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第81話 夜が明けて

 調子に乗って朝まで要求仕様を作り続け、ようやく内容が纏まった頃、部屋をノックする音が聞こえた。


「はい?」


「・・・申し訳ありません。楽太郎さんのお部屋でしょうか?」


 小声で確認されたので、賺さず返事を返す。


「いえ、違います」


「すみませんでした」


 やれやれ、人違いのようだ。こんな朝早くから間違えられるとは困ったものだ。


 そう思い伸びをする。


 結局徹夜してしまったので、柔軟体操をした後は朝食を摂って朝寝しよう。


 纏めた要求仕様書を「無限収納」に仕舞い部屋を出ると、そこにリディアーヌがいた。


「「あ!」」


 気まずい沈黙の中、リディアーヌが先に声を上げる。


「楽太郎さん!また嘘吐きましたね!」


「はい?何のことです?」


「私がお部屋を訪ねた時、楽太郎さんじゃないって嘘吐いたじゃないですか!」


「前も言いましたが、名乗らない相手をまともに相手する気はありませんよ。自己防衛の基本でしょう?」


「・・・」


 リディアーヌは納得いかないようで不満顔ではあるが以前も同じことを言われているだけに言い返せないようだ。


 そんな彼女を置き去りにしつつさっさと中庭へと移動する。

 早く柔軟体操(日課)を終えて朝飯食べよう。

 そして一休み・・・って、何か忘れてるような・・・


 ふむ、何だっけ?

 そう思い考える。


 メルのズボンは後2週間半くらいかかるだろ? スパイダーシルクのシャツはもう手に入れた。

 作成中の武器に関しても同じ位かかるからまだだし・・・あ!


 そう言えば家を見に行くのが今日だっけ?

 ・・・思い出した。


 って事はボコポの所に行かないとな。

 ドリンクサーバーが手に入るから必要なくなったんだが、ボコポにはこちらからお願いした事だし今更買わないって言うのも何か申し訳ない。それにコーラを作る研究をする為にも拠点を手に入れるのは悪くない。

 それに資金稼ぎも既に済んでいるから問題ない。それと家を買ったら副業予定の砂糖の栽培も一応進めよう。利益が出れば家の維持費等の諸経費を気にしなくても良くなるかもしれない。

 うむ。

 当初の予定通り家を見て気に入ったら買う事にしよう。そうなると後は奴隷を手に入れて・・・ふふふふ。


 そんな感じで夢と言うか妄想を膨らませつつ今日の予定について思案していると後ろから声が掛かる。


「楽太郎さん! 待ってくださいよ!」


 振り返るとリディアーヌが慌てて追って来ていた。


「何か用ですか?」


「昨日は申し訳ありませんでした。私、楽太郎さんのお部屋で寝てしまったようで・・・

 申し訳ありませんでした」


 そう言って勢いよく謝って来た。

 さっきのテンションから俺は何か文句でもあるのかと思っていたので少々拍子抜けだ。


「あぁ、その件ですか。こちらもウェイガンさんの提案に熱くなってしまってあなたの事を忘れてしまってたんですよ。私としては実りあるお話だったのであなたには申し訳ない事をしました」


 俺も一応謝っておく。

 確か宗教関係者って朝が早い分、夜も早く寝てなかったっけ? それとも地球の宗教だけだっけ?

 その辺りも確認してみるとやはり朝は早いようだ。


「それじゃ、用が済んだのならこれにて失礼させて貰いますよ」


「待ってください。宿代を支払わせてください」


「はい?」


「ですから、私が寝てしまった所為で楽太郎さんはもう1部屋取ったんですよね?」


「あぁ、気にしないでください。こう見えて結構稼いでますから」


 まぁ、一応大人の余裕と言うものも見せておこう。


「いえ、でも、昨日あれだけルインがご迷惑おかけしたのに、その上私までご迷惑をおかけするわけには行きませんよ」


 ふむ、若いのにしっかりした考えを持っている様だが、1つ抜けているな。


「いえいえ、それよりもリディアーヌさんはもっと考えないといけない事がありませんか?」


「え? 考えないといけない事ですか?」


「えぇ、あなたは昨日、酒場から男と2人で抜け出し、神殿?だか教会だかに帰らずその男の部屋で一晩過ごしたんですよ?」


 客観的事実をありのまま伝えると彼女の表情が固まった。

 そして畳み込むように更に突っ込む。


「この事実だけを伝えた場合、普通に考えれば『今晩はお楽しみでしたね♪』なんて言われる可能性が高いと思うんですが、その辺りについて何かお考えがおありですか?」


「そ、そんな・・・」


 彼女は驚愕の表情を浮かべ、必死に何かを考え始めた。


「それでは失礼しますね」


 そう言って踵を返して改めて中庭に向かおうとすると肩をガシッと掴まれる。


「楽太郎さん! 一緒に来て誤解されない様に説明して貰えます?」


「・・・私がついて行ったら、『リディアーヌさんの提案で昨夜は実りある一晩を過ごさせて頂きました』と笑顔で答えますが良いですか?」


「どうしてそんな嘘を吐くんですか!」


 反射的にリディアーヌが答える。


「嘘じゃないでしょう?」


「どこがですか!」


「リディアーヌさんの提案でウェイガンさん達と対話する事になり、ウェイガンさんから良いものを貰えることになったんです。私にとっても大変実りのある夜でしたよ」


 そう説明すると彼女は目を見開いた。


「・・・いじわる」


 小声でボソッと言われた!

 まぁ、からかってるんだから当然の反応ではある。


「意地悪じゃありませんよ。どうせ私が付いて行ってもこう言った下種の勘繰りをする輩は大勢いますから、どうしようもないんですよ」


「そんなぁー」


 そう言って肩を落とすリディアーヌ。

 まぁ、これで良い教訓になっただろう。

 知り合ったばかりの男の部屋で寝落ちするなんてあまりにも無防備すぎる。

 俺じゃなきゃ襲われてただろうからな!


「そんなに肩を落とす事は無いですよ」


「でも、そうなると私の立場が・・・」


「私が別室をとったこと覚えてます?」


「えぇ」


「その際、宿の親父に『護衛依頼をしてきた依頼主に部屋を占拠されたんで寝るところが無くなった。もう一部屋空いてないですか?』と言っておいたので宿の親父に言質をとれば問題ないですよ」


 そう言うとリディアーヌの表情はホッとした表情になった後、すぐにこちらを責めるような視線を向けてくる。中々に表情が豊かだ。対する俺はにこやかな笑顔で答えを返す。


「いい経験になったでしょう?」


「何がですか!」


「良い人生経験になったんじゃありませんか? 正直、ルインさんといい、あなたといい、どうにも(つたな)いんですよ。もっと世間慣れしないといつか酷い目にあいますよ?」


「・・・既にあってると思いますけど?」


「この程度の事で酷い目だなんて言ってたらこの先やっていけませんよ? こんなのはぬるま湯に浸かっている程度にしかなってないんですから」


 しみじみと語ってみるがリディアーヌはあまり納得できていない様子だ。


「まぁ、これを酷い目にあったと思うなら、これからはもっと気を付けてください。私のように親切に証言を残して後顧の憂いを断ってからかってくれる人は滅多にいませんよ? 普通なら昨日リディアーヌさんが部屋に入った時点で襲われても文句言えないんですよ?」


「そ、そんな訳ないでしょう!」


 本当にわからないのか?


「・・・一応、男女の中での暗黙の了解ってものがありまして、深夜に男性の部屋を訪れる女性は襲われても文句言えないんですよ」


「どういう事です?」


 本気で言っているのか?


「・・・つまり、深夜に男性の部屋を訪れる女性は夜這いを掛けている。つまり男性にモーションを掛けたと取られるんです」


「え?! それって! それって! え?!」


 リディアーヌは顔を真っ赤にしてこちらに何かを言おうとしているが言葉になっていない。


「まぁ、どうしても深夜に男性の部屋を訪れないといけない場合もありますから、そう言った場合は部屋の扉を開けたままにする事でそう言った意思がない事を示すと言う符丁もあります」


 因みに昨日は後から入ってきたリディアーヌは部屋の扉を丁寧に閉めていた。

 つまり、そう言う意思があると捉えられても文句が言えないのだ。


「昨日あなたは私の部屋に入る時、部屋の扉をどうしました?」


「?!」


 そう聞かれ、リディアーヌが跳ね上がる。どうやら気付いたようだ。


「あ、あ、あ、あれは・・・」


「私は優しいでしょう? それとも今からでも遅くありませんから致しますか?」


 そう言ってニヤリと笑うと少女は逃げるように背を向けて走り去って行った。


 ・・・さて、柔軟体操して来よう。











 早朝からそんな感じで巫女さんに絡まれつつ朝の日課を熟し、朝食を終えるとスマホでウェイガンに連絡を取り要求仕様を伝える。作成には1週間ほど掛かるとの返事をもらった。

 これで取り敢えず神様関連は一区切りだ。


 ウェイガンとやり取りした後はそろそろ落ち着いただろう巫女さんを神殿へと送り返すことにした。

 巫女さん(リディアーヌ)については一応、送るようボコポに言われていたからな。


 まだ宿屋に居たので声を掛けて神殿の前まで送る。

 最初は警戒されて大分手間取ったが、何とか和解?して歩き出す。

 最初は3歩ほど離れて歩かされたが、話しながら歩いているといつの間にか隣に並んでいた。


 まぁ、そんなこんなで巫女さんを神殿に送り届けると日は大分昇って来ていた。



 さて、後はボコポの所に行って貴族屋敷の見学をしないとな。

 そう言えばボコポが連れて来るのは不動産屋なのかな? ボコポの仲介だから問題ないだろうけど、気を引き締めて行こう。

 何せ購入金額が金額だし、買った後も維持費が半端無い金額になりそうだからな。


 維持費について考え、真っ先に頭を過ぎったのは神のダンジョンへと潜る事。だが、昨日ウェイガン達に話を聞かされた手前、早々に潜るのは憚られる。

 貴族屋敷を買った後でも屋敷の維持・管理に人を雇う必要がある。俺はコーラを作る為に研究をしつつ、旅を続けて新たな食材(かのうせい)を手に入れる必要があるからだ。

 しかし、正直この街で信用できそうな人物の心当たりはドワーフだけだ。

 別に人間が嫌いなんじゃないよ? 偶々、そう、偶々信用できない人物が人間だっただけで・・・


 なのでここは1つしか選択の余地はないだろう。

 そう、奴隷を購入するのだ!

 下種な話になるが、できれば性交渉できる美人の奴隷がいい。

 そして童貞卒業! 「おめでとう!」「ありがとう!」と祝って貰いたいものだ!


 なんせ35年越しの卒業・・・だからな!

 そんな妄想を抱きつつ、夢は膨らみ股間も膨ら・・・ゲフンゲフン。


 落ち着け、俺。

 どうせそんなに美味い話にはならない。

 徹夜のテンションで少々頭がおかしくなったか?


 妄想に耽る頭を振って思考を切り替えるとボコポの工房に向かう事にした。






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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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