2話 異世界への落下
琥珀色の瞳をもつ黒猫ティウ友達の少年と細身で色の白い17歳玲の友達は神様に行き会った。神社につながる道の下の石段で。
「こんにちは、ボクは神様です」
自称神様の少年に。
「ぼうや、おうちが分からなくなったのかい?そしたらそこの道を南に行ったら交番があるよ」
妙な格好をした少年が玲と言葉を交わす。玲のほうは本格的に迷子として扱っているが多少なりとも違和感を感じていた。まず装いが和服であること、腰のあたりにきらきらと光る鏡が吊るされていることの二点である。鏡の形状は細長い長方形で20枚くらいが横に連なってスカートのようになっている。
「最近はうちに寄ってくれる人なんてもうほとんどいないですからね、子供のように見えてしまうのも仕方のないことです。ですがボクはあなたたちにお願いがあってきたのです」
少年は眺めの栗色の髪の毛を指先で弄びながらさらに言葉を続ける。
「お願いというのもボクの社に妖が居ついてしまって、それを祓っていただきたいのです。助力はしますが――」
「ちょ、ちょっと待って。神様?アヤカシ?そんなん俺らの手に負えないって!なぁ、ティウ」
「...」
現実離れした展開に当惑している玲と無言でうなづいて同意の意を表すティウ。たしかに、とか言って目を閉じてしまう自称神様。
「しかし事態はひっ迫しているのです。ボクが存在を喰われる前に妖を祓わなければその牙はこの街の人間にも及ぶことになってしまうのです。どうしたものか――」
あれこれと考えながらうんうん唸ってる神様少年を眺めていた二人だったが、ティウの背筋を悪寒が走った。玲のズボンのすそを引っ張って一緒に逃げようとするが抵抗はむなしく二人は自由落下を始めていた。
「そんな――っ妖が!」
怒気を奔らせて神様の周囲を光が瞬く。玲とティウの落下の勢いは止まっていた。いままで座っていた石段が不意に消失したのだ。石段だけでなく地面すらも消え失せていた。足元にぽっかりと空いた大穴に飲み込まれ成す術もなかった二人をかろうじてその場にとどめていたのは神様だった。
「今のボクの力ではあなたたちを一時的に支えるので精いっぱいです。そちらで力を得れば帰ってくることもできるでしょう。どうか、死なないで――」
額に汗を浮かべて力を振り絞っていたらしい神様はそこまでを伝えると背後から黒い刃に貫かれ、力を失った。神様の支えを失った玲とティウは再び、落ちる。
「ふざけんなああぁぁぁ――」
掠れた声で玲が叫ぶが今落下中の空間は深遠な闇でできたような空間で発した声は闇の彼方に吸い込まれていった。
どすん。音と衝撃。右の肩がすごく痛い。落下の被害はそんな感想で済んでしまう程度のものだった。
「...生きてる。よかったぁ、なぁティウ――ッ」
そこで玲は気づいた。近くに黒猫ティウがいないことに。黒猫の代わりに目に入ったのは右の半身を地面に呑み込まれている金髪の少女だった。身体はただ地面に埋もれているわけではない。地上に出ている左の半身には細い木の根がまとわりつきさらに地面に飲み込ませようとしている。まるで植物が食事をするかの如き様相を呈していた。
「...たす――けて」
少女の悲痛な悲鳴を合図に玲は猛ダッシュで救出に向かう。