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#6 荒野に混じるダイヤ

「無事に町に着いたみたいだね~」


白い部屋の中、少女の風貌をした女神は紅いツインテールを揺らしながら満足そうに呟く。


「いや~、せっかく転生者がいっぱい来てるのに他の神にすぐ取られちゃうし、祝福を与えてもゲームで死んじゃうしで大変だったよっと!」


女神は突然現れたふかふかの白いベッドに飛び込む。

そしてそのまま意識を隼人たちのいる位置からはるか北に向ける。


意識を集中すると、男女が混じった5人ほどのパーティーが七色に光る大きなイモムシと戦っているのが視える。

パーティーのうち3人ほどは地に伏せており、立っている人の1人が両腕を失っている。

それに対して大きなイモムシは小さな傷はあるものの、大きな損傷は見当たらない。


その光景を視た女神は思わず笑みをこぼす。


「ふふ……たぶん王都も騒がしくなるし、これから楽しくなりそうだなー。……隼人君頼むよぉ、私の唯一の駒なんだから」


女神は妖艶な笑みを浮かべながら静かに呟いた。


*****


「さて、あの門番は【鑑定】持ちだと思うか?」


「……【鑑定】はない。だけど【査定】というスキルを持っている」


俺たち3人は現在人口6万人ほどの町ポルダの近くまで来ていた。

町は魔物からの攻撃を防ぐためか白い壁に囲まれている。

そのため、町に入るためには目の前の門を通らないといけない。


『リリス、【査定】ってどういうスキルだ?』


『はい、【派生スキル:査定】は【基本スキル:観察】スキルの派生スキルで対象者の賞罰を確認することができます』


“派生スキル”というのは、基本スキルか上級スキルから派生したスキルだ。

目的のために特化したスキルであり、使用機会は限られるが特殊な能力を持っていたり、強力だったりする。

あの門番は【基本スキル:観察】を使用して人の素性を観察しまくった結果【査定】を取得したのだろう。

さらに言えば、【観察】で植物ばっかりを観察していると【植物観察】を、動物だと【動物観察】を取得するらしい。


俺は罪を犯した記憶はないが、何気ない行動が犯罪扱いされている可能性があるしリリスで確認するか。


『この三人のメンバーの中で、罪を持っているやつはいるか?』


『いません』


よかったよかった。【鑑定】持ちもいないし、【査定】も大丈夫。

まぁ、上級スキルである【鑑定】を持っている人を門番に置く可能性は低いと思っていたが。


それにしても、やましいことは全く無いのになんでこんなにびくびくしてるんだろう。特に【鑑定】に対して。

やっぱり隠蔽系統のチートスキルを取っておくべきだったかな……。


門のところにいくと、蛮族みたいな顔のした筋肉モリモリのおっさんが声をかけてくる。

かなり強そうだが夕美曰くステータスなら俺の方が高いらしい。

大体が【マギレロベンの肉体】のおかげだけどな。


「おう、こんな時間に来るのは珍しいな」


「村を出てやっとこさこの町を見つけてな。まだ門は開いてるよな?」


夜になると門を閉じる町もあるらしいからな。


ちなみに、リリスから付近に閉鎖的な村があることは確認済みだ。

夕美の成人の儀をきっかけに、奴隷とともにそこから出てきたという設定だ。

なお夕美は俺の妹ということにしている。

なんとなく地球に置いてきた本物の妹に対して申し訳なさがある。


「安心しろ。この町の閉門は結構遅い。……ところでやたらと身が綺麗だな。魔物に出くわさなかったのか?」


「いや、出てきたさ。でもまぁ俺は腕に自信があるんでね」


「ほぉ~そうかそうか。そりゃあ頼りになるな。……でも武器は何も持っていないようだが?」


門番の目つきが鋭くなる。

……しまったな。そこらへんの言い訳を考えてなかった。

”この獣人奴隷は武器になるんすよ~”なんて言ったら本末転倒だ。


『ハヤトさん、魔物との戦闘で武器が壊れて捨てたことにすればどうでしょうか?』


念話でリーフィアがアドバイスを送ってくる。

あぁそれはいいな。ナイスだリーフィア。


「あぁ……恥ずかしいことだが、魔物と戦ってる時に壊しちまってな。まぁ元から壊れそうな剣だったがな」


《【基本スキル:隠蔽Lv1】を取得しました》


おぉ! まさかこんなところで【隠蔽】が手に入るとは。

嘘をついても取得できるんだな。体面はあまりよくないが。


「ガハハハハハハハッ。そうかそうか! 色々苦労して来たみたいだな!……それでこれは一体何か聞いてもいいか?」


おっさんの視線がリーフィアと繋いでいる元俺の腕を見る。


『リーフィア、ちょっと待て』


それに気づいたリーフィアは喜びながら説明をしようとするが、俺が止める。


「あぁ、これはな……こいつの大事な人の形見なんだ。捨てさせるのもあまりにも不憫でな……申し訳ないがこれも一緒に町の中に入れてもいいか?」


俺はなるべく大げさに悲しんだり嘆いたりする。


《【基本スキル:意識操作Lv1】を取得しました》


完璧だ!最高すぎる!


この【意識操作】は派生スキルである【意識妨害】と上級スキル【認識操作】に繋がるとても大事な基本スキルだ。

【意識妨害】と【隠蔽】をうまく活用すれば目立たなくなる。


嘘をついてスキルレベルをあげるのは褒められたことじゃないが、誰も不幸にならないし大丈夫だろう。

それにしても俺は一体何を目指しているんだろう……。

このままだと暗殺者スキル構成になりかねない。

リーフィア大剣を持っている時点で暗殺者は無理だが。


俺の精一杯の演技が炸裂したおかげでおっさんの目が潤む。


「ッグぅ! 泣かせるじゃねぇか!……よし、中に入っていいぜと言いたいところだが、通行証か入町料はあるか?」


やっぱりちょっと罪悪感が湧いてくるな。

勝手に俺が死んだことにされたせいかリーフィアも機嫌がちょっと悪い。


「どちらもないがここに大型犬の魔石が3つある。これでなんとかならないか?」


「大型犬?……あぁグレードッグのことか」


あの魔物はグレードッグっていうのか。

……何がグレーなんだろうな?身体の色は完全に黒色だったけど。


「本来は魔石で通すわけにはいかないが、特別に担保にしといてやる。10日以内に銀貨3枚を稼いでここに持って来い。あとはこれも渡しておく」


おっちゃんから金色の硬貨を2枚渡される。


「金貨2枚あれば、あそこに見える赤い宿で5日は暮らせる。とりあえずこれも10日以内に返して来い。あと武器は冒険者ギルドで借りられるぞ」


なんていい人なんだ。蛮族みたいな顔とか思ったり嘘ついたりしてすまんな。


「至り尽くせりだな」


「この時期は冒険者が少ないからな。少しでも戦力を町に残したいっていうのが領主様の考えだ。……俺はお前の腕を見込んで、色々と手を貸してるんだ。失望させないでくれよ?」


「善処するよ。ありがとう、金は出来る限り早く返す」


「おう。あぁ、それと町にいる間は奴隷にこの首輪をつけて貰う。悪いな嬢ちゃん」


そう言って出されたのは黒い首輪だ。

俺は思わず顔をしかめる。

リーフィアには出来るだけ奴隷的な行動をさせたくないという思いがある。


『ハヤトさん私は大丈夫ですよ』


俺の気持ちを汲んだのかリーフィアが慰めてくる。


「この首輪がないと脱走奴隷だと思われかねないんだ。嫌かもしれないが我慢してくれ」


俺が嫌そうな顔をしながらリーフィアに首輪を持っていたためか、門番がそう言ってくる。

うーん、これもちょっかいを出されないためだと思うしかないか。


その後は何事も無く無事に門を通ることができた。

予想外のこともあったが、結果として想定以上の成果だ。

一応換金用の魔石も残したが、門で金を貸してくれたのが大きかった。


「いい人でよかったですね!」


「領主も優秀そう。きっとここはいい町」


2人も俺と同じく門番の対応に満足みたいだ。



*****



リーフィアと夕美の2人は機嫌良さそうに道を歩いている。

やっと安心できるところでゆっくり出来そうだからな。

特に夕美は魔物に殺されかけたり、色々と勘違いをしたりして心労が溜まっているだろう。


俺たちの脇では馬車が石畳の道路を走っており、その道路の両側には街灯がオレンジ色の光を発している。

あの街灯は魔法とかで光っているのだろうか。

街も清潔的だし思ったよりも文明が発達しているのかもしれない。


宿に向かう途中にある酒場らしき店の前を通ると、笑い声や楽しげな歌が聞こえる。

すれ違う人もみんなで笑いあったり、はしゃいでたりしている。

殺風景な荒野にある町なのに街中の雰囲気は結構明るい。


俺たちは街の愉快な空気を楽しみながら門番に教えてもらった宿に入った。

宿に入ると酒の匂いが漂ってくる。

どうやら酒場も兼業しているみたいだ。


「あら? いらっしゃい」


妙齢の女性がカウンターの奥から顔を覗かせる。

さらさらとした長い青色の髪と美しい顔をしており、穏やかな微笑みが魅力的だ。

きっとその微笑みで何人かの男を知らずの内に落としたんだろうな。


「部屋は空いてるか?」


「空いていますよ。特に最近はスカスカです」


まるで他人事のように、ふふふ……と笑っている。

そういえば、この時期は冒険者が少ないみたいなことを蛮族顔の門番が言ってたな。

その影響なのかもしれない。


「じゃあ1人部屋を1つと2人部屋を1つ」


もちろん1人部屋は俺……ではなくたぶん夕美になるだろう。

俺とリーフィアはもうすでに何回も一緒に寝ている。

でも夕美はなし崩し的に一緒にいるとはいえ、出会って数時間で同じ部屋にするほど面が厚くない。


「三人部屋でいい。ここは少しでも節約するべき」


隣で夕美が反論をしてくる。

リーフィアも首が取れそうな勢いで縦に降っている。

まぁ、女性陣が一緒でいいなら俺は構わない。


「やっぱり三人部屋にしたい。あるか?」


「ええ、大丈夫ですよ。一泊銀貨2枚と銅貨5枚、朝と夜のご飯を食べるならさらに銅貨5枚追加です」


銀貨1枚で銅貨10枚の価値があって金貨1枚で銀貨10枚の価値だ。

銅貨・銀貨・金貨・赤色金貨・白色金貨・王金貨という順番で10倍ずつ価値が上がっていく。

銅貨が1だとすると王金貨は10万だ。なお、お金には単位がないとのこと。


これらの知識はリリスに聞いた。いつもありがとうリリス先生。でも出来れば早くスキルレベル上がって下さい。


「とりあえず5泊頼みたい」


「合計で金貨1枚と銀貨5枚ですね」


俺は門番から貰った金貨2枚を手渡す。


「ありがとうございます。こちらはお釣りと鍵になります。今更ではありますが、私の名前はマリアンナと申します。何か御用がありましたらお呼びください。では、ごゆっくり」


マリアンナの微笑みに見送られ階段を上がっていく。

部屋に入るとリーフィアが早速とばかりにベッドに寝転がる。


「ヒー。色々と疲れましたぁ」


「ゲームの時からずっと休んでなかったもんな」


夕美が興味深そうにこちらを見てくる。


「前から気になってたけど、そのゲームって何?」


「黄泉の回廊っていう遊戯の女神のゲームだ」


「ステータスに【祝福:遊◯王】って書いてあるけどそれのこと?」


「まぁそうだな。正しくはゲーム参加権みたいな感じだが。ゲームをクリアすると大抵の願いは叶えてもらえる。俺の固有スキルはそれで貰った」


「……強すぎない?」


いやいや、お前さんも大概だよ。


「ユミちゃんは黄泉の回廊に参加してないからそんなこと言えるんだよ。クリアするのに1年近く掛かったんだよ?……しかも私は終盤で死んじゃいましたし」


リーフィアのネコ耳がシュンってうなだれる。


「黄泉の回廊は塔みたいなところを登って行くんだが、途中でトラップがあったりモンスターが出てきたりする。リーフィアと出会わなかったら、ただの人間である俺にはクリアできなかっただろうな」


これは半分ウソで半分ホントだ。

普通の人間であっても時間をめちゃくちゃ掛ければクリア出来るようにはなっていた。

もちろん、強ければ強いほど有利には間違いないが。


「それで今後はどうするの?」


ゲームの興味がなくなったのか夕美はベッドの上でゴロゴロ転がりながら話題を変えてくる。

それにしても、相変わらず中学生にしか見えない。

本当に社会人なんだろうか。


「……そうだな、俺はステータス隠蔽系のスキルを中心に覚えつつ情報を集める。お前らは好きにしていいがあんまり目立たないようにしてくれよ」


「びくびくして情けない。それなら最初から隠蔽のチートを頼むべきだった」


うっ……夕美や、それを言わないでおくれ。

【万里天性】で覚えられるなら取らなくてもいいじゃーんって思っちゃったからね。


そのあと、明日はみんなで服を買いにいく約束をするなどの他愛もない雑談をしたりしてから寝た。


*****


帝国内で隼人たちが寝静まったころ。

一方、王国内のある場所で小さな騒ぎが起きていた。


「勇者は本当に死んだのか?」


身長が2m強の屈強な男が尋ねる。

茶髪は短く切り刈られており、子供が見たら泣き出しそうな強面をしている。


「はっ! 確かな情報を集めている最中ですが、ほぼ間違いはないかと」


報告に来た兵士の答えに思わず男が唸る。


「今代の勇者はヴェルヴェモードとかなり戦いやすいはずだ。それをなぜこんなにあっさりと……」


「……ヴァレオ様、報告では魔王ヴェルヴェモードではなく、魔王の幹部に倒されたという報告を受けております」


ヴァレオと呼ばれた男はそれを聞いて顔を赤くしながら手を握りしめる。


「……つまりはなんだ? 多額の資金と時間を与えて育てた勇者が魔王と戦うこともなくっ……ふざけるナァッ!!!」


ヴァレオは怒りを乗せたまま机に拳を叩きつける。

大きな打撃音とガシャンという金属容器がぶつかり合う音が鳴り響く。


その直後、部屋の中ではとてつもない緊張感に包まれる。

下手な対応をしたら首が飛びかねないと思わせるほどに。


しかし、事態は一刻を争う状態。

国の希望でもあり最大の戦力である勇者がいない状態なのだ。

魔王国が何かしら手を出してくるだけでなく、それ以外の国もこれを機に攻撃を仕掛けてくる可能性は十分ある。

それを思ったのか思わないのか、報告に来た兵士が意を決して自分の上司に尋ねる。


「それで、今からどういたしますか?」


「……いつもどおりだ。まずは情報規制をやれ。新しい勇者が育つまで他国に悟られないようにしろ。あとは召喚の準備を急げ。召喚士は前回の奴と同じでいい。王族への説明は俺がする」


「はっ!」


命令を受けた兵士が部屋から出るのを見たあと、ヴァレオは深くため息をつく。


勇者が何も成果をあげなかったことで責任を負わされるのはヴァレオの役目だ。

ここ数十年の間、魔王を1体も倒せないうえに続々と有力な魔王候補たちが出現している。

そろそろ何かしら王族から明確な言葉で文句を言われかねない。


翌朝近くまで王族にどう説明をしようかと悩むヴァレオであった。



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