表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

#2 代償の杯

2話連続投稿です。

「まぁまぁ、早速隼人君の望みを聞こうか」


女神の提案に対して、眉を顰める。

もっと文句を言いたいところだが、他にやるべきことがある。


「まずは”黄泉の回廊”に参加していたリーフィアという少女を生き返らせてくれ」


「はいは~い」


女神は返事をした後、目の前に魔法陣を展開させる。


その瞬間に空間に光が溢れ、ネコ耳を付けた少女が姿を現す。

まつ毛が長く、ぱっちりとした大きな目が特徴的な可愛いらしい女の子。


「ん? あれ?……ハヤトさん? もしかして、クリアしたんですか!?」


「あぁ、余裕余裕」


本当はまったくもって余裕ではなかったが、何も無かったかのように言う。


俺はリーフィアに近づき抱き寄せて髪を撫でる。

セミロングの髪を撫でるたびにリーフィアの猫耳がピコピコと動いている。

栗色の髪から漂う甘く、それでいて鼻につかない匂いが心地いい。


リーフィアも必死に俺の胸をクンクンと嗅いでいる。

恥ずかしいことこの上ないが、まぁ今回は文句を言わないでおこう。



リーフィアはネコ耳獣人族の容姿をしているが、本当は“武器族”と呼ばれる種族である。

武器族は総じて獣人族の見た目をし、武器に変身することが出来る。

リーフィアのいた世界は、この世界でもなく地球でもない世界とのこと。

その世界では武器族は武器となり、人間は武器となった武器族を装備して”オニ”と呼ばれる真っ黒くてドロドロとした生き物と戦っていたらしい。

オニはこの世界でいう魔物ポジションなのだろう。


武器族は人間とペアになって戦うが、誰とでもペアになれるわけではない。

パートナーとしての相性というものがあるそうだ。


相性が悪い者同士で組むと、武器族は木の棒以下の能力しか出せず、相性がいい者で組むと無限の力を発揮する。

一般的には相性の悪いペアというのは中々ないらしいのだが、リーフィアはどの人間とも絶望的に相性が悪かったそうだ。


小説では獣人族は人間に迫害されがちではあるが、リーフィアのいた世界ではそんなことはなく、むしろ友好的だった。ただリーフィアは例外だった。


武器族にとって、武器となり人間に使われることは人生の生きがいであると同時に使命にもなっている。

そんな中、誰ともペアが組めないリーフィアは当然の如く嘲笑され、侮蔑され、怒られ、忌み嫌われた。


人間からすれば誰ともペアが組めない悪魔の子。

武器族からすれば種族としての誇りを踏みにじる子。

その世界ではリーフィアの仲間はいなかったかもしれない。


そんなある時、悩めるリーフィアの前に悪徳詐欺師”遊戯の女神”様のご登場だ。

リーフィアはペアとなれるものを出会うことを願ってゲーム”黄泉の回廊”に参加した。


そのゲームの中で俺と出会ったわけだ。

リーフィアは武器族として、どの人間とも絶望的に相性が悪かったが、なぜか俺だけは逆に圧倒的に相性がよかった。

結局リーフィアはゲームをクリアしていないが、結果的に願いは叶った。



「いつまで抱きついてるのー」


リーフィアの身体の暖かさを十分に味わっていると、女神から催促の声が聞こえてきた。

俺はあえて無視をしようと思ったが、リーフィアは恥ずかしそうにしながら俺から離れた。残念だ。


「望みポイントはまだ残ってるけどどうする? もう何人か生き返らせる?」


女神が尋ねる。

望みポイントってなんだよ。大体なにか分かるけど。


「いや、いらないな……ところで、リーフィアはこっちの世界に連れて来れるのか?」


俺の“いらない”という言葉に反応したのかリーフィアが苦笑する。

あのゲームの参加者のほとんどがロクでもない人ばっかりだったからな。


「んー、結論から言うとリーフィアちゃんはそのままだと連れていけないね」


「望みポイントとやらが足りないのか?」


「違う違う。そういう方面じゃなくて私たちに課せられた規則のせいで出来ないの。魂を好き勝手に世界移動させると何が起こるか分からないからね」


それを聞いたリーフィアが悲痛な表情でうつむいている。

うーん、なんとかならないだろうか。


「もー、そんな顔しないで最後まで聞いて。私は”そのまま”って言ったはずでしょ。それに、私は遊戯の女神だよ? ルールの穴を突くぐらい日常茶飯事なんだから」


女神が嬉しそうな顔をしている。

ゲームのバグを見つけた時の友人の表情にそっくりだ。


「あの世界は奴隷制度があるんだけど、奴隷ってね、モノとして扱われるんだよ」


小説でありがちな話だな。犯罪奴隷や戦争奴隷とかか。

それにしても急にこんな話を振るってことは、そういうことなのだろうか。


「まさかリーフィアを奴隷にさせて、俺に付随するモノとして扱うからセーフなんて言わないよな?」


「おぉう!凄い!よくわかったね」


ピンポンピンポーンという音がどこからともなく響く。

妙なところで変な力を使わないでくれ。


「そもそも、魂の移動を避けるための規則なんだろ? モノとして扱っても意味ないじゃないか?」


「そうだね。本質的には何も解決してないよ。でもアウトラインが真っ黒から、黒に限りなく近いグレーになる。それで十分なの」


何が規則の穴を突くだ。明らかに穴じゃないところを突いてるだろ。

そんな中、頬を赤くしてリーフィアは目を輝かせながらこちらを見ている。


「リーフィア、前に奴隷のことを話したよな。このままだとお前はアレにされちまうぞ」


リーフィアの世界では奴隷という存在も概念もないらしい。

だが以前に機会があって、ちょっとだけ奴隷のことを教えてある。


「感激です!」


うん、教えたはずなのに何も伝わってないようだ。


「武器族のペアとは違うんだぞ? どんなに嫌でも主人の命令には背けないし、殺されても文句が言えない。あとは身体を使って好き放題にされるとかな」


「ハヤトさんがご主人様になるんですよね? ハヤトさんなら私に酷いことしないですし、ハヤトさんのことを敬っています。何も問題ないです! それに……わ、私の身体で満足してくれるなら、その、好きなだけでも──」


リーフィアは両手を頬に当てて真っ赤な顔でキャッキャと騒いでいる。


うーん……まぁリーフィアには元々帰る場所がないし、俺が気を遣えばいいだけか。

それに武器族なんて存在はあの世界にとっては珍しいはずだし、俺の奴隷にしとけば手を出そうとしてくる輩を牽制できる。


仮に武器族でなくともリーフィアはとても可愛いうえに手ごめにしやすい雰囲気を漂わせているからな。確実に男が寄ってくるだろう。


「分かった。改めてよろしくな、リーフィア」


「はい、ハヤトさ……ご主人様って呼んだほうがいいですか?」


「……いや、今まで通りで頼む」


「じゃあ、あの世界の契約魔法を施すから、ふたりともこっちに来て」


先程まで何も無かったはずの場所に扉が立っている。

女神が開けたその扉を通るとまた別の白い部屋に出た。


「この部屋はこの世界のシステムと大体同じく構成してあるからね。まぁ、念の為にこの部屋で契約をやろうか。とりあえず隼人君は右手を出して」


女神が出された俺の右手首を爪で撫でると、そこから赤い液体が浮かび上がる。

そのまま女神がリーフィアの右手を掴み、手の甲に先ほどの液体を落とす。

液体はそのまま手の甲に染み込み、黒い紋様が浮かび上がった。


《契約魔法で『リーフィア』と主従を結びました》


「どう?システム音声が聞こえてれば成功だけど」


「あっ、はい! 聞こえました!」


システム音声って名前はあまりにも直球過ぎないか?

この世界もゲームかよ。


「あぁ俺も出来た。ところで、まだいくつか願いは叶えられるのか?」


「できるよ。目安としてはスキル6つぐらいかな」


「別にスキルじゃなくてもいいんだよな?」


「うん。お金でもいいし、珍しい素材でもいいし、何かしらの情報でも欲しい物は大抵叶えられるよ。私の祝福はゲームに参加しないといけないけど、恩恵に融通が効くのが自慢だからね」


その言い方だと他にも神様がいて祝福を人間に与えているみたいだ。

流石に自分だけが祝福を貰うということは考えていないが……この世界のチート持ちというのは意外と多いのかもしれない。


そうなるとやはり1番に考えるべきは戦力の確保だな。

別に世界を敵に回すつもりはないが、リーフィアがあまりにも珍しい存在であるため何かしらの騒動に巻き込まれると思っている。

リーフィアには武器に変身させないようにすることも出来るが、武器族としての生きがいを奪うためあんまりしたくはない。


しかも普通にしててもかなり可愛いので貴族やら盗賊からちょっかいを掛けられるのは目に見えている。これはネット小説の常識だ。

盗賊ならまだしも貴族とはなるべく敵対したくない。


それらの対策にはいくつかの方法を思いついているが、いずれにしても強くなるのが手っ取り早い。

要は手を出されたら痛いしっぺ返しを貰うと相手に思わせればいい。


どの世界でも弱者は搾取される運命だ。

だが、幸いにも俺は強くなれるチャンスを得た。


「5つのスキルが欲しい。ただ、この世界のスキルだけじゃない。出来る限り他の世界のスキルからも選びたい」


他の世界のスキルを得るにはいくつかの利点がある。


強力なスキルを得る確率が上がるというのもあるが、この世界の住民にとって未知であることだ。

未知であるということは対策をされにくいし、恐れられて手を出されにくくなる。

極端な話、強力な魔法使いになっても魔法が使えないところに連れられたり、魔法耐性のある装備をされたりしたら負ける可能性がある。


まぁ、珍しがられてちょっかいを出される可能性も増えるが、隣にリーフィアがいるので今更って感じだ。


「ふふ、面白いこと考えるね。……ん?5つ?」


「あぁ、スキル1つ分は別の願いにしたい。……俺には地球に置いてきた妹がいるんだが、両親がいないんだ。まだあいつは高校生だし、色々と便宜を図ってほしい」


それを聞いたリーフィアは思い出したとばかりに話す。


「小雪ちゃんでしたっけ? この前に話してくれましたよね」


そう、白瀬小雪。

俺が高校の時に両親が亡くなって以来、今まで俺が育ててきた。

正直、この世界に来て1番後悔したのは何も言わずに小雪を置いてきたことだ。


次点でHDDのデータを残してきたということかな。

たぶんあっちの世界では失踪者扱いになってるだろうし、調査のためにHDDの中身見られてるよなぁ。


「便宜っていう表現は曖昧すぎるかなぁ~。とりあえず金銭面とかは出来そうだけど」


「まぁ、とりあえずそれで十分だ」


小雪もすでに高校生だしな。心配だが過保護はあいつのためにもならないだろう。


「じゃあ次はスキルだね。ちょっと待ってて、他の世界のスキルをこの世界のスキルシステムに適合するように変換するから」


女神がたまに言う”システム”という言葉のせいで、どうにもゲーム感が否めない。

黄泉の回廊はまさにVRゲームって感じだったが。


「はい、じゃあこの中から好きなスキル5つ選んで。願いの範疇を凌駕するスキルとかはもう既に除いてあるから」


女神はそう言いながらタブレット端末っぽい板版を渡してくる。

そこにはスキルの名前がズラーっと書かれており、それぞれの名前の横には”選択”と”詳細”という文字が並んでいる。


おぉ、すげぇ分かりやすい。

リーフィアもネコ耳をぴょこぴょこさせながら横から興味深そうに見ている。


「うわぁ~、すごいいっぱいありますね。あっ、これなんてどうですか?」


リーフィアが指差したのは『死之狂乱Lv1』という名前のスキル。確かに強そうだ。というより際限なく危険そうだ。とりあえず詳細ボタンを押してみる。


『【死之狂乱Lv1】:

スキル使用者は死んで塵と化す。

その塵に触れた生物は強制的に”死之狂乱”をスキル取得し発動させる』


「「……」」


沈黙が部屋を包む。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ