第69話 ドワーフとの宴会?
どうしてこうなった・・・
書けば書くほどおかしくなっていった今回のお話。
軌道修正しようにもどうすればいいのか・・・
ボコポ率いる職人ギルドの採掘メンバーと共に酒場に着き、全員に杯が行き渡ると、ボコポが立ち上がる。
「皆の衆! 今日は災難だったが、幸いそこの・・・ 名前なんだっけか?」
その言葉に皆がズッコケる。
「楽太郎です」
自己紹介をしていなかった事に今更ながらに気付き名乗ると、威勢の良い返事が返って来る。
「おう!ありがとよ!」
そう言って手を振るボコポ。
「まぁ、そんな訳で、ラクの兄ちゃんが居てくれたお蔭で黒鉄ゴーレムによる被害もなく撤収することが出来た。
皆、ラクの兄ちゃんに感謝だ!」
そう言うと、周りから「ありがとぉ~!」「助かったぜ!」と言った声があちこちから上がる。
改めて礼を言われるのは何だか気恥ずかしいが、悪い気分じゃない。
一通り収まると、またボコポが話し始める。
「黒鉄ゴーレムが現れたのは想定外だったが、皆が無事だったのは喜ばしい事だ。山の女神「キュルケ」様と鍛冶の神「ウェイガン」様に感謝し、今日無事だったことを祝おうじゃねぇか!
幸い明日から2日は休みだ! 今日は無礼講で飲みまくるぞ手前等!!」
「「「「おぉー!」」」」
「それじゃ、乾杯!」
と言う威勢のいい声があちこちから上がり、杯をぶつけ合う音があちこちから聞こえてきた。
周りは皆酒を飲んでいる様だが、俺は1人果実酒を飲んでいる。
そして乾杯が終わったのを見計らったように給仕が料理を各テーブルに運び始め、早い者は2杯目のおかわりを要求していた。
「お待たせしました!」
そう言って俺のテーブルにも料理を運んでれた給仕の女の子に礼を言う。
「ありがとうございます。しかし、お若いのにお家の手伝いとは偉いですね」
「え? いえ、私は雇われの店員ですよ?」
「え?」
そう思い不躾ながら彼女の全身を見直すが、身長は140cmくらいで、童顔。どう見ても可愛らしい小学生かいいとこ中学生くらいにしか見えない。
そんな驚いた顔をした俺を見て得心したのか、彼女が答える。
「お客さん。ひょっとしてドワーフの女を見るのは初めてですか?」
「え?! ドワーフの女性ですか? 確かに見た事は無いですけど・・・」
「やっぱりかぁ」
「ひょっとしてドワーフの方ですか?」
「はい! ドワーフです!」
そう言ってクルリと一回転する女性はどう見ても少女にしか見えないが、意外とノリがいいな。
それにドワーフの女性って髭が生えてると思ってた。
「ドワーフって男の場合、あんな感じでみんなオジサンかお爺さんみたいな顔になるんですが、女の場合、私の様に子供みたいな姿で成長が止まるか、もう少し成長してここの女将さんの様に立派な女性になるんですよ」
そう言って彼女は飲み始めた職人ギルドの面々を指差した後、厨房から料理を運んでる恰幅の良いオバサ・・・じゃなく、愛嬌のある顔をした女将さんを指差した。
ふむ、ドワーフって男の場合、オッサンかジイサンになって、女の場合は少女か熟女かの2択になるって事か・・・
なんでこんな極端なんだ・・・
そんな不条理に微妙な顔をしていると、女将さんから訝しむような視線がこちらの方に注がれていたので女将さんに謝るように頭を下げ、給仕の女の子に時間を取らせたことを詫びると給仕に戻ってもらう。
サボってると思われたかな?
そう思いつつ、俺は女の子が怒られないことを祈る。
その後は周りの楽しそうな賑やかな喧騒をBGMにしながらインディとメルと一緒に食事をする。
インディは流石にデカいので床にお座りの状態でテーブルに置かれた肉にかぶりついている。
サラダや煮込み料理もあるが、肉まっしぐらだ。
メルはと言うと、驚いた事にしっかりと椅子に座って手掴みでテーブルに置かれたステーキを食べていた。
塩で味付けされた肉が思いの外美味かったようで、一心不乱に食らいついている。
煮込み料理やサラダなんかも器用に食べていたが、どれも美味しいみたいだ。
メープルベア・・・甘くなくても美味きゃ良いのか?!
そんなことを考えている間にもテーブルの上の料理が無くなっていく。
これじゃ俺の分がない。
仕方なく追加注文をすると、ボコポが話しかけて来た。
「よう、ラクの兄ちゃん。楽しんでるか?」
「ええ、タダ飯を目一杯食べさせて貰ってますよ。
こいつらも気に入ったみたいで、この通りですよ」
飯にがっついてるインディとメルの頭を撫でると、顔をこちらに向けて来るので、笑い返してやると、嬉しそうにまた飯に没頭し始める。
「そりゃ良かった。喜んでもらえて何よりだぜ」
「こちらこそありがとうございます」
そうタダ飯のお礼を言うと、ボコポも豪快に笑う。
「ガハハハ!いいってことよ!なんせラクの兄ちゃんには助けられたからよ!これ位じゃ釣り合い取れねぇよ」
そう言ってボコポはエールを注文する。
「そう言えばこの店なんですが、なんで真ん中にロープが張られてるんです?
あそこにもテーブル置けばまだ客入れますよね?」
そう言って店の中央に視線を移すと、四方に鉄柱がさしてあり、その鉄柱を繋ぐようにロープが3重に張られ、正方形に切り取られた空間は数段高く、周りと隔絶した空間を醸し出している。
まぁ、分かり易く言い表すと、まるでプロレスかボクシングのリングのようだ。
「ああ、あれか・・・あれはな、乱闘場だ」
ギラリとした視線でボコポが答えるが、こちらとしては何の事やらサッパリだ。
よくわからないと言った表情を読み取ったボコポが言う。
「まぁ、説明するより見た方が早い。丁度始まりそうだしな」
そう言ったボコポの視線の先を追うと、スコティと何人かのドワーフが飲んでいるようだが、どうやらスコティが揶揄われてるようだ。
「兄ちゃんも気づいたか?
だが止めるなよ?
ここからが本当のお楽しみって奴だからな」
元から止めるつもりもないんだが、どう言う事だ?
そう思い、スコティ達を見ていると、あからさまに揶揄っていた1人のドワーフの顔をスコティがぶん殴り、手に持っていたジョッキの中身を一息に飲み干す。
そしてスコティは乱闘場の中に入ると大声で叫んだ。
「ギラン!てめえ勝負しろや!俺が弱いか試してみろ!おぉ?!」
すると、先程スコティに殴られたドワーフ(恐らくギランだろう)が、ムクリと起き上がり、一言吠えてから乱闘場へ駆け出し、飛び込むようにリングインする。
最初はお互い罵声を浴びせまくって乱闘場の中でグルグル回っていたが、ギランが焦れたのか先に仕掛けた。
大振りのギランの拳をスコティが躱すとすかさずギランのバックを取りバックドロップをかます。
食らったギランは痛そうにのたうち回り、それを見てスコティが笑い、罵声を浴びせる。
一通り笑い、気が済んだのかスコティがリングアウトしようとギランに背を向けると、狙っていたのかギランが今度はスコティを投げる。
そして罵声を浴びせつつ、スコティを立たせてロープに向かって投げつけると、今度はラリアットをお見舞いする。
その後も一進一退の攻防を繰り広げ、客席からはヤジか歓声か判別のつかない声が上がり、大盛り上がりとなる。
「なんですかこれ?」
「わかんねぇか?」
「わかりませんよ」
「俺達ドワーフってのは結構頑丈なんだ。なもんで普段の行動も少々荒っぽくてな、言葉より先に手が出るなんて事は日常茶飯事なんだが、酒が入りゃ余計に荒っぽくなっちまう。
なもんで、酒場での喧嘩や乱闘騒ぎなんてのはしょっちゅうでだったんだが、ある時、この街の全部の酒場からドワーフが出禁にされちまったのよ」
「まぁ、毎回店で暴れられたらそうなるんじゃないですか?
修繕費とかも馬鹿にならないでしょうし・・・」
「がはは!全く同じ事を言われたぜ。
まぁ、そんな訳で『こりゃ不味い』って事になったのよ。
俺達ドワーフにとっちゃ酒が飲めないなんて拷問されてるようなもんだ。だからどうにかしようと考えて出てきた苦肉の策がこの乱闘場だ。
酒場で揉め事やいざこざが起きたらこの乱闘場で解決するようにしたんだよ。
暴れる場所を限定してこの乱闘場を作って貰えないかと酒場の連中に交渉してな、乱闘場の設置や工事の負担は全部職人ギルド持ちにするからって必死に頼んだ結果、なんとかOKしてくれてな。
試しにこの店で導入して貰ったんだ。
喧嘩の当事者は本気で揉めてるが、これを見てる方は結構楽しくてな。
今じゃ楽しいイベント扱いになっちまったんだ。」
そう自慢げに語るボコポだが、肉体言語で語るのを止めれば良いだけじゃないか?
「一応、肉体言語で語るのを止めると言う方向には行かなかったんですか?」
「そりゃ無理だぜ。俺達ゃ考えるより先に手が出るし、頭で理解してても行動が裏切りやがる。
それに何より喧嘩するのも楽しくてな、やめられねぇのよ」
そう言って豪快に笑う。なんて脳筋なんだ。
だが、一種のプロレス興行みたいなものと捉えれば面白いと思う。特に喧嘩が好きで本人達も見世物になる前提を理解しているなら問題ないだろう。
荒っぽいじゃれ合いみたいなものかと納得する。
ようやく理解でき、安心?して乱闘騒ぎを見ていると、次第にスコティが優勢となり、スコティがギランを乱闘場外に放り投げて決着が着いた。
観客はスコティの名を呼び、彼を讃えるが、スコティは更に相手を名指しする。
「おう!そこの兄ちゃん! ラークタローとか言ったか?
俺と闘え!
俺だって黒鉄ゴーレムくらい倒せるんだ!
それを横から掻っ攫いやがって!
勝負しろ!」
はぁ?
俺は胡乱な視線をボコポに向けると、彼は頭を抱える。
「あちゃー、やらかしやがった。
すまねぇ、無視してくれ。俺がなんとかする」
そう言ってボコポが乱闘場に行こうとするが俺が止める。
周りも盛り上がってるし、ここで引いて舐められるのも今後を考えると避けた方が良いだろう。
荒くれの中じゃ、それなりの力を見せる必要もある。と俺は思っているし、今回の件は丁度良い機会だと判断したのだ。
「まあまあ、ここは俺に任せてください。
指名されたのは俺ですから」
「いや、あんたがやったらあいつが死んじまうぜ」
「手加減くらいできますよ、まぁ見てて下さい」
困った顔をするボコポに軽く返事をすると俺は乱闘場に上がった。
「逃げずによく来たな!」
威勢のいい声で俺を挑発するスコティ。
これは負けていられないな。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。
それで、どの位やればいいんです?」
「どの位だと?」
「ええ、どの位あなたをボコボコにすれば実力差に納得出来ますか?」
そうしれっと挑発すると、スコティの顔が見る見る赤くなる。
「貴様ぁ!ぶっ殺してやる!」
そう言うが早いか、スコティが襲い掛かって来るが俺は慌てず半身をずらして躱すと、スコティの腕を取って軽く捻り投げ飛ばす。
投げられたスコティは何をされたかわかっていないようで、呆然としている。
「もう終わりですか?」
にこやかに笑ってやると、思い出したようにこちらを向き一声吠えて向かってくる。
猛牛の様に突っ込んでくるスコティを最小限の動きで躱し、離れ際にスコティに少し手を加えて投げ飛ばす。
傍から見ているとまるでスコティが勝手に吹き飛んでいる様にしか見えないだろう。
そんな事を5回ほど繰り返すが、スコティはまだまだ元気だった。
「ドワーフってのは中々にタフですね。これだけ投げられても全く堪えた様子が無いとは・・・」
「ぬかせ! あんたこそどうやって投げてんだ?
まったくわかんねぇぜ」
そう言ってこちらを睨んでくるが、その表情はどこか笑っている。
喧嘩好きってのは間違いないだろう。
スコティも学習したのか、距離を取りじっと構えてどう攻めるか考えている様だ。
そんな感じで対峙していると、観客よりヤジが飛ぶ。
「どうしたスコティ! さっさとやっちまわねぇか!」
「兄ちゃんも構えてねぇでサッサと行けよ!」
「うるせぇ! 黙ってろ!」
「なんだとぉー! てめぇ後で勝負しろや!」
「これが終わったら叩きのめしてやっから待ってろ!」
「おいおい、それよりそこの兄ちゃんに勝てんのか?」
「「ちげぇねぇ! ギャハハハハ」」
「うるせぇ!」
そんなヤジに悪態を吐きながらもジリジリとスコティがにじり寄ってくる。
どうやら突っ込む勢いを利用されてるのには気付いてるようだ。
「今度は取っ組み合いですか?」
「あぁ、無暗に突っ込んでも投げられるだけだからな」
中々考えているようだが、それも甘いと言わざるを得ない。
距離が縮み俺の腕を取るスコティだったが、俺は掴まれた手を軽く捻りまたもスコティを投げ飛ばす。
投げられた姿勢で固まるスコティ。
「どうしました?」
そう声を掛けると、スコティは我に返り掴んだまま離さなかった俺の腕を引っ張りグラウンドに持ち込もうとする。が、今度はその勢いを利用してスコティの腹に膝を落とす。
「ぐぇっ!」
カエルの潰れた様な呻きを漏らし、蹲るスコティ。
その姿に観客からヤジや笑い声が聞こえる。
その声に答える余裕もないのか、スコティは起き上がった後も腹を押さえている。
少しはダメージが入ったようだ。
「それじゃ、そろそろ決めさせてもらいますか」
「なんだと?!」
その声を合図に俺はスコティをロープに投げ付けると、反動で戻って来たスコティの胸にラリアットを叩き込む。
一応、頭や首だと危険そうだから止めておいた。 力加減間違えて首が飛んだりしたら堪らない。
これまでの手応えからある程度手加減したラリアットであったが、予想に反してスコティが場外へと吹き飛んで行った。
「「「「スコティィィィィ!?」」」」
・・・ちとやり過ぎたかな?
内心冷や冷やしながらも、表情は変えずに乱闘場から出ようとすると、野次馬の中から声が掛かる。
「まてや兄ちゃん! 今度は俺が相手だぜ!」
そう言って1人のドワーフが乱闘場に入ってくる。
どっかで見た覚えが・・・
「失礼ですが、何処かで合いましたっけ?」
「ディルボだ! 忘れてんじゃねぇ!」
「はて・・・」
「黒鉄ゴーレムと戦った時一緒に居ただろうが!」
「あぁ! ・・・居たような気がします」
ノリよくズッコケるディルボだったが、正直よく覚えてない。
「なんて野郎だ! だが、まぁ何でもいい! 俺とも戦って貰うぜ! あん時ゃ足手纏い扱いされたが、それはあんたの間違いだって思い知らせてやるぜ!」
こちらを睨みながらもやはり嬉しそうな表情でそう言うディルボ。
「今の戦い見てもですか?」
「・・・単に強いあんたと戦いたいだけだ」
素に戻った声でぼそりと呟かれたが、しっかり聞こえた。
単なる戦闘狂じゃねぇか!!
「仕方ないですね・・・それじゃ「「「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」」」」
場外から更に声が上がり複数のドワーフが乱闘場に上がる。
「俺達にも闘わせろや! こんな楽しい喧嘩に乗らねぇ訳には行かねぇぜ!」
なぜにバトルロイヤルに・・・
「はぁ、それじゃ面倒なので1つだけルール提案しても?」
「「「「「どんなだ?」」」」」
「この乱闘場から出たらリングアウトって事で負けと言うルールはどうです?」
「「「「「異議なし!」」」」」
そんな声が乱闘場の内外から聞こえ、乱闘場にドワーフ達が集まってくる。
「ちょ! そんなに乱闘場に入れないですよ?!」
「ふむ、それじゃ、誰か落ちたら入れ替わりで入る事にしようぜ」
って、乱闘場の上にいる奴だけ相手するんじゃないのか?!
「それなら俺達も闘えるぜ! じゃぁ、場外の奴等は入る順番決めるぞ」
誰かわからないがそんな提案がされると、好都合とばかりにドワーフ達が勝手に納得してしまい、場外の奴らはジャンケンかな?なんかそんな感じの事をやって順番を決め始めている。
はぁ、どうしてこうなった?
そうは思うが、よくよく考えれば調子に乗ってしまったのは自分だ。
始まってしまったものは仕方ない。毒を食らわば皿までって奴だ。
みんな纏めて相手してやる!
「ボコポさん! 合図お願いします。1度リングアウトして戻ってくる人が居ないように見ててください」
何気にボコポを指名して暗に審判役をやらせる。
「おう! わかったぜ!そんじゃ手前等! 準備は良いか!」
「「「「「おう!」」」」」
「んじゃ、始めぇぇぇぇぇ!」
そうボコポが合図するとドワーフたちは俺を囲むように乱闘場の隅に移動し、腰を落としたかと思うと同時に襲い掛かって来た。
最初に名乗ったディルボとかいう奴も同調して襲ってきている。
格好良い事言っといて数で攻めようだなんて、なんて卑怯な奴なんだ!
俺はディルボに狙いを定めると突っ込んでくるディルボに向かってダッシュし、位置を入れ替える様にディルボを躱して背中を押してやると、俺の代わりに他の4人からのタックルを喰らって貰う。
4方向からの舌打ちとディルボの苦悶の声が聞こえ、タックルを喰らったディルボが頽れる。
これで1人脱落か・・・ いや、これを使おう。俺は未だ固まっているドワーフ達に近付くと元気な4人が四方に散って距離を取る。
俺はそれに構わず蹲っているディルボの両足を脇に抱えるとそのまま振り回し、距離を取ったドワーフの一人に狙いを定めてディルボを放り投げた。
距離を取っていたドワーフは驚きと共にディルボの直撃を受け、そのまま乱闘場の外へと転がり落ちて脱落。ディルボもそのままの勢いで場外へと消えて行った。
場外に落ちた2人を確認するとディルボは少々痛そうにしているが問題なさそうだし、もう一人のドワーフもピンピンしてる。
ドワーフ半端ないな。ははは。
自然と洩れた笑いに、この状況を楽しみ始めている自分に気が付く。
本気の闘いではあるが、命の取り合いではない。一種のじゃれ合いだ。
それが気を楽にしてくれたんだろう。
俺は動きの速さをドワーフ達に合わせると、体術の基本である体捌きのみで4方向から来る攻撃を捌く。
意図的に反撃は控え、躱すことに専念し、体の動きを確かめる様に慣らしていく。
「お、おい、あの兄ちゃん。一発も貰ってねぇぞ? どうなってんだ?」
「それより、何で当たらねぇんだ? 特別動きが速いようには見えねぇぜ?」
そんな声が観客から零れるが、俺は更に躱すことに没頭する。
「ち、ちくしょぉぉぉ! 何で当たんねぇんだ?!」
「俺が知るか!! とにかく攻撃し続けろ! 奴が疲れるまで攻撃し続けるんだ!」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
そんな声と共に絶え間なく拳や蹴り、またはタックルなど、様々な攻撃が来るがそれらを全て逸らし、躱し、いなす。
建御雷様との組手に比べれば児戯にも等しいやり取りだが、あえて自分の動きに制限を掛ける事で難度を上げる。
そうしてようやく体が温まったところで反撃に転じる。
攻撃されないと思って大分大振りになっていた攻撃を躱し、置き土産にと足を引っ掛けて転がし、そのまま乱闘場から蹴り出す。
結果は見ずに襲いくる別のドワーフの拳を躱し、腕をつかんで投げる。
それを見て一瞬棒立ちになったドワーフの首を腕に引っ掛け、斜め上方向にラリアットの要領で打ち上げ場外へと吹き飛ばす。
ようやく乱闘場から脱落する者が出始め、場外で見守っていたドワーフ達が次々と乱闘場に駆け上がる。
そしてそれらを次々と屠り、俺に群がるドワーフを場外へと投げ落とす。
次第に俺の一人舞台となった乱闘場を見守る観客からは声が消え、固唾を飲んで見守っているような感じになっていた。
俺はそれからも次々と群がるドワーフ達をいなし、拳を叩き込んで場外へと飛ばす。勢いよく突っ込んで来る奴は勢いをそのまま利用してリングアウトさせる。
動きを止めず、流れるような動きはまるで演舞のようにも見えるが、俺が舞うごとに次々とドワーフが宙を舞う。
その様子は圧巻の一言に尽きるだろう。
そうしてようやく終焉の時が訪れた。
気付くと最後に残っていたのはボコポだった。
「・・・あんた見守ってたんじゃないのか?」
「へへへ、わりぃな! 途中まではそうだったんだが、血が騒いじまって抑えられなかったぜ!」
「抑えられなかったじゃねぇぇぇぇ!」
そう言って最後の1人にドロップキックをお見舞いし、ボコポは華麗に宙を舞った。
唐突に終わりが訪れた乱闘場で、1人立ち尽くしていると、一瞬遅れて歓声が湧いた。
俺は歓声に応えるようにガッツポーズをとると乱闘場を後にしてインディとメルが居る席へと戻った。
「やるじゃねぇか」
俺が席に戻り、果実水を飲んでいると開口一番ボコポがそう言って俺の背中を叩いた。
「・・・どうも」
ジト目で見返し、控えめに答える。
するとボコポはバツが悪そうな顔で頭をかいて軽く謝って来た。
「すまねぇな。ドワーフとしてこんな楽しいお祭り騒ぎにゃ乗っからねぇのは勿体無いと思っちまってな!
まぁ、侘びとしてこれでも飲んでくれや」
そう言って盃を差し出す。
「なんですこれ?」
「エールだぜ」
「酒じゃないですか」
「そうだが、何か問題か?」
「お酒って苦手なんですよ。下戸って程じゃないんですけど弱いんですよ。
それに苦いから美味しいとは思えないんです」
「ふむ、なるほどな。あんだけ強ぇ兄ちゃんにも弱点はあった訳だ」
「弱点って言う程でもないと思いますが、確かに苦手ですねぇ。あ! そうだ!ボコポさん。ちょっと頼みがあるんですが、良いでしょうか?」
「頼み?なんでぇ?」
「ちょっと手に入れたいものがありまして、出来れば売っている店を教えて欲しいんですよ」
「それは構わねぇが、何が欲しいんでぇ?」
「実は・・・」
そんな感じで夜が更けて行くのであった。
因みにインディとメルは満腹になったのか穏やかな表情で居眠りをしており、ドワーフ達は楽太郎が居なくなった後も乱闘場でバトルロイヤルをしたり、酒を飲んだりと、宴会を続けていた。
と言う事で、こんな感じなんですが、どうでしょう?
相変わらず中々話が進まない・・・