第87話 休暇
短めです。
貴族屋敷を買った次の日。
俺は職人ギルドでセドリックと貴族屋敷の手入れと言うか、これからの改修作業の予定を話し合っていた。
昨日セドリックは大分愉快な状態で俺に振り回されていたがその疲れを全く感じさせない。
傷は回復魔法で癒してはいるが、ドワーフって本当にタフだな。
「・・・と言う感じで良いですかね?」
「え?えぇ、それでお願いします」
全く違う事を考えていた所為か、返事が怪しくなる。
「それじゃ、一応これから1週間で入口から本館までの手入れと本館の改修までを行いますぜ。
そこで一旦ラクの兄貴に確認して貰うって流れで進めさせて頂きやす」
「えぇ、それでお願いします」
「それと、こっちのリストが本館に使われていただろう魔導具のリストなんすけど、こっちはどこか依頼したい工房とかありやすかね?」
「うーん。できればボコポさんところに頼むのが1番安心できるんですけど、今あそこには色々依頼してるから追加で頼みずらいんですよね」
ボコポの所がダメとなるとディルクの所だけど、あそこは防具屋だからな・・・頼めば多分作ってくれるとは思うんだが、なんか申し訳ない感じがする。
うーん。そうなると他に当てはないな。
「すみません。他の所に伝手はないんでセドリックさんの方でどこか頼めそうなところはありますか?」
そう聞くと、待ってましたとばかりにセドリックが答える。
「それでしたらあっしに任せて貰えやせんか?」
「伝手があるんですね?」
「えぇ、あっしと同じで独立したばかりですが、腕は確かですぜ」
セドリックはそう意気込んで答える。
ふむ、そこまで自信あるようなら任せよう。
「確か特注になるんですよね?」
「そうっすね、でも既製品を元に作り変えればコストと手間が大分省ける筈っす」
俺はリストを見るが、結構な数に上る。
これだけの物を1週間で揃えられるのだろうか?
「でも大分数が多いと思うんだけど1週間で大丈夫ですか?」
「まぁ、大丈夫っすよ。サイズ確認に1日。改造に3日であとは設置するだけっすね」
セドリックは簡単そうに言うが、そんなものなのだろうか?
それともドワーフだからだろうか?
どっちかわからないが、どっちでも凄い事だとおもう。
「それと作業人数っすけど、俺を含めて30人ってとこで良いっすか?」
「えぇ、それと日当は1人頭どれ位が良いんでしょうかね?」
「えーっと、日当は・・・1人あたり大銀貨1枚・・と銀貨5枚・・位あれば集まると思うんすけどねぇ・・・」
セドリックが悩みながら答える。
ふむ、相場はそれ位なのだろう。
提案された額を基に考えると1日約45万円か・・・
それならもう少し上げて1人頭大銀貨2枚で1日約60万円でやる気出して貰った方が良いか。
金で釣る方が人も集まり易いだろうしな。
いや、仕事の内容でボーナス的に出した方がもっとやる気出して貰えるかもな・・・
基本大銀貨1枚と銀貨5枚。
働きが良かった奴には更に銀貨5枚追加で出す。
その匙加減はセドリックに任せよう。
その事を伝えるとセドリックは喜色を浮かべて喜んだ。
「それ良いっすね! そうして貰えると助かるっすよ」
そうして人件費やら資材やその他諸々の費用関係について相談し、白金貨を2枚渡して当面の資金に充てて貰うことにした。
なんでも本来は後払いが普通らしいが今回の場合、屋敷の大きさが大きさなので独立したてのセドリックでは全てを賄う事が出来ないそうだ。
まぁ、こちらとしても持ち逃げされなきゃ問題ないからな。
一応ボコポの紹介だからその辺りは信用している。
「それじゃ、よろしくお願いしますね」
「任されたッす! ご希望通りの素晴らしい屋敷にして見せまっす!」
胸を張って即答するセドリックに頼もしいさを感じる。これだけ自信ありげなら大丈夫そうだ。
俺は後の事はセドリックに任せる事にして打ち合わせを終わらせた。
さて、後は言えの管理を任せられる奴隷を購入するか・・・
取り敢えず執事と言うか家宰が出来る人物と屋敷内の掃除や洗濯・その他諸々が出来るメイド数名。いや10数名か?
それに敷地内の手入れができる庭師や畑仕事が出来る農家を数名にガードマンを数名・・・
うーん。こっちも全部で25~30人前後は雇う必要がありそうだが、屋敷に住めるようになってからだろうな。
それなら先に『レイモンの木』と『サトゥーカエデの木』を例の森に取りに行くか。
場所は神聖王国サスティリアかゴルディ王国のどちらか問われると多分神聖サスティリア側だろうが問題ない。
前回同様密入国予定だ。
確か片道3週間ほどかかったが今の俺が最短で進めば片道1週間もかからないだろう。
それよりも問題は生木をどうやって運ぶかだ。
最初は俺が担いで運ぼうと考えたが、良く考えたら運搬中の木があちこちに引っ掛かるだろう。
木が傷つくと植樹しても木が枯れてしまうかも知れない。
ある程度剪定して木のサイズを整えるとしても複数の木を同時に運ぶのは難しそうだ。
それならサイズが小さい木を植樹すればいいように思えるが、それだと成木になるまで時間が掛かりすぎる。
資金源となるには大分時間が掛かりそうだ。
どうしたら良いのかと答えの出ない悩みを抱えながら宿屋に戻ると、ベッドに横になる。
まぁいいや、今日は休もう。
もう疲れたよ。
今日はお休みだ!
ぶっちゃけ最近働き過ぎだったからな。
今日はしっかり休んでまた明日から考えよう。
そうして俺はベッドで昼寝をすることにした。
・・・
ベッドはもっとふかふかの高級なものを買おう。
コンコン。
コンコンコン。
コンコンコン。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴン。
「楽太郎さん? 居るんですよね?」
「・・・」
ゴン!ゴン!ゴン!
「開けて頂けませんか?」
ゴソゴソ。
「ちょ?! リディアーヌ様! お止め下さい!」
「ルインどいて!扉壊せない!」
「壊さないでください! 私は謝罪しに来たのであって、更なる不興を買うために来た訳ではないのですよ!」
「でも!」
「お客さん。迷惑なんで止めて貰えやせんかね? それと壊したら弁償ですぜ?」
「「す、すみません!」」
「わかってもらえりゃいいんですよ」
「あ、そうだ。申し訳ないんですがこの扉を開けて貰えませんか?」
「はぁ? そりゃお客さんに対して不義理を働くことになりやす。出来ない相談ですぜ」
「それでもお願いしたんですよ」
「無茶を言うお嬢さんですね」
「開けて貰えるなら・・・ごにょごにょごにょ」
ちゃりんちゃりんちゃりん。
「ごにょごにょごにょ」
ちゃりんちゃりん。
「仕方ありやせんね。今回だけ特別ですぜ」
「「ありがとうございます」」
・・・
コンコンコン
「お客さん。すいやせんが開けて貰えませんかね?」
・・・
「すいやせんが開けさせて頂きますぜ」
カチャカチャ。ガチャッ
「お客さ『ドゴォッ』・・・」
・・・
「あのぉ・・・ 大丈夫です?」
「だ、だいじょ・う、ぶ・・じゃ、ねぇ」
壁に張り付いた宿屋の店主はそう言ってガクリと崩れ落ち気絶した。
ルインとリディアーヌはその惨状を見て慌てて店主の介抱を始めた。
「「・・・起きられるまで待ちましょう」」