第60話 洞窟の中 5
さて、一旦入口まで戻ることにしたんだが、そこで1つ問題がある事に気付いた。
何が問題かって? 今現在、自分が鎧武者の格好をしている事が、だ。
正直この格好は楽太郎として認知されたくないのだ。
一応王城で暴れた時の格好だから噂が流れたり何かした拍子に正体がバレる危険を極力減らしたい。
彼女達を王都に連れて行くとして、彼女達が助けられた人物について聞かれたらどう答えるか?
答えは『鬼のような鎧を着た人』だろう。 そうなると警備隊のハンスさん辺りに話が流れると正体を勘ぐられる可能性がある。
自意識過剰かもしれないが適当な言い訳を考えねば・・・
と言う事で、暫らく考えて思いついたのがこれだった。
入口に辿り着いたところでレジー君を見付けると、猛ダッシュして槍を突き出す。
「え?!」
と驚くレジー君だが、俺は槍をレジー君の鼻先で寸止めする。
「むぅ?! 人間か?」
「え? あ、はい?!。 人間・・・ですけど」
混乱しているレジー君に俺は声を掛ける。
「これは失礼した。気配がしたのでオークかと勘違いしてしまった」
ちょっとRPして声も低く落として話してみる。
「あ、あぁ、そう言う事か。あ、俺はレジーと言います。すみませんがあなたは誰です?」
よし! 楽太郎だとバレていない様だ。
「私はラーク・エンジョイと言う。 オークの討伐の依頼を受けて来たのだが、オークの巣穴を見付けてな、それでその洞窟に入っていたんだ」
「え? マジですか?! じゃ、じゃぁ、昨日は大丈夫だったんですか?」
これは想定内だ。兀突骨大王討伐ごっこと称して洞窟内を蒸し焼きにしてたからな。
「あぁ、昨日は突然煙が充満して来てな、入口の方に大量のオークが押し寄せて来たので私は偶然見つけた小部屋に隠れてやり過ごしたのだ」
「申し訳ありませんでした!」
そう言って土下座するレジー君。
「ど、どうした?」
「実は・・・」
と言って昨日の蒸し焼きの件を語ってくれたが、チョイチョイ「楽太郎さんが!」とか「楽太郎さんに言われて仕方なくぅ」等、俺の名前を前面に押し出して話してた。
ま、まぁ確かに概ね俺のやりたいようにやった感は否めないのでレジー君の言い分もわかるんだが・・・ モヤッとする。
「・・・と言う事で、本当にすみませんでした」
そう言って頭を下げるレジー君。 まぁ、確かに巻き込んだ人がいたら謝る必要はあるよな。
それが出来るレジー君はやっぱりいいひとっぽい。
「ふむ、まぁ、謝罪は受け取ろう。その代わり頼みがある」
「ありがとうございます。 それで頼みとは?」
「実は洞窟の中で助けた人達がいるのだが、その所為で討伐依頼の期限に間に合いそうにないと依頼の成功は諦めていたのだが、レジー君。君が彼女達を保護してくれるなら急いで戻ればまだ間に合う。
と言う事で彼女達の保護を頼みたい。引き受けて貰えないだろうか?」
そう言って洞窟の入り口付近にいた彼女達の方を振り向き手招きすると彼女達がこちらに歩き出した。
うし! 話の流れ的に問題ないはずだ。 これでレジー君に面倒を押し付けてラーク・エンジョイは去る。 そして「隠密1」でこっそり洞窟に戻ってオークキング討伐続行。
倒した後で俺が出てくれば俺とラークが同一人物であるとは誰も思わないだろう。
完璧だ! そう思った時だった。
「あー、すみません。 楽太郎さんに相談したいんで、それまで待ってもらえます?
俺1人でこんな人数の面倒なんて正直見れないんですよ」
なん・・だと・・・!?
断られて焦ったのは一瞬。 今は架空の人物であるラークなんだ。
強引にでもレジー君に擦り付けちゃおう。
「あー、申し訳ない。私も討伐依頼の成功が掛かっているんだ。行かせて貰う。
すまん!」
そう言って全力で走り去る!
「あ! ちょっと! 待ってぇぇぇぇ!」
後ろからレジー君の声が聞こえてきたが、完全に無視して走り去ってやった。
と言う事で、「隠密1」を使いこっそり洞窟に戻って洞窟内の探索を始める。
「地図2」でマップを確認しつつ、穴埋めをした結果、1つの扉を発見した。
扉の前には明らかに殺されたと見えるオークの死体が転がっていて「無限収納」に仕舞って行ったんだが、何者かに殺された感じだった。
仲間内で殺し合ったのだろうか? そんなのは不毛に思えるんだが・・・
そんな事を考えつつ気配を探ると、扉の先には敵性反応が30くらいあり、扉を中心に扇状に広がっていた。
どうやら出入り口を警戒している様だが、こうなると奇襲はし辛い。
下手をすると扉を開けた瞬間、矢とか魔法が飛んで来ないとも限らない。
オークキングがいるのではないだろうか? ふと、そう思った。敵の布陣もそうだが、気の所為かもしれないが敵性反応が大分強く感じられたのだ。
うーん、ここは地下だからあんまり衝撃を与えたくないんだけど、あれを試すか・・・
そう思い、俺は自分を守るために事前準備を始める。
まず扉の前で自分の左右と俺が通れるくらいの隙間を開けて扉の前にも「土魔技」で壁を作成する。厚さは1mくらい。
次に扉の横の側面に沿うように土壁を作る。
脆くないかな?と不安に思い土壁を殴りつけてみたが、ビクともしなかった。
これで崩落があっても即窒息する様な事は無いだろう。
崩落しても意識さえあれば回復も出来るし、「土魔技」で脱出も可能だと思う。
これで一応準備は整った。
これから攻める。
そう気合を入れて気配を探るが、先程とあまり配置は変わっていない様だった。
よし。 やるぞ!
俺は両頬を軽く叩き、気を引き締めると「無限収納」に片手を突っ込み目的のズタ袋を手にする。
そのままの姿勢で扉の取っ手に手を掛け、一呼吸すると、意を決して扉を勢いよく開ける。
飛び道具を警戒して自分の体が扉の裏に隠れる様に移動したが、飛んで来なかった。
その代わりに、一番近くにいた4つの適性反応が接近してきたが他は動いていない。
よし! 今だ!
思うが早いか「無限収納」からズタ袋を引っ張り出すと扉の中に放り込み、扉を閉める。
そして扉を抑えつつ素早く「土魔技」で扉に蓋をすると、俺は扉の前に作った土壁の後ろに隠れた。
そうして隠れてから数秒後・・・
地を揺らす轟音がしたと思ったら、今度は複数の爆竹を鳴らすような破裂音が鳴り響いた。
天井からはパラパラと土が少し降って来たが崩落は免れたらしい。
そして俺は気配を探ると、敵性反応は15あったが、5つは弱々しい反応だった。
と言ってる内に2つ消失した。
残りは13匹か、これでキングが死んでてくれると助かるんだが・・・
俺はどうやら実験が成功した事に胸を撫で下ろす。
今回俺が投げたズタ袋には幾つかの仕掛けをしておいたのだ。
説明すると、ズタ袋には時限爆弾が仕掛けてあったのだ。
その中身はもちろん石ころを詰め込んでいるが、それぞれに時限爆弾を仕掛けてある。
ズタ袋と中身の石ころとは1秒ほどの時間を空けてセットしてあるので、先にズタ袋が爆発した後、中身の石ころが1秒後に爆発するのだ。
なんだっけ? 分かり易く言うと、クラスター爆弾みたいなもの? うーん・・・ 打ち上げ花火で言うと大輪の花を咲かせる割物ではなく、小さな花を複数咲かせる小割物みたいなものだ。
効果範囲は広いが、その分威力は拡散され落ちる・・んだが、今回は十分役に立ってるようだ。
よし、これを『クラッカー』と名付けよう。
これだけ威力があるならもう一発お見舞いしよう。
そう思い扉の前の土壁を壊すと先程と同じく「無限収納」に片手を突っ込みクラッカーを握り、扉を開けて放り投げる。
またも急いで扉に蓋をすると、俺は扉の前に作った土壁の後ろに隠れる。
地を揺らす轟音の後に景気の良い爆発音が鳴り響く。
今度のはズタ袋と中身の石ころが爆発するタイムラグを2秒にしてある。
一応1秒毎に5種類作成したので残りはあと3つだ。
そして気配を探ると敵性反応は10に減っていたが、残った反応に陰りはみられなかった。
ふむ、これ以上は威力が足りなくて減らせないのかもしれないな。
と言うより、強い敵だけが残った感じだろうか? 敵性反応は10個の内5つが後ろの方に固まっている。
残りの5つはそこから少し離れて扉を囲っている感じだ。あまり布陣が崩れている感じがしない。
ここからは正攻法で戦えって事だろう。
やるか。
そう自問し、自分の武器を確認すると、少し震えていた。
どうやら知らずに手に力が入っていたようだ。
槍から手を離し、軽く振って緊張を解し、深呼吸。そして扉の前の土壁を壊すと、扉に手を掛ける。
オークキングを殺すと決めたんだ。 迷いはない。
俺は覚悟を決めて部屋の中へと突撃した。