第74話 資金稼ぎ
ボコポに家を買う相談をした次の日。
ディルクの防具屋にスパイダーシルクのシャツを取りに行った。
「すいませーん。もうやってます?」
「お~う。やってるぜぇ、お、お前さんか」
朝早くに店に行ったんだが、店は開いていた様だ。
この街のお店って勤勉な人達が多いのかな?
「先日オーダーしたスパイダーシルクのシャツを取りに来たんですけど、出来てます?」
期日は間違っていないはずだ。
「あぁ、出来てるぜ! 試着するか?」
「お願いします」
俺がそう言うとディルクはシャツを俺に渡し、試着室を指差してそこで着替えるように指示してきた。
試着室に入り、上着を脱ぐとオーダーしたシャツに袖を通す。
シルクと言うだけあって肌触りは滑らかで中々良い着心地だ。
その後も体を動かして着心地を試すが動きを阻害される事もなくスムーズに動けた。
ディルク。腕のいい職人だったようだ。 防具と言うより普段着をオーダーしたい。
たしか防具以外にも色々とやってるみたいだし、そのうち頼んでみるか。
「どうだ着心地は?」
外からそう声を掛けられたので返事を返す。
「いいですね、最高ですよ。出来れば普段着をオーダーしたいくらいです」
「できれば防具もオーダーしてくれねぇか? 一応防具メインなんだよこの店はよ」
そう苦笑交じりに返されたので黒鉄を取り出して試すように聞いてみる。
「じゃぁ、これで防具作れます?」
「うん?黒鉄だと?! うーむ、すまねぇ、すぐには無理だ。一年、いや、半年かかってもいいならできるが・・・」
ふむ、やはり道具の問題か。
「それならやっぱり普段着だけ今度注文させてください」
「くぅぅ! 悔しい!」
そう言って悔しがるディルクを後に店を出た。
そして俺は家を手に入れる為に稼ごうとダンジョンに向かったのだが、今日は潜る人が多いのか入口には結構な人だかりができていた。
うーむ、参ったな。なんでこんなに並んでるんだ?
そう思って前を見るとやたらドワーフがいるのを見付ける。
そう言えば堀作業の再開って今日からだっけ?
心なしか他の冒険者達も増えている気がする。
低階層の安全が確保されたって事だろう。
理由をなんとなく察したのでそのままのんびりと順番待ちをしているとなんか怪しい集団を見付けた。
なんか、頭の装備と体の装備がチグハグな感じがする。
1人目はプレートアーマーを着込んで剣を腰に吊るして盾を背負っている。こいつは全体的に見れば特に怪しい所はない。
2人目は動き易そうな皮鎧を着て、短剣を腰に差している。そして中身がスカスカの大きい皮袋を背負っているのだが、頭の装備がバシネットだった・・・
因みにバシネットの見た目は卵型のツルンとしたフルフェイスヘルメットの口の部分が鳥の嘴のように尖った形をしている。
とあるゲームでは褌にバシネットでホコ・・・と呼ばれる事もあった。
正直、見た目はもの凄く怪しい。
そして3人目だが、チェインメイルを着込んだ槍使いのようだ。
ただ、前述の2人と違い頭にバンダナというか、タオル?と言うか、まぁとにかく布を巻いている。
4人目は神官服を着込んでメイスを背中に吊るした大男だが、頭に毛が無い。
頭髪だけでなく、眉毛も無かった。グラサンでも掛けてればその道の人だと勘違いしたかもしれないが、その目だけが円らでなんかチグハグな印象になっている。
その上なにやら落ち込んでいるような表情になっていた。
5人目は薄汚れた緑色のローブを纏い、魔法使い然とした格好なのだが、口元をマスクの様な布で覆い、その上からフードを被っている。
そして特徴的な動きなんだが、ちょっとした風が吹いただけで5人が頭を押さえるのだ。メット被ってる2人とつるっ禿の大男は頭抑える意味ないだろ?
正直、街中でこんな怪しい集団を見たら関わらない様に離れて歩くだろう。だが今回は彼らもダンジョンに入るようなので暫らく同じ所に留まる必要がある。
仕方ない、自分の番が来るまでのんびり待つか。
・・・
・・・
・・・
件の5人組は少々入口で揉めていたが、どうやらダンジョンに入るにあたり顔を見せる必要があるようだ。
5人組の内4人が拒否した所為で警備兵に怪しまれている。
ふむ、暫らく揉めた後、頭を隠していた4人がメットやフードを取ると、そこにはザビエル・落ち武者・モヒカン・・・おぉう、なんてこった。
どうやら昨日の冒険者達だったようだ。警備兵はザビエル・落ち武者・モヒカンまでは頑張って笑いを堪えていたが、最後の1人で非常に気の毒そうな顔をした。
なにやら「すまなかった」と警備兵が謝る声が聞こえ、最後の一人が肩を落として崩れ落ちる。俺は誰も見ていないのに慌てて目を逸らすと知らない顔をした。
ドワーフ達。俺より酷い悪戯してんな・・・正直引く。
まぁ、そんな事もありつつ、ようやく俺は36階層へと辿り着く。
さぁ、トローナ石を存分に掘ろう。
今回はダンジョン掘りの鉄則は完全無視で湧いたゴーレムは資金源にさせて貰う。
そう意気込むと1人採掘作業に取り掛かる。
今回インディとメルは連れて来ていない。
奴等じゃ黒鉄ゴーレムの相手は難しいから宿屋に1週間分の宿代を支払って世話を任せた。
そうして掘り続けて2日目に突入した頃、黒鉄ゴーレムが現れた。
前回素手で相手をした時、かなり固くて殴った手が痛かったので今回は武者鎧の籠手だけ装備しておいた。
大振りな黒鉄ゴーレムの攻撃を躱し一撃を打ち込んでみると今回は痛みは無かった。
やっぱり神様防具は一味違う。
そうして何体か黒鉄ゴーレムを倒すと今度は青味がかった銀色に輝くゴーレムが出てきた。
新手か? そう思い鑑定してみる。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :-
年齢 :0
種族 :魔銀ゴーレム
称号 :-
レベル:70
ステータス
HP : 3250/3250
MP : 111
STR : 2600
VIT : 3800
INT : 355
AGI : 1060
DEX : 220
MND : 80
LUK : 71
特記事項
VITは黒鉄より少し低いけど、素早さが黒鉄ゴーレムの2倍だと?!
いや、まだ俺の半分程度だ。
そう気を取り直して戦いに臨む。
素早い事を想定して対峙したお蔭で初撃を掻い潜って懐に潜り込み「浸透勁・透徹」を打ち込む。
金属が軋む音を立てた後、魔銀ゴーレムは倒れた。
心なしか黒鉄ゴーレムより柔らかい感触だったし、素早い事さえ念頭に置いていれば黒鉄ゴーレムと同じような難易度だな。
そう思いつつ魔銀ゴーレムを「無限収納」へと仕舞う。
これなら意外と簡単に資金が集まりそうだ。
そう評価して俺はまた掘り作業を再開し、魔銀ゴーレムが湧くとその都度倒し更に掘る。
どうやら湧いて来る数は1体、3体、5体となっている様だ。
数が増えるのは脅威ではあるが奴等の端にいる個体から狙えば敵の連携を簡単に崩せるのでその隙に一匹ずつ対処していった。
その後もゲーム等で見た事がある金属のゴーレムが次々と出て来るが「浸透勁・透徹」で体内の魔石を破壊する事で倒せた。
そうして黒蒼鋼・火廣金・真鋼と金属の質が上がっているようで、かなり美味しいと思ったんだが、最後に神鋼ゴーレムが出た。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :-
年齢 :0
種族 :神鋼ゴーレム
称号 :-
レベル:115
ステータス
HP : 7000/7000
MP : 178
STR : 5900
VIT : 7000
INT : 580
AGI : 3460
DEX : 355
MND : 125
LUK : 116
特記事項
正直、普通に考えたら勝てないって・・・
素早さが既に俺を越えている。
唯一のアドバンテージも無くなった。
どうしよう?
そう考えていると、神鋼ゴーレムが突然突っ込んできた。
俺は慌てて躱すが、意外と普通に躱せた。
少し不思議に思いはしたが、よく見れば躱せる攻撃ばかりだった。
動きが少し早い程度で難なく躱せる。
いや、それだけじゃなく反撃する事も出来た。
恐ろしい速さで振り回される両拳をタイミングを合わせて躱し、片足を蹴り付ける。
その後も数回の攻防を繰り返すが神鋼ゴーレムの攻撃は1つも俺には当たらなかった。
よく考えたら建御雷様との修行やジェラルド氏との対戦なんて相手の方が数倍速かったっけ・・・
最近それ程自分が追い込まれる状況に無かったので単純にステータスでの比較をしてわかったつもりになっていたが、ステータスの高さが勝敗の決め手ではない。
その事をすっかり忘れていた。
俺を鍛えてくれた神様のお蔭で多少のステータスなんかは引っ繰り返せるだけの技量は手に入れていたのだ。
俺は建御雷様に改めて感謝しつつ神鋼ゴーレムとの攻防を続ける。
そうしてなんとか神鋼ゴーレムの懐に潜りこんだ瞬間、相手を浮かせるように掌底を放ち、落ちてきた所を「浸透勁・透徹」で仕留めた。
ふぅ、次は神鋼ゴーレム3体か・・・ 引き上げよう。流石に3体同時はまだ無理だ。
そう考え神鋼ゴーレムを「無限収納」に仕舞うとツルハシや掘り出した鉱石も拾い集めポータルに向かおうとした所で懐かしい電子音が響いた。
「うん?スマホが鳴ってるのか?」
ひょっとして猿田彦様達かな?
そう思いスマホを見ると「ウェイガン」と表示された。
・・・
・・・
「?!」
たしか、このダンジョン作った神様の片割れだよな?
面識もないのになんで連絡取れるんだよ?!
なんか怖い。
そう思うが早いか電話を切る。
「ふぅ、これで一安心だ」
そう思った瞬間、又も聞きなれた電子音が響き「ウェイガン」と表示される。
何かやったか?
そう考えてゴーレムの死体を持ち帰っている事が真っ先に思い浮かんだ。
ひょっとして持ち帰るのって駄目なのか?
だが神託では禁止とは言われていないし、倒した敵のドロップ品は持ち帰れるのだ。
死体を持ち帰っても問題ないだろ?
そう自己弁護するが背中から気持ち悪い汗が噴き出してくる。
「マジか・・・ないわ・・・これはないわ・・・」
そう言いながら着信拒否できないかとスマホを調べると、普通のスマホと同じように機能が付いていた。
良かった。そう思いながら「ウェイガン」を着信拒否リストに入れる。
「これで良し!2度と掛けて来ないでね」
そうしてポータルからダンジョンの外へ出て数分後、今度は「キュルケ」からの着信が届き、「ウェイガン」と仲良く着信拒否リストに入れる。
基本的に知らない神からの着信は出ない事にしている。
出ると色々面倒事に巻き込まれることが多いからだ。特にこの世界の神様には酷い目にしか遭わされていない。
若干の気持ち悪さは残るが仕方ない。気持ちを切り替えてゆっくり休むとしよう。
そうして2日振りに宿へと戻る事にした。
前話の補完話になるかな?