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第65話 ダンジョン都市ウェルズ

 ダンジョン都市ウェルズ。


 ようやく目的地に辿り着いた俺は、街門で門番をしている衛兵に身分証であるギルドカードを提示しつつ、尋ねる。


「お疲れ様です門番さん」


「おう、兄ちゃんはこの街初めてか?」


「はい、軽い腕試しと質の良い武器を求めてこの街に来たんですが、少々お腹が空いてまして、何処か美味しい御飯を出してくれる店を教えてもらえませんか?」


「あぁ、いいぜ」

 そう言って笑顔で店を教えてくれた。


「この門を抜けて、真っ直ぐ歩くと右手に剣の看板が出てる武器屋が見えて来る。

 その店がある辻を左に曲がって3軒目に『山の女将』って言う食堂があるんだが、そこの店で出てくる料理は絶品でな、本当に美味い。

 それに従魔にも寛容でな、食堂にも従魔が入れるから安心だろ?」


「へぇ、それは良い所を教えてもらいました。ありがとうございます」


 そう言って頭を下げて街の中へと進むと、後ろからヒソヒソ声が聞こえた。


「先輩、あの少年。あんな可愛い従魔を従えてるなんて、そっち系の趣味でもあるんですかね?」


「さぁな、ただ、あのクマはかわいいと思うぞ? 見てるだけで癒される。

 あんなのに懐かれたら従魔にするしかないんじゃないか?」


「・・・確かに。そうかもしれませんね。

 なんだか僕も心が癒される気がします」


 そんな感じで門番の視線がメルとインディに注がれていた。


 因みにメルはインディの背中に乗って居眠りしている。


 偶々門番の衛兵さんがクマ好きだったのかな? 見た目がクマの〇ーさんだしな・・・


 と思っていたんだが、どうも違ったようだ。街の中に入っても周りの反応は微笑ましいものを見る様な、ほのぼのとしたものばかりでなんだか冒険者で賑わう街のイメージが崩れてる気がする・・・


 俺の所為じゃないよな?


 子連れの親子が笑顔でこちらを見て、子供が「ママー!あれ、かわいいね! 私も欲しい~」と言っているのを見せられると、正直どう見られているのかと恥ずかしくなる。


 こっちの世界の人達はファンシーなものに耐性が無いのか?


 こんな羞恥プレイになるとは・・・ 今後はメルと歩く時の対策も考えないといけないかもしれない。


 そんな事を考えつつ辺りを見回すと、強面の冒険者風のオッサンもこっちを見てにこやかに笑っている・・・


 何とも言えない羞恥に耐えつつ教えてもらった『山の女将』亭まで歩いた。






 目的の『山の女将』亭までやってくると、俺は扉を開いた。


「いらっしゃい!」


 と言う威勢のいい女性の声が聞こえた。


「すいません。ここは『山の女将』さんでしょうか?」


「そうだよ。お兄さん。飯かい?」


「えぇ、お願いします。 ただ、従魔もいるんですが大丈夫ですか?」


「あぁ、構わないよ。冒険者で従魔を連れてる奴は珍しいが居ない訳じゃないさね。

 空いてる席に座ってちょうだい」


「ありがとうございます」


 そう言ってインディとメルを連れて適当な席に着く。


「それでお兄さん。何にするんだい?」


「そうですね・・・ それじゃぁ、ここのお勧めでお願いします」


「はいよ。 それで従魔の方の飯は何にするんだい?」


「従魔の飯も出して貰えるんですか?」


「うちは食堂だからねぇ、店に入った時点で従魔もお客だよ。まぁ、従魔の飯まで出すのはうち位だけどね」


 そう言ってニッコリ笑う女将さん。 中々豪快な性格のようだ。


「それじゃぁ、インディ・・・こっちのフォレストウルフには肉メインでお願いします。あ、玉ねぎ系は使わないようにお願いします。

 メル・・・こっちのクマは何か甘いものがあればお願いします。あと肉もお願いします」


 一応、異世界ではあるが犬に玉ねぎはアウトの可能性があるので避けてもらう。

 メルについては・・・クマって雑食だったよな? ドングリとか鮭とか蜂蜜とかなんでも喰ってるイメージがある。


「はいよ。 肉は了解したよ。 ただ、甘いモノって言われてもねぇ・・・ ちょっと高いけど果物でもいいかい?」


「ええ、お願いします」


 俺はそう言って即答した。


「それじゃ、少し待ってちょうだいな」


 そう言って店の奥に注文を届けに行く女性・・・女将さん。でいいか。


 そうして暫らく店内でのんびりしていると女将さんが料理を持ってやってきた。


「はい、お待ちどうさま~!」


 そう言って並べられた食事はどれも美味そうだ。


 皿からこぼれそうなほどに盛られたサラダやポトフのような鍋物も一人前にしては多い。

 それ以外にも黒パンやソーセージ等もかなり多く感じる。


「これ1人前ですか?」


「ああ、そうだよ」


「かなり多いですよね?」


「あぁ、そうか、お兄さん。余所の国の人だね?」


「え?えぇ、そうですけど?」


「なんでわかったんです?」


「この街はダンジョンのお蔭で冒険者が沢山いてね。

 何故か知らないが冒険者ってのは大食いの奴が多くてさ、誰も彼もが普通の一人前じゃ足りないってんで、この街の飲食店は冒険者の食べる量に合わせて一人前を盛ってるんだよ。

 だから普通の人はこの街じゃ『半人前で』って言うんだよ。

 国内じゃ結構有名な話らしいんだけどね、それを知らないって事は、大抵余所の国から来た人達って事になるのさ」


 と得意げに説明してくれた。それにしても一人前がこんな量じゃ、あんまり儲からないんじゃないか?と思って聞くと、


「大丈夫。料金もその分盛ってるからね」


 そう言って女将さんは快活に笑った。


 周りを見ると、飯時から外れた時間なのか、客があまりいない。


 話好きそうな女将さんなのでちょっとこの街の事を聞いてみるか。


「よそ者と見破られたついでに、この街の事も教えてもらえませんか?」


「まぁ、今は客が少ないからいいけど」


 辺りを見回し、客の数を確認する女将さん。了承してくれた様だ。


 そして俺はこの街にダンジョンが出来た経緯や、ダンジョンについての情報を聞くことにした。












 女将さんの話では元々は普通の鉱山だったそうだが、300年ほど前に鉱脈が尽きかけた事がある。


 このままでは街が成り立たなくなると、山の女神「キュルケ」と鍛冶の神「ウェイガン」に街の住人が祈りをささげると、それぞれの加護を受けた巫女に神託が下った。


 神託は以下の文言でそれぞれの巫女に下ったそうだ。


----------------------------------------------------------------------------


 真摯な願いを受け、汝らに試練を課す。


 我らが手を差し伸べる時、悪魔も又、汝らに災厄を招く。


 これより10日の後、ウェルズの鉱山に神のダンジョンを授ける。


 神のダンジョンにて死する時、強者なれば(レベル)は落ち、入口にてその身は再生されるであろう。


 弱者なればその身は帰らぬ。全てはダンジョンの藻屑と帰すだろう。


 心して掛かれ。




 これより10日の後、ウェルズの鉱山に悪魔のダンジョンが出現する。


 速やかに最奥にあるコアを破壊し、消し去れ。


 悪魔のダンジョン内で死する時、その身は帰らぬ。全てはダンジョンの藻屑と帰すだろう。


 心して掛かれ。




 ダンジョンは成長する。


 どちらのダンジョンも放置せし時、ダンジョンは暴走し、汝らに牙を剥くだろう。


 努々(ゆめゆめ)忘れる事なかれ。


----------------------------------------------------------------------------










 これにより神と悪魔のダンジョンがそれぞれウェルズの街に誕生し、それらのダンジョンから(もたら)される鉱石や資源によりこの街は繁栄してきた。と言う事らしい。


 更に女将さんからの情報によると、なんでも神のダンジョンで死ぬとレベルが10下がって復活するそうだ。

 どこかの蘇生魔法のようだな、つまりレベル10以下の者がダンジョン内で死ぬと復活できないと言う事だ。


 昔どこかの馬鹿がレベル10にも満たないのに神のダンジョンに入ってそのまま死んだ事があり、「弱者は復活できない」と言う事が事実であることが判明したんだと。

 それ以降は神のダンジョンに入る条件として「レベルが11以上ある事」となったそうだ。

 因みに従魔もレベルをクリアしていればレベル低下はするが復活するらしい。


 他にもダンジョンの魔物を倒すと、5分くらいで核になっている魔石と時々ドロップするアイテム以外は消えてしまうそうだ。

 なんでも解体したり袋に入れたり、マジックバックに入れても全て消えてしまうのでどうにもならないらしい。


 あと、ダンジョン内の壁や床・天井なんかは鉱石が埋まってる事があり、掘ることも可能らしい。

 しかも数日すると綺麗に元通りになるので鍛冶師は非常に重宝するらしいが、同じところを掘り続けると魔物がその周辺に頻繁に出没するようになるので連続ではあまり掘らないのがダンジョン掘りの鉄則だそうだ。


 それに浅い階層では鉱石は取れないらしい。

 銅や鉄の鉱石が掘れるようになるのは10階層を越えた辺りからだそうだが、もちろん階層が深くなればもっと希少な鉱石が取れるようになるとの事。 どんな鉱石が取れるか今から楽しみだ。



 ただ、神のダンジョンも例に洩れず罠やダミーの宝箱などもあるので要注意。


 そして悪魔のダンジョンについてなんだが、浅い階層でも危険な罠が幾つかあったり、魔物の配置もかなり狡猾で、「1グループを相手にしているつもりが、いつの間にか囲まれてる」なんてことはよくある事で、浅い階層でもかなりの実力が無ければ命が幾つあっても足りないそうだ。


 因みに神託であった速やかに悪魔のダンジョンコアを破壊しろと言う神託は達成できていないらしい。


 なんでもコアの前にいる番人が強すぎて当時、誰も倒せず、月日が流れるうちにダンジョンが成長し、番人までたどり着く事も出来なくなったらしい。


 それと、200年くらい前に悪魔のダンジョンが暴走した事があったそうだ。

 当時は神託が忘れ去られようとしていた頃で、誰も悪魔のダンジョンに入ろうとしなかったそうだ。


 するとある日、悪魔のダンジョンから大量の魔物が溢れ出し、周辺に大災害を(もたら)したそうだ。


 当時、大混乱にあったゴルディ王国ではあったが、1人の勇者とその仲間達の獅子奮迅の活躍により何とか事態を収拾したそうだが、壊滅した村は両手の指では足りない位あり、街も幾つか致命的な被害を受け、その後の復興にかなり時間を要したそうだ。


 そんな大災害が起こった為、国は犯罪奴隷を積極的に悪魔のダンジョンへ送ったり、冒険者ギルドへ依頼を出したりと、いろいろ工夫して悪魔のダンジョンの対策を取ったそうだ。


 それが功を奏したのか、その後はダンジョンから魔物が溢れた事は1度も無いそうだ。


 因みにダンジョンはどちらも基本的には国が管理しているが、神のダンジョンはレベル11以上であれば誰でも入れるそうだ。ただ、悪魔のダンジョンはレベル20以上無いと入れない事になっているらしいが、悪魔のダンジョンに好んで入る人間は皆無との事だ。


 まぁ、犯罪奴隷は例外で、定期的に悪魔のダンジョンに投入されているそうだ。ほとんどが死刑囚で悪魔のダンジョンのダンジョンコアを破壊できれば赦免されるという話だが、当然、誰も達成できていない。


 中々興味深い話が訊けた。


 女将さんに礼を言いチップを渡すついでに従魔連れでも泊まれる手頃な宿についても聞き出し、今日は宿でゆっくり過ごすことにした。



 明日はいよいよダンジョンに潜って俺の求める鉱石が手に入るか確認しないとな。








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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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