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第67話 念願の!

 10階層に到着すると、俺は目の前の光景に驚いた。


 何故ならば、10階層に到着した途端、キンキンカンカンと、あちこちで壁を掘る音と共に「ハイホー!ハイホー!トート・カ・ル・チョッ!」と言った掛け声が大音量で聞こえ、あちこちでツルハシを一心に振る男や、鉱石らしきものを担架で運んだり、ゴーレムらしきものとツルハシで戦ってる男達がいたりと、まるでお祭り騒ぎのような光景が飛び込んできたからだ。


「な、なんだこりゃ?!」


 正直、ダンジョンの中なのに採掘場に来たかのような錯覚を覚える。


 俺は辺りを見回し、座り込んで休憩しているらしき背の低い男、恐らくドワーフだろう。に声をかける。


「すいません。ここってダンジョンの中ですよね?」


「あん? 何言ってんだあんた?

 ここがダンジョン以外何にみえるんだ?」


 そう言って振り返ったドワーフの男はインディとメルを見て一瞬固まるが、装具を見て従魔だと判断したのだろう。

 表情を緩めてこちらに問いかけるような視線を向ける。


「いえ、この光景を目の当たりにして、ダンジョンか採掘場かわからなくなってしまいまして・・・」


「あぁ、あんた、ここ来るの初めてか?!」


「ええ、まあ・・・」


「なるほど、それなら仕方ねぇか。

 ここはな、ダンジョンなんだが、普通とはちょっと違うんだ。

 普通のダンジョンと違ってこのダンジョンはな、壁を掘ると鉱石がでるんだ。

 だから俺達職人ギルドのメンバーが採掘してんだよ」


「魔物も出るんですよね?」


「おう、出るぜ! ただ、10階層だと(マッド)ゴーレムがメインで、偶に(アイアン)ゴーレムが出る。

鉄ゴーレムまでなら5、6人いりゃ、俺達でも倒せるから問題ない」


「それでも危険じゃないですか?」


「普通の鉱山だって崩落や毒ガスや窒息なんかで常に危険に晒されてんだから変わんねーよ」


「なるほど、危険の方向性が異なるだけで、どちらも危険な事には変わりないんですね」


「まぁ、こっちの方が何とかできる可能性がある分まだマシだな」


「なるほど、でもこれだけ大々的に掘ってると魔物が集中的に湧くんじゃないですか?」


「さっきも言ったが、その程度なら俺達でも倒せるから問題ねぇ。

 ただ、更に掘り続けると黒鉄(ブラックアイアン)ゴーレムが湧くことがあるんだ。

 黒鉄ゴーレムとなると鉄ゴーレムより更に硬い上に動きもそれなりに速くなるから俺達じゃ逃げる事しか出来ねぇ。

 そうなると討伐されるかダンジョンの下層域に行くのを待つしか手は無くなるんで、一応その手前を見極めて掘り効率を最優先にしてんだよ」


 ドワーフは自慢げに話してくれた。


「うーん。そうなるとここで掘るのは難しいですかね?」


「あん? あんた掘りに来たのか?」


「えぇ、そうですけど?」


「悪りぃが、今回10階層から12階層までは俺達職人ギルドが占有しちまってるぜ?

 掘るならもっと下の階層に行ってくれねぇか?」


「占有って事は独占しているって事ですか?」


 余所者には掘らせないって事なら、それなりの手段を用いる必要があるな。

 幸い、休憩していたこのドワーフのオッサン以外はレベルが20台前半程度、今の俺なら軽く捻るくらいは出来る。

 直接的に何かしなくても掘りまくれば黒鉄ゴーレムとやらが出て勝手に逃げ出してくれるんだし、方法は幾らかあるだろう。


 質問しつつ、そう黒い思考に没頭しかけていると返事が返ってくる。


「独占してるわけじゃねぇんだが、一応暗黙のルールってのがあってな、基本的に先に掘ってる奴の邪魔はしないのがルールなんだ。

 俺達は団体で行動しているが、常に掘ってるわけじゃねぇ、基本的には朝から夜になるまで掘ってるから俺達が撤退した後に掘ったり、俺達より朝早くから掘ってれば俺達はそこ以外の場所を掘ることになる」


 ふむ、なるほど。そう言う事なら他の階層に行って掘るしかないか。


 暗黙のルールは早い者勝ちって事だろう。


 それに人海戦術で一時的に占拠していても常に占拠している訳でなければ問題ないか・・・


 そう考えた後、これまでの階層で他の冒険者とすれ違った覚えがない事を思い出した。


「そう言えば、上の階層で誰にも出会わなかったんですが、どうやって鉱石とか運んでるんですか?」


「うん?そりゃポータル使ってに決まってんだろ!」


「ポータル?・・・って、何です?」


「あんた、そんな事も知らずにダンジョン潜ったのか?!

 ポータルってのは10階層毎に設置されてて、1度ポータルを利用すると次からはポータルでその階層にすぐ行けるようになるんだ」


 呆れた声で説明されたが、返す言葉が無い。ダンジョン入口でも聞かなかったし、そんな便利機能があったとは念頭にも無かった。


 これは他にも何かあるかもしれない。


「そ、そうなんですね。

 そうなると、他にも何かあるんですかね?」


「10階層毎にポータルがあるんだがな、ポータルのある部屋の次の部屋がボス部屋になってんだ。

 つまり階層ボスが10階層毎に存在してて、倒さねぇと次の階層に行けねぇんだ。

 因みに10階層のボスは鉄ゴーレムで、20階層は(シルバー)ゴーレム、30階層は(ゴールド)ゴーレムだな、その後の階層もゴーレムが殆んどだが、正直ボス戦はあまり旨味がねぇんだ」


「ドロップアイテムに魅力が無いんですか?」


 普通、ボス戦ってのはそれなりの旨味があるはずなんだがな?


「それもあるんだが、何分ゴーレムってのは硬ぇのよ。斬撃は殆んど効かねぇし、打撃も殆んど効かねぇ、おまけに魔法も雷撃以外は殆んど効かねぇと来たもんだ。

 おまけに下の階層に行けば行くほど硬くなって攻撃が通り(にく)くなってくし、その上動きも早くなる。

 そんな厄介なのを相手にするより掘ってた方がよっぽど楽で儲かるのよ」


 確かに。話を聞く限りでは余程厄介なのだろう。何かを思い出したのか嫌そうな顔をしている。


「そうなると繰り返しボスに挑むことはしないんですね」


「おう、殆んどしねぇ。せいぜい新人を下層で働かせる時に通過する必要があるから戦わせるくらいだな。

 ここのボスならあそこの扉の先にいるぜ、もちろんポータルもあるから忘れずに1度使っておくことをお勧めするぜ」


 そう言われ、ドワーフに言われた先を見てボス戦に意識を向けると、突然野太い悲鳴が上がった。


「どうしたぁ?! 何があった?!」


 休憩していたドワーフの男が声を張り上げると、返事が返ってくる。


「親方ぁ! 黒鉄ゴーレムが出ましたぁ!!」


「なにぃ?! 奴が出るにはまだ余裕があっただろぉ?!」


「どうやら夜の間に大分掘ってた奴が居たみたいでさぁ!」


「ちっくしょぉがぁ! エッポ! お前ぇは皆の避難誘導をしろ! スコティ、ディルボは俺に付いて来い! 奴の足止めすんぞ!」


「「「へい! 了解でさぁ親方!!」」」


 そう声を張り上げるとドワーフの男はツルハシを担ぎ上げて駆けて行く。


 俺も黒鉄ゴーレムがどれ程の強さか気になったので後を付いて行く事にした。







 ドワーフの後を追って少し進むと黒い塊が見えてきた。


 近付くにつれ、次第にその威容がハッキリとして来る。


 全長は4メートル位だろうか。頭が天井に届きそうだ。それにゴーレムと言われてゴツゴツした感じをイメージしていたが、金属製のゴーレムの所為か表面はつるりとして滑らかそう。

 これだとゴーレムと言うより金属生命体と言われた方がしっくりくる感じがする。

 それにフォルムが全身タイツを来たボディビルダーで黒光り・・・というか、なんかテカテカしてて近寄りがたい。


 そんな事を考えていると、ドワーフ3人が奴に突っ込む。


「あッ?!」


 と声を出すのが速いか、いきなりその内の一人のドワーフが蹴り上げられ吹き飛ばされる。


「「「スコティィィィィ!?」」」


 このまま落下すると危険だ。そう思い俺は吹き飛ばされたドワーフを空中でキャッチすると同時にヒールを掛ける。


 一応、いろいろ教えてもらった恩があるしな。借りは早めに返しておくに限る。


「あんた、回復魔法が使えるのか!?」


 親方と呼ばれていたドワーフが問いかけてくるが、俺は視線を黒鉄ゴーレムに移して声を掛ける。


「そんな事より目の前のデカ物に集中してください。

 気を抜くとやられますよ?」


「お、おう・・」


 親方ドワーフは何か言いたそうにしていたが、即座に黒鉄ゴーレムに向き直った。


「それと、そっちの、えーと、チル〇だっけ? あんたは足手まといになるからこの伸びてる奴を抱えて避難してください」


 そう言いつつ黒鉄ゴーレムに牽制の蹴りを叩き込むと、黒鉄ゴーレムがよろめく。


「なんだと?!」


 怒りよりも先に驚きを露わにするドワーフに更に声が掛かる。


「ディルボ! 言われた通りにしろ。どうやらこの(あん)ちゃん。よっぽどの修羅場を潜ってるようだ」


 そう親方ドワーフが言うと、ディルボは素直に引き下がった。


 ディルボは持ってたツルハシを手放すとスコティを担ぎ上げ、走り出す。


 その後を追おうと黒鉄ゴーレムが動き出すが親方ドワーフがツルハシで足元を牽制し、俺が腹を殴り付けて浮かせる。


「兄ちゃん。あんた異常だぜ?! 普通黒鉄ゴーレムを素手で殴って浮かせるなんてできねぇぜ?」


 親方ドワーフは俺を化け物でも見る様な目で言って来るが、正直、そんな余裕はない。


 黒鉄ゴーレムを浮かせたついでに「鑑定」してみたんだが、奴はかなり強かった。





----------------------------------------

名前 :-

性別 :-

年齢 :0

種族 :黒鉄ゴーレム

称号 :-

レベル:55


ステータス

 HP : 2290/2300

 MP : 66

 STR : 1800

 VIT : 4000

 INT : 60

 AGI : 560

 DEX : 175

 MND : 65

 LUK : 56


特記事項





 こりゃ、かなりやばい。物理特化でVIT4000って・・・


 蹴りと突きでHPが10しか減ってない。


 おまけに殴った拳が少し痛い。


 槍を使う事も考えたが、斬撃は効き難いと言ってたし、神様謹製だから職人の前ではあまり出したくない。


 と言う事で、今回は拳で語る事にしよう。


「インディ、メル。親方さんを守ってくれ、俺はあのデカ物を殺る。

 親方さん、その2匹と一緒に少し下がっててください」


 そう言うと2匹の従魔一声吠えて俺の周りから距離を取る。


 親方ドワーフも黒鉄ゴーレムを警戒しつつ、ゆっくりと下がって行く。


 俺は2匹と1人が離れると、一度脱力し、気を張り直して闘気を纏う。


 更に硬気功にて手足を強化、深く息を吸うと、意を決して黒鉄ゴーレムに向かって突進する。


 黒鉄ゴーレムも俺の突進に合わせて殴り掛かって来るが、俺からすれば鈍重な動きなので素早く躱し、懐に入ると拳を連打する。


 先程よりも強烈な拳の連打が黒鉄ゴーレムを後退させ、壁際まで追い詰めるが、黒鉄ゴーレムは何の痛痒も感じていないのか、お構いなしに殴り付けようとしたり、蹴り上げようと足を振り上げる。


 その度に俺は一旦離れ、鑑定でHPの減りを確認するがHPの減りは少ない。


 ふむ、直接的な打撃ではやはりあまり効かないようだ。


 俺は襲いくる黒鉄ゴーレムの攻撃を躱しながらどうしたものかと考え、1つ思いついた事を試すことにした。


 俺は黒鉄ゴーレムの攻撃を躱しながら気を練る。


 臍から指3、4本くらい下あたりにある丹田に力を溜める様な感じだ。


 気が十分に練りあがったのを感じた瞬間。俺は黒鉄ゴーレムの懐に潜り込み右掌を突き出し、練った気を放つ。


「浸透勁・透徹!」


 俺の攻撃から一呼吸遅れてギシィィィィッと言う金属が激しく擦れたような音がすると、黒鉄ゴーレムは(くずお)れる様に倒れ、動かなくなった。


 2、3回足先でつつき、動かないことを確認すると、俺は「無限収納」に黒鉄ゴーレムを放り込むと、黒鉄ゴーレムの巨体は一瞬にして消え去り、「無限収納」に収まった。


 これは俺が試してみたかったことの1つだ。


 ダンジョンの魔物は倒すとドロップアイテム魔石以外は消えてしまう。


 俺が訊いた話ではどれも同じダンジョン内に存在する状態のお話だったのでひょっとして別空間に放り込んでダンジョンから持ち帰れば消えないのでは? と思ったのだ。


 マジックバックに入れても消えるらしいが空間的にはダンジョンと繋がっているから消えるんじゃないかな?と思ったのだ。


 もし俺の仮説が正しいとなると、4メートル級の黒鉄ゴーレム1体分の黒鉄が手に入る。

 これはとても美味しい事になる。


 もし「無限収納」から消えていても元々消えるのだから魔石1つとドロップアイテム1回分を損しただけで、被害と言う程の事でもない。


 ただ、その光景を親方ドワーフが見ていた。


「あんた、滅茶苦茶強ぇぇな・・・」


 どうやら俺の強さに驚いただけで、消えた黒鉄ゴーレムの事は眼中になかったようだ。


「そうですか? まぁ、あれくらいなら何とかなったってだけですよ」


「いやいやいやいや! 普通あんな化け物素手で倒せねぇから! ありえねぇから!!」


 ふむ、参ったな。このドワーフ。どうやって黙らせよう・・・


「ところで・・・えーと、お名前なんでしたっけ?」


「ボコポだ」


「ボコボコさん?」


「ボコポだ!!」


「ポコポコさん。ちょっと相談があるんですが、いいですかね?」


「ボコポだ! って、相談だと? なんでぇ?」


「実は私はある鉱石を探していまして、あなた達が採掘した鉱石を見せて欲しいんですよ。

 そして、出来ればわけてもらえませんかね?」


「なんでぇ、そんな事か。それなら好きにしな!

 俺達は今逃げ出したんだ。ここにあるものは誰のものでも無くなってんだ。

 兄ちゃんが全部持って行ったって誰も文句は言わねぇよ」


 あぁ、そう言えばそう言う事になってたっけ、ダンジョン内では法律が意味を為さない無法地帯だった。

 しかし、個人的感情がそれを善しとしない。


「そうかもしれませんが、一応、断りだけでも入れておかないと後で恨まれても困りますからね。

 円滑な人間関係を保たないと後ろから刺されることになりますしね」


 そう言って笑うと、ボコポもニヤリと笑った。


「違ぇねぇ。そいじゃ、兄ちゃんの言葉に甘えさせてもらうか、兄ちゃんの目的の鉱石があったらそれらは持って行っていいぜ。

 黒鉄ゴーレムが居たら2週間くらいは商売上がったりだったからな」


「ありがとうございます」


 俺はお礼を言うと、ボコポについて歩き、集められた鉱石を見るが、肝心の物が見つからない。


 ふむ、やはりこっちの世界じゃないのかな?


 そう思い掛けていたところで、ふと別にされている鉱石の山が目に入る。


「すいません。 あっちの山はなんですか?」


「うん? あぁ、あれか? あれはゴミの山だな。一応鉱石と判別して使い道のない単なる石はゴミとして分けてあるんだ」


 その言葉を聞き、俺は吸い寄せられるようにそのゴミの山に近付き、片っ端から「鑑定」を使いまくる。


 次々と鑑定を行い、ハズレを放り投げては更に奥の石を鑑定し、遂に見付ける。






----------------------------------------

名前 :トローナ石

効能 :別名 重炭酸ソーダ石

   :これを精製すると重曹となるが、

   :この世界ではまだ使い道のないゴミ扱いをされている。

   :

   :







「み、見付けた・・・いとしいしと!」




サイダーか、レモンスカッシュ位なら作れるかな?

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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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