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第83話 お家を買おう 2

遅くなりました。

すみません。


「あちらに見えてきたのが今回ご紹介する貴族屋敷です」


 エーリッヒの少し沈んだ声が聞こえてきたが俺の頭の中には入って来ていなかった。

 どうしてかと言うと、あまりの大きさに圧倒されていたと言うのもあるが、それまでの風景を見て不安が増していたからだ。


 移動はエーリッヒが手配した馬車だった。

 貴族屋敷がある場所は悪魔のダンジョンにほど近く、どちらかと言うとあまり人気のない地域だった。

 まぁ、だからこそこれだけ広い場所を確保できたのかもしれないが、それにしても広い。

 俗にいう東〇ドーム何個分とかそう言ったレベルだろうが、何個分くらいあるのかはわからない。

 入口から馬車で建物に辿り着くまで10分以上かかった。


 そしてその間に見た光景は思っていた通りの光景だった。

 雑草の生い茂った荒れ地を急いで整えている多数の庭師が見て取れた。


 ふむ、これだけの広さがあれば多少荒れているのは仕方がないと思うが、予想以上に荒れている。

 刈り終わっていない雑草は1m以上伸びているし、刈り終わったところも元々あっただろう芝生は所々禿げている。

 樹木は好き勝手に生い茂り人の手が入った気配は微塵も無かった。

 正直、あちこちが草原とかジャングルと言った方がしっくりくる光景が広がっている。

 唯一の救いは建物までの道が石畳で舗装されていたので馬車が通る分には問題が無かった事だろう。

 石畳の隙間から雑草が生えていたのは目を瞑っておいてやろう・・・


 まぁ、そんな感じの光景を10分以上見せられてようやく辿り着いた建物だったが、大きく立派そうに見える・・・なんて事は無く、どちらかと言うと古めかしいと言うか、怪しいと言う形容詞が相応しく感じる。

 緑の絨毯に囲まれ、今にも森に呑み込まれそうな巨大な建物。


 それが俺の最初の感想だった。


「なぁ、正直に答えてくれ」


 俺は建物に視線を向けたままエーリッヒに質問をする。


「はい? なんでしょう」


 やや引き攣った表情をしたエーリッヒが返事をする。


「どれくらい放置していたんだ?」


「・・・さ、3ね「正直に答えろと言った筈だが?」・・・10年です。」


 適当な事を言おうとしたエーリッヒの発言をドスの効いた俺の声が遮ると素直に答えた。


「10年って・・・お前ぇ、商業ギルドがここの管理し始めたのが確かそれくらいだっただろ? てことはお前ぇ等・・・全く管理していなかったのか!」


 呆れた声で補足説明してくれるボコポの声に俺の怒気が膨らむ。


「随分と杜撰なことをしていますね。商業ギルドって仕事しなくても給料もらえるんですか? 羨ましい」


 皮肉を込めて言ってみる。


「い、いやぁ、そういう訳ではないんですが、少々手違いがありまして・・・」


「どんな手違いかはわかりませんが、10年も放置していたら建物なんてダメになっているんじゃないですかね?」


 人が住まなくなった家は朽ちるのも早い。

 数年人が住まなかっただけで床板は腐るし、田舎だと下手をすると床から筍が生えることだってある。


「い、いえいえ、こちらのお屋敷は基本的には石造りでして、建材の腐敗は無いかと・・・」


基本的には(・・・・・)?と言う事は基本的ではない部分は他の建材を使っているって事ですよね?」


「え、えぇ」


 エーリッヒの声のトーンがまた下がるが、こちらも気にしてはいられない。


「まぁいいか、それじゃボコポさん。早速で申し訳ありませんが皆さんに建物の査定をお願いできますか?」


「おう。わかったぜ。おら、お前ぇ等出番だぞ! どうにもヤバそうな感じがするから徹底的に調べろ!」


「「「わかりやした親っさん!!」」」


 そう言って15人の建築関係の職人。まぁ大工さんが建物内へと入って行った。

 その光景を何とも言えない表情でエーリッヒは見送っていた。


 おそらく商業ギルドはこの貴族屋敷が売れないと判断して放置していたのだろう。

 今回、思わぬ買い手が現れて慌てて取り繕おうと画策したんだろうが甘かったな。


 軽い手直しどころか改修は必須だろう。査定の結果待ちだが、こうなりゃトコトン買い叩いてやる。


「さて、それでは私達も中へと入りますか」


「そ、そうですね」


 そうして建物の中を見回る事にした。


 本館・来客用の別館・使用人用の別館・厩舎・倉庫に地下室等々、色々な建物や場所を見回ったが、どれも老朽化が進んでいてやはり改修は必須であった。

 因みに専用の魔導具が付いていたであろうキッチン・風呂・トイレ等からは魔導具も取り外されていた。

 売れそうな物だけ引っこ抜くとかどうかと思う。そんな事をすれば余計買い手が付かないんじゃないかとも思うんだがな。

 それ以外にも地下室がどうにも怪しい感じがして気になった。なんというか神のダンジョンに入っている時に近い雰囲気があった。


 因みに屋敷内を説明していたエーリッヒだが、先に進むにつれ声のトーンが徐々に落ちて行くと同時に表情も暗くなっていった。

 まぁ、現場を見ていなかったのだろう。ここまで酷いとは予想していなかったようだ。詰めが甘いと言うか見通しが甘いと言うか・・・ニントモカントモ


「基礎はしっかりしてたから建物自体は改修すれば大丈夫そうだが、床板や壁なんかは殆んど張り替えになるぜ。正直これだけボロボロだと屋敷そのものには価値なんて無ぇ。いや、基礎がしっかりしているだけに解体するのも一苦労な分、価値が下がっちまうだろうなぁ」


 そう言ったのは大工達の報告を纏めたボコポだ。


「そ、そんな訳ないでしょう?! これだけの規模の貴族屋敷なんですよ。これだけの物件が早々見付かるとは思えません。その分の付加価値も考えてください」


「いやいや、これだけ荒れ果てた朽ちかけのデカすぎる屋敷なんて処分しようと思ったらどれだけ掛かると思ってんだ? 改修するにしてもかなり金掛けねぇとできねぇんだからその分は差っ引かなきゃ誰も買わねぇよ」


 呆れた様子でボコポがエーリッヒに反論すると、職人ギルドのギルマスの意見だけにエーリッヒも更なる反論は出来ないようだ。


「まぁ、こいつ等の査定を纏めると大金貨800枚ってところだな」


「そんな?!」


 ふむ、大分下がったな。エーリッヒの顔が真っ青だが、俺もここまで管理が杜撰で酷いとは思わなかった。

 正直それでも買うか迷うところだ。こんなボロ屋敷買うぐらいなら街中のソコソコの家で我慢するのも・・・

 いや、いっそこの街以外も考慮に入れるのもありか?

 トローナ石を手に入れなくても炭酸は作れそうだしな。

 正直に伝えるか。


「すみません。正直、このボロ屋敷を買うのは止そうかと思い始めてるんですが・・・」


「え?! それは困ります!」


 いや、即答で困るって言われても俺は困らないしな。

 それに若干騙されそうになったと言う経緯もあるから余計買う気が起きなくなる。


「困ると言われましても、これ程酷い状態では買って改修したとしてもいつ入居出来るようになるかわかりませんしね」


 そう言うと今度はボコポが答える。


「あぁ、それなら今日査定したこいつ等が言うには、依頼があれば明日からでも作業に入れるらしいぜ。本館だけなら1週間で改修可能だとよ。その他の建物込みで3週間。敷地内の手入れも含めて全部となると2ヶ月ってところだってよ」


 ふむ、そうなると住めるようになるには1週間か、奴隷を買うのはその後って事になるな。


「それで改修に掛かる費用はどれくらいになるんです?」


「ふむ、後で纏めっからキッチリとはいかねぇが大体大金貨800枚はいくんじゃねぇか?」


 購入金額と同じとは・・・結構な額だな。そう思っているとボコポの答えにエーリッヒは驚愕と共に肩をガックリと落した。


「どうしましたエーリッヒさん?」


 声を掛けるとエーリッヒが力なく答える。


「いえ、そこまで酷いとは思っていなかったのでちょっとショックでして・・・」


 うーむ、この人商売下手なのか? こんなに分かり易いリアクションされると逆に不安になってくる。

 査定結果が大金貨800枚だが、この金額はあくまで俺が信頼する伝手の査定だからな、商業ギルドが認めなければ売って貰えないだろう。

 まぁ、売って貰えないなら貰えないで良いか、正直あまり気乗りしなくなってるし、単刀直入に聞いてみよう。


「因みに商業ギルドとして大金貨800枚で売る気はあるんですか?」


 そう聞くとエーリッヒは驚いた顔でこちらを見てくる。


「え? えぇーと・・・そうですね。少し上司と相談しないと何とも言えませんが、恐らくその金額でもご購入いただけると思いますよ」


 少し考えた後、それでも売る事は出来るとエーリッヒが答える。

 ふむ、それなら購入と改修費用含めても大金貨1600枚。当初の予定より少し安くなったから、まぁ買っても良いか。


「あぁそうだ。 色々と魔導具が外されてたよな?」


「えぇ、主に水やお湯を出す奴や炊事に使うコンロみたいな奴ですよね?」


「おう! それと一部照明にも使われてたんでな、それらを作り直して設置するなら大金貨300枚程追加になるぜ」


「なんだってぇー?!」








今年ももう終わりが近付いてますね。

一応、今月中に後2回は更新したいと思っています。

今後ともよろしくお願いします。

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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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