第85話 お家を買おう4
書けましたよ。
なんとかなった・・・
商人ギルドと俺が合意し、無事貴族屋敷が俺の物になった。
あの後、購入手続きやら書類の名義変更やらで色々手続きを終わらせたら外は赤く染まり、夜の帳が降りようとしている所だった。
「ボコポさん達には長々とお付き合い頂きありがとうございます」
「いやいや、良いって事よ。それよりも早く職人ギルドに戻って報酬くれや」
ボコポやドワーフ達はそう口々に述べて先を急かしてきた。
ストレートな表現だが、気楽な感じが分かり易くて心地良い。
俺は快く了承すると職人ギルドへと向かいながらボコポや職人さん達と話をする。
「一応、これであそこは私の物になったんですが、流石に今のままでは住めないので建物の改修や魔導具、庭と言うか敷地全体の手入れ等、大雑把な所から細やかな所までを含めて何とかして欲しいんですけどどうにかなりませんかね?」
雑談混じりにボコポに投げてみる。
「おま・・・そりゃ丸投げしてぇって事じゃねぇか!」
「端的に言うとそうですね」
「そうですねって・・・大雑把過ぎてわかんねぇよ。なんか指標っつーか、具体的な指示っつーかねぇのかよ」
「いやぁ、思ったよりモノがデカ過ぎて何をどうすれば良いか私も良くわかんないんですよ」
「ふむ。確かになぁー、俺もまさかあそこまで酷い状態だとは思ってなかったからよ。確かにどう手を付けて良いかわかんねぇか・・・」
ボコポもそう言って理解を示してくれる。
俺とボコポが頭を悩ましていると、職人の1人が提案してきた。
「親っさん。それなら作業の優先順位を付けやせんか?」
「優先順位?」
「えぇ、例えばですぜ。
まず住めるように正面の入り口から本館までの道って言うか庭というか迷う部分を片付けて移動をスムーズに出来る様に手入れしやす。
次に本館の改修しやす。
それから使用人の生活する場である使用人用の別館を改修しやす。
そう言った具合に作業する場所の優先順位を付けて作業の分割をして貰えりゃ、作業が終わった時点で見て貰って手直しをするなんて事も多少は楽になるんじゃねぇかと思いまして」
そう言ってドワーフの職人は提案してくれた。
「いいですね。それじゃぁ、まず最初に住めるように本館の改修までお願いして・・・」
「おっと、そりゃぁギルドに帰ってから依頼を出してくれや。お家の手入れについては依頼を受けてからじっくり話しゃ良いだろ?」
それもそうだな。
そう考えて提案してくれたドワーフを見る。
出来そうな人物だな。たしか・・・セドリックだったっけ?
「セドリックさんでしたね。依頼を出そうと思うんですけど、指名しても良いですか?」
「マジっすか?!」
セドリックは大きな声で驚く。
「良かったな、セドリック。これで箔が付くじゃねぇか!」
そう言ってボコポがセドリックの背中を叩くと他のドワーフ達も背を叩き始める。
??? 良くわからない。
1人話に付いて行けず、置いてけぼりになっているとドワーフの1人が説明してくれた。
「セドリックは先月ヤコボ親方に認められて独立したんだが、中々仕事が取れなくて困ってたんだ」
うん?仕事が取れないって、腕が悪いのか?
そう考えているとドワーフがこちらの顔を見て補足する。
「あー、因みにセドリックの腕は超一流だぜ。ただ、ヤコボ親方は商人ギルドと・・・いや、ギルド長のカタリナと仲が悪くてな、最初ヤコボ親方はカタリナからの依頼を全部断ってたんだが、その代わりと言うかカタリナからの報復としてヤコボ親方の一派には商人ギルドからの依頼が回らなくなっちまったんだ」
その所為でとばっちりを受ける弟子達もいるそうだが、ヤコボ親方の一派の職人は皆腕が良いから立ち上げさえ上手く軌道に乗れば何とでもなるらしい。
ただ、中には接客と言うか、営業が苦手で立ち上げに失敗して借金奴隷になった者もそれなりにいたらしい。
なんともやるせない話だったが、そう言った意味で今回の依頼を指名で受けられるセドリックは職人ギルド内での評判が上がるのはもちろんの事、街中での評判も上がるそうだ。
実力は職人達の折り紙つきのレベルなので今回の仕事が終わればその評判が今後の仕事を持ってきてくれる。と言う事らしい。
なるほど、それならこれだけ喜ばれるのも納得だ。
それなら今後の事も考え、酒宴の1つでも開いて人間関係を円滑にするのも良いだろう。
「それなら今日は皆さんに良い仕事をして貰えたので、私の奢りでセドリックさんの今後を祝して飲みに行きませんか?」
「「「ゴチになりやす!」」」
そうして皆は足取り軽く職人ギルドへ行き、依頼の手続きをそれぞれが済ませるとそのまま例の酒場へと向かった。
宵の口を迎えた酒場には酒宴に興じるドワーフの笑い声や歓声が漏れ聞こえる。
そんな中、俺は襲いくるドワーフを右手に持ったセドリックで迎撃する。
振り回されたセドリックの頭突きが敵の脇腹に減り込み吹っ飛ばす。
「「ぐぁぁ!」」
二重の悲鳴が上がると同時に俺はセドリックの頭に回復魔法を掛ける。
そうしてセドリックを引き摺り、もう1人のドワーフへと歩を進める。
「ちょっと待て! タッグマッチってそう言う戦い方じゃねぇだろぉ?!」
「いえいえ、これもタッグマッチの1つの形ですよ。
セドリックキーック!」
そう言って少しぐったりしているセドリックの手を掴み振り回して敵のドワーフの頭にセドリックの回し蹴りを浴びせる。
「ぐはぁ!」
悲鳴と共に敵のドワーフ2人は沈黙し、乱闘場内に静寂が訪れると、観客から歓声が湧いた。
「ラクタロー&セドリックペアの勝利だ!」
審判役をやっていたボコポの声が上がる。
「さぁ!次の挑戦者は前に出ろ!」
ボコポがそう言うと乱闘場の脇で並んでいたドワーフや冒険者達の先頭2人が乱闘場へと上がり、俺とセドリックを良い笑顔で睨みつけてくる。
「よろしく頼むぜ!ラクの兄貴!」
「今日こそ叩きのめしてやるぜ!」
ヤル気満々の挑戦者はほぼ無視してボコポに向き直り、半眼で問い詰める。
「・・・まだやるの?」
「しょうがねぇんだよ。これが俺達の性なんだ」
「いや、セドリックさんがね。もうね、壊れかけてるんだけど?」
そう言って右手で支えているセドリックに目を向けると意識は半分飛んでいるようで譫言のように『ま、まだまだやれますぜぇ・・』とか『これからが俺のターン・・・』とか言っている。
ひょっとするとまだ余裕があるのか?
「それもそうだな。それじゃぁセドリックはここまでとして、ここからはタッグ戦じゃなくてラク対挑戦者組の1対2で続けるか!」
「なんで俺だけ続くんだよ!」
「いいじゃねぇか強ぇんだからよ」
「いやいやいや、流石に疲れるから!そろそろ休みたいから!」
ボコポの無茶苦茶な理屈に反論するがボコポがそれを無視して続ける。
「と言う事でこっからはチャンピオンへの挑戦だ!」
「何がと言う事なんだよ!」
「最初の挑戦者はスコティ&ギランだ!」
挑戦者の名前が呼ばれると観客から歓声が響く。
「それじゃ、早速始めぇ!」
ボコポの合図とともにスコティとギランが襲い掛かってくる。
ギランの喧嘩パンチを躱し、スコティの体当たりを横にワンステップで避け、スコティの裏を取るとスコティをガッチリホールドしてバックドロップをかます。
「「「スコティィィィ!」」」
観客から声が上がるがそれを聞いて笑いも起きている。
スコティ・・・もはや恒例行事と化しているのか。
そんな事を考えてつつ起き上がり、残ったギランに目を向けると舌打ちをしている。
「さて、残りはお前だけだな?」
そう言ってニヤリと笑うと、ギランも笑い返してきた。
「スコティを倒したくらいで良い気になるなよチャンピオン!スコティは我らの中で一番の小物!」
「俺既にチャンピオンだから良い気になって良いよね?それと後半の台詞。それどっかで聞いたことあるんですけど!」
俺がそう突っ込むと客席から笑いが起きる。そしてギランはちょっと恥ずかしそうにしている。
カッコよく決めた台詞だったんだろうけど、あっさり突っ込まれて笑いに変えられて困ってるのか?
「う、うるせぇ!こうなったら実力で目に物見せてやるぜ!」
そう言って突っ込んで来るギランの体当たりを俺は腹に力を入れて耐えるが、正直痛くない。
暫らく攻撃を耐えた後、俺は徐にギランの顔面を掴む。と力を込める。
「むぐぅ?!」
悲鳴を上げようとしたんだろうが、俺が顔面を握っているのでくぐもった声しか出せない。
そうして暫らくギランがもがくに任せて暴れさせた後、今度はそのまま持ち上げると乱闘場の中央に放り投げる。
そして立とうとして膝立ちになったギランにシャイニングウィザードを決めてノックアウト。
「勝者ラーク!」
ボコポがそう声を上げ、スコティとギランが乱闘場から運び出される。
そして俺は回復魔法を2人に掛ける。
さて、これでおわれるだろう。
そう思った時には既に次の挑戦者が乱闘場に入り込み、ボコポが前口上を述べ、ループが始まった。
どうしてこうなったかと言うと、職人ギルドで依頼達成報告と依頼料の支払い。そしてセドリックへの指名依頼の手配とそれを受けて貰う手続きが終わり、その足で酒場へと向かったのだ。
そして酒宴が始まると、ボコポに最初の音頭をとれと言われ、酒宴開始の挨拶をしたのだが、やっぱりこいつ等ドワーフだった。
酒が入り、宴も進むと次第に余興に興じる者が出てくる。
具体的に言うと乱闘場での乱闘だ。
そんな中、俺とセドリックは貴族屋敷の改修についての話をぼちぼちとしていたのだが、それをボコポに見咎められたのが切欠だ。
今日はセドリックの祝いの席も兼ねているのでそんな席で主賓が仕事の話をするのは無粋と言われたのだ。
俺もそれもそうかと思い、詫びるついでに余興に参加したのだが、どうせなら今日の主賓であるセドリックも一緒に参加しろと言う流れでタッグマッチになった。
最初は適度に手を抜いて場を盛り上げる事に徹するが、それが3戦、5選と続き、10戦目を迎えると流石にセドリックが体力の限界に・・・
それを理由に乱闘場から降りようとすると「勝ち逃げは許さねぇぜ」とボコポや他のドワーフ達が一斉に声を上げ、続行する羽目になった。
結果、セドリックは12戦目で動けなくなり、俺がその後はセドリックを武器代わりに振り回す事になり、15戦目にてセドリックは目出度く退場となったのである。
そして俺のソロ戦が始まったのだが、全く終わる気配がない。
と言う流れだ。
いい加減苛立ってきた俺はついこう言ってしまう。
「面倒だ!お前等纏めてかかって来い!」
「その台詞を待ってたぜぇ!」
そう言って最初に襲い掛かって来たのは審判役をやっていたボコポであった。
「あんたが真っ先に来るんじゃねぇ!」
そう言ってボコポをパワーボムで沈めるが、ドワーフや冒険者達はわらわらと乱闘場へと群がってくる。
全く、やっぱりこの店に来ると碌な事にならねぇな。
そう思いつつ、自分が少し笑っている自覚を覚え、俺も戦闘狂になっちまったのかな。
そう1人ごち、戦場へと向かった。
そうして酒場の夜は更けて行った・・・