第61話 洞窟の中 6
遅くなりましたが、書いてみました。
良かったらご一読ください。
突撃した俺は近くのオークからではなく、壁際のオークに向けて走り込んだ。
幸い部屋の中は爆発直後で爆煙が上手い事 煙幕になっている。
近付くにつれ人影らしきものが見えてきた。
俺は躊躇なくその人影に近付き槍を一突きすると、「ブゴォォォォ?!」と言う声が部屋中に響き渡り、他のオークに襲撃を伝える事になった。
敵に襲撃を知られて警戒はされるだろうが、それでも俺は今がチャンスとばかりに爆煙に紛れて次の獲物を狩りに行く。
1匹目と同じように槍を突き込もうとした瞬間。俺の背筋に悪寒が走る。
躊躇することなく自分の直感を信じて左に体を躱すと、今までいた場所を紫電が走り抜けて行った。
俺は冷や水を浴びせられたように驚いたが、それでもワンテンポ遅れて2匹目に槍を突き込み距離を取る。
紫電が飛んできたのは5匹が固まっている後方の中央付近からだ。
俺はそちらを睨み、頬を伝う冷や汗を拭う事もせず「無限収納」から小石・・小型爆弾を取り出すと5匹が居るだろう方へと投げ込む。
一瞬遅れて爆発音が轟くが、その確認もせずに俺は3匹目へと迫り槍を突き込む。
ガァンッという金属音と共に槍が弾かれる。
「何?!」
思わず声が漏れるが、驚きのままにその場を離れ、振り下ろされた剣を躱す。
まさか俺の攻撃に反応してくるとは思わなかった。
体勢を立て直した俺に身の丈もある大剣を再び振りかぶり、突進してくるオーク。
俺は突進の勢いを載せて叩き付けられる大剣を半身を引きつつ槍で逸らし反撃を狙うが思いの外この一撃が重かったので逸らすので手一杯だった。
これは不味い。 受けるのは危険だ。
煙に紛れるように一旦後退しようとするが、急に前方から風が渦巻くように流れ、爆煙を絡め取る。
「なに?! 魔法か!」
どうやらオークにも魔法使いは居たらしい。
煙が一気に晴れてしまい部屋の全容が見て取れるようになると、後方には一匹のオークを守る様に左側に弓を持ったオークが、右側には杖を持ったオークがいて、その前にはメイスと盾を持ったオークが2匹陣取っていた。
杖を持った奴がやったのか?
それにしてもあの武装はどうやって手に入れたんだ? 新品のように見える。
思いの外どうでも良い事を考えてしまったが、どうやらあの守られているオークがキングだろう。
そんな事を考えている間にも大剣を持ったオークに間合いを詰められそうになるが槍で牽制して突き放す。
大剣オークを突き放したが、その奥から斧を持ったオークと鉄の棒?みたいなのを持ったオークが襲い掛かってくる。
離れた大剣オークに変わって斧オークが突っ込んでくるのをカウンターで槍を振り下ろすと、それを見越したように鉄棒オークが俺の槍を受け止める。
そしてそのまま突っ込んでくる斧オークの振り下ろしを慌てて飛び退り躱す。
3匹のオークが連携して攻撃してくるのがこれ程厄介だとは・・・ッと!。
反撃しようとした所に矢が飛んでくる。
俺は条件反射で躱し、「無限収納」から小石を出して矢が飛んできた方に投げ付けるが、盾を持ったオークに防がれ爆音が虚しく響く。そしてその後ろにいる杖オークからカウンターの如く風の刃が迫り来る。
・・・訂正。オーク達の連携は結構きつい。3匹の近接オークを凌ぎ、反撃しようとすると矢や風の刃が飛んできてチャンスを潰される。セオリーで言えば遠距離攻撃を先に潰すんだろうが、それは盾オークに阻まれる。
と言う事で先に近接から潰そうと距離を開け、ただの小石を投げつける。
フェイクで投げた小石を大剣オークは慌てて躱した為、連携が乱れて斧オークのフォローが出来ていない。
チャンスだ。 そう思った時には既に体が動いていた。
斧を振り切った姿勢の斧オークの無防備な頭目掛けて突きを放つと、呆気なく頭に突きが吸いこまれる。
これで近接は2匹だ。 これならイケるだろう。
因みにただの小石を大剣オークに投げ付けたのは俺自身が巻き添えになるなんて間抜けな事をしたくなかったからだが、上手く反応してくれた様だ。
俺は頽れるように倒れる斧オークには目もくれず俺に襲い掛かって来ている鉄棒オークの一撃を受け流し、鋭く一歩前進すると蹴りを放つが、鉄棒オークは鉄棒で受け止める。
俺はガードされたまま力を籠め、鉄棒オークを強引に吹き飛ばす。
鉄棒オークを吹き飛ばした事で連携が取れない距離を開けさせ、近くにいる大剣オークに目を向けると、オークキングから長い鳴き声が聞こえた。
「ブゴォォォォォォ! ブゴォ! ブゴブゴォォォォ!」
俺にはブゴブゴ言ってるようにしか聞こえなかったが、他のオーク達は違ったようだ。
大剣オークは急に防御の姿勢へと切り替わり、時間稼ぎをしようとしている。
鉄棒オークが戻って来るまでの短い時間を耐えようと言う事だろう。
そして盾オークの一匹がオークキングの前を離れ前線へと進み出したのだ。
斧オークの穴を埋める気か?! ヤバい。速攻で片付ける!
そう意気込んだ俺に矢と風の刃が大剣オークへの接近を阻むように飛んできたが俺は横へステップする事で躱し、タイムロスを最小限に止めてそのまま大剣オークへと迫る。
大剣オークは俺の攻撃を躱し切るのは不可能と判断したのか、大剣を盾の様に巧みに動かして致命傷を避けている。
その間にも鉄棒オークが接近しつつあり、牽制の為に俺は小型爆弾と化した小石を鉄棒オークに向けてバラ撒くと、鉄棒オークは後退せざるを得ず、足止めは成功したようだ。
状況は斧オークを倒した事で俺が優勢になりつつあるが、そんな状況は紙一重の差でしかない。
盾オークが前線に来れば形勢を逆転されるかもしれない。
そう考え、俺は必死に次の手を打つ。
俺は槍を右手一本で突き込むと同時に左手で大剣オークの大剣を打ち付け、叫ぶ。
「時限爆弾3秒!」
大剣に俺の魔力が流れる確かな手応えを得て、俺は素早く後方へと離れる。
そして目を守る様に片手を翳すと、一瞬後に大剣オークの大剣が爆発する。
爆発半径は約5メートルと知ってはいたが、念のため倍の距離を取っておいて良かった。
爆発と共に大剣の破片が飛んできたのだが、距離があったので躱したり、防ぐことが出来たのだ。
そのお蔭で俺はほぼノーダメージだったのだが、大剣オークは上半身の前面が抉れ、内臓が飛び出していた。
どうやら即死のようだ。 破片が石から鉄に変わっただけでこの威力。 普通鉄を砕く時点で威力が落ちそうだが、逆に威力が増したようだ。
魔法って不思議だ・・・
また実験しておかないと自爆しそうだ。
そして俺にとって僥倖だったのは、鉄棒オークと盾オークの1匹が巻き添えを喰らっていたことだ。
盾オークが丁度前線に追い着いたところで時限爆弾が発動したようだ。
お蔭で鉄棒オークは右手が千切れかけているし、盾オークも盾で防げなかった足に鉄の破片が幾つか刺さっている。
そんな事を考えている間にも矢と風の刃が襲い掛かってくるが、問題なく躱せる。
そして爆煙がやまない中を俺は淡々と手傷を負ったオーク2匹を仕留めた。
そして残ったのは盾オークと弓オークと魔法オーク・・・語呂が悪いな、オークメイジでいいか? の3匹とオークキングが1匹だ。
少々手古摺ったが、まぁ、結果オーライだ。
俺はニンマリと厭らしい笑みを浮かべると、一気に距離を詰める。
風の刃や弓矢で牽制されるが、既に見切っている上に単発では前衛で足止めも出来ていない俺には当たらない。
あっさりと距離を詰めると盾オークがメイスで攻撃してくるが、それを流してカウンターで一突きして絶命させる。
頽れる様を見届ける事もせずにオークメイジと弓オークに連続突きを放ちあっさりと倒す。
そしてオークキング以外、全てを倒し終わると、俺はゆっくりとオークキングに対峙する。
さぁ、ようやくだ。 こいつに絶望を味あわせ、ストレス発散と行こう。
「よぅ、王様! 俺のストレス発散に来てやったぜ!
と言っても、言葉は通じないだろうけどな?」
そう言って決して人に見せてはいけない種類の笑顔を張り付けて嗤ってやると、意外にも返事が返ってきた。
「グゥ、コレマデ・・カ、 女神ヨ。
ワレノ命運モ、ツキタヨウダ。 我ガ使命ヲ、ハタスコト・・叶ワズ。
無念ダ・・・
鬼ヨ、好キニシロ」
「誰が鬼だ!」
条件反射でオークキングを殴りつける。
って、いや、そうじゃない。
こいつ今なんて言った?
「おい。今、女神って言ったか?」
そう問い返すが、オークキングは気絶していた。
・・・
苛立ち紛れに背中を軽く蹴ると、キングが意識を取り戻す。
「グアァッ?!」
呻き声を上げてのた打ち回っていた。
「おい、今、女神って言ったよな? 誰の事だ?」
そう問い詰めるが、オークキングはのた打ち回っていて聞いていない。
「はぁ、手前ぇとコントしに来たんじゃないんだがな」
そう言ってオークキングの胸倉を掴み強引に引き上げると更に問い詰める。
「答えろ。 女神の誰の事を言っていたんだ? あぁ?!」
自分でもまるでチンピラみたいな絡み方をすると思ってしまったが、仕方ない。
軽くオークキングを締め上げると、オークキングは苦しそうに返事をする。
「ソ、ソレハ・・・言エ・・ナイ・・・ク、苦ジィィ」
「あぁ?! 言えないってのはどういう事だ?」
苛立ちをそのままにオークキングを壁に叩き付けると、絞り出したような声で悲鳴を上げる。
「セ、誓約・ニ・・縛ラレ・・・テ・・イル・・カ・ラ・・言・エ・・ナイ・」
ジタバタともがくオークキングを手放すと、ドスンと言う音と共にオークキングが悲鳴を上げ、せき込む。
「誓約だと?! そんなもんで言動を縛れるのか?」
そう聞くとオークキングは首を縦に激しく振る。
「こっちの神様ってのはやりたい放題じゃないか・・・」
驚くやら呆れるやらで暫し沈黙したが、名前が直接言えないってんなら、これならどうだ。
「じゃぁ、その女神は何を司る女神なんだ?」
「ソ、ソレモ、言エナイ・・」
「じゃぁ、容姿はどうだ? 髪の色は何色だ? 瞳の色は? あと肌の色や身長はどれくらいだ?」
「ワカラ・・ナイ、 声シカ・聞・・イテ、ナイ」
「じゃぁ、声はどんな感じだ? 高いのか? 低いのか? それと話し方はどうだった?」
「声・・ハ、オレ・ヨリモ、オ前・・ヨリモ・髙・・イ。話シ方・ハ オ前・・ヨリモ、テイネイ・ダッタ」
「使えねぇじゃねぇか!」
軽くオークキングの頭を叩くとまたしてもオークキングがのた打ち回る。
そんな演技はいらないんだが・・・と考え、オークキングを鑑定してみる。
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名前 :-
性別 :雄
年齢 :1
種族 :オークキング
職業 :王
称号 :-
レベル:30
ステータス
HP : 420/1250
MP : 243/298
STR : 1150
VIT : 800
INT : 310 (+30)
AGI : 500
DEX : 400
MND : 500
LUK : 86
特記事項
〇×△x□の加護
・・・
ここまで徹底して隠蔽している事を考えると、どうにも3馬鹿女神くらいしか思い浮かばない。
この世界の神様なんて他にはもう1人くらいしか知らないが、容疑者は俺の中ではほぼ1択だ。
確定できないが、伏字が語っている。
隠すならもっとマシな隠し方はないのか?!
俺を馬鹿にしているのかあのクソ女神め!!
余程俺の憎しみを稼ぐのが好きらしいな。
今度真剣にあのクソ女神に報復する手段が無いか探そう。
そして取り敢えず神聖王国サスティリアからは出て行こう。
そう心に誓って考える。
最初は心の赴くまま嬲り殺しにしようと思っていたオークキングだが、こうなると何か使い道があるかもしれない。
一応オークキングが女神から何か指示を受けていないか確認してみるか。
「おい。 お前、女神から何か指示されてたりするんじゃねぇか?」
「グゥ・・・」
オークキングの顔色が変わる。 どうやらビンゴって事らしい。
「ふむ、素直に吐けば痛い目は見なくて済むんだがなぁ?」
そう言ってオークキングの左手を無造作に掴むと、小指を圧し折る。
「ブギャァァァァ?!」
「さて、話す気になったか?」
声を掛けるが、まだ叫んでいる。
「それじゃ、次行くか」
そう言って今度は薬指を圧し折ろうとすると、オークキングが慌てて話しだす。
「マ、待テ! メ、女神ニハ、ゴブリンキングゥ・・ヲ・ 殺セト・言ワレタ」
「なんだと?!」
「アト、ニンゲンノ集落、襲ウナト、言ワレタ。 ソレダケ・・ダ」
「襲うなって言われたのにお前等、人間を喰ったり生殖に使ってたのか? 誓約なんて全然意味ねぇじゃねぇか?!」
「チガウ。ニンゲンノ集落、ヲ、襲ウナ。ト、言ワレタ。 街ニ・イナイ・・ニンゲン・ハ、襲ッテ・モ、問題、ナイ。 ダカラ・・森ニ来タ、ニンゲン・・襲ッタ」
・・・納得できるが、胸糞悪い話だ。
あんのクソ女神め、肝心な部分が抜けていやがる。 オーク如きにあっさり出し抜かれるとか笑えない。
いや、そもそもオークなんぞに加護を与えているんだ。 人間に肩入れしている訳ではないのかもしれない。
地球の神話とかでも神様が人間を嵌める話があったりするが、それは王様の後継者争いやら何やらで理由は一応あった。
だがこの世界には人間以外にも知的生命体は存在する。
そんな中で人間のみが神様に贔屓されているとは考えにくい。
そうなると信仰心を集めるのに人間である必要は無いだろう。 それに馬鹿の方が扱い易いだろうしな。
そんな事を考えている所為か俺の中では只でさえ低いこの世界の神の株価が更に急降下どころかマイナスに入り込んでいる。
この世界の神は俺にとって邪神としか言いようがない。
いつか殺そう。 殺せなくても何某かの報復は絶対に行おう。
そうして暗い誓いを立てると、オークキングの処遇を考える。
最初は普通に嬲り殺しにするつもりだったが、大分事情が変わってきた。
こうなるとこいつにも利用価値があるかもしれない。
何せこいつには女神の加護が付いている。
生きたまま連れ帰って調べて貰うのが良いだろう。
もし女神の名前が特定されたら邪神として認定されるかもしれない。
そう考えてみたが、ひょっとすると魔物に加護を与えても邪神には認定されないのかもしれない。
魔物も一応この世界の生物だから加護を与えても問題ないような気もする。 が、人心は離れる気もする。
地味な嫌がらせ位にしかならないかもしれないが、地道にコツコツと評判を落として行こう。
と言う事で、オークキングは殺さずに王都へ持ち帰り、女神の特定をして貰おう。
1番気になるところはそんな感じで進めよう。あと次に気になる事も質問してみるか。
「なぁ、最初にゴブリンキングを殺せって言われたみたいだが、理由は聞いているか?」
「・・・今ノ、人間タチ・・デハ、ゴブリンキング・・倒セ・ナイ。 ダ・カラ、俺・・ニ・倒セ・・ト、言ッテ、イタ」
ふむ、つまりアホな戦争で疲弊したあの国じゃゴブリンキングに滅ぼされるから、森の中で対抗馬を出現させてゴブリンキングにぶつけるって事か?
そのままゴブリンキングを倒せればオークキングと言う脅威は残るが人間の集落を襲わないからあの国は生き残る。後は時間を掛けてオークキングを倒させればいい。いや、ゴブリンキングとの戦いで疲弊している所を人間に襲わせれば案外コロッと倒せるかもしれないな・・・ いや、俺があっさり倒せる位だ、やれるだろう。
そしてゴブリンキングを倒せなかった場合だが、倒せなくても捨て駒としてゴブリンキングの勢力を削れるならそれだけでもあの国が生き残る可能性は上がる。
どっちに転がってもあの国には利益がある。 やはりあの女神1択だった・・・
俺は暗い殺意を心の奥に灯し、やることを決めると、最初の本題であるストレス発散をさせて頂くことにする。
なに、殺さなければいいんだ。
サンドバッグにするくらいならいいだろう?
「オークキング。それじゃ、これから俺のストレス発散と、お前の逃亡防止のための処置を行うから、
覚悟しろよ?」
「ナ、ナニヲ、スル・・キダ・?」
引き攣った表情になるオークキングに厭らしい笑顔を見せつつ、答える。
「さぁ? 何が始まるんだろうな?」
その後、暫らくオークキングの絶叫が轟き続ける事になった。
女神の話を絡ませるか少し悩みましたが、絡ませてみました。