最終話 空を見上げて
気づいた時にはもう、もとのイトーヨーカ堂の前だった。年末と言うことで買い込みに急ぐ人々とすれ違う、もとどおりの日々、もとどおりの人々。空を歩いていたようにしか見えない私なのに、誰からも注目されない。みんないつも通り。さりげなく寄り添う老夫婦、はしゃぐ子ども達に注意を配りながらもほほえましく見守っている母親、いつまでも楽しそうに話す中学生のグループ、カップル。なにもかもいつも通り。
宙を歩いていたって言うのに、誰もなんとも思わないんだな。
少し安心したような、残念なような、複雑な気持ちを噛んでいた。
ふと、空を見上げてみると、あの虹も、今はもうない。もとどおりの曇り空。雲間から太陽の光がこぼれ、帯を成している。
今まで見ていたのは夢だったのだろうか。しかし、封を切ったメッセージカードが夢じゃなかったことを物語っている。数えてみたら一枚、なくなっていた、メッセージカード。
確かに、書いて、伝えたのだ。
「ありがとう、好きだよ。」
返事、もらうことなく戻ってきちゃったね。私は唇に手を当てて、小さく笑った。初めてキスした、あの感覚。体も、心も解けそうになったあの感覚。化学式もSPIも役に立たないあの感覚。どうして日本人はこの感覚を忘れてしまったのだろうか。それとも最初からそんな習慣なかったのだろうか。一度したら忘れられないよ。夢のようで、何よりの真実…。そんな自然なことを教えてくれた、初めてのキス。
今思うと、少し苦いけど…
いい夢だったよ。
今なら胸張って言えるよ。
これが、私の初恋、だと。
読んでくださりありがとうございました。
前作は途中で挫折、断念してしまい、楽しみにされていた方、申し訳ありませんでした。
今回も一日で仕上げたため、短い上、文章も粗いのですが、少しでも純粋な世界を楽しんでいただければ幸いです。子供の頃見た中できれいだと思ったものの一つが虹だったので、そこから話を繋げて、このような作品になりました。
来年も皆さんに楽しんでいただけるような作品を心がけていきたいと思っていますので、みなさん、よいお年をお迎えください。