第71話 明くる日
遅くなり申し訳ありません。
「ドッコイショっと!」
俺は軽く握った拳を泥ゴーレムに叩き付ける。
これで今回襲ってきた魔物は全て倒したはずだ。
泥ゴーレムは魔石以外何も出ないので旨味も無い。
インディとメルに魔石の回収を頼むと俺はまた掘り作業に専念する。
現在ダンジョンの36階層目で鉱石を掘っている。
なんでこんな半端なところで掘ってるのかについてだが、一応職人ギルドに遠慮したってことだ。
2日前に黒鉄ゴーレム騒ぎがあったので彼らは掘りを自重している。効率を重視して計画的に掘っている人達がいるのに同じ階層で掘るのは気が引けたのだ。
それに深い階層の方が鉱脈も多いし、良いものが出易いと聞いたしね。
そう言う事で職人ギルドとあまりかち合わない30階層より下の階層で掘る事にしてようやくトローナ石の鉱脈を発見したのがこの36階層だったのだ。
どうもトローナ石って屑鉱石扱いなのか階層が深くなると単体での鉱脈がほとんど見付からない。
他の鉱脈、金鉱脈とか鉄鉱脈なんかを掘っていると時々ハズレとして産出する程度なのだ。 俺にとっては当たりなんだけどねぇ・・・
因みに金鉱脈は7か所。銀鉱脈も15か所程、鉄と銅の鉱脈は数知れず・・・と言った感じだ。鉱脈は一応マーキングして全ての鉱脈を並行して掘っている最中だ。
「採掘4」のお蔭で壁を軽く触って叩くだけで鉱脈かどうかの判断が出来るようになったのは良いんだが、欲しい鉱石かの見極めは中々に難しい。
知識として反響音の違いでどの鉱脈かがわかると言う知識はあるが、どの鉱脈がどんな反響音になるのかわからないので最初は地道に掘るしかなかった。
まぁ、俺としてはこうしてトローナ石の鉱脈の反響音は『覚えたぞ』ってことで満足している。
そう言えばそろそろ銅板が出来ているかもしれない。採掘したトローナ石を回収してダンジョンから出る準備に取り掛かり、40階層のポータルからダンジョンの外へと出る。
ダンジョンを出ると辺りは昼は過ぎているが、夕方にはまだ早いと言った感じの時間だった。
俺はインディとメルを伴いダンジョンを出たその足でボコポの工房に向かう。
そして辿り着くと浮き立つ心を抑えつつ店側の扉を開く。すると見知らぬドワーフが店番をしていた。
「すいません。私は楽太郎と言いますが、先日ボコポさんに依頼した銅板を取りに来ました。出来てます?」
「おう、あんたが親方の客か。少し待っててくれ」
そう言って店番のドワーフが奥へと引っ込み、暫らくするとドスドスと言う音と共にボコポが現れる。
「おうラクの兄ちゃん。出来てるぜ!確認してくれや」
そう言って3枚の銅板を目の前に並べるボコポ。
俺はジッと魔法陣の形を確認するが、素人目で見ても素晴らしい出来だった。
俺のかなりアバウトな説明でここまで正確に彫れるとは・・・少しボコポの事を見直した。
「凄いですね・・・これなら問題ないですよ。これで失敗するなら私の説明がおかしかったとしか言えない」
「おし、問題ないなら持ってけ」
そう言って3枚の銅板を手渡され、鞄に仕舞う振りをして「無限収納」に仕舞う。
あ、そうだ、ついでに武器作成の依頼でもするか。
「そうだ、ボコポさんって確か武器も作れるんですよね?」
「おう、大概の物は作れるぜ。何か作って欲しいのか?」
「実はこれで槍と棍を作って欲しいんですよ」
そう言って俺は黒鉄ゴーレムから切り分けた塊の一部を取り出して見せる。
「黒鉄か、しかも精製済みじゃねぇか・・・ うーむ、参った。これで武器を作るにゃ半年はかかるぜ?」
黒鉄を見たボコポはしかめっ面でそう答えた。
「えぇ?! 半年ですか?」
「あぁ」
「なんでそんなにかかるんですか?」
「単純な話、黒鉄を加工する設備が家にゃねぇのよ。炉は問題ねぇんだが槌や金床なんかが加工に耐えられねぇんだよ」
「それなら新しく道具を揃えれば良いのでは?」
「それが出来たら苦労しねぇよ。まぁ、一応この街には1か所だけ道具が揃ってる場所があるから、そこで打てば作れるんだが、生憎と使用するには予約しなきゃならねぇし、金もそれなりにかかる。その上施設そのものが大人気でな、今から予約すると半年待ちになるんだよ」
ふむ、道具を揃えられないと言うのはどういう事だ?
「道具を揃えられないと言うのはどういう事です?」
「単純に道具を作る素材を揃えられねぇんだよ。
黒鉄は魔力を全く通さねぇ代わりに滅茶苦茶硬ぇんだ。だから黒鉄で武器を作ろうとするなら最低でも同じ素材で作った鍛冶道具が必要になるんだが、黒鉄自体が希少でべらぼうに高ぇんだよ。
そんな素材が道具一式となると最低でも40kg、満足の行く道具を揃えようとすりゃ100kgは欲しい所だがそんな大金持ってねぇよ」
両手を上にあげてお手上げ状態を示すボコポ。
「因みに黒鉄って幾らくらいなんです?」
「大まかに言うと、1kgで大金貨100枚だな」
「?!」
俺の驚いた顔を見てボコポが苦笑いをする。
予想以上に高い・・・1kgで約1億円? 高いなんてもんじゃない。そんな物をt単位で手に入れてしまったとは・・・
どうしよう。なんなら素材渡して道具作成からお願いするつもりだったが、値段が予想の遥か斜め上だ。100kgも出したら100億円か・・・。
素材の放出をするかどうか暫し悩むが、俺個人で持っていても宝の持ち腐れだ。この際、腕のいい職人にでっかい貸しを作っておくのも良いか。
そう結論を出すと、ボコポに提案する。
「ボコポさん。お金は出せませんが、その100kgの黒鉄があったら、俺の武器を作るのにどれ位かかります?」
「あぁ? そんなもしもの話なんてどうでもいいだろ?」
「まぁ、参考までに教えてくださいよ。ひょっとしたらダンジョンの下層で鉱脈見付かるかもしれないじゃないですか」
「そんな下で危険を顧みずに掘りなんてできねぇよ。
だが、そうだな。道具は最初鋳造で作って、槌ができりゃ金床から作り出して最後に槌も鍛造するから・・・作んのに10日位か・・・それから武器に手を出すから・・・17、いや、20日は欲しい所だな」
ふむ、20日か、まぁ、それ位ならいいだろう。その間に神のダンジョンの奥まで進むのもありだしな。
「わかりました。それじゃぁ、これで道具を作ってください」
そう言って俺は鞄から出した体を装いつつ「無限収納」から黒鉄の塊を取り出して床に落とすと、ゴンッと言う鈍い音が部屋中に反響した。
「な、なんだそりゃ?! どっから出した?」
「鞄からですよ」
俺はしれっと惚けてみる。
「ひょっとしてマジックバッグって奴か?」
「えぇ、そんな様なものです」
「なるほど、便利なもんもってんだな・・・それでこれは?」
「純度100%の黒鉄です。多分100kgはあると思いますが、確認してみてください」
俺の言葉を聞くと目の色を変え、食い入る様に黒鉄を確認するボコポ。
「ほ、本当に黒鉄じゃねぇか・・・こんな量をお前ぇどこから手に入れたんだ?」
探るような、疑うような目でこちらを窺うボコポに俺は苦笑交じりに答える。
「何、以前お話したと思いますが、例の石を求めて各地を旅している時に偶々手に入れただけですよ。」
「偶々で手に入る量じゃねぇだろ?」
「まぁ、あの石を探して危険な所にも幾つか行きましたから、例えばオークキングのいる集落に潜入したりとか、ね?」
「お、オークキングだぁ?! あんたレベル幾つなんだ?」
素っ頓狂な声を上げて驚くボコポにしれっと答える。
「78」
ボソリと小声で答える。
「あ? 幾つだって?」
「78ですが何か?」
ボコポの台詞に少しイラッと来た俺は開き直ってギルドカードを見せつつレベルを開示するとボコポは絶句した。
「・・・マジか、とんでもねぇ兄ちゃんだったな。
それにあの石の話も本当だったんだな・・・てっきり嘘だとばっかり思ってたんだが・・・」
やっぱり嘘ってバレてたのか・・・しかしレベルを明かしただけで信じてくれた。何この信頼感? 信じてもらえたのはよかったが納得いかねぇ?!
複雑な心境を悟らせない様、作り笑顔を張り付けてポーカーフェイスを装うと、脱線しないように話を続ける。
「まぁ、そんな感じで手に入れたものなので疚しいものではないですから安心してください。
これで武器を作って貰えますか?」
「まぁ、それならいいけどよ。道具用の素材があるのはわかった。ただ、正直俺からあんたに支払うものがねぇ以上、道具用の素材は受け取れねぇぜ」
ふむ、意外と律儀な性格のようだな。まぁ、ここからが俺の本題になるんだがな。
「いや、もちろんタダで素材を渡すわけじゃありませんよ?」
「ほぉ、つまり何某かの条件があるのか?」
「えぇ、これは私からボコポさんへの先行投資だと思ってください」
「先行投資?」
「はい、今後、もし私が何か作りたいものが出来たり、困った事があった場合に助けて頂きたいのですよ」
「うん? どういう事でぇ?」
「こう見えて私、秘密主義なんですよ。それにちょっと変わった依頼もしたいなぁーと考えていまして、そう言った意味でも私からの依頼については極秘にしてもらえませんか?」
「ふむ、まぁラクの兄ちゃんは悪い奴じゃなさそうだしな。良いだろう。だが口止め料込みでもまだまだ足りねぇぜ?」
「それなら私からの依頼は暫らく無料で請け負ってくれればそれでいいですよ」
「ふぅむ・・・・ はぁ、わかった。お前さんがそれでいいなら願ってもねぇチャンスだ。
取引成立って事で良いか?」
暫らく悩むように考えていたが、意を決した様にボコポが答える。
よし! これで色々と実験もとい遊び・・じゃなかった。 まぁ、色々と楽しみが増えた。
「はい。それじゃ20日後までに槍と棍をお願いします」
「おう。任せとけ!」
そして帰ろうとする俺に待ったがかかった。
「待てや、ラク。 これからお前の武器を作るんだ。槍や棍のサイズを決めたり握りなんかを調べなきゃいけねぇんだ。もう少し付き合いな」
そう言って店に飾ってある槍を1本俺に手渡すと「振ってみてくれ」と言って俺を観察するようにじっと見詰めてくる。
俺は言われた通り振り下ろし、振り上げ、突き、薙ぎ払いと基本の技を披露する。
「ふむ、わかった。次は棍を使ってみてくれ」
そう言って鉄棍を渡されたので同じように振る。
「ふむ、こっちも大体わかった。おし、それじゃ槍と棍の長さを決めようじゃねぇか」
そう言って細々とした事を確認し、次々と形が決められていく。
「最後に槍の穂先はどんな形状にするんでぇ?」
そう聞かれたが、俺の中では形状は決まっていた。
「十文字槍と言って、こう副刃が横に伸びた形状にして貰いたいんですよ」
そう言って説明し、何とか纏まった。
「よし、これで決まりだな。それじゃ20日後に取りに来い」
「はいわかりまし・・ってどうした?」
ボコポに返事を返そうとすると、それまで大人しくしていたメルが袖口を引っ張ってきた。
メルは武器が陳列してある中でも金棒の様な鈍器に目を向けている。
「ひょっとして武器が欲しいのか?」
そう尋ねるとこちらに振り返りじーっとこちらを見てくる。
うーむ、金棒か・・・確かにメルなら器用に道具も使えるだろうけど・・・
そう考えつつメルが金棒を持つ姿を想像すると、ゴツゴツとしたトゲの付いた金棒は似合わない。
ふーむ。金棒に似た感じのものは・・・と考えていると、1つ思いついてしまった。
「ボコポさん。早速ですが、ちょっと変わったものを作って貰ってもいいですか?」
「あぁ? もうか? まぁいいけどよ。どんなだ?」
「実は・・・」
と言う事でメルが実際に武器を持てるか金棒で確認し、ボコポに追加の武器を依頼することにした。
そうして今日も1日が終わった。
次話いよいよ・・・の予定です。