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第84話 お家を買おう 3

何とか上がりました。

 ボコポの言葉に俺は絶句した。


「それだと当初の予定より高くなるじゃないか!」


 俺はエーリッヒを睨み説明を求める。


「ヒィッ! ち、違います!」


 何を言ってるんだこいつは?


「違いますじゃなくて説明して貰いたいんですがねぇ?」


 殺気を込めて笑顔で威圧するとエーリッヒが縮こまる。


「ラク! そいつを虐めても意味がねぇから止めてやれ、何でないのかは知らねぇが金額が上がる理由なら俺が説明してやるよ」


 そう言うのでボコポに顔を向ける。


「まず、元々付いていた魔導具がそのまま残っていた場合だが、使える状態である事を前提に話すと、大体大金貨100枚程度だ。そうなると査定額が大金貨900枚位になる」


「ふむ、それなら一応大金貨100枚は安くなる・・・と。しかし、なんで作り直すと3倍に値段が上がるんです?」


「それはな、こう言ったお屋敷で使われる日用品としての魔導具は特注品になる事が殆んどで既製品で間に合わせる事が出来ない作りになってんだよ」


「何故です?」


「貴族って奴は面倒な事に既製品や規格品を嫌うんでぇ。

 その逆に『特別』や『他にない』って言葉が大好きでな、その所為で何でも特注品にしちまう。

 まぁ、見栄って奴だな。

 そんな訳で改めて作ろうとすると高くなるって寸法よ」


 そう言って何とも言えない表情で語ると、エーリッヒの方を見ながら追加情報を加える。


「後ついでに言うとな、こういう日用品としての特注品って奴は他で使ってる既製品や規格品との互換性が無いから中古で売ると安く買い叩かれんだ。

 だから普通は屋敷にそのまま付属させておくんだが、どうやらここは売れないと見限られてたみてぇだな」


 うーむ、なるほど。元々買い手が付かないだろう事を見越して売れるものは売ってしまい、少しでも損失の補填をしたと。

 それが今回裏目に出て買い手が見つかったもんだから急いで体裁を取り繕おうとして失敗。

 せっかく現れた買い手も物件の状態の悪さに見限りそうでエーリッヒは焦っているって事か。


「そうなると魔導具が高くなる理由は屋敷の取り付け口等が規格に合っていないと言う事ですか?」


「その通りだ」


「それなら屋敷の取り付け口を作り変えて既製品にできませんか?」


「それがよぉ、そう言うところに限って屋敷と一体化してるのが多くてな、作り変えるより魔導具作った方が手間かからねぇんだ。勿論値段の方も若干だが魔導具を作った方が安くなる」


 何とも勿体無い仕組みだ。それに魔導具が特注って事は他のも大半が特注って事なんだろう。そうなるとこの屋敷の維持費はかなり高くなるんじゃないのか?


「エーリッヒさん。1つ質問なんですが、この屋敷の維持費って年間どれ位かかってました?」


「え?あぁ、はいはい!維持費ですね。年間ですと大体大金貨3枚程でしょうか」


 ・・・嘘臭い。

 これだけ広大な土地を管理して剪定なんかしてたら300万円程度で済む訳ないだろうに・・・

 そう考えたが、直ぐにマトモに管理していなかったことを思い出す。

 こんだけ荒れ放題にしておいて300万円も掛かってたのか?

 逆にそう考えると維持費が恐ろしい事になりそうだ。

 俺はこれだけ荒れ果てているのに年間大金貨3枚も掛かっている理由を尋ねる。


「え、えーっとですね。それは・・・ですね、敷地外に伸びた枝葉の剪定代に使われていたんですよ」


 エーリッヒの説明によると、敷地内の管理と言うより、敷地外に迷惑が掛からない様にするための維持費で大金貨3枚だそうだ。

 確かに隣接した場所にはここよりは大分小さいがそれでもお屋敷としては十分な広さがありそうな建物が他にもチラホラと見て取れる。


 おそらく他の金持ち達の屋敷なのだろう。

 周りから苦情が来ない程度の最低限の管理をしていたと言う事らしいが、そんな杜撰な事をやるだけで大金貨3枚も掛かると考えると真面に管理したらどれだけ金が掛かる事やら・・・


 改めてこの屋敷を買う事のリスクを思い知らされるが、ここまでデカい屋敷を手に入れると言うのは浪漫がある。

 それに異世界(こちらの世界)に来てからお金を簡単に稼いでしまえている現状、これ位の出費は痛くも無いと言える。


 どうにも金銭感覚が麻痺している気がするが、取り敢えず買ってから考えるのも1つの手だ。

 取り敢えず買う方向で考えるが、そのまま買っては今後舐められる可能性がある。

 次の商談があった場合、カモられない様にしっかりと値段交渉をしよう。

 安くなる分には問題ないしな。


「ふむ、そうなると真面に管理しようとすると維持費が馬鹿にならないですね。・・・今回はご縁が無かったと言う事で他の物件をあたる事にしましょうかねぇ」


 俺がそう言うとエーリッヒが慌てて引き止める。


「ま、待ってください! もう少し値引きしますから! どうかお考え直し下さい!」


 ふむ、予想通りの喰い付きだが、なんか必死だな。

 多分、商業ギルドではかなりの不良物件なんだろう。さっさと払い下げたいって内心が透けて見える・・・と言うより内心を隠す気ないんじゃないか?


「因みに値引きした値段は幾らです?」


 俺がそう聞くとエーリッヒは困ったような顔をする。


「すみませんが、上司と相談しないと何とも言えない状況でして・・・」


「ふむ、それでしたら一旦商業ギルドに戻って、エーリッヒさんの上司立ち会いの下で交渉を進めると言う事でどうでしょう?」


「・・・わかりました」


 エーリッヒは肩を落としてそう答え、俺達は商業ギルドへと戻る事にした。


 査定してくれた大工さん達には申し訳ないが、もう少しお付き合いして貰う事にした。

 今後の展開次第では仕事を依頼する可能性があるからだ。

 ボコポ繋がりであるだけに信用できるだろう。








 商業ギルドへと戻るとエーリッヒは正面の建物に入り、受付の女性に何やら話すと女性を連れて俺達の元に戻って来た。


「申し訳ありませんが、彼女に案内させますので先に応接室でお待ちいただけないでしょうか? 私は上司を連れてまいりますのでお願い致します」


 その言葉に俺達が頷くと、エーリッヒは足早に上司の元へと移動を始める。


「それではご案内させて頂きます」


 そういて深々とお辞儀をすると、案内の女性が俺達を先導して歩き出した。


 向かった先は正面から見て左側の建物だ。

 あの高級感のあるレンガ造りで、小洒落た感じがする建物である。

 エントランスからして高級そうな雰囲気を醸し出しているのだろうが、ホテルのラウンジのような雰囲気なので個人的には馴染みがあり、少し落ち着く空間であった。

 ボコポ達は雰囲気の変化もなんのそのと言った感じで普通に付いて来ている。 ドワーフってのは豪気なのか鈍感なのか微妙に悩む。

 そんな事を考えつつ案内の女性に付いて歩くと、少し奥まった所にある落ち着いた雰囲気の小部屋に通された。


「少々お待ちください」


 俺達が部屋に入り椅子に座ると、そう言って案内の女性が一旦退室し、お茶を運んでくる。


「それでは大変申し訳ありませんが、暫らくお待ちください」


 その言葉と共に深く一礼すると、今度こそ案内の女性は退室して行った。



 女性が退室して暫らく。俺は『気配察知』を使い辺りに人がいない事を確認すると、ボコポに声を掛ける。


「ボコポさん。今の内に査定額の詳細を出来るだけ細かく教えて頂けないでしょうか?」


「うん?別にかまわねぇが、今じゃなきゃダメなのか?」


「えぇ、交渉する前に少しでも情報を手に入れておきたいんです。無駄になるかもしれませんが話の流れによっては役立つ可能性もありますから」


「まぁ、それなら話すとするか」


 そう言ってボコポはエーリッヒが上司を連れて来るまで査定の詳細を説明してくれた。







 コンコンと軽いノックの音が扉から響き、エーリッヒが声を掛けると、俺は立ち上がってから入室を許可する。


「どうも遅くなり申し訳ありません。こちら商業ギルドのギルドマスターであるカタリナ=スフォルツェンドです」


「カタリナ=スフォルツェンドです。どうぞよろしくお願いします」


 エーリッヒが連れて来たのは1人の女性であった。

 俺は彼女を暫し見定める。

 齢の頃なら20台後半だろうか、挨拶と共に見せた笑顔には艶がありどこか妖艶な雰囲気を醸し出している。

 やり手のビジネスウーマンと言うよりは詐欺師と言われた方がしっくりくるような怪しさが滲み出ている。

 正直、商業ギルドのギルドマスターと言われてもすぐには信じられない


「・・・おっと、申し訳ありません。少々見惚れていました。自己紹介が遅れましたが、私は山並 楽太郎と申します。山並が家名で楽太郎が名前です。以後よろしくお願いします」


 少しジロジロと見過ぎてしまったかもしれないので謝罪と共に社交辞令を口にすると、すぐさま返事が返ってきた。


「いえいえ、よくありますのでお気になさらないでください。それよりも今回の貴族屋敷の売買についてエーリッヒからお聞きしましたわ」


 ふむ、余程の自信家・・・と言うより事実だからだろうな。サラッと俺のヨイショを受け流して本題に入ってきた。


「それでしたら話が早い。実際に拝見させて頂き、専門家による査定もお願いしたのですが想定よりも管理が杜撰だったようで査定額が大分低くなってましてね。それで販売額と査定額で違いが大きいのでエーリッヒ氏にご質問させて頂いたんですが納得のいく返事が頂けなかったものですから、こうして貴女に御足労頂く運びとなったんですが、お聞きしている話とあってますでしょうか?」


「ええ、大筋は合ってますわ。こちらとしてもまさかそれ程までに管理が行き届いていないとは思いもしておらず、大変申し訳ありません」


「そうですか、それでしたら貴族屋敷については如何程とお考えでしょうか?」


 そう聞くとカタリナは暫し目を閉じ考えるような素振りを見せた後、端的に答える。


「大金貨1000枚でどうでしょう?」


 ふむ、査定額を聞いた上でその額を出して来るとは・・・少々こちらを舐めているのか?


 俺は笑顔のまま殺気と闘気をカタリナに向けて威圧する。

 男だろうが女だろうが舐められるのは好きではない。


「いやいやいや、それは無いでしょう。査定額は聞いていませんか?」


 後半は若干ドスが利いた声になってしまったが、まぁ営業スマイルは浮かべているから大丈夫だろう。

 俺の威圧にエーリッヒが若干震えたが、カタリナは表情1つ変えなかったが、彼女の頬を一筋の汗が流れ落ちるのを俺は確認したので威圧は効いているだろう。


「えぇ、お聞きしましたが私共も事前に査定しておりますので、その結果を踏まえての額ですわ」


 ふむ、相手の用意した査定人の言葉だけでなく、事前に自分の所でも査定。まぁ、それは当たり前の事だろうが、何故エーリッヒがその事を知らなかったのかが不思議だ。

 いや、ワザと教えずに俺の出方を窺ったのか? それともエーリッヒの手腕を見込んで・・・は無いな。短い付き合いだがエーリッヒはポンコツ臭が漂う仕事できないタイプのイケメンだ。

 おっと、考えが逸れてしまった。元に戻って交渉だ。


「それにしても査定額に大金貨200枚も差が出るのは尋常じゃないと思いますが?」


「そうですわね。ですがそれぞれが信頼する査定人が出した結果ですから、致し方ないかと」


 中々に厭らしい笑顔でこちらを見てくる。

 足元を見ているのか、それともこいつ・・・売る気ないのか?

 それならこっちも対応を切り替えるとしよう。


「それでしたら仕方ありませんね。今回の物件は諦めますので、他の物件を見繕って頂けますか?」


 俺はあっさりと今回の物件を見限り、他の物件を当たる振りをしてみると、カタリナは肩透かしを食らったような表情を一瞬浮かべる。

 別に俺はあそこを買えなくても問題ないのだ。

 むしろ売れなくて不良在庫を抱えるのは商業ギルドの方だ。

 それを改めてわからせる必要がある。


「・・・お待ちください。大変申し訳ないのですが、お客様のご希望に沿う物件は今回の貴族屋敷を除くと生憎まだ見つかっておりません」


 そう言ってカタリナは謝罪してきた。

 ふむ、他の物件は売る気が無く、どうにもこの物件を売り付けたいようだが、欲をかき過ぎたな。


「ふむ、そうなると今回はご縁が無かったと言う事で失礼させて頂きます。

 拠点はまた別の街で探すとしましょう。

 ドワーフの皆さん、お手数をおかけして申し訳ありませんでした。

 職人ギルドの方へ戻り受付を済ませ次第報酬をお渡ししますので「お待ちを!」」


 そう言って俺はカタリナに一礼すると振り返ってドワーフの面々に声を掛けるが、その言葉を遮ってカタリナが待ったをかけた。

 掛かったかな?

 そう思い、俺は惚けた顔で聞く。


「何を待つんです? 今回の貴族屋敷についてはお互いが納得できる金額が見付からず破談。それ以外の物件についても私の希望に沿うものは見付からないと来たら私がここにいる理由は無いですよね?」


「う・・・」


 ここで初めてカタリナの表情に焦りが見えた。

 まぁ、買わないことを前提におちょくって遊ぶのも有りだが、相手の面子を潰し過ぎて恨みを買うのも面倒だ。

 ここは相手の出方を待とう。


 そうして暫らく待つとカタリナは意を決した様に語り出す。


「山並様のご希望に沿えない事、誠に申し訳なく思います。ですので今回特別に貴族屋敷について値引きさせて頂こうと思います」


「へぇ、それはまた、どういった心境の変化でしょうか?」


「山並様とのご縁をここで断ち切るのは私共にとってよろしくないと判断させて頂きました」


 まぁ、億単位の商談を即決できる相手との縁なんて商人からしたら断ち切りたくないだろう。

 と言うかそれに気付くのが遅すぎじゃないか?


 いや、馬鹿な成金だと思って金を巻き上げようとしたのか?

 だがエーリッヒから経過は聞いてるんだろう?それならこんなお粗末な対応しないんじゃ・・・


 うーむ、なんか考えるのが面倒になってきた。

 力技で行くか?

 そう考え殺気と闘気を練り込み、ネットリとした纏わり付く様な威圧をカタリナに向けて端的に伝える。


「カタリナさん? 正直に言って腹芸はもう見飽きました。端的に聞きます。お幾らですか?」


 驚愕の表情でカタリナが震えながら答える。


「大金貨ろ、・・・いえ、ご、550枚。大金貨550枚です」


 掠れた声でカタリナが答えると、俺は威圧に使った殺気と闘気を引っ込める。

 するとカタリナの奥で息を吸うことも出来なかったエーリッヒが(むせ)始め、カタリナも思い出したように慌てて呼吸を繰り返してハァハァ言っているが、どことなく恍惚とした表情にも見える。


 ふむ、大金貨550枚か・・・大金貨1000枚なんて吹っ掛けすぎじゃねぇか!

 ボッタクル気満々だったのか、それとも半額近くまで値下げする事で恩を着せようとしたのか、どちらにしろ碌なもんじゃねぇな。

 率直にそう思うが、それが商人って奴なのだろう。

 個人的にはそう言った面倒なやり取りは勘弁してもらいたい。


「わかりました。大金貨550枚で買いましょう」


 俺は了承の返事を返してようやく貴族屋敷を手に入れたのであった。









今年中にあと1回は・・・

頑張ろう。

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ナニかがいる。
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