第5話 楽太郎 冒険者ギルドに行く
少し短いけど、投稿します。
林の中でオークと戦った後、俺はフォレストウルフのインディを伴い街道を歩いている。
この国の治安を考えるに、街道脇の林で「狼」やオーク達に出会うとは、運が無いのか、もしくは魔物の繁殖が深刻なのだろうか。
街道を1時間ほど歩いたが、まだ城下町は見えない。既に林を抜け、今は丈の短い草花が生い茂っている風景が見て取れる。
林に来た時は15分程全力で走っただけのつもりだったのだが、思った以上に遠くまで移動していたようだ。
因みにこの1時間、歩き続けているが、旅人や行商人と言った類の人間には全く出会っていない。
よっぽど人気のない街道なのだろうか?
そんなことを考えながら隣を歩くインディを見ると、眠そうな欠伸をしていた。
呑気なもんだな。 1時間前の死闘が嘘のような穏やかな道程だ。
のんびり歩きながら草花を見ていると、とある一点が目に入った。
なんだろう? と思いそちらに足を向ける。
気になったのは一株の雑草だった。
雑草を凝視すると「鑑定」スキルが発動した。
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名前 :薬草
効能 :そのまま食べるとHPを50回復する。
:ポーション作成等の素材。
:寒さに強い常緑多年草。
:10株=「大銅貨1枚と銅貨3枚」
薬草だったとは・・・しかし、どうして見分けれたんだ? 野草の知識とか持ってないんだけどな。
ひょっとしてスキルが関係するのかな?自分が持ってるスキルで関係ありそうなのは「錬金術」かな。
と思い「錬金術」スキルを思い浮かべると、頭の中に薬草を使ったアイテムのレシピが次々と浮かんできた。
どうやら錬金術スキルがカンストしているので錬金術関連の知識も頭に入っているようだ。
試しに「錬金術」で何が出来るか思い浮かべようとしたら膨大な量の知識が頭の中を駆け巡った。
ボーナス的に取得した所為か意識しないとその知識が浮かんで来ないようだな。
となると、他のスキルについても調べておく必要があるな。
ま、検証は後にするか。
「インディ」
名前を呼ぶと嬉しそうに一声吠えてインディが近寄ってくる。
俺はその鼻先に薬草を突き付け、
「歩きながらでいいから、これと同じ薬草見つけたら教えてくれ」
とお願いするとインディは嬉しそうに草むらに突入した。
「もう見付けたのか?」
そう言って後を追うと、30メートル程進んだ先に薬草の群生地があった。
「インディお手柄だな」
俺はそう言ってインディの下顎を撫でつけると、嬉しそうにインディも顔を擦り付けてきた。
一頻り撫でた後は薬草を30株引き抜いて「無限収納」へと仕舞った。
薬草はまだ沢山生えているが、採り過ぎは良くないだろう。
予定外の収穫を終えて街道に戻ると、また城下町へと歩き出した。
・・・
それから更に1時間
遠くに城下町とその周辺を囲むように作られた畑が見えてきた。
漸くか、やっと城下町に着くな。
そう思うと歩く速度が自然と上がった。
暫らく歩き、漸く畑の方に近付くと農作業をしている人がチラホラと見えてきた。
畑まであと50メートル程になった時、こっちに気付いた農夫がいた。
手を振ってみよう。 両手を上げて「おーい」と声をかけた。
呆然としていた農夫は俺の声を聞くと慌てて声を上げた。
「魔獣だ! 早く逃げろー!」
その声が辺りに響き渡ると、農作業をしていた人々が城下町に向かって一斉に走り出した。
農具や作業などはそっちのけで走り出す人達を俺は呆然と見送った。
魔獣?・・・あ、そっか、インディか。
隣に佇むインディを見上げると、不思議そうにこっちを見つめるインディ。
参ったな、騎士や兵士が出てきたら洒落にならんが、まぁ、何とかなるか。
気楽に考えて街門まで歩き始める。
・・・
農夫達が逃げて行った後、街門まで歩いていくと、街門の手前10メートル程のところに槍を手にした兵士が10人程出て来た所だった。
俺の後ろにはインディが居たので兵士達は最初は身構えていたが、俺とインディが呑気に歩いているので拍子抜けして声をかけてきた。
そこで俺は、インディが子供の頃に森で拾い、そのまま育てていると言う適当な嘘説明をしたら納得したようだ。
魔獣を手懐けて猟獣や騎獣にすることはあるそうで、貴族達は珍しい魔獣を騎獣にするのが一種のステータスになっているそうだ。
ただ、近年は魔獣の被害が多く、王都では魔獣そのものを忌避する傾向が強くなっているので、今回のような過剰な反応になったそうだ。
なんでも本当の魔獣の襲撃だった場合、インディと同じフォレストウルフだと兵士20人掛かりで半分くらい犠牲を出して漸く倒せるか、追い返せるかのどちらかだと言うことだった。
お咎めは無かったが、騎獣であることが分かるように首輪か何か目立つ装飾品を付けるよう言われてしまった。
叱られ序でに仕事を探している事を話すと、冒険者ギルドに行けば依頼があるぞ。と言われた。
もちろん「命の保証はせんがな」と一言忠告もされた。
冒険者ギルドか、テンプレだが仕事があるのは良いことだ。
話の流れのまま冒険者ギルドの場所を聞いておいた。
この国、普通の兵士は良い人が多いのかな。
因みに話していたのはハンスさんとは別の警備隊第5班の隊長さんでニールさんだ。
見た目は20代半ば位だろうか。引き締まった肉体をしており、金髪をバッサリと短く刈込んでいる爽やか系のイケメンだ。
ハンスさんは鼻の下に髭を生やした40代位のオッサンだったが。どっちも話し易い感じの良い人たちだ。
進行方向は同じなので街門まで話しながら歩いたが、短い会話の中で俺が世間知らずなのがばれたようで、ニールさんは他の兵士達に指示を出すと、俺を冒険者ギルドまで案内してくれる事になった。
街門で入都税として銅貨1枚を支払い、王都に入った。
ニールさん曰く、城下町じゃなく王都と呼ぶのが一般的だそうだ。
王都に入ると、街の人々がこちらを見て一斉に警戒してくる。
インディを見ているようだが、ニールさんが「これは彼の騎獣だ。問題ない」と一声かけると、安堵した溜め息がそこかしこで聞こえてきた。
その後暫らくすると珍しそうな視線は感じるが、警戒したような視線はほとんどなくなったようだ。
俺もホッとして息をつき、ニールさんと一緒に冒険者ギルドへと足を向ける。
冒険者ギルドに着くまでにニールさんには色々と為になる話を聞いた。
1.冒険者は基本的に実力主義で強さが一番重要視されるそうだ。
2.血の気の多い輩が多く、喧嘩は日常茶飯事だそうだ。
3.数年前の戦争の影響で上級冒険者の数が極端に減ったそうだ。
4.その所為で魔獣討伐が進まず、ここ2年ほどは薬草採取も命懸けの状態が続いているそうだ。
5.魔獣が跋扈する影響で新人冒険者の死亡率がこの3年で3倍に跳ね上がったそうだ。
6.と言うことで、未達成の依頼が増えており、ギルドの権威もかなり落ちているそうだ。
最後に「本当に冒険者になるのか?」 と確認されたが、「はい」と答える事しかできなかった。
だって、無職だもの・・・社会人やってた俺には、その肩書きは余りにも・・・
そろそろ職に就きたいお年頃ってことです。多少落ち目になっている冒険者ギルドでも職に就かないと、社会人やってた人間としては落ち着かない。
そんなこんなで、冒険者ギルド前に辿り着くと、ニールさんは「それじゃ、頑張れよ」とキラッと笑顔で去って行った。
残された俺は深呼吸をすると、インディと共に気合を入れて冒険者ギルドの扉を開くのであった。