。
「あら、”小霊山の丸焦げ事件”は1番有名な話ね」
そんなかわいい名前の事件で済ませていい規模だとは思えないけど。
まるで生きる天変地異だな。
「雑談もほどほどにして魔力を流してもらえるかしら」
「あの、魔力を流すのってどうすればいいんですか?」
リーフィアが質問をする。
俺もやり方が分からなくて困ってたところだ。
「そうね、魔水晶の上に手を置けば分かるわよ」
忍び笑いを浮かべるペトラの言うとおりにする。
魔水晶に手を置いた瞬間、体中にゾワリとした感覚が巡る。
驚きのあまり思わず魔水晶から手を離すと、ペトラがいたずらの成功を喜ぶような表情をする。
「今のは……」
「驚いたかしら? 今のは体中に巡っている魔力の感覚よ。魔法使いはこの魔力をうまく操作して魔法を発動させるの」
一応俺にも体中に魔力が巡ってたのか。
地球にいたころからそうなのか、この世界に来た影響なのか。
「とりあえずこの感覚に慣れてね。慣れてきたら体中に巡っているものを手のひらに集め、そこから魔水晶に流すようなイメージをするといいわよ」
再び魔水晶に手を置くとゾクゾクとした感覚に襲われる。
皮膚のすぐ下に粘性のある液体が流れているような感じだ。
俺は目を閉じてその液体を右手のひらに集めるイメージをする。
そうすると、手のひらにどろりとした膜が出来ているような感触を得る。
これが集まった魔力なのだろうか。
俺はそのまま魔水晶に押し流すような意識で力を入れると、手のひらから何かが抜けていくような体感に陥る。
《【基本スキル:魔力操作Lv1】を取得しました》
《【基本スキル:魔力感知Lv1】を取得しました》
突然脳内に流れた音声に驚いて目を開けると、俺の手から魔水晶の中に向けて青いインクのようなものが流れ出ている。
ペトラの方を見ると驚愕の表情をしていた。
「……驚いたわ、こんなにみんなの習得が早いなんて。まだ新人って聞いたけど末恐ろしいわね。獣人族にも関わらずこんなに魔力操作が出来るのもおかしいけど、特にあなたは……」
そう言ってペトラは俺……ではなく、夕美のほうを向いて話しかける。
どうやらペトラから見れば俺よりも夕美の方が才能を感じるらしい。
夕美はドヤ顔でこちらを見てくる。クソッ……なんかめっちゃ悔しいぞ。
「いえ、もちろんハヤトさんも凄いけど……特にユミさんの魔力操作の繊細さが特異といいますか」
ペトラが夕美の手元にある魔水晶に視線を向けながら言う。
夕美は鼻歌を歌いながら水晶の中に青いインクで花や鳥の形をどんどん作っている。
ああ、これは俺でも桁違いだと分かるわ。もはや嫉妬すら起きない。
リーフィアは「だからあんなにテクニシャンなんですね」と呟いていたが聞かなかったことにする。
その後俺たちはペトラからアドバイスのもとで30分ほど魔力操作の練習を行った。
「これからもこの魔水晶で魔力操作の出来るだけ練習をするといいわよ……ユミさんはもう十分な気もするけど。あとこの冊子は私が作ったものですけど、魔力操作が慣れてきた時に読んでくれるといいわね」
そう言ってペトラは収納リングから冊子を取り出す。
どうやら魔水晶もタダでくれるようだ。
冊子の表紙には”ペトラのぴゅーてぃマジック!”と書いてあって、お花やよく分からない生物の絵が描かれている。
「ありがとう。大事に使わせて貰うよ」
「はい、どういたしまして。きっとみんななら私以上に凄い魔法使いになれると思うわ」
みなさんとは言いつつも主にユミを見ながら話す。
才能で負けたのは悔しいのには悔しいが、大きな戦力になってくれそうなのは単純に嬉しい。
特に現状は遠距離攻撃が無いから魔法を覚えてくれたらその穴埋めができる。
講習を終えた俺たちは「そろそろ借金をどうにかするべき」という意見に基いて、依頼を受けてみることにした。