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第2話 ふしぎな虹

 霞がかった曇り空に七色がぼんやりとではあるが、鮮やかな色彩を放っている。どのぐらい時間が経っただろうか。私は久しく見ていないな。と、しばし虹に見入っていた。しばらくしてからだった。わが目を疑うような、不思議なことが起こった。虹がぷくっと全体的に膨らんだように見えた。するとオレンジから赤、黄色からオレンジへと色が変わっていく。いや、色が変わったのではない。位置が明らかに変わったのだ。そして一番橋の赤はしっかりと一番外側にあった。しかし、位置を変えている。さっきまでとは全く違う位置だ。もとあった虹から脱皮するようにもう一本の虹ができあがっていく。

 

 そして虹は、二本に分かれた。

 

 私は一体何を見ていると言うのだろうか。虹が二本に分かれるなど、どんな本に書いてあっただろうか。誰が言っただろうか。目の前で起こっている事態についていけない私の頭は瞬く間にフリーズしたコンピューターのようになってしまった。数学の公式も英文法も、今は何の役にも立たない。

 しかも話はこれで終わらない。さらに虹は三本、四本と分かれ、どんどん分かれ、近づいてくる。遠くを見渡せば七色のアーチが延々と連なり、先日クリスマスを彩ったイルミネーション顔負けの美しさだ。その美しさをどう表現したらいいのか、実際見たものにしかわからないとしか言いようがない。私は完全に心を奪われてしまい、導かれるように虹のアーチをくぐっていた。

 

 それはまさに、夢を見ているようだった。足がふわふわとして、天にも舞い上がるような気分だった。これぞオーバー・ザ・レインボー。夢心地。でもこれは幻ではないのか。そんな疑念など、すっかり取り払われていた。私は虹が見せた夢、幻に酔いしれていた。

 

 だがそれは、夢でも、心が見せた幻などでも、なかった。

 

 虹を超えていくうちに気づいたのだが、血の気が引くような状況に気がついた。

 私は宙を歩いているのだ。

 そんなはずがない!

 どうして落ちないの!?

 どうして普通に歩いてこられたの!?

 誰かに見られてないの!?

 途端に次の一歩を踏み出すのが怖くなった。次の一歩を踏み出せば、私は地面に真っ逆さまに落ちるのではないかと思ったからだ。実際ざっと見ても地上1キロメートルくらいあるんじゃないかという高さだ。こんなところから落ちたら当然木っ端微塵だ。私はキッと目を瞑り、その場に立ち竦んだ。何でこんなところに来たのだろう?こんな恐ろしい思いをするなら夢など見なければよかった。

 これが夢なら今すぐに覚めて!

 

 …大丈夫だよ。そのままこっちに上がってきてごらん。

 父親のものとは違うが、ふっと優しい、温かい声が聞こえた気がした。聞いたことのない声だった。とりあえず、目を開けてみた。足元がキラキラ光っている。恐る恐る触ってみると、足元は確かに存在した。透明な、クリスタルの階段だった。下半身から力が抜け、私はその場にへたり込んだ。落ちない。この世のものとこそ思えないが、地面は確かにあったのだ。触ってみると、確かにクリスタルだ。子供の頃、触ったことがあるから、なんとなくわかる。今は子供の頃のように、純粋な気持ちで見て、感じているほうがしっくりくるような、そんな気がしていた。しかしここからが大人になったものとしての性なのだろうか、はたまた人間としての性なのだろうか、となると一体この虹はどこに繋がっているのだろうか。一体この虹の先に何があるのだろう。と、つい勘ぐりたくなってしまう。

 私は一呼吸すると、前をじっと見据え、階段を一歩、慎重に、慎重に踏み出した。

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