第73話 酒場での顛末
サブタイトル考えるのが段々しんどくなってきました。
今回はかなり短いです。
さて、屍が散乱している酒場で俺は冒険者達をつまみ出すと店全体にエリアハイヒールを施した。
これで店の中にいる奴等はほぼ回復しただろう。
流石にこれが元で俺の依頼した武器作成が遅れては困るからな。
「おぉ?ラクがやってくれたのか?」
どうやら回復した事にボコポは驚いている様だが、俺の呼び方が変わったな。
格上げされたのか格下げされたのか微妙にわかりずらい・・・
「えぇ、この1件で私の依頼が遅れても困りますから」
そう言って苦笑いするとボコポはバツの悪そうな顔で詫びを入れる。
「すまねぇなラク。本来ならそんな心配かけるべきじゃねぇんだが、あいつらがあまりにも鬱陶しかったから頭に来ちまったぜ。
次からは気を付ける。悪かったな。
それから回復してくれてありがとよ」
そう言って反省しているので今後は問題ないだろう。
そんな話をしているとスコティが1人のドワーフを連れて来た。
「なぁ、ラクの兄貴。こいつの髭も回復魔法で何とか治らねぇか?」
そう言われてドワーフの方を見ると、乱闘場で冒険者に髭を毟られていたドワーフだった。
見事に顔の左半分の髭が毟られ、おもしろ・・・じゃなく、可哀想な事になっていた。
「うーん。ちょっと試してみますか。『エクストラヒール』」
そう言って最上位の回復魔法を掛けてみたが髭は再生されなかった。
髭を剃る又は毟られるのは怪我や病気とは違うって事らしい。
「無理みたいですね。一応最上位の魔法使ってみましたが再生されないようです」
「ちくしょぉぉぉぉぉ! あの腐れ外道共めぇ!」
「まぁ、今回は仕方ねぇぜ。諦めろよクルト」
そう言ってスコティが慰めるがクルトの表情は怨嗟を湛えたままだ。
ふむ、恨みを晴らす方法か・・・何かないかな?
そう思い、ふと屍とかしている冒険者達を外に放り出した事を思い出した。
「クルトさん。髭はすぐには戻りませんが、あなたの怒りをあの冒険者達に少々ぶつけてみませんか?」
「伸びてる奴を更に叩けってのか?
流石に死んじまうだろ?」
「いえいえ、叩くだけが復讐じゃないですよ。
あなたも髭を毟られたんです。同じ目に遭わせてやりましょうよ」
そう言ってにこやかに笑い掛ける。
「同じ目に?」
「まぁ、復讐する対象を捕まえてきますから、少々お待ちください」
俺はそう言ってつまみ出した冒険者達を担いで再び酒場の中へと戻り、クルトの前に降ろす。
もちろん冒険者達には回復魔法なんて使っていないので伸びたままだ。
「こいつらどうするんだ?」
「こうするんですよ」
そう言って「無限収納」からナイフを1本取り出した。
「だから殺すのは無しだって言っただろう?」
俺がナイフで殺すと思ったのか? どうやらクルトは勘違いしている様だな。誤解を解こう。
もっと面白い事をするのだから。
「違いますよ。殺すんじゃなくて、あなたがやられた事をやり返すんですよ。
あなたが大切にしていた髭を彼らは毟ってそんな不恰好な形に変えたんです。
ならあなたも彼等の大切な頭髪を弄って同じ苦しみを、いえ、あなた以上の苦しみを与えてやりませんか?」
そう言って冒険者の1人で彼の髭を毟っていないジャスティンに向き直ると、お手本として彼の頭の頭頂部を中心に直径20cm程の円を描くように頭を剃る。
そして不揃いの前髪や横の髪をおかっぱ頭の様に切り揃える。
この時点でフラン〇スコ・ザビエルのようで、笑いを堪えるのが少々きつくなったが、我慢した。
そして最後の仕上げとして両眉を剃って黒のインクで公家の丸い眉毛の様なものを書き足す。
それを見ていたドワーフ達は最初こそ「うわぁ、マジか?!」や「えげつねぇな・・・」等、俺を非難する声が聞こえたが、芸術作品が仕上がる頃には笑い声しか聞こえなくなった。
「どうです? こんな感じで復讐してみませんか?」
そう言ってクルトにナイフを差し出して促すと、彼は大笑いした後、俺からナイフを受け取り彼の髭を毟った冒険者の頭髪にナイフを入れた。
結果、酒場は爆笑の渦に呑み込まれ、深夜まで騒がしいどんちゃん騒ぎが続いた。
そんな中、俺はボコポに家を買う相談をする。
「ボコポさん。ちょっと相談があるんですが、良いですか?」
「今日は助けられたからな、それにあんな面白れぇ余興まで見せて貰ったんだ。
相談くらい乗るぜ!」
「実はこの街で家を買おうと思いまして、良い物件がないか探そうと思ってるんですよ」
「ほぉ、ラクはここに落ち着くって事か?」
「いえ、落ち着くわけではありませんが、拠点として家を持とうかと・・・」
「ふむ、ならどんな家が良いんだ?」
「できれば広めで街中が良いですね。それと多少騒いでも周りに文句を言われない場所がいいですね。もしくは防音設備のある家なら尚善しです。
あと、お風呂も欲しいし、ちょっとした実験とかしても大丈夫な部屋も欲しいですね。
それと地下室とかも憧れますね」
「ふむ・・・。そうなると貴族屋敷って事になるぞ?」
うん?貴族屋敷だと?!
「貴族屋敷ですか?」
「あぁ、そうだ。家が広くて、騒いでも音が漏れず近所に迷惑かけない。
それと防音装備も設置できる。実験とかは別棟か倉庫でやれば良いし、もちろん風呂も地下室もあるぜ。
まぁ、現役で売りに出されてる貴族屋敷なら街中から少し外れる事になるが、それ以外の条件はほぼ満たしてるぜ」
ふむ、なんかあっさりと良い物件が見つかったみたいだが、何か裏があるのか?
「ひょっとして、その屋敷って幽霊とか出るんですか?」
「いや、でねぇよ」
「じゃぁ、何か問題でもあるんですか?」
「一般人にゃぁデカ過ぎて買い手がつかねぇって事が問題なんだよ」
一体幾らするんだ?
「お幾らですか?」
「そうさな・・・大体大金貨で1800枚ってところかな?」
「はぁ?!」
18億円だと?!
「そんな大金を俺達庶民が持ってるわけねぇだろ? だから買えねぇんだよ。
それにそんな屋敷なんて1人じゃ管理できねぇよ。
最低でも使用人を10人は雇わねぇと庭の剪定すらままならねぇ。
そんくれぇデカいって事だ」
そう言って笑うボコポ。
だが、俺としてはその物件を見てみたい。
「すみません。一応その物件今度見せて貰ってもいいですかね?」
「おいおい、マジで言ってんのか?」
「えぇ、気に入ったら買うかも知れませんよ?」
そうおどけて答えるとボコポも思案顔になったが、すぐに気を取り直して答える。
「ならお前ぇの依頼の品が出来たら見せてやるよ」
「わかりました。それなら私はその間に資金稼ぎをすることにしますよ」
「たっぷり稼がねぇとな!」
「えぇ、ダンジョンでたっぷりとね」
そう言ってお互い笑い合った。
そして酒場では一際大きな笑い声が響いて来た。
どうやら新しい芸術作品が仕上がったようだ。
そんな喧噪を背に酒場から引き揚げる。
明日からは暫らく神のダンジョンに籠ろう。そのついでにちょっとした実験もしてみよう。
上手く行けば手早く資金調達が出来るだろう。
金属市場が大変な事になるかもしれないが、そんな些細な事はもう考えない事にする。
さあ、明日から忙しくなりそうだ。
気合を入れながら宿屋への夜道をゆっくりと歩いた。