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英雄誕生?!

以前よりご指摘のあった個所を修正しました。

更新遅くなり申し訳ありません。

並行してモン○ンしてまして・・・

 オークキング討伐から帰ってきてから2日目の夜、昨日までは忙しかった所為であまり実感が湧かなかったが、こうしてレベルの上がったギルドカードと報酬として貰った大金貨2枚を眺めて依頼の成果を確認すると、嬉しさが込み上げてくる。

 ※ ラクタローからの依頼料は大金貨1枚だったが、ギルドからも別途報酬で大金貨1枚が出ていた。


 俺は頑張った。

 とても頑張った。

 だからこれだけの結果を出せたと思う。


 これはご褒美なんだ。

 ラクタローさんからの過酷な依頼に耐えた俺へのご褒美。

 大金貨2枚もあれば新しい装備が整えられるし、結構派手に遊べるかもしれない。


 そんな事を考え、浮かれているレジーの顔は気持ち悪い程ニヤニヤしていたが、幸いな事にその姿を見る者は居なかった。


 そんな事をどれ位していただろう。

 そんな彼の部屋をノックする乾いた音が突然響いた。


 一瞬ドキッとして挙動不審になりそうになるが、扉はまだ開いていない。

 レジーは締まりのない顔を見られなかったことに安堵し、次いで至福の時間を邪魔された事を思い出し、上げる声に険がこもる。


「こんな時間に誰だよ?」


「冒険者ギルド職員のアロマです。夜分遅くに突然申し訳ないのですが、聞きたい事があります。

 ギルドまで御足労願います」


 何だろう? 何かやらかしたかと最近の出来事を思い出してみるが身に覚えがない。

 ギルドに係わる事と言えばオークキングを捕獲してきたこと位だが、その件は昨日散々走り回らされたので片が付いているはずだ。

 俺のような小物の出番はもうないはず・・・

 あるとすればラクタローさん絡みしか・・・って、ラクタローさんか?!

 自身には身に覚えはないが、ラクタローに関しては何とも言えない不安が過ぎる。


 とても嫌な予感がしたレジーは戸を開けずにアロマに断わりの返事を返す。


「すみません。もう遅いんでまたの機会にして貰えませんか?」


「現在、状況が逼迫しているので申し訳ありませんが早急に御足労願います」


「いや、ですから、俺も昨日までの疲労が溜まってるんで暫らくギルドには行きたくないんですけど・・・」


いいから出てこい!(・・・・・・・・・)


「は、はい!」


 普段の彼女からは想像もできない程ドスの効いた声が聞こえてきた。

 俺はビビッて戸を開けてしまったが、すぐにその事を後悔した。


 そこには(オーガ)のような形相のアロマさんがいた。

 見てはいけないモノを見てしまった心境だ。

 彼女もすぐに戸が開くとは思っていなかったのか、慌てて表情を取り繕っていたが、それが逆に怖さを増していた。



「・・・」


「・・・」


「今の「見てない!見てないです!」・・・そうですか。 わかっていると思いますが「見てないから誰にも伝えられません!」 ・・・そうですか、なら問題ありませんね」


 そう言ってニッコリと笑うアロマさん。

 どうやら俺は正解を引き当てたようだ。なんとか生き残れた。


 そう安堵したのも束の間、アロマさんから促され、そのままギルドへと連行される羽目になった・・・






 そうして夜分遅くに冒険者ギルドへ連行されるとそのまま支部長室まで通され、ギルドマスターの前に連れて行かれた。

 連行される最中、アロマさんは一言も発する事は無かった。 何となく腹に一物抱えてそうで怖い。


「よく来てくれたレジー君。 改めて礼を言うよ」


「いえ、必要ありません。それでこんな時間に呼び出した理由を教えてください」


「あぁ、それなんだが・・・ まぁ、これを読んで貰えるかな?」


 ギルドマスターはそう言うと一通の手紙を渡してきた。


 俺は渡された手紙を見る。





----------------------------------------------------------------------------


 謹啓



 小暑を過ぎ、夏本番を迎えました。

 ジェラルド=ベルジュ様におかれましては、暑さに負けずご活躍のことと拝察いたします。


 今回、筆を執らせて頂いたのはゴブリンキング・オークキング討伐の件についてです。

 オークキング討伐については先日達成させて頂きました。

 こちらについては問題は無いと思います。


 問題となるのはゴブリンキングの件ですが、こちらは冒険者ギルドではなく国の軍に任せるとの事でしたので、当方としましては冒険者ギルドとして関わらない方針に変更されたと勝手ではありますが、判断させて頂きました。

 これによりゴブリンキング・オークキング討伐の協力依頼の件について、冒険者ギルドとの協力はこれを持ちまして達成された事とさせて頂きます。



 末筆ながらますますのご活躍をお祈り申し上げます


 謹言



 追伸


 私事ではございますが、私もそろそろ目的の為、香辛料などが豊富な南の国へと移動するつもりです。

 今までお世話になりました。



 あ・ば・よ・!




----------------------------------------------------------------------------






 最後の方の文字は書き殴ったような荒々しい文字で締め括られている。

 これを書いた人物がどういった思いで書いたのかが窺い知れるような気がした。



「・・・中々に丁寧な文章ですね」


「そうだろう?」



「「・・・」」



「それで、これの何が問題なんです?」


「実はそれ、ラクタロー君からの手紙でね・・・」


 言葉を濁すようなギルドマスターの口振りに俺は自分の直感が正しかった事を確信した。

 あの人何やってるの?!


 俺は答えのわかり切った質問を敢えて投げ掛ける。


「それで、ラクタローさんは?」


「何処にいるのか皆目見当もつかない・・・ まぁ、手紙の内容からすると南の方へ行くとあったのでリンド獣王国を目指しているのではないかな?

 ただ、あそことこの国は戦争したばかりだから直接向かうんじゃなくてスキーム王国経由かトマス商連邦経由のどちらかだろう」


「確かにそう考えるのが普通ですね」


「まぁ、そういう訳でラクタロー君が行方不明になってしまってね。困っているのだよ」


「何がです?」


「君も知っているとは思うんだが、実は昨日警備隊の大隊長であるカリスト氏がオークキングの引き渡しを要求してきたのだよ。

 それもかなり高圧的にね。これには温厚な私でもついカッとなってしまった。

 警備隊の対応の不手際を(あげつら)い『冒険者の手柄を横取りしようとは何事か!』と拒否したんだが、今度は武力に訴えてきたのでね。

 最近ストレスが溜まっていたのでこれ幸いと思ってお相手して差し上げたんだが、少々やり過ぎてしまったようで、

 気付いた時には従えていた警備隊員も含めてボロ雑巾のようにしてしまっていたのだよ。


 私もやり過ぎたと思い、刑罰を覚悟で慌てて王宮へ事の次第を伝えたんだが、どうもカリスト氏はゴブリンキングやオークキング出現についての報告をしていなかったようで、それが幸いしてか、カリスト氏は警備隊から罷免され、私はお咎め無しとなったんだ」


「そこまでは知ってますよ。その後も冒険者ギルドが被害者だってことを喧伝する為に街中に噂を流したのは俺達ですから」


「そう。話はそれで終わりに見えたんだが、今回レジー君。君を呼んだのはこの後にあった話が原因なのだよ」


「この後の話?」


「そうなのだよ。実は今日の午前中に王宮から手紙が来てね。

 幾ら知らなかった事とはいえ、王宮がゴブリンキングやオークキングの出現を知らなかったのは不味いと言う事で、『王宮から(・・・・)冒険者ギルドへ依頼したオークキング討伐が成功した事を大々的に発表したい』と言って来たのだよ」


 ・・・つまり、『王家が冒険者ギルドにオークキング討伐を依頼し、冒険者ギルドがオークキングを捕まえた』

 そう言う事にすることで王宮が対応した事にして欲しい。 と言う事らしい。


 まぁ、王宮側からすると寝耳に水で、知った時には事が終わっていたんだから、体面を取り繕うにはそうするしかないんだろうが、なんとも都合の良い押し付けをしてきた感じが否めない。

 それに色々辻褄が合わないんじゃないか?


「でもそれだと、どうしてオークキング討伐を国軍を使って討伐しなかったのか?って話になりませんか?」


「一応その言い訳も用意してあるのだよ。

 今回出現したゴブリンキングは発見が遅れた為、相当数のゴブリンがいることが判明した。

 これにより、国軍だけでは両方同時に対処できない為、国軍はゴブリンキング討伐に専念し、比較的早期に発見できたオークキングについては冒険者ギルドへ依頼した。

 と言う尤もらしいものだよ。

 事実、これから国軍は警備隊共々、ゴブリンキング討伐に赴くそうだ」


 その話を聞き、レジーはどうして自分が呼ばれたのか、尚わからなかった。


「それでどうして俺が呼ばれるんです?」


「鈍いねぇ レジー君。 君がオークキング捕獲の当事者だからだよ。

 君にはオークキング討伐の英雄になって貰う」


「えぇ?!」


 そう言われて驚きより先にドン引きした。


 あれはラクタローさんがほぼ1人で行った偉業で、俺はほぼ傍観者だった。 それに傍観者と言ってもオークキングを捕獲した時は見てすらいない。

 洞窟の前で待機していただけだ。

 それにあんなラクタローさんの破天荒ぶりを見せられたら、とても自分が英雄なんて器じゃないと思い知らされる。


 俺はただの一般人だ。


 偶々ラクタローさんと知り合っただけの一般人。


 一般人・・・だよな。


 あんなドラゴンの巣で馬鹿騒ぎする様な無茶苦茶なことなんて思いつきもしなければ、実行しようとも思わないし、したくない。

 俺のレベルが上がったのだって、そのラクタローさんの無茶苦茶な行動のお零れなんだし・・・


「いや、俺は何もしてませんよ。 オークキング捕まえたのは殆んどラクタローさんが1人でやったんですって!」


「謙遜は必要ないのだよ。レジー君。今回のオークキング討伐でどれだけレベルが上がったんだい?」


「・・・19です」


「君ね。何もしなかった人間が2週間でレベルを19も上げてレベル40になるなんて非常識な事になると思うのかい?」


 ・・・二の句が継げない。 確かに何もしなかったらこんなにレベルは上がらない。

 レベル40になるにはもっと時間が掛かるのだ。 それに気付いてしまったからだ。


 普通、レベル30まで上げるのにかかる時間は10年と言われている。

 もちろんその間に死んでしまう者はかなりの数いるが、生き残れれば大体それ位でレベル30になれるのだ。

 そしてそこから更にレベル40に上がるには5年以上かかると言われている。


 目の前の男は今ではしがない書類仕事に忙殺される中年ギルドマスターだが、元は生粋の英雄として最前線で戦っていた男だ。

 そんな男でも15年以上の経験を積んでようやくレベル66なのだ。


 それなのに俺は1カ月足らずでレベル11から40まで一気に上がってしまったのだ。

 傍から見たら異常な上がり方だ。

 俺だってそんな奴を見たなら英雄だと思ってしまうだろう。


 自分を客観視して漸く気づいた。

 俺って異常だ・・・


 つい最近、非常識な男(ラクタローさん)と行動していた所為で俺は常識人であると自負していたが、何の事はない。

 既に俺の常識はあの男によって木端微塵に打ち砕かれてしまっていたようだ・・・


 それに気付いてしまった俺は俺の中の何かがガラガラと音を立てて壊れて逝く気がした。



「い、いや、でも、他の誰かを見繕って貰えませんか? ほら、ギルドマスターなら問題ないでしょ?

 超人の異名を持った生粋の英雄なんだし」


「いや、私では無理なのだよ。 今回、私はオーク討伐の準備の為あちこちに顔を出して調整していたので、オークキング討伐に参加していなかった事は周知されている。

 本来ならラクタロー君を祀り上げるつもりだったのだが、彼は非常に勘が良いようでね。 逃げられてしまったのだよ。

 こうなると、冒険者ギルドとしては実際に同行した君以外に表舞台に立てる人間がいないのだ」


「いや、でも俺17ですよ? それに今回レベルが上がったのだってラクタローさんのお零れで上がっただけで、本当の英雄はラクタローさんみたいな人がなるべきですよ。

 彼の身代わり(スケープゴート)に俺の名前が上がるのは正直嬉しい気持ちもありますが、こんな大事なことなのに俺のような一般人が代わりになるなんて、そんな事は出来ません」


 俺は正直に自分の気持ちをぶつけた。


 ギルドマスターは本当に困ったような顔をした後、苦しそうに俺に告げる。


 「君の気持はよくわかったし、君の言葉は正しい。

 だが、そう言って君を庇い王宮からの要求を断れば冒険者ギルド サスティリア支部の今後に多大な悪影響が出てしまう。

 お願いだレジー君。

 どうか、どうか我々冒険者一同を救うと思って、英雄になっては貰えないだろうか」


 そう言って椅子から立ち上がり、地に頭を付け土下座をするギルドマスターに、俺は掛ける言葉を失う。


 ・・・どうすればいい? 今の俺が英雄なんて成れる訳がない。

 今、英雄なんて呼ばれたら俺は調子に乗って実力を伸ばす努力を怠るだろう。

 実際、今回手に入れた報酬だって装備の新調以外は遊びに使う事しか考えていなかった。


 そんな俺が英雄なんて呼ばれたらどうなるか・・・


 なんとか俺が英雄になるのを阻止する方法は無いだろうか・・・


 もう少し、考える時間が欲しい。


「すみません。少し時間を貰えますか? じっくり考えたいので・・・・」


 気付いたら口からそう言葉を発していた。


「わかった。

 だが、申し訳ないがあまり長い時間は与えられない。

 明後日の日没までに返答を頼む」


 ギルドマスターの返事を受け、俺は支部長室を出た。







 さて、どうしたものか・・・


 日が暮れ、暗くなった街を歩いていると、なんとも不安な気持ちになってくる。

 今は少しでも明るい場所に行きたい。

 そう思うと、自然に繁華街へと足が向いた。


 暫らくするとあちこちから喧噪が聞こえる。

 周りからは楽しそうな声が聞こえたり、調子っぱずれの歌も時々聞こえてくる。


 明るい所に行けば少しは気が紛れるかと思ったが、逆に不安を増しただけだった。


 こんな調子では飲み屋にいても憂鬱になるだけだ。

 そう思い広場の噴水に腰掛け、ボーっとしていると声を掛けられた。


「おっ? レジーじゃないか。 こんな時間にどうしたんだ」


 見上げるとクルーズがいた。


「なんだ、クルーズか」


「なんだとは酷いな。だが、本当にどうしたんだ?

 酷く落ち込んでいる様だけど、何かあったのか?」


「あぁ、それなんだが・・・」


 そう言い掛け、レジーはふと思い出す。


 前日に仲間たちに自分がレベル40になった事を伝えた時の事だ。


 リディアとグレタは最初、半信半疑で疑っていたがギルドカードを見せるとリディアは純粋に驚いて「すごい・・・」とビックリしていたが、グレタは「レジーの癖に生意気よ! どうせインチキしたんでしょ? 私にもどうやったか教えなさいよ!」と最初(はな)からインチキと決めつけて悪態をついていた。


 だが、クルーズは「そうか、良かったなレジー。俺ももっと頑張らないといけないな」と、そう言って自然に受け止めていた。


 俺なら驚いたり嫉妬したりで大変な事になりそうだが、こいつは自然と受け止めた。 受け止めてくれた。


 こいつなら何か良い方法を思いつくかもしれない。

 そう思い真剣な表情で言葉を紡ぐ。


「相談があるんだ。

 聞いてくれるか?」


「構わないよ」


「相談内容はかなりきついぜ?」


「脅かすなよ。怖くなって来るじゃないか」


 そう言って笑い合うと、クルーズが提案してくる。


「こんなところで相談を受けるのも何だし、場所を変えよう」


「あぁ、そうだな」


 そう言って歩き出した。























 閑静な住宅街の一角にある酒場(バー)にレジーとクルーズが入ると、店主が声を掛ける。


「いらっしゃいませ」


「マスター。奥の個室空いてる?」


「どうぞこちらへ」


 そう言って店主は個室へと2人を案内し、注文を受けると下がって行く。



「お前、こんなところよく知ってたな?」


「まぁ、賑やかな所で飲むのも好きなんだけど、俺はこういうところで静かに飲むのも好きなんだよ。

 だから時々こういう店で飲んでるんだ」


 仲間の意外な一面を覗いた気がして驚いたが、今現在、逼迫した問題を抱えているレジーはそれどころではない。

 注文した酒が来るのを待つのももどかしいが、なんとか我慢して店主が酒を持って来るのを待った。


「お待たせいたしました」


「どうも」


 酒を運び終わると店主はそのまま去って行く。


 レジーは店主が十分離れた事を確認し、クルーズに相談を始めた。


「実は、相談内容なんだが、絶対に誰にも言わないで欲しいんだ。

 他言無用で頼む」


「・・・わかったよ。

 それで、どんな問題を抱えてるんだい?」


 そこからは堰を切ったようにレジーが話し始めた。



 ラクタローの依頼を受けたことや、初めはオークキング討伐ではなくオークの塒にいるオークを間引く程度の依頼であったこと。


 行軍中、休憩を取ろうとするレジーにラクタローが魔法を使い強行軍を敢行したこと。


 オークの塒前で行ったラクタローの奇行(蒸し焼き等)の数々。


 それに伴い、不眠不休で1日中戦っていたこと。


 それによりオークをほぼ全滅させたこと。


 オークに捕まっていた人達を解放したこと。


 塒から出てきた奇特な人物ラーク・エンジョイのこと。


 彼から救助した人達を押し付けられたこと。


 その後、ラクタローが出てきてオークキングを捕縛していたこと。


 そして王都への帰路と冒険者ギルドとのやり取り。


 最後にオークキング討伐の英雄に成れというギルドマスターからのお願いと、それについての自分の正直な気持ち。



 それらをただ黙って聞いてくれていたクルーズが、レジーが話し終わったのを見計らい言葉を発した。


「うーん。俺としてはレジーがなんで英雄になりたくないのかが理解できないんだが、どうしても嫌なのか?」


「当たり前だろ? オークキングを倒したのはラクタローさんだぜ? それを(あたか)も俺が倒したように喧伝して英雄になるなんて、烏滸がましいにも程がある! それに俺にだってプライドがあるんだ。他人の手柄で英雄なんて呼ばれたくないんだ・・・」


 そう言ってグイッと酒を煽るレジー。


 それを見ながらクルーズが答える。


「なら、断れば良いよ」


「それが出来るなら相談なんかしてねぇんだよ!

 断ったら誰を英雄にすればいいんだよ?!」


 怒鳴るレジーにクルーズは面白そうに答える。


「一人いるじゃないか」


「だからラクタローさんは既にこの国に居なねぇんだよ」


「違う違う。ラクタローさん以外にもう一人いるだろう?」


「うーん? ・・・ わかんね」


 降参だと言わんばかりに両手を上げ突っ伏すレジー。

 大分酒がまわっている様だ。


「仕方ないな。ほら、レジーに助けた人達をそのまま任せてどっか行っちゃった人がいただろ?」


「うーん? あ! ラーク・エンジョイか!!」


「そう、彼を英雄にすればいいんだよ」


「だけど、あいつも見付かんなかったらどうするんだよ?」


「その時はラーク・エンジョイを演じればいいんだよ。

 幸い彼は全身鎧で顔も(オーガ)のようなフェイスガードで隠れてたんだろ?」


「そうだけど・・・」


「ならそれでいいじゃないか」


 あっけらかんとして言ってくるクルーズにレジーは何とも言えない顔をする。


「ラーク・エンジョイがもし見つかったとして、英雄になるのを嫌がったらどうするんだ?」


「あなたが倒したであろうオークの中にキングがいたとでも言ってでっち上げて、息があったからここまで運んだことにして正当な報酬であり、権利である事を伝えれば良いんじゃない?

 それでも嫌がったなら、名前だけ使って喧伝すればいいんじゃないかな?」


「腹黒いな・・・、なら、見付からなくてラーク・エンジョイの演技をした後に本人から苦情があったらどうするんだ?」


「それこそ報酬を渡してお礼を言っておけばいいよ。

 それに都民が既に英雄として受け入れた後なら、本人が何か言ってももう手遅れさ」


「・・・なら、ラクタローさんが抗議してきたら?」


「それは無いと思うよ? 英雄になりたいなら態々(わざわざ)逃げないでしょ?」


「クルーズ・・・」


「なんだい?」


「お前、肝が据わってるな・・・」


「うーん。そうかな?」


「そう思うぜ、俺じゃ絶対思いつかなかったと思う」


「それはレジーが優しいからさ、身代わりを考えた時、レジーはギルドマスターを上げたけど、あれはギルドマスターならオークキングを討伐できる実力があるし、それに伴う実績がある。今までの生活とあまり変わらない生活がその後も送れるだろうと判断したからだろう?」


 そう言われ、図星を指されたレジーは言い返せない。


「それで、どうするか決めたかい?」


 クルーズはレジーの返事を辛抱強く待った。



「申し訳ないけど、ラーク・エンジョイを英雄にする」


 そう答えたレジーの表情は申し訳なさそうだったが、自分がなるよりはマシと言う決断だった。









 明くる日、レジーは冒険者ギルドにてラーク・エンジョイを英雄にすることを告げ、彼の捜索に乗り出すが見付からず、彼を演じる方向でオークキングの処刑を行う事になった。

 彼の独特な鎧を模倣するのは難しかったが、イメージとして(オーガ)っぽくはなったと思う。


 ラクタローへの懸念はラクタローがリンスに渡しておいたレジーへ宛てた手紙を見て問題ない事を確信した。




 そうしてオークキング処刑当日。


「レジー君。そろそろ出番だが、大丈夫かね?」


「ギルドマスター。今は俺、ラーク・エンジョイですよ?」


「そうだったな。 私も間違えないように気を付けよう。

 私がこの後、前口上を述べるから、君は私の紹介で登場し、オークキングを捕まえた英雄としてオークキングの首を刎ねるのだ。 良いかね?」


 そう問われ、レジーは目を閉じて深呼吸を1つすると、答える。


「大丈夫です。 お願いします」











 そうして神聖王国サスティリアにラクタローが知らない間に一人の英雄が生まれた。


 その名はラーク・エンジョイ。


 彼がこれから歩む道はどうなるのか?


 それは誰も知らない・・・




こんな感じになりましたが、どうでしょう?


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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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