表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/199

第82話 お家を買おう 1

 ボコポの工房に着くと、待ってましたとばかりにボコポが店番をしていた。


「よぉ、遅かったな」


「申し訳ありません。少々昨日の件で手間取りまして・・・」


 そう答えるとボコポは何かを察した様に表情を変える。


「まぁ、お前さんも大変だったな。

 それよりも早速で悪いがこれらを受け取ってくれ」


 そう言って丈夫そうな大き目の皮袋を3つ渡してきた。


「なんですこれ?」


「昨日お前ぇに頼まれた魔銀(ミスリル)が思ったより早く売れてな、その代金だよ。締めて大金貨2800枚だ」


 そう言われて袋の中を確認すると魔銀に似た白い輝きを放つ硬貨が見て取れた。


 なんだこれ? そう思った途端、「鑑定」スキルが発動する。



----------------------------------------

名前 :白金貨(はくきんか)

効能 :プラチナで作られた硬貨

   :金貨1000枚と同等の価値がある。

   :日本円で約1億円相当。

   :普通の生活をしている上では見る事のない硬貨。

   :





 ・・・大金貨以上の貨幣が存在していたとは。

 1つの袋の中を数えると白金貨が10枚あった。

 次の袋も10枚。最後の1つは8枚だった。


「これ、大金貨2800枚分ですよね?」


「おう。その通りだ。大金貨じゃ流石に持ち歩けねぇからな。白金貨に両替する事になっちまった。わりぃな」


「いえ、確かに大金貨で2800枚なんて持ち歩けないし、運ぶだけで目立ちますからね」


 そう言いつつも正直、大金過ぎてなんか現実感が無いんだけど・・・

 まぁ、大半は今日見に行く貴族屋敷を買えば消えるだろう。

 その後に奴隷を買えば更に減るだろうし、まぁいいか。

 思いの他テンション上がんないけど、ゲームとかじゃこれ位の大金は稼いだこともあるしな。

 そう思いつつ、俺は「無限収納」に素早く仕舞い込む。


「まぁ、そんな大金を1日で稼ぐなんて早々ないからな。固まるのは無理ないが、確認も終わったなら早速行くぜ!」


 そう言うとボコポは先頭に立って街へと歩き出した。


「貴族屋敷にですか?」


「いや、まずは商業ギルドのエーリッヒの所に行く」


「そのエーリッヒさんが貴族屋敷の権利を持ってるんですか?」


「あぁ、正確には商業ギルドが権利を持ってるんだ。あんだけデカくて高い物件なんて個人が扱うには荷が重いからな。

 エーリッヒは商業ギルドで土地に関する売買を取り仕切ってんだ。

 一応話は昨日の内に通しておいたから大丈夫だろうが、気を抜くなよ。

 商業ギルドの中じゃソコソコ信頼できる奴だが、油断するとぼったくられるからな」


 ・・・それって信用できるって言うのか? 内心疑問に思っているとボコポがそれに答える。


「商業ギルドのギルドマスターは金にがめついんだよ。正直、俺もあそことはあんまり関わりたくねぇんだが、立場上関わらざるを得ないんで仕方なく付き合ってるって感じだ」


 実にいやそうに語るボコポを見ていると何だか不安になってくる。


「あのぉ、そんな所と取引しなきゃならないんですか?」


「取引しなきゃなんねぇのよ。だから気を引き締めて行けってこった!」


 こりゃ思った以上に厄介な予感がする。

 ボコポに任せて気楽になんて言ってられそうもない。

 こりゃ本気で行くか。


「はぁ、わかりました。気を引き締めて行きますが、ボコポさん?」


「あぁ?なんだ?」


「本気を出した私に引かないでくださいよ?」


「お、おう」


 よし、言質は取った。

 それじゃ行くとしますか商業ギルドへ。


 決意も新たに商業ギルドへと向かった。













「着いたぜ」


 ボコポが到着した事を告げるが俺は少し戸惑った。


「着いたって、どの建物なんですか?」


 目の前には3つの建物が並んでいた。

 左側の建物はなんかしっかりしたと言うか、高級感のあるレンガ造りの建物でなんとなく小洒落た感じがする。

 中に入るには少々勇気が要りそうだ。

 真ん中の建物は他の2つに比べるとかなり大きい。

 見た目でも幾つか増築した後が見て取れ、恐らく3つの建物の中では1番古いだろう。

 そして右側の建物だが質素な雰囲気を漂わせている。と言うか、何だろう。生臭いというか、肉の匂いがする?


 そんな事を思っているとボコポから返答が返ってきた。


「向かって右側の建物だな」


「右側って言うと、あの何かの肉の匂いがしてくる建物ですか?」


「お?鼻がいいな。右の建物は毎朝生鮮食品の競売が行われるんだ。まぁ朝市ってやつだな。だから肉や野菜なんかの匂いが染みついてんだよ」


「なるほど」


「因みに日中は街の土地関係の売買を主に取り扱ってる」


 ふむ、朝市と土地売買が同じ所で取り扱ってるなんて変わってるな。


「あと、左の建物は宝石やらアクセサリー・魔導具や曰く付きの高級品なんかを扱ってる建物だ。

 直接ギルドが売買する事もあるがほとんどは高級品専門の貸倉庫みたいになってんだ。

 他にも商人同士の密談や商談をする為の小部屋も幾つかある。

 防諜対策もされているから使用料はそれなりの値段になる。

 まぁ、俺達は使わねぇけどな」


「使わないんですか?」


「職人ギルドにも同じ様な部屋はある。が、俺達職人はそんな後ろ暗い商談なんてしねぇから要らねぇんだよ」


 ふむ、まぁ職人っていうとサバサバしたイメージがあるしな。

 商人も後ろ暗い商談ばかりじゃなく王侯貴族との取引や、国の機密に係わる商談とかもあるだろうから一概に悪いとは言えないだろう。

 ボコポの言い分ではギルマスが守銭奴臭いからそう言った不正もあり得るかもしれない。


「残った正面の建物は商業ギルドへの登録なんかの受付と買付注文書が載ってる掲示板や大口の物販掲示板がある。

 あとはそれに付随する商品の倉庫もあるから3つの中じゃ1番デカい建物だぜ」


 ふむ、真ん中の建物は商業ギルドのメイン業務ってところか。


「それじゃ右側の建物に行くぜ」


 そう言ってボコポはサッサと歩き出してしまったのであとを追うように歩き出す。





 建物に近付くと朝市の名残なのだろう。肉を置いてあったのか血で少し汚れた台の上に水を掛けてブラシで洗っている青年が居たり、売れ残りの野菜を片付ける中年女性などがチラホラと見て取れた。

 そんな中をボコポは迷いなく歩き、建物の中に入ると受付へと向かいエーリッヒを呼び出す。


 その間俺は何をしていたかと言うと、気を練って溜め込んでいた。

 そうして気を膨らませると、徐々に周囲の人たちの視線が俺に集まり出す。


「おいラク!何やってるんだ?」


「気合を入れてるんですよ。今回の商談で舐められる訳には行きませんからね」


「いや、確かにそうだが・・・別に戦う訳じゃないんだぞ?」


「何を言っているんですか? 商談は戦いですよ。負ければその後も尾を引くことになる紛うことなき戦いです」


 そう言い切り凄むとボコポが一歩引いた。

 因みに今回、俺の中でエーリッヒは既に敵認定している。

 海千山千のオッサン&爺さん連中に揉まれた交渉術を見せてやる。


 そう意気込んで気合を入れていると遠慮がちな声でボコポに声が掛かる。


「ボコポ様。ようこそお越しくださいました。本日はどのようなご用件でしょう?」


 そう言ってニッコリ笑ったのは中肉中背のイケメン紳士だった。

 この時点で俺の敵意が1.5倍に膨れ上がる。


 その瞬間エーリッヒは「ひぇっ!」と短い悲鳴を上げ、こちらに怯えた目を向けるが俺は『何もしていません』と言う風を装うとエーリッヒも釈然としない表情ではあるが視線をボコポに戻した。


「用件は昨日伝えた筈だぞ?エーリッヒ」


 硬い声でそう答えるボコポに今思い出したと言わんばかりの表情で話しだすエーリッヒ。


「あぁ、貴族屋敷の件ですか。それでしたらご購入予定の方は・・・ひょっとしてそちらの方でしょうか?」


「あぁ、紹介するぜ」


 そう言うとボコポは俺に手招きをし、俺が近寄ると紹介を始める。


「こいつはラクタローって言うんだ」


 そう紹介されたので自己紹介をする。


「山並 楽太郎と申します。以後お見知りおきください」


 そう言ってニッコリと営業スマイルで挨拶をする。


「こちらこそよろしくお願いします。私はエーリッヒと申しまして、商業ギルドで主に土地や建物などの不動産関係を取り仕切っております」


 お互いの挨拶が終わるとボコポが本題に入る。


「今こいつは冒険者をしているんだが本業は別でな。なんでも周りに迷惑を掛けずに本業に集中できる家が欲しいんだと」


「本業ですか? 宜しければどういったご職業かお聞きしても?」


「生産系なんだがちょっと特殊でな」


 そう言ってボコポが俺に意見を求める視線を投げてきた。


「ちょっと変わった薬師ですよ。薬草や香草を扱うんで匂いや大きな物音がすることがあるんですよ」


「それであの貴族屋敷ですか? それならボコポさんの工房がある辺りでもよろしいのでは?

 あの辺りなら多少の匂いや物音も問題ないですよ」


「扱う物によっては熱が苦手なものもあるんであの辺りは少し不向きなんですよ。それに私もそこで生活するわけですから、年中槌の音がするあそこじゃなかなか眠れないと思いましてね」


 そう言って苦笑するとエーリッヒも納得したようだ。


「それじゃエーリッヒ。昨日頼んだ通り貴族屋敷を見せてやってくれ」


 ボコポがそう言うとエーリッヒの表情が少し固まった。


「大変申し訳ありませんボコポ様。少し待ってもらえませんか?」


 そう言って頭を下げるエーリッヒ。


「どうした?」


「実はですね。急用が入りまして、今日お連れすることが出来なくなってしまったんですよ」


「なんだと? 昨日頼んだ時はそんな話無かったじゃねぇか!」


「本当に申し訳ありません。こちらの事情で非常に心苦しいのですが、見学はまた後日にお願いできないでしょうか?」


 そう言ってエーリッヒは頭を下げた。


「はぁ、急用じゃ仕方ねぇか。ラク、すまねぇ」


 そう言ってボコポも頭を下げるが、俺は違和感を感じた。


 こんな大金が絡む商談を中止する理由が思い浮かばない。

 身内の不幸ならこんなのんびりせず、もっと早く断りが入るだろう。

 ひょっとして(くだん)の物件に何か問題でもあるのか?


「エーリッヒさん。1つお聞きしたいのですが、その急用と言うのは大金貨1800枚の商談を中断してでもしなければならない用事なんですか?」


「?!」


 俺の言葉に言葉にならない驚きを見せるエーリッヒ。


「だってそうでしょう? ボコポから聞きましたが、件の物件は管理・維持するには結構なお金が掛かると聞きました。そして何より高い。 なので買い手が中々見つからず維持費が嵩んでいる。ここまでは合ってます?」


「え、えぇ」


「でしたら、売り手からすれば売れる物なら早急に売りたい物件のはずですよね?」


 そう問われてエーリッヒは頷く。

 まぁ、これだけ聞いていれば普通はそう考えるだろう。


「そんな売り手にとって待ちに待った買い手との商談なのに急用が入った程度で流しますかね普通?」


 そう言われてエーリッヒの表情が固まる。


「それに大金貨1800枚の大商談なんだ。急用が入ったと約束を破られた買い手側としたら、そんな大金を動かす覚悟で来ているのに相手に軽んじられた発言をされてるんですから、その心情は推して知るべきだと思いますよ? ひょっとしたらこれで破談となってもおかしくない」


 最後に皮肉を込めた言葉を贈るとエーリッヒの表情は面白いように崩れる。


「さて、これらを踏まえてもう一度お聞きします。

 その急用と言うのは大金貨1800枚の商談を中断してでもしなければならない用事なんですか?」


 俺はニッコリとした笑顔でエーリッヒに確認すると、エーリッヒは顔に汗を浮かべながら顔を青くした後、観念したように真実を語る。


「はぁ、申し訳ありません。お恥ずかしいお話なんですが、ここ暫らく手入れを怠っていたようで若干。若干ですが荒れているようなんです。

 できれば一旦手入れが終わってからご覧いただくと言う事ではだめでしょうか?」


 やはりそんな所か。

 しかし、昨日の今日で対処できないレベルって結構ヤバいんじゃないか?

 ひょっとして欠陥住宅かも知れない。


 ・・・なんかヤバい。

 正直件の物件そのものに対して何も考えていなかったが、その場合、維持・管理だけじゃなく補修費用が馬鹿にならないかもしれない。

 それなら誤魔化される前に手を打たないと!


「すみません。ちょっといいですか?」


「はい?」


「少しボコポさんと相談したいので席を外したいんですが、問題ないでしょうか?」


「え、えぇ、構いませんよ。何でしたら私が席を外しましょうか?」


「お気遣いありがとうございます。ですが私共の方が席を外しますので暫しお待ちください」


 そう言うとボコポと一緒に廊下へ出る。


「なんか交渉慣れしてんなラク?

 さっきのやり取りは普通に凄いと思ったぞ。

 これなら俺が口をはさむ必要なんて全くねぇ」


 廊下に出るなりボコポがそう絶賛してくるがこちらはそれに構ってやれる余裕が無い。


「褒めてもらって恐縮ですが、少々お願いがあるんですけど良いですか?」


「なんでぇ?」


「建築関係の職人さんで今日暇な方が居たら至急依頼したい事があるんで呼んで貰えないですかね?

 報酬は今日1日で1人金貨1枚でどうですか?」


「できなくはないが、何やらせるんでぇ?」


「貴族屋敷の査定ですよ。エーリッヒが若干とか言っていますが信用できないので自前で調査する必要が出てきました」


「ふむ、だがエーリッヒが査定する事を断ってきたらどうするんでぇ?」


「それこそ『今回はご縁がありませんでした』って事で商談不成立ですよ」


「それでいいのか?」


「仕方がないでしょ? こんな大金使うのに自分が納得できる形で確認できないなら買わないですよ。いや、それならもういっその事適当な土地を買って建てて貰った方が良いかもしれない」


 何故かそれが一番の正解に思えてきた。

 買うのやめようかな・・・


「ラク、ひょっとして買うのが面倒臭くなって来たんじゃねぇか?」


 表情の変化を一瞬でボコポに見破られた?!


「い、いえ。そんな事は・・・少し思いました」


 否定しようとしたが正直に答えておく。

 別に隠す様な事じゃ無い。


「ふむ、まぁ今回と同じ規模のを建てようとすると、最低10年。余裕持って建てるなら15年って所だな。それに掛かる費用は3倍くらいに跳ね上がるぞ?」


 ・・・やっぱり建てるの無し。


「それじゃ、取り敢えず手の空いている方を集めて貰えます?人数の上限は・・・20人まででお願いします」


 そうして幾つか取り決めをしてボコポには人を集めに行って貰った。


 さて、それじゃエーリッヒにこちらでも査定する事を承諾させるか。

 先程までのやり取りで主導権は取れたし、何とかなるだろう。










 と言う事でそれから2時間後。

 こちらで査定することに難色を示したエーリッヒを闘気による威圧を含めた諸々の手段を講じて承諾させ、その後ボコポが合流。集めてきた職人は15名であった。

 これでようやく貴族屋敷に向かうことが出来た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ