天上のリフレイン
1500文字くらいで、短めです。
ここはオンラインゲームの世界だ。
閉じ込められてしまったのだから、でることはできない。
都合よくそこにいる友達と、一緒に切り抜けていくしかないんだ。
――そうだね、都合よくそこにいる私とパーティを組んでよ。
僕の皮肉っぽい言葉を笑うように、君は言う。
ここでの君はいつも笑っている。
いや、常に笑顔を絶やさない人ではあったけれど。
白い、ただ白い、薬品くさい息の詰まるような空間よりも。
例え虚構でも、緑の広がる高原や、きらめく海や、夕焼け空の綺麗な街のほうが君によく似合う。
「いつになったらでれるんだろうな」
不満げを装って吐いた台詞に、君はちょっと困ったように笑いながらそうだねと言う。
この世界の敵を倒すほどに、手に入るのは音符。
ボスを倒すと手に入るのは楽譜。
「天上のリフレイン」がそういう設定のRPGだからと言えばそれまでだ。
天の音が変化してしまった魔物を、仲間と一緒に倒して楽譜にする。
それを集めて『歌』にして、眠り続けている***に聞かせていく。
手に入れた楽譜は……初めて聞くもののはずなのに、聞けば懐かしく何かを思い起こさせる。
楽しい気持ちや、嬉しい気持ちがとっておけたらいいのに。
缶詰にして、思い返したいときにあければ、その気持ちになれればいい。
そしたら――ずっと忘れずに、一緒にいられるのにね。
君は不思議なことを言う。
降り積もる雪のように、僕の心の中にゆっくりと――それはたまっていく。
敵は僕らの行く手を阻む。
まるで外に出させまいとするように。
そういうふうに作られているんだからしかたないけれど、きりなく湧いてくる。
この理不尽なゲームの世界で、僕の仲間だけは死ぬことがない。
ずっと生き続けている。
それは奇跡とか努力とか……そういうものの積み重ねなのかもしれないけれど。
――あーぁ、元の世界にもどりてぇな。
そんなことを、悪友が言う。
そうだな、と答える。それがまるで儀式みたいに。
ゲームが終わることを、そもそも僕は望んでいるんだろうか。
大切な仲間はここにいる。
確かに両親には会いたいけれど、ここにいれば二人がいる。
あれ、ちょっと待とうか。
皆で一緒に外に出ればいいだけなのに、僕はどうしてあちら側に二人がいない前提で考えているんだろう。
――おい、しけた面すんなよ。
悪友が背中を叩く。
――大丈夫。もうすぐ出られるよ。
***はもうすぐ目覚めるから、と君は言う。
どうしようもなく不安になって、ぎゅっと君の手を握り、悪友の瞳を見つめる。
この世界から、いつまで経っても抜け出せない。
いくら経ってもまるで、迷宮のように。
でも、それは苦しいことだろうか?
ここには僕を誰よりもわかってくれる二人がいるし、どこまでも続いているようにみえるのは、今までの……現実と何が違うんだろう。
終わらなければいいと……願うのに。
――***。
君が、僕の名前を呼ぶ。
慈しむように、いとおしむように。
きっとそんな君の表情も、声も、今のこの気持ちも。
どんなに大事だと思っても……この世界から出たら僕は全部忘れてしまう。
涙のように空から降ってくるのは、昔三人で見た桜の花びらだ。
とん、と悪友が背を押す。またなって笑いながら。
君が上を指さす。桜が降ってくる光の向こうを。
夢ってやつは、いつか目覚めるときがくるんだってことを、僕は知っている。
幸せだった時間は、目覚めてしまえば埋まらない空白になる。
けど、今でも音楽を聴くたびに、その時間の欠片が僕の中に入ってくる気がするんだ。
終わる頃にはこぼれ落ちていってしまうそれを、一人かき集めて噛みしめて。
――あぁ、幸せだったなと、苦く苦しく思うのだ。