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第64話 密入国

 新しい章です。

 書き始めをどうしようか色々迷いましたが、紆余曲折を経てこうなりました。

 さて、サスティリア王都を抜け出して早1週間。


 カーチス防風林沿いの街道を北上し、ゴルディ王国との国境にあるカーチス砦を一先ず目指していたのだが、ようやく砦らしき建物が見えてきた。


 道中ゴブリンには何度も遭遇したが、軽く蹴散らしてここまで来た。 レベルが上がったお蔭で全く苦労はしていない。


 さて、ここから国境を超えるんだが・・・ どうしよう。


 話を聞いた限りだと冒険者カードを見せるだけで通れるらしいけど、どこから足がついてジェラルド氏にバレるかわからない。


 用心の為に密入国でもするか・・・


 チラッと街道脇を見ると森が広がっていたが、どうも森までは監視の目は届いてなさそうだ。


 ふむ、森を通れば密入国し放題だろ? 国境警備って雑だな・・・


 まぁ、試しに森に入って国境を越えるか、ついでに森で薬草でも摘めば国境を勝手に越えた事がバレた時の言い訳にはなるだろう。

 『薬草を採っていたらいつの間にか国境を越えてました』ってね。


 そう考え森の中に入ったのだが、少し森の奥に入ってからなぜ森まで監視の目が無かったのかがわかった。


 魔物が多いのだ。



 カーチス防風林ではオークとゴブリンばっかだったが、この辺りになると幾つもの変わった魔物が襲ってきた。



 「角兎(ホーンラビット)

 こいつは兎に角が生えただけのかわいらしい見た目だが、中型犬位の大きさがあり、こちらを認識すると角を突き出して突進してくる。

 跳躍力は中々のもので、油断すると手痛いダメージを喰らうだろう。

 まぁ、襲って来た時点で槍で串刺しにしてやったが・・・


 「幻猫(ファントムキャット)

 こいつは猫と同じ位の大きさで5体以上の群れで襲ってくる。

 攻撃手段は光魔法だが、時々引っ掻きや噛み付き攻撃もしてくる。だが普通の猫に攻撃されるのと変わらない程度だ。

 群れの何匹かが仕留められると透明化して逃げるんだが、俺には「気配察知」もあり追撃も可能。だったんだが、逃げ出した個体はインディが仕留めて喰っちまった。


 「賢猿(クレバーモンキー)」と「狂猿(クレイジーモンキー)

 こいつ等は木の上にいて、賢猿の方はこちらを見るなり逃げ出したので性質は良くわからなかったが、慎重な性格のようだ。

 狂猿の方はこちらを見るなり自分の糞を投げつけてきた。

 俺は慌てて大きく飛び退ったが、次々と糞を投げつけて来たので必死に躱した。

 暫らくすると奴の(ウンコ)が切れたのだが、今度は木の枝を毟って投げつけてきた。

 木の枝だったので俺は余裕で躱していると、遂に痺れを切らしたのか怒声を上げて飛び掛かって来たのでホーンラビット同様槍で串刺しに・・・

 ウンコ投げて来るなんてホントにクレイジーだ。


 最後に「インセクター〇A☆GA」・・・じゃなくて「インセクターハーガス」

 見た目は巨大なカブトムシなんだが、なんと肉食で幻猫を喰ってた。

 少し驚いたが、こちらに気付いていなかったので先手必勝ってことで小型爆弾(リルボム)を1発ぶち込んだんだが無傷だった。

 その後は案の定、俺にターゲットが変わり、槍を使って距離を取って戦っていたら、頭の後ろの胸の角だっけ?あの小さい方の角を飛ばして来たのだ。

 正直、びっくりしたが、なんとか躱し、更に距離を取ると、角を飛ばした後の穴からは体液が流れ出て自爆したような感じになってた。

 俺の攻撃はまだ当たっていないのに自爆でかなりのダメージを負ったように見え、正直なんであんな攻撃をしてきたのかわからないが、そのお蔭で難なく仕留めることが出来た。

 狂猿よりもこっちの方が別の意味でクレイジーだった。


 と、まぁ色々な魔物に襲われたんだが、魔物のレベルは角兎がレベル5で幻猫が8、賢猿は12で、狂猿も12、インセクターハーガスは16と個体差はあるだろうが大体似たり寄ったりだった。


 カーチス防風林のゴブリン程ではないが、それらが入れ代わり立ち代わりで襲って来るんで、戦いに自信が無い人間じゃ、森に入るのは難しいだろう。


 俺としては大分余裕があるので薬草類を採取しながらそのまま森の奥までずんずん進んだけどね。


 そうして暫らくすると、見慣れた果実が実った木を見付けたので鑑定してみたんだ。





----------------------------------------

名前 :レイモンの木

効能 :ビタミン豊富なレイモンの実がなるが、酸味が強く食用としては扱われていない。

   :あまり知られていないがポーション類の素材にもなる。

   :寒さに弱い。

   :金銭的価値は不明。

   :ぶっちゃけレモン。





 ・・・正直、言葉を失ったよ。

 コーラはまだ無理でもレモンスカッシュには手が届くかもしれない。

 俺は夢中になってレイモン・・いや、レモンを毟り、「無限収納」へと納めて行った。





 そうして2日程レモンを取りまくったのだが、不思議と魔物には襲われなかった。

 魔物は柑橘系の臭いが苦手なのかもしれない。

 それに実を食べようにも酸っぱ過ぎて食べられないから見向きもしていないのかもしれない。

 お蔭で作業は捗ったが、「地図2」が無かったら迷子になっていたかもしれないな。


 そんな感じで更に先に進むと、もっととんでもないものを見付けてしまう。





----------------------------------------

名前 :サトゥーカエデ

効能 :手を広げた様な葉っぱが特徴。

   :また、樹木として堅牢である為、家具などに利用可能。

   :樹液は甘く、煮詰めれば砂糖も取れるが誰にも知られていない。

   :金銭的価値は不明。

   :ぶっちゃけサトウカエデの木。





 ・・・あっさりと佐藤、いや砂糖の原材料を発見してしまった。

 俺はてっきりサトウキビかテンサイで作るのだと思い込んでいたが、まさかこんな近場にいきなり見つかるとは思わなかった・・・

 しかし、樹液の採取方法はどうやればいいんだ?

 そう思うが早いか、俺はネットで検索して樹液の採取方法を見付けた。


 地球での採取時期からするとちょっと遅いのだが、ここは異世界。ひょっとすると問題なく樹液の採取が出来るかも知れないのでやってみる事にした。

 すぐ近くにあるサトゥーカエデの木に穴をあけると、穴の少し下に金属製のコップを括り付ける。

 周りを鑑定しつつ見回すと、他にもサトゥーカエデの木が何本もあったのでそれぞれに穴を開けようと近付くと、インディが吠えて警告する。


 何事かと辺りを警戒すると、生物の反応が5つ見付かった。

 魔物か? 俺の砂糖を奪おうとは、許せん!


 そう思い、その敵性反応の1つに近付くと、そこにいたのはクマだった。

 なんというか、ファンシーな感じのクマで、「クマの〇ーさん」みたいな見た目だ。

 体長も1mくらいで怖いと言うよりかわいい感じだ。


 俺は一気に気が抜けて戦闘意欲が失せてしまったが、一応「鑑定」を使ってみる。





----------------------------------------

名前 :-

性別 :雄

年齢 :12

種族 :メープル・ベア

職業 :-

称号 :-

レベル:30


ステータス

 HP : 1400

 MP : 96

 STR : 600

 VIT : 650

 INT : 320

 AGI : 310

 DEX : 160

 MND : 160

 LUK : 34


特記事項

 サトゥーカエデの樹液が大好き。

 樹液を飲むのを邪魔したり、敵対行動を取らなければ基本的には無害。





 思ったよりレベルは高いと感じるが、レベルの割にステータスが低い。

 まぁ、この辺りの魔物としては割と強い方になるだろうが、俺の敵ではないな。


 反応も敵性の赤ではなく生物反応の青だったし、見た目のファンシーさの所為で気が抜け、俺は襲われない限り相手にしない事にする。


 そうして残り4つの反応を見てみたが、どれもメープル・ベアだった。


 敵は居ない様だったので一先ず安堵し、俺は樹液の確保に勤しむ。

 手近なサトウカエデの木に穴をあけコップや鍋を括り付け樹液採取に取り掛かる。















 そして次の日、樹液が溜まっているか確認しにサトウカエデの木を見に行くと、メープル・ベアが俺が取り付けたコップから器用に樹液を舐めていた・・・


 お、俺の砂糖が・・・


「ふざけるなよ? クマ公が!」


 俺はイラッとしてメープル・ベアを殴りつけたんだが、次の瞬間。

 メープル・ベアから濃厚な殺気が放たれると、奴は変身した。


 体毛は黄色に近い色合いから漆黒へと変化し、体長は1m程だったのが筋肉が膨れ上がる様に盛り上がり5倍近くデカくなる。

 メープル・ベアはそのファンシーな面影は既に無く、凶悪な表情を浮かべ、こちらを威嚇するように低く唸っている。


 これではベアというよりグリズリーでは・・・


 そう思いもう一度「鑑定」すると。





----------------------------------------

名前 :-

性別 :雄

年齢 :12

種族 :メープル・グリズリー

職業 :-

称号 :-

レベル:30


ステータス

 HP : 1400

 MP : 96

 STR : 1700

 VIT : 1250

 INT : 320

 AGI : 910

 DEX : 160

 MND : 760

 LUK : 34


特記事項

 サトゥーカエデの樹液を飲むことを邪魔され、怒りに燃えたメープル・ベアの成れの果て。

 サトゥーカエデの樹液成分が抜けるまで暴走し、戦い続ける。





 なんて厄介な。

 しかし、1匹なら余裕で倒せる。速攻で片を付けてやる。

 そう思った瞬間、メープル・グリズリーが腹に響く重低音の咆哮を上げると、四方からもメープル・ベアが4体現れ、メープル・グリズリーに変身した。


 ・・・囲まれたのか? マジでか?!

 辺りを見回し、確認する。


「インディ! 後ろの1匹を頼む」


 そう言うと、インディは俺の後ろに回り、俺の後背を突こうとしていたメープル・グリズリーを威嚇する。

 一応、これで後ろは気にせず戦える。


 これも砂糖を手に入れ、俺の野望を実現する為だ!


「俺の為に死ねぇぇぇ!」


 そうしてメープル・グリズリーとの死闘が始まった。











































 と書くとカッコいいと思ったんだが、実際の戦闘は呆気なかった。


 まず、俺の前にいたメープル・グリズリーは、俺が勢いのまま殴りつけたら後ろのサトゥーカエデの木まで吹っ飛んで戦線離脱。

 それを見て固まった他のメープル・グリズリーを片っ端から殴りつけて吹っ飛ばし、インディが威嚇していた最後の1頭も殴り飛ばして呆気なく戦闘終了。


 吹き飛ばされた5匹のメープル・グリズリーは意識を失った所為か元のメープル・ベアに戻っていた。

 どうやら気絶しても元に戻るようだ。


 メープル・ベアが死んでいない事を確認すると、俺は手足を縛り、そのまま地面に転がして樹液の回収作業に入る。


 よくよく考えれば彼らの縄張りに侵入したのは俺の方だし、最初に殴ったのは俺だしな。

 奴等にしてみれば理不尽に感じたかもしれない。

 まぁ、この世は弱肉強食らしいし、俺の野望の為には多少の犠牲は必要だ。

 なので暫らくは奴等に我慢して貰おう。

 今の俺は機嫌が良いので殺すことまではしない。



 樹液は時期外れかとも思ったが幸い結構な量が取れたので1週間程 森の中で過ごし、樹液を集めつつ、鍋で樹液を煮立ててトロッとしたメープルシロップを完成させた。


 指で掬い舐めると、何とも懐かしい濃厚な甘さが口一杯に広がった。

 俺は無意識のうちにガッツポーズを取り、一筋の涙を流していた。

 確実に1歩前進できた。

 コーラを作る為に砂糖を確保しようと考えていたが、市場に出回っているのはかなり高額だったし、手に入る量も少ない。

 原材料は知っているが、サトウキビは暖かい気候でしか育たないし、テンサイはどこに生えているかわからない。

 前途多難。甘味を探すだけでも大変だと思っていたが、密入国を決めて良かった。

 こうして砂糖を自作できるなら実験が失敗してもダメージは少ない。

 それに食事の質も向上する。

 その事が非常に嬉しかった。


 後はこのメープルシロップを更に煮立たせ結晶化すれば砂糖ができるはずだが、今は止めておこう。

 大した機材もないし、ここは危険な森の中だ。不慮の事故で台無しになってしまうかもしれない。

 メープルシロップを作っただけでもかなりの無茶をしたんだ。

 もっと安全な場所で時間を掛けて取り組む必要がある。

 それに正攻法以外にも錬金術で抽出するって言うのも良いかもしれない。


 そんな未来の展望を次々と考えていると、俺の周りに5匹のメープル・ベアが集まっていた。

 どうやら濃厚なメープルシロップの臭いに誘われたようだ。

 どのクマも涎を垂らさんばかりに俺の手元を凝視している。


 取り敢えず手近にいた1頭のメープル・ベアに舐めさせたんだが、1舐めしたら、突然震え出し、恍惚の表情で残りを舐めつくしていた。

 まるで麻薬中毒者の様な激変ぶりに戦慄を覚え、他のメープル・ベアに与えるのは止めておいた。

 他のメープル・ベア達は悲しそうな顔をしていたが、ここは譲れない。

 混ぜるな危険ってやつだ。


 因みにどうしてメープル・ベアが野放しになっているかって言うとだな。


 縛って転がした初日からずっとオーク肉を餌として与えていたんだ。

 最初、縛られた状態で目が覚めたメープル・ベアは俺を怖がって震えていたが、餌を与え続けていると状況に慣れたのか大人しくなったので3日目位で解放してやったら、懐いて来た。

 餌付けしたのが効いた様だ。

 その後は彼らは俺が樹液を採取している木には近付かず、他のサトゥーカエデの木から樹液を啜っていたので、上下関係も認識したようだし、存外賢い魔物のようだ。


 その後は時々インディと戯れる姿が見られたが、どうにもファンシーな姿で、ここが危険な森の中とは思えない光景になっていた。


 森を離れようとしたら、1頭のメープル・ベアが付いて来たので改めて鑑定すると。





----------------------------------------

名前 :-

性別 :雌

年齢 :14

種族 :メープル・ベア (魔獣)

職業 :-

称号 :-

レベル:35


ステータス

 HP : 1600

 MP : 112

 STR : 675

 VIT : 750

 INT : 370

 AGI : 360

 DEX : 185

 MND : 185

 LUK : 40


特記事項

 従属 (山並 楽太郎)





 ・・・


 何故?!


 そう思い1つ思い出した。

 ひょっとしてメープルシロップを舐めたクマか・・・

 あれで従魔になったって事か?


 いや、しかし・・・どうしたものか。

 こいつを連れて行くって事は、メープルシロップの消費量が爆発的に増える事になる。

 正直遠慮したいんだがな・・・

 そう考えはしたが、クマは諦めるような素振りは見せない。


 はぁ、仕方ない。連れて行くか。


「おい、クマ公。

 連れてってやるよ。

 それと名前付けてやる。

 そうだな・・・メープル・ベア、メープル・グリズリー。どっちもメープルか・・・略して『メル』でいいか。

 お前の名前はこれから『メル』だ。いいか?」


 そう聞くと、メルは一声「ガウ」と返事をした。


 ・・・やっぱり魔物って、人の言葉を理解しているよな?


 そんな感じで旅のお供が1匹増え、森に入ってから約2週間。 無事密入国が成功した。



 その後、幾つかの街や村を経て更に3週間。

 俺はゴルディ王国で最も冒険者が集うと言われる街「ウェルズ」に到着した。






 新しい仲間ができました。

 今後活躍するかはわからない・・・

 インディも大して活躍させられてないしね・・・

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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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