閑話 女神サイド3-1
長くなりそうなので何話かに分けてみようかと・・・
時はサスティナが建御雷にお仕置きされてエターナルプレイスに戻ったその日。
サスティナの社で3柱の女神が誰にも聞かれない様に結界を張った中で議論を交わしていた。
「ねぇ、サスティナ。どうするのよ?」
困った表情で戦の女神ナシスは知識の女神サスティナに話を振る。
「どうするって、取り敢えず他の神々には『異世界の神々から山並 楽太郎に干渉する事を禁止されている』旨を伝えて直接干渉しない様にお願いするとして、1番の問題については・・・ルシエント。何かない?」
「・・・少なくとも、神聖王国サスティリアにいる間は無理だと思う」
平坦な口調で答えたのはルシエントだが、やはりこちらも眉根を寄せて困ったような顔をしている。
「私の国に何か問題があるとでも仰るの?」
ルシエントは下界----楽太郎の様子----を眺めながら答える。
「楽太郎さんはあの国にいる事を善しとしていない。むしろ危険と考えている。だからサスティリアにいる間は恋愛には意識を傾けない・・・と思う」
その議論の主題とは楽太郎の家族計画であった。
「だが、楽太郎には子供を作って貰わないとこの世界が終わるんだろう? あんまり悠長に構えてると本当に不味いかもしれないぞ? なんせあいつ、向こうじゃ35歳で童貞貫いてたんだしな。一応あっちじゃ結婚する未来が待ってたらしいが、こっちじゃ異世界人だから先が読めない。子供を作る未来があるかもわかんないし・・・」
「そ、そうよ! 子供を作れる未来が無いかもしれないなら私達が色々と試して子作りに繋げないと・・・」
3柱の女神が何故このような議論をしているのかと言えば、建御雷の言葉があったからだ。
曰く、「楽太郎がいるからそちらの世界を滅ぼすのを堪えている」と言うものだ。その上「楽太郎が子供を作らず人生を終えた場合、我らは何の躊躇いもなく貴様の世界を滅ぼすだろう」と言う言質もある。
先日、建御雷がたった1柱でエターナルプレイスの神々の半数以上を屠ったのはサスティナ達の記憶に新しい出来事だ。
そんな強大な神々が本気を出したらエターナルプレイスは間違いなく滅ぶだろう。
その事を想像し、サスティナは身震いする。
「でも直接楽太郎に手を出すと建御雷様達からキツイお仕置き・・・で済めばいいけど、今度こそ悪神堕ちもあるんじゃないか?」
ナシスのその言葉に二の句を詰まらせるサスティナだが、少し考えた後、良い事を思いついたと提案する。
「こぶ・・楽太郎さんに直接手を出すのではなく、周りの女性を楽太郎さんに近付ければ良いのではないかしら?」
「どういう事?」
「楽太郎さんを直接どうこうするのはダメでも周りの女性にこぶ・・楽太郎さんに好意を持たせるのは問題ないはずよ?」
そう言ってサスティナはナシスを見るが、ナシスは困った顔をして「それって大丈夫なのか?」と聞き返してきた。
脳筋のナシスではダメだ。そう思ったサスティナはそのままルシエントの方を見る。
「・・・多分。好意を持たせる事自体は問題ないと思う。」
暫し黙考した後、ルシエントが答えるとサスティナは満面の笑みを浮かべるが、そこにルシエントが釘を刺す。
「ただし、事が上手く行っても失敗しても、楽太郎さんに好意を持った者に対して私達が楽太郎さんに関する何かしらの意図を指示した時点で有罪になる」
その答えを聞いてサスティナの顔が微妙に歪む。
「・・・サスティナ?」
ルシエントは訝しげにサスティナの顔を見詰める。
「いえ、何でもありませんわ。話を戻しますが、そうなると私達が出来るのは楽太郎さんへの好意をバラ撒く事しか出来ないのでしょうか?」
「好意をバラ撒くのは無理。楽太郎さんはどちらかと言うとネガティブ思考で自分の見た目もわかってる。そんな人物が急にモテ始めたら何かの介入を疑う。現状だと私達の仕業だと思い込む可能性が高い。その場合、彼が猿田彦様達に報告する可能性が少なからずある。と言うより可能性は高いと思う。だから好意をバラ撒くのではなく、ある程度人数を絞るか、楽太郎さんに好意を持っても不自然でない人物。もしくは好意を持ってもおかしくない状況下で確実に好意を持たせた方が効果があると思う」
「そんな人物いる訳ないし、そんな状況なんて作れないんじゃないか?」
ルシエントの説明を受けて考え込んでいたナシスが無理だとばかりに匙を投げる。
その言葉にサスティナがため息を漏らす。
「それでも何とかしなければこの世界が滅んでしまいます」
「「・・・」」
その言葉を最後に3柱の女神が沈黙する。
「なぁ、やっぱり他の神々にも伝えて手伝って貰った方がいいんじゃないか?」
暫らく考え込んでいたナシスは何も方法が思いつかなかったのか他の神を頼ろうと提案するが、それをサスティナが止める。
「待ってナシス。もし、他の神々にこんなことが知れ渡ったら私達、不味い事になると思わない?」
「え?」
サスティナにそう言われナシスは考えてみる。
例えばサスティナが他の神に「実は地球の神々から宣戦布告を受けちゃった。こっちに召喚した人間か、その子孫が居なくなった時点で戦争を仕掛けられる予定なの。相手の神々は前回たった1柱でこちらの半数以上の神々を捻り潰した程の実力者達で勝ち目は全くないの。だからお願い。召喚した人間に子作りさせたいから手を貸してくれない?」なんて言ったらどうだろう?
世界は救えるだろうけど、私達は非難されるだけじゃ済まない。それどころか悪神堕ちは免れず、最悪消されるかも・・・
そう考え、ナシスは青褪める。
孤立無援であの楽太郎に子作りさせる?いや、不可のぅ・・・
己の死と世界を思考の天秤にかけナシスは固まる。
「・・・ナシスが固まった」
「えぇ、そうね。ナシスは脳筋だから答えは出ないでしょうし、私達が動くしかないわ」
「でも、楽太郎さんに今すぐ家族を作って貰うのは難しい。今はあの国から無事出られるようサポートした方が得策だと思う」
「私は逆よ。私が力を振るい易いあの国で片を付けた方がいいと思うわ。世界の運命が掛かってるんだから早急に対処した方が私達も安心できるじゃない」
ルシエントとサスティナはお互いの意見を出し合うが、長期戦を提唱するルシエントと短期決戦を狙うサスティナで意見が分かれる。
暫し意見の交換と言う白熱した時間を過ごした後、ルシエントが折衷案を提案する。
「・・・それなら、両方試してみれば良い。サスティナがサスティリアで楽太郎に家族を作れるならそれで問題ない。ただ、失敗した場合は暫らく静観した方がいいと思う。私達が介入した場合、大なり小なり不自然な部分が出る。楽太郎さんはそう言った部分にも敏感な気がする」
「暫らく静観って、どれくらい間を空けるつもり?」
「・・・20歳を超えるまで?」
ルシエントは少し考えて答えるが、サスティナが異議を唱える。
「長すぎない?」
「自然な流れに任せるのも1つの手だと思う。楽太郎さんもコーラだっけ? それが作れれば次は落ち着いて生活できる場を求める筈。家庭を持つのはその後でも遅くはない」
むしろ楽太郎にとってはコーラ作成が最優先課題だと考えている節がある。
その言葉を聞いてサスティナも納得する。
「それではサスティリアにいる間は私が手を打ってみましょう。サスティリアを出た後は楽太郎さんの生存を最優先でサポートするって事で良いかしら?」
「それでいいと思う」
「それじゃ決まりね。ナシス! ちょっとナシス!方針が決まったわよ」
サスティナが固まっていたナシスの肩を叩くとナシスが再起動する。
「うん? え? そうなの?!」
こうして3柱の女神による楽多路の家族計画が発動した。
「さて、それじゃ早速、手を打つわよ!」
そう言うとサスティナは下界を見下ろしレイラ=カストールに狙いを定める。
「え? 彼女に何するんだ?」
ナシスが何をするのか質問するとサスティナは事も無げに答える。
「私の加護は失いましたが、彼女は見目麗しく、その上性格も良く善人です。まぁ、少々真面目すぎて融通の利かない所もありますが、彼女ならあのこぶ・・楽太郎さんのお相手としては勿体無いくらいだと思いませんか?」
「・・・」
どうやらレイラを楽太郎に宛がうつもりのようだが、上手く行くのだろうか?
そんな内面が表情に現れていたのか、サスティナが見咎める。
「ナシス。何か不満でもあるの?」
「いや、ただ、どうやって上手くくっつけるのかなぁ~って思ってさ」
「それなら大丈夫。恋の女神アスフィーネから聞いた方法を試してみようと思っているの」
そう言ってサスティナはニヤリと自信満々の笑顔を見せた。
そして翌日。
レイラが冒険者ギルドに入り受付を済ませた後、パーティを組みたい旨をエミリーに相談している時だ。
エミリーが良さそうな人物が居ないかギルドのロビーを見回し、丁度楽太郎に目が行った瞬間。サスティナが叫ぶ。
「『天啓』発動!」
「え?!」
ナシスが驚くと同時に相談を受けていたエミリーがビクリッと一瞬震える。
そして良い事を思いついたとばかりにレイラに楽太郎の事を説明し、楽太郎の方を向かせる。
「さらに『天啓』発動!」
「えぇ?!」
今度は楽太郎を目に入れたレイラに天啓を発動させた。
「なんで天啓なんか使うんだ?」
『天啓』とは所謂『お告げ』や『神託』と同一のもので、受け取る側に素質が無いとあまり意味はない。
素質が無いと精々天啓を与えた神のお告げの内容を何となく感じる程度だ。言い方を変えると突然の閃きとでも言えばわかるだろうか。ある種の衝撃を持って齎される祝福だ。
それを急に連発したのでナシスは驚いたのだ。
「以前、恋の女神アスフィーネが『恋とは勘違いから始まる事もあるのよ?』と言っていたことがありまして、それを試してみようと思ったんです」
「はぁ?」
「つまり、最初の天啓でエミリーに楽太郎さんを紹介させ、レイラには楽太郎さんを運命の人として天啓を与えてみました」
「へぇ、それで楽太郎とレイラがくっつくのか?」
「さぁ? あくまで天啓なのでこれを一目惚れと勘違いして下されば上手く行くと思いますわ」
サスティナは答えながら一仕事終えたと言った風に満足げな笑みを浮かべる。
その様子を静かに見守っていたルシエントが答える。
「サスティナの試みは少し上手く行ってる。レイラ=カストールが積極的に楽太郎さんにアプローチしてる」
「お?中々いいんじゃないか?サスティナにしては珍しく1発で成功したんじゃないか?」
「珍しくってどういう事よ?!」
「まぁまぁ、上手く行きそうなんだから良いじゃないか」
「そうそう」
「・・・確かにそうね」
サスティナは機嫌を直して成功しそうな予感に満足げに笑顔を浮かべた。
だが次の日の朝にレイラの悲鳴が聞こえて来ることでその期待は裏切られることになる。
「「「なんでそうなるの?!」」」
余談ではあるが、その後のレイラは楽太郎に対し、ストーカーじみた行動をとる様になり、常識人と言う名の道から変態と言う名の道へ一歩踏み外し始めるのであった。
更に数日後。
楽太郎がゴブリンに捉えられた3名の女性を救った際も泉の精霊ティリスを使い3名の女性と楽太郎の仲を進展させようとしたがそもそも泉の精霊との接触すら失敗した。
「ティリスを幽霊と勘違いするなんて・・・」
そんな感じで神聖王国サスティリアでのサスティナ達の思惑は楽太郎のヘタレな鬼畜対応により尽く失敗に終わった。
そして時は流れ、楽太郎がゴルディ王国に密入国した頃の神域では、3柱の女神が話し合いを行っていた。
「えーっと、これで何回目だっけ? 楽太郎の子作りについて話し合うの?」
ナシスが下界の楽太郎を見つつサスティナに話題を振る。
「12回目ですわ。ナシス」
そう答えつつサスティナも楽太郎の行動を逐一監視する。
こんな感じでほぼ毎日3柱の女神は楽太郎の行動を監視している。
このことを当人が知ったら発狂し、更なる憎悪の炎を燃やすだろう。
そうして話し合いには実が無く、楽太郎の行動を監視するだけの場となりつつあった。
「なんか楽太郎が森で樹液採取してるな」
「そうですか」
「・・・」
・・・
「あら、楽太郎さん。クマと格闘してますわね」
「なに? おぉ! やっぱり戦いは良いなぁ」
「・・・」
・・・
「なんか楽太郎が泣きながら飲み物飲んでるぞ?」
「そうですか・・・っ?! あれがコーラと言うものかしら?」
「・・・炭酸と言っているから違うと思う」
・・・
「サスティナ、お前のとこの信者が楽太郎に凹られてるぞ」
「あんの信者・・・私の信者なら相場くらい調べてよ・・・」
サスティナがガックリと膝を折る。そしてその頭をルシエントが慰めるように撫でた。
「・・・ドンマイ」
そんな感じで楽太郎は3柱の女神にストーキング。と言うか、ピーピング?されていたわけだが、事態が動いたのは楽太郎が資金稼ぎにゴーレムを連続撃破している時だった。
楽太郎のスマホにウェイガンから神託が下った。
「おい! ウェイガンが楽太郎と接触を図ってるぞ!」
「え?」
「?!」
ナシスの言葉にサスティナとルシエントの2柱の神が慌てて楽太郎の様子を見ると、楽太郎は神託を受けずに切ってしまった。
「あの神器、あんな事も出来るんだな・・・」
「あれでは私達が緊急で連絡したい事があっても楽太郎さんに連絡できないわ」
「・・・連絡できないなら、連絡を取らなければいけない状況になる前に対処・・・する?」
「今度はキュルケが楽太郎と接触を図ってるぞ!」
「「?!」」
「どうして・・・」
先日、他の神々には山並 楽太郎には直接干渉しないように話を伝えていた。
そんな中、鍛冶神ウェイガンと山の女神キュルケの2柱が楽太郎に接触を図った。
この2柱は温厚で世界の安定に力の大部分を割いている。
他の神々よりも世界運営に力を入れているのだ。
そんな2柱が何故楽太郎と接触を図ろうとしているのか、その真意が読めない。
だが、楽太郎と他の神が接触するのはサスティナ達にとっては非常に都合が悪くなる。
他の神が楽太郎に直接干渉した事が猿田彦達にバレた時、サスティナ達がそのとばっちりを受ける可能性は十分にある。
それ以外にも他の神が楽太郎と接触し、結びつくことで神域での自分たちの行動が楽太郎にバレる恐れがある。
もし普段から楽太郎を監視していることがバレた場合、楽太郎は間違いなく猿田彦に伝えるだろう。
「ウェイガンとキュルケの所に行きましょう」
サスティナがそう言うとナシスとルシエントもそれに倣いウェイガンとキュルケの所へと移動する事にした。
閑話ですが、続きます。
まだ書き続けてます・・・