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第57話 洞窟の中 2

 オーク・ブッチャーを殲滅した後、俺はぶら下がっているモノについて魔物(てき)(しょくりょう)(たぐい)は殺してくれるようにレジー君にお願いした。


 レジー君も俺がグロいのが苦手なのが分かったようなので何も言わず指示に従ってくれたようだ。 弱みを見せてしまったが仕方がない。 誰だって完璧じゃぁないんだ。


「ラクタローさん。終わりましたよ」


「ありがとうレジー君。 それじゃ始めますかね」


 レジー君からの返事を聞き、覚悟を決めると、俺は俯きながら部屋の中央付近まで行き、エリアハイヒールで部屋の中に居る者たちを癒した。あちこちでくぐもった声が聞こえたが敢えて無視し、癒し終わると吊るされている人達を解放し、体に欠損がある人には「エクストラヒール」を追加で掛けた。


 たが、一目でわかるほど憔悴しきっているので皆床に座り込んでいる。何人かはこちらに何かを言おうと口を開けるが言葉になっていなかった。 多分「ありがとう」と言いたいのだろう。


 身体は治ったと思うんだが、体力が戻っていないので近くに座り込んでいた男に「リフレッシュ」の魔法を掛けると、男が一瞬、戸惑っているような声を上げたが、顔色は良くなり活力が戻っているように見えた。ただ、レジー君の時と違って爽やかな気分とまではいかないようで放心したように固まっていた。


「どうです? 疲れは取れましたか?」


「え? えぇ・・・」


 そう答えた男は最初、俺からの質問に理解が追い付かなかったようだが、暫らくすると慌てて思い出したように俺に感謝の言葉を伝えると、立ち上がり、泣きながら生きている事を喜んだ。


 男の回復を確認した俺は未だ青い顔のまま「どう致しまして」と社交辞令を口にすると、まだ座り込んでいる人達に次々と「リフレッシュ」を掛けて行く。 リフレッシュを掛けられた人達は一様に感謝の言葉を言ったり、助かった事を喜んだりしていた。


 だが、どうしたものか・・・ 取り敢えず吊るされてる人達を助けたまでは良いんだが、15人もいて人数が多い。男11人に女4人。リフレッシュで無理矢理体力は戻したが、俺はこのまま彼らを王都まで送ってやるつもりは無い。


 元々俺がここに来た理由は資金調達(オーク狩り)の為だった。 順調に事が運んだので序でにキングも殺してやろうとちょっとだけ前向きなやる気を出した事も否定しない。


 最初の目的は果たしている。 予定外の人命救助もしたんだ。 王都に戻ってもいいだろう。


 だが、今回、俺はこれ程凄惨なものを見せ付けられるとは思わなかった。


 これはこの世界の生物としての生存競争である。 そう言った意味ではオーク達の行動は真っ当なんだろう。


 食料を新鮮なまま保存するなら生かしておくのが一番だ。 人間だって家畜を飼っては殺し、食べている。


 俺だって食料(・・)資金(・・)の為にオークを狩りに来たんだ。


 オーク達も同じ事をしているだけだと理解することは出来る・・・ 理解することは出来るが、それを肯定する気はない。


 最初に言ったが、これは生存競争なんだ。あんな光景を目の当たりにしたからこそ、俺は今、恐怖と怒りを覚えている。


 そして何よりも俺の心が『こいつ等(オーク達)を生かしておいてはいけない』と言っている。


 俺にあんなもんを見せやがったんだ・・・ 確実に俺の精神的外傷(トラウマ)を1つ増やしてくれたんだ。 ただでは済まさん!


 あんな光景を夢にでも見る様になったら・・・ そう思うとゾッとする。 血の気が引くような感覚に襲われると共に怒りが湧きだしてくる。 なんてもん見せやがったんだ!


 絶対に許さんぞ! ぶっ殺してやる!


 絶対に・・・ 絶対にな!


 と、恐怖を怒りで塗り替えようと必死にモチベーションを上げていると、周りの人達から「ひっ!」 だの「やめて、許して・・・」だのと言う声が聞こえてきた。


 うん? なんだ? と辺りを見回すと、どうやら俺を見ているようだ。


「どうしたんだ?」


 訳が分からない。


「ラクタローさん。 殺気が漏れてますよ」


 レジー君に耳打ちされ、ようやく気付いた。 これはやっちまったか? とも思うが、仕方ないだろう。


 俺みたいな小心者があんなもん見せられて平気でいられる訳がないだろう。こうして無理矢理にでもモチベーション上げないと鬱屈とした気分で塞ぎ込んで動けなくなりそうなんだよ。


 自分のヘタレ加減に内心で言い訳しつつも声を出す。


「これは申し訳ありませんでした。 少々熱くなってしまったようです。あなた方に対して他意はありませんので安心してください」


 俺はそう言って安心して貰おうと思ったのだが、これまでが酷い状況だったのだ。 疑り深くなっていても仕方ないだろう。その場には俺の言葉を鵜呑みにする者は居らず、八つ当たりを恐れたのか一様に俺から後退り、警戒させる結果となった。


 謝罪したにもかかわらず、釈然としない結果になり、何とも言えない表情になる俺ではあったが、これは逆に好都合かもしれない。 俺はこれからオークキングを殺そうと覚悟を決めたところだ。俺達を頼り縋りついて来られる方が面倒になったに違いない。 この人達の手助けをしつつオークキングを殺すなんてのは大変どころか無理に近い。 考えただけで頭が痛くなりそうだ。 俺はこれ幸いにと突き放すような話を始めた。


「さて、今回皆さんを助けましたが、1つ断らせていただくと、私の目的は彼方(あなた)達の救出ではありません。あなた達が助かったのは偶々です。運が良かったですね」


 そう言うと、レジー君以外はこちらの言葉に何とも複雑な表情をする。 まぁ、命が助かったって意味では運は良いが、こんな状況にある事自体が最悪だと思えるからな。 それにこれから俺が言う事はこの人達を失望させることになるだろうしな。 まぁ、恨まれるかもしれんが、大事の前の小事だ。 そう覚悟を決めて本題を切り出す。


「私の目的ですが、この洞窟内に居るであろう、オークキングの討伐、もしくは殺害、もしくは撲殺。斬殺。焼殺。爆殺することです。 なので今後は自力で脱出してください」


 そう言うと、その場にいた全員が目を剥いた後、また絶望を湛えたような表情になるが、俺を罵ったり罵倒する声は上がらなかった。 まぁ、こんな状況だ。 誰かに保護して欲しかったんだろうけど、まだ俺は奴隷(・・)なんていらない。 それにここで保護したら俺の新たな目的が達成できなくなる。 待ってろよ、豚野郎、あんなもん見せられた借りはきっちり返してやる!


「ラクタローさん。殺気が漏れてますって! それよりキング討伐なんて初耳なんですけど?」


 レジー君は小声で囁いて来たので、俺も自然と小声で答える。


「おっと、すみません。キング討伐については少し前に『やってみようかな?』 程度に考えていたんですが、少し前に決め(・・)ました」


「そうじゃないかと覚悟はしてましたけど、この人達はどうするんです? 本当に見捨てるんですか?」


 ・・・ ストレートに言われると、なんか凄い酷い事してる人みたいに思えるな。 ちょっと心が痛い。


「私としては保護してこの人達を奴隷にする気はありませんよ。それにオークキングを殺そうとしてるのに足手纏いを態々(わざわざ)連れて行く気もありません。あ、そうだ。いっそレジー君が保護してレジー君の奴隷にしてはどうです? そうすれば私はインディと一緒にオークキングを殺せるし、レジー君は奴隷を手に入れられる。これってWinWinの関係って奴じゃないですか?」


 話しながら思いついた事を口にすると、レジー君は嫌そうに反論した。


「無理ですよ。その通りにしても俺じゃこの森からこの人達を無事に脱出させるなんてできませんよ! 食料とかどうするんです? 俺、自分の分しか持ってませんよ? ラクタローさんみたいに便利なスキル持ってないんですよ。 それにこの人達の臭いも問題ですよ。 森の中でこんな臭いしてたら襲ってくれと撒き餌してるようなもんですよ。ラクタローさんならこれ幸いにとお金稼ぎのネタにするんでしょうけどね」


 皮肉交じりの否定をされてしまった。 うーん。食料か・・・


「食料はオークの肉を食べて貰うのはどうです? 死体を5体程で賄えるでしょう? それに道具類は私が出しますし、 生活魔法を使える人が1人くらい居るでしょう? なら水で体を洗い流して貰えば臭いも多少は何とかなるんじゃないですか?」


「・・・それでも、護衛戦力が俺1人じゃ足りませんよ!」


 むぅ、必死だなレジー君。 それなら逆はどうだろう。


「それじゃ私がこの人達を連れて行きますから、オークキングを任せていいですか?」


「無理です!」


 即答されてしまったが、仕方ないだろう。


「はぁ、それじゃ、折衷案にしましょう。 私がオークキングを討伐しに行くんで、レジー君はこの人達を連れて洞窟の周りで隠れていてください。 1日たっても私が出て来なかったら、私が死んだと見做し、そのまま王都へと戻ってください。 それまでに私が戻ってきたら一緒に戻りましょう。ただ、隠れていても見つかる事はあります。その場合は応戦するなり先に逃げ帰るなりの判断はお願いします。 これならどうです?」


「それよりもラクタローさんも一旦王都に戻って、その後またここに来ればいいんじゃないですか?」


「レジー君。 オークは頭悪いけど、危機意識が無いわけじゃないんですよ? 今回、私達は群れの大半を倒したと思いますが、オークにしてみたら恐るべき敵に蹂躙されたんです。そんな場所に留まり続けるでしょうか? 私ならさっさと逃げ出しますよ?」


 そう言うと黙り込み考え始めるレジー君。 もう一息か。


「ここでオークキングを取り逃したら、今度はもっと用心深くなったオークキングを探さないといけなくなる。 そうなったら次に見付けるまでに一体どれだけの犠牲が出るかわかりません。 だからそうなる前に討伐する必要があるんです」


 こう断言すると、レジー君は不承不承ではあるが、首を縦に振ってくれた。


 その後は他の人達に説明し、それが嫌なら各自での脱出をお願いすると、全員従ってくれた。


 その後は一旦分岐点まで戻ると、食料や道具類をレジー君に渡し、彼らと別れて奥に進んだ。




 これでようやく自由に動ける。


 待ってろよ、オークキング! 絶対にこの逆恨みをぶつけてやる!






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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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