第70話 炭酸作成準備?
なんか、勢いで書けました。
いつもこうだと良いんですけどね。
ドワーフと肉体言語で語り合った翌日。
朝の運動を終えると、俺は早速ボコポに教えてもらった店へと向かい歩き始める。
インディとメルは宿に置いてきた。あいつらが居ると目立つから仕方ない。
まだ朝早い所為か、通りを歩く人は疎らで露天商らしき人達が準備を始めているくらいだ。
えーっと、たしかこの辺だったはずだが・・・
俺は周りの店に掲げられている看板を見回す。
目印はとんがり帽子に箒だったはずだ。
一軒ずつ看板を見て行き、少しすると目的の店を見付ける。
ここか、小奇麗に整えられた見た目で店主が綺麗好きなのが見て取れる。
ちょっと安心して俺は扉を開けると、涼やかなベルの音が鳴り、店主の声が聞こえた。
「はーい。いらっしゃーい!」
店のカウンターにいたのは元気な笑顔のかわいい女の子だった。
ひょっとしてこの子もドワーフなのか?
そう考えていると、女の子が店の奥に声を掛ける。
「じいちゃーん! お客さん来たよー!」
どうやら見た目通りの年齢で合っていそうだ。
奥から間延びした男性の声が聞こえる。
「おーう、わかった。わかった。
だがちょっとだけ待ってもらってくれんか?
こっちもあとちょっとで終わるからのぉ」
「わかったー!」
女の子が返事をするとクルリとこちらを向き笑顔を向けてくる。
「えへへ、と言う事でじいちゃんが来るまでちょっと待っててください」
そう言って頭を下げてくる女の子に「了解」と声を掛けてから店の中の物を眺める。
店の中には薬缶や小鍋・すり鉢や擂り粉木など料理にも使えそうな道具から見ただけでは何に使うのかも判別できなさそうなものまで色々と並んでいた。
物珍しさに視線を向けていると、1人の老人が店の奥から出てきた。
「じいちゃん。あの人がお客さんだよ!」
そう声を掛けた女の子の頭をなでながらこちらに挨拶をしてくる。
「お待たせして申し訳なかったのぉ、儂はこの店の店主のネイサンじゃ。それでお主は何をお探しかな?」
「私は楽太郎と申します。職人ギルドのボコポの紹介でこの店に来たんですが、実は魔法陣を描く為の銅板と銅板に魔法陣を刻む道具。それと魔法陣に流し込むちょっと特殊なインクを買いたいんですよ」
「ふむ、ここでは何なので奥で話そうかのぉ。カチヤや、すまんがまた店番を頼む」
「わかったよ!じいちゃん!」
「ありがとのぉ。それじゃラクタロー君。奥に行こう」
そう言って店の奥に案内された俺は銅板のサイズと魔法陣に流し込む特殊なインクの材料の割合を伝える。
「ふむ、銅板はすぐに用意できるが、インクの方は作らんといかんからのぉ・・・ そうじゃな、2日待ってくれんかのぉ?」
「えぇ、わかりました。それでお願いします」
「了解じゃ」
「それでお代は如何程でしょうか?」
「銅板3枚と道具で大銀貨5枚じゃな、インクはどれくらいの量が要るのかの?」
「そうですね、とりあえずこの樽一杯くらいでしょうか?」
そう言って空の樽を「無限収納」から取り出す。
「ふむ、その大きさだと金貨3枚って所かのぉ?」
「それじゃ合わせて金貨3枚と大銀貨5枚ですね」
そう言って代金を取り出すとネイサンは驚いた顔をする。
「こりゃ驚いた。前払いする気かのぉ?」
「えぇ、先に払える物は払う主義なんで、先払いでもよろしいでしょうか?」
「こちらは全く構わんよ」
「ではどうぞ」
そう言って代金を支払う。
こちらの世界じゃ後払いが主流らしいが、俺としては払える物は早めに払う主義なので前払いが基本だ。
後払いってなんか性格的に落ち着かないんだよね。 なんか借金してるようなプレッシャーを感じる。
そんな事を考えると、ネイサンが木札を持ち出し、渡してくる。
「ほれ、受取証じゃ、2日後に来た時、これを提示してくれれば商品を渡すからのぉ」
そう言って渡された木札を見ると何やら文字が半分途切れていた。割符って奴か?
「わかりました。大事に預かります」
「まぁ、無くしてもお主が来れば商品は渡すから心配せんでもええがのぉ、ふぉ、ふぉ、ふぉ」
そう言って上機嫌に笑ったネイサンに別れの挨拶を告げて店を出る。
さて、後は受け取った銅板に魔法陣を彫って2日後に備えるか。
そうして意気揚々と宿屋に帰ったのだが、魔法陣を銅板に刻む作業は難航した。
まず、上手く魔法陣を銅板に描けなかった。
道具を駆使してもどうしてもフリーハンドで書かねばならない個所が幾つかあり、どうにか描こうとするが上手く行かない。
ステータスで器用さは上がっているが、根本的に絵や模写の才能が欠落していた。
それでも何とか時間を掛けて描き切ったが、銅板を削る段階になって、更に事態は悪化した。
正直、こう言った彫金や細工なんてやったことが無いのだ。
知識として知っていてもそれを実行した事が無いのでぶっつけ本番になるのだが、なまじステータスが高い所為で彫り間違えが多数発生する。
本来少しずつ彫る為、多少彫り間違いを犯してもリカバリーが可能であったのだが、楽太郎のステータスでは彫り間違えると修復不能なほどの深さになる。
結局銅板3枚全てダメにした後、職人ギルドで魔法陣を彫って貰えば良い事に気付き、今度は職人ギルドへと出かける事になった。
「すいません。ボコポさんいますかね?」
「少々お待ちください。呼んで参ります」
職人ギルドの受付でそう尋ねると、応対した若い女性職員が調べに行ってくれた。
それから待つこと暫し、ボコポを連れて女性職員が戻ってくる。
「お待たせしました」
「おう! ラクの兄ちゃんじゃねぇか、どうしたい?」
ふむ、昨日あれだけ酒を飲んでいたのに二日酔いとかにはなっていないようだ。
つくづくタフな種族だ。
「実はまたちょっと頼みごとがありまして、職人を紹介して貰えないでしょうか?」
「職人をか? 何の職人だ」
「うーん。彫金ですかね? それとも鍛冶師・・・」
「要領を得ねぇな。何をさせてぇんだ?」
「銅板に魔法陣を刻んで欲しいんですよ」
「ふむ、それなら彫金が得意な細工師を紹介してやるよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「良いって事よ。それより魔法陣を刻むって事はその魔法陣について秘匿する必要があるのか?」
「できればそうしたいですけど、人の口に戸は立てられませんからね。それとも秘匿する方法があるんですか?」
確かに秘匿できるならそうしたいが、背に腹は代えられない。これ位の情報が流れても問題ないだろう。
「まぁ、その通りなんだがよ。一応口の堅いって言う条件を追加して紹介する事もできるぜ?」
「ありがとうございます。それではその条件でお願いできますか?」
「おう!いいぜ!」
「それでは早速お願いします。何方をご紹介頂けるんでしょうか?」
期待を込めた目でボコポを見ると、奴は胸を逸らしてこう言った。
「俺だ!」
「・・・」
うん? 今、なんて言った?
「「・・・」」
・・・
・・
・
「え?」
「いやいやいやいや! 俺だって! 俺!」
「採掘場の現場監督じゃないんですか?」
「こう見えても俺は職人だ!
俺達ゃ基本的に材料は自分で集めるんだよ! よっぽどの急ぎや大量受注でも無きゃ素材は自給するのが当たり前なんだよ!」
ふむ、どうやらただの現場監督ではなかったようだが、職人としての腕はどうなんだろう?
そう疑問に思っていると女性職員が口を挟んでくる。
「差し出がましいとは思いますが、ボコポさんはこの職人ギルドで1、2を争う程の職人ですよ?
冒険者の方にも大人気なんですが、気難しい方で中々ボコポさんには作って貰えないのが現状なんです。
ボコポさんももっと仕事をしてくれると私達も助かるんですけどね」
なんか、凄い職人らしいが、最後の方は女性職員の愚痴になってたな。
まぁ、腕が確かならいいか。
「腕の方も問題なさそうですし、お願いしてもいいですかね?」
「おう!任せとけ! ニーナ!悪ぃが後はスコティに報告書を書かせてくれ、俺は急用が出来たから行くわ!」
そう言って俺を連れだって職人ギルドから出て行こうとするが、さっきの女性職員。ニーナだっけ? に呼び止められる。
「ちょっとボコポさん! さっきスコティさんは途中で気を失ってたって言ってたじゃないですか!」
「じゃぁディルボに書かせろ! 奴ならずっと見てたからよ」
後ろも見ずに返事をすると足早に職人ギルドから逃げ出した。
俺は通りに出たところで声を掛ける。
「良かったんですか?」
「何がだ?」
「何か仕事中だったのでは? 報告書とか言ってましたし・・・」
「あぁ、昨日の黒鉄ゴーレムが出た事についての報告書だよ。そんなの俺じゃなくても書けるから心配すんなって!」
「そうですか、なら良いんですけど」
「それよりラクの兄ちゃんは何のために魔法陣なんか彫るんでぇ? 魔導具でも作るのか?」
「まぁ、そんなところですよ」
「なるほどな、ラクの兄ちゃんは魔術師でもあるのか、色々と多才じゃねぇか!」
そんな感じで雑談をしつつ、ボコポの工房へと向かった。
ボコポの工房に着くと、甲高い金属が打ち鳴らされる音が聞こえてくる。
「この音は?」
「あぁ、弟子が何か作ってんだろぉ。職人は数熟さにゃ腕は上がんねぇからよ」
そう言って工房へ入り、奥へととおされる。
「それで魔法陣を彫る銅板はどれくらいの大きさなんだ?」
「大きさはこれ位なんです」
そう言って失敗した銅板を鞄から取り出す。
「ふむ、このサイズなら確かあったな」
そう言って店の奥に俺を置き去りにするとボコポは銅板を探しに部屋を出て行った。
仕方ないので部屋の中を見回すが、部屋に置いてあるのはイスとテーブルだけの簡素な部屋だ。
いや、床に酒が入っていただろうスキットルが転がってた。
仕事しながら酒を飲むのか? いや、ここがボコポの自宅も兼ねていて1人でのんびりと酒を飲むのかもしれない。
そんなどうしようもない事を類推しているとボコポが戻って来た。
「待たせたな! 銅板はこんなのでいいか?」
そう言って銅板を見せてくれる。
俺が持ってきたものとほぼ同じサイズだし問題ないだろう。
「えぇ、それで構いませんよ」
「それじゃ、どんな魔法陣を彫るのか教えてくれ」
「えぇ、お願いします」
そう言って口で説明したり図を書いたりと四苦八苦しながら説明し、最後に彫った溝にインクを流し込む事を伝える。
「ふむ、これ位なら1日ありゃ3つ共できるぜ、明日取りに来な」
「それでお代は如何程ですか?」
「そうだな、3枚で金貨1枚と銀貨2枚ってとこか」
ふむ、高いのか安いのか今一わからんが、まぁ、払える額だし良いか。
異世界に来てから金銭感覚が判然としないが、無くなったらまた稼げばいいや。そう思い代金を取り出す。
「それじゃ、これでお願いします」
「お? 前払いか。了解だ!明日までにきっちり仕上げとくぜ!」
そう言ってボコポがやる気を見せる。
「よろしくお願いします」
そうして俺はボコポの工房から出た。
さて、今日はこれでやることが無くなってしまった。
明日はまだインクが出来てないから炭酸ジュースが作れないので神のダンジョンにでも潜る事にしよう。
その後ボコポの工房で銅板を手に入れよう。
明日の予定はあっさり決まったが、今日はどうやって時間潰すかな・・・
時間も昼を回ったし、飯食った後は何をしようか。
そう考えてボーっとしていると、ふと黒鉄ゴーレムの死体?と言っていいのかわからないが、無限収納に仕舞っていたことを思い出した。
そう言えばダンジョン内の魔物の死体は自然消滅するって聞いてたけど、「無限収納」に入れたのは残ってるかな?
その事を思い出し「無限収納」に手を入れてみると、黒鉄ゴーレムの死体がそのまま残っていた。
「え? 残ってるじゃん!」
素っ頓狂な声を上げてしまったが、ここは街中。こんなところで全長3メートル級のデカ物を出す訳には行かない。
それに出した途端に消えるって事も十分あり得る。
素材として使えるかを確認する為にも町の外れまで行って確認してみるか。幸い時間もあるしな。
そう思うが早いか俺は街の外に出て人が周りにいないことを確認して黒鉄ゴーレムの死体を出す。
ふむ、すぐには消えなかったが、ダンジョン内だと5分程で消えていたはずだ。
少し待ってみよう。
・・・
30分程経っただろうか、黒鉄ゴーレムの死体が消える様子はない。
一応「鑑定」で確認してみるか。
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名前 :黒鉄
効能 :魔力を殆んど通さない為、魔法での強化が出来ない。
:又、魔剣や聖剣・その他の魔導具などの作成には適さない。
:硬さだけならミスリル以上であり、オリハルコンに匹敵する。
:特性上、魔法防御力が格段に高く、騎士や戦士に人気の素材。
:金や白金よりも希少ではあるがミスリルには負ける。
:純度100%
かなりの希少金属らしいが純度100%の状態の物がt単位で手に入ったんだけど・・・
こりゃ、裏技発見って事だな。
それにこれらを市場に流したら値崩れしそうだな。
まぁ、そうなったらそうなったで俺個人としては何の問題もないんだが、出所が発覚するのは不味い。
面倒な事になりそうなので市場に流すのは止めよう。
そんな事を考えながら、ボス部屋にいた鉄ゴーレムも収納していたことを思い出し、同じように確認するがこちらもそのまま残っていた。
一気に金属素材をゲットしてしまったが、この素材どうしよう。 とりあえず槍と棍でも作るか。あ、あとナイフも幾つか作っとくと便利かもな・・・
そんな事を考えながらゴーレムの死体を幾つか切り分けてしまうと、明日ボコポに相談しよう。そうしよう。と、問題を先送りにした。