56話 洞窟の中 1
リアルでトラブルが少々あり大変遅くなりました。
申し訳ありません。
それに今回、中身の一部はグロいかもしれません。 耐性ない人は要注意です。
翌日、柔軟体操と朝食を終えた後、洞窟内の探索をすることにしたんだが、洞窟に入って「地図」スキルを確認すると、自分の周辺以外は真っ暗で、自分が歩いた場所が薄い灰色になっていた。
どうやら自動で地図を更新してくれるようだが、未踏地域は真っ黒のままだ。 一応自動マッピングはしてくれるようだが、洞窟内の詳細な地図は出てくれなかったようだ・・・ やっぱり現実は甘くないって事だな。
と言った事もあり、慎重に洞窟内を進むため、隊列を組むことにした。
一応レジー君は義賊だし、洞窟とは言っても魔物の棲家だ。罠があるかもしれないし、用心するに越した事は無いだろう。 そう考えてレジー君に先頭を任せる。俺はその後を追い、後ろからの奇襲に備えて殿をインディに任せて中を進むことにした。
そんな感じで洞窟の中を警戒しながら進んでいるんだが、壁も天井も地面も煤で汚れて真っ黒になっており、薪の残りを即席の松明にして進んでいるんだが・・・ やっぱり暗い。
レジー君は「暗視」スキル持ちなのでこんな松明の明かり程度でも真昼のように辺りが見渡せるらしい。 中々に有用なスキルだと思うが、ポイント惜しさにまだ取得はしていない。 と言うか、自力で取れそうな気もするんだよね・・・
今の所「暗視」スキルの無い俺だと、こんな松明の明かりじゃ薄暗くて心許無く、レジー君の後姿がぼんやり見える程度で、数メートル離れた辺りはほとんど真っ暗で何も見えない。 1人だったら絶対にこんなところには入らないだろう。 だが今は1人じゃない。それに俺にも面子ってものがあるので、ビビってる事をレジー君に悟られないよう、できるだけ素知らぬ顔で後を付いて行く。
内心ビビりつつ進み、暫らく歩くと、急にレジー君が足を止める。
「どうしました?」
「ラクタローさん。この先2つに道が分かれてるんですよ。右側の道は上に登ってるみたいですが、左の道は下に降ってるようですね・・・ どうします?」
そう言われて俺も道の先を目を凝らして見るが、良く見えない。 うーむ。どうしようか・・・ 一応「煙と馬鹿は高い所が好き」と言う~諺もある様に、煙は基本的には上に向かって昇って行く。 そう言った意味では上に登った方が安全に探索できるだろう。 逆に下に降っている方に関しては煙が奥まで届いていない可能性もあり、そうなるとそちらに生き残りが居る可能性が高い。
下手をすれば不意を突かれるかもしれない。
うーむ。後顧の憂いを断つ意味でも上を調べてから下に行くのが良いかもしれないな。
「レジー君。上に登る道を進みましょう。蒸し焼きしたんで恐らく大した敵は居ないと思いますが、念のために先に踏破して潰しておきましょう」
「了解です! あ、でも下から新手が来て挟み撃ち・・・なんてことにはならないですよね?」
軽口を叩いたつもりのレジー君に俺はジト目になってぼそっと呟く。
「レジー君。フラグを立ててしまいましたね」
「え? 俺、なんか不味いこと言いました?」
「私の故郷ではフラグを立てると言うんですが、まぁ、詳しく説明しても仕方ない。端的に言いますが、レジー君。あなた死ぬかもしれませんから、これからの行動は慎重にお願いします」
「え? えぇ?! お、俺、死ぬんですか? どうしてですか?!」
俺の急な発言に動揺するレジー君。 まぁ、仕方ないよねフラグ立てちゃったんだから。
「仕方ないんですよ。それがフラグを立てるって事ですから」
「どういう事ですか!」
「そんな事より先に進んでください」
「そ、そんな事って・・・ フラグってどういう事か教えてくださいよぉ~」
「所謂、お約束って奴ですよ。とある場面である発言をすると、その結果が固定されてしまうんですよ。悪い方向でね」
「それって何かの呪いですか?!」
「呪い・・・ですか、確かにそんな感じですね」
「呪いを解く方法は無いんですか?」
「うーむ・・・ 自力で何とかするしかないかな?」
「そんなぁ~」
ショックを受けるレジー君を急かし、先へと進むと、確かに分岐路があったが、それぞれの道が緩く傾斜している感じで徐々に段差が生まれ、上下に別れている様だ。 これならやはり上から制したほうがいいだろう。
「このまま上に登りますよ」
「分かりました」
そう言って先にレジー君は進み、俺は後を追う。
こうして探索行は続いた。
分岐路から20分程進んだだろうか。地面にはオークの死体がチラホラと散見できるようになってきていた。
そんな状況の変化にレジー君はこちらを振り返る。
「様子が少し変わってきたんだけど、どうします? 調べます?」
そうレジー君に聞かれ、俺は肯定の返事を返し、辺りの状況を確認する。
インディも足を止め、鼻をクンクン鳴らしながら辺りを警戒する。
俺はそんなインディの頭を一度撫でると、一番近いオークの死体に松明を翳し、状態を確認する。
目の前のオークは入り口方向に頭を向けて、半ば地面に埋もれる様にうつ伏せに横たわり、その背には無数の足跡が幾つも残っている。
「どうやら煙に巻かれて入口に殺到する際に、運悪く転んだか何かして倒れたところを踏み潰された・・・って所でしょうかね?」
「・・・そうだと思いますよ」
レジー君もオークの死体を確認しつつ相槌を打つ。
俺は2体目の死体も同じような状態である事を確認し、更に数体確認したのだが、2体だけ仰向けで頭の位置が入口に向いている死体があった。 両腕は顔の横でぐちゃぐちゃに潰れているし、もちろん顔なんかも潰れており、オークの豚面とは言え、見る影もなく、所々骨が露出してかなりスプラッターな状況になっている。 正直気持ち悪いし、怖い。 油断すると胃の中のものが逆流しそうだ・・・
「・・・レジー君。この死体とそこの死体なんですけど、仰向けで入口の方を向いているんですが、ひょっとして逆に進もうとしたんですかね?」
「そうかもしれないけど。ただ倒れた時に踏まれたり蹴られたりして偶々仰向けになった。 と言う可能性もあるんじゃないですか?」
確かにそうかもしれないが、違うかも知れない。そう思った俺は、『無限収納』から薪を2本取り出し、吐き気を堪えながら薪をオークの死体に潜らせてひっくり返すが、背中側にはこれと言った外傷が見られなかった。
何故薪を使ったのかと言えば、触りたくなかったからだ。踏み潰されてぐちゃぐちゃになった死体なんぞ誰が触りたいんだ。 未だにゴブリンの死体もほとんど触れない俺に出来る訳がない!
おっと、話が逸れたな。元に戻そう。
まぁそう言う事で、念のためもう1体もひっくり返してみたんだが、こちらは損傷が激しかったのだろう。薪を潜らせて傾けると首が胴体から離れ、俺の足元に転がると、ぐちゃぐちゃの顔が俺の方を向き、そこから覗く目玉と俺の視線が合ってしまう。
「?!」
オークの首と暫し見詰め合った後、動悸の治まらない心臓と吐き気を堪え、俺は何とかその場を離れて呼吸を整えた。 俺のチキンハートがバレていないかとレジー君の方をチラっと見るが、幸いレジー君は奥の方の死体を確認しているようでこちらに背を向けていた。 一応バレてはいない様だな。
その後、首なしになった死体の背中も確認したが、外傷は無かった。
こっちの世界には煙に巻かれないように身を屈めて移動するとか、布を口元に当て煙を直接吸わないようにするとか、そう言った知識は無いだろう・・・と言うか、それ以前にオークの知能に合わせて考えると、『煙が来て苦しくなったから奥に逃げたんだけど、その後もずっと煙が襲ってくるので慌てて入口から逃げ出した』って感じなんだろうが、そうなると、この2体の死体が向いてる方向に違和感を覚える。
「背中側にはこれと言った傷も無いようですが・・・ 何か引っかかるんですよね」
「何かおかしいんですか?」
「なんとなく違和感と言うか・・・あー、口で説明し辛いですね・・・ えーと、このオーク達って、仰向けで死んでるって事は、背中から倒れた可能性が高いですよね?」
「え? えーと、そうですね、その可能性が高いですね」
「と言う事は、他のオーク達が入口に殺到しようとしている時に、流れに逆らって逆方向に向かって行った。 と言う事になりませんか? 普通、パニック状態の集団に立ち向かう形で逆走するでしょうか?」
俺の問いにレジー君は考えながら答える。
「うーん・・・ラクタローさん。逆走ではなく、この2体が上位個体で、煙によってパニックになった仲間の統制を取ろうとして失敗。その結果、パニックを起こした集団に踏み潰された。この方がありそうじゃないですか?」
「なるほど、そう考えた方が自然ですね。そうなると、この先に進んでも無駄足かも知れませんね」
「引き返します?」
そう言われて俺は何となく嫌な予感がした。 こういう直感って結構バカにならないんだよな。
「いや、奥まで進みましょう。無駄足にならなかった時の事を考えれば進むべきです。無駄足になっても上に対する憂いが無くなるわけですから、ただの無駄足ではないですよ」
「そうですね。それじゃ奥まで進みますか」
「お願いします」
俺は短く返事を返し、インディの顎の下を軽く撫でると、レジー君の後を追った。
インディは俺が撫でたのを合図とでも思ったのか、俺の後に続く。
更に20分程進むと、レジー君が急に止まる。
「どうしたんですか?」
「ラクタローさん。あそこに扉があるんですよ」
そう言って前の方を指差すレジー君。 俺には良く見えないのでレジー君が指差す方に歩き、レジー君を追い越して少し歩くと薄ボンヤリと扉のようなものが見えてきた。
さらに近付き松明を掲げると、今度ははっきりと扉が見えた。 昔誰かが住んでたのか? もしくは盗賊でも居たのか?
「レジー君。この洞窟って人が住んでいたことがあるんですか?」
「さぁ? ギルドじゃわかりませんでしたけど、盗賊とかが根城にしていたのかもしれませんよ?」
「そんな感じですかね?」
等と会話をしながら扉に近付くと、扉の中からダンッ!と言う音やくぐもった悲鳴? のようなものが聞こえてきた。
その瞬間、俺とレジー君は扉から飛び退き、獲物を構える。
・・・
扉を睨むこと暫し、レジー君が近付き、扉の様子を調べ、戻ってくる。
「鍵は開いてますね。後、断続的に物音が響いていて、それに伴って悲鳴が上がっているようです。それと敵は5匹ですかね?他の反応は弱くて良くわからないんですが、結構な数が居るみたいです」
「これは当たりって事ですかね?」
そう一人ごちると、俺も『気配察知』と『地図』を発動する。 が、やはり『地図』は通ってきた道以外は真っ暗で、其の中に敵性反応が5つ、それ以外は地図に表示されなかったので不明だった。
俺は『地図』スキルの使用を止め、『気配察知』に専念すると、レジー君と同じで敵性反応以外については良くわからなかった。 ただ敵性以外の気配が広い範囲に存在しているのは分かるのだが、正確な数を把握することが出来ない。気配が弱い所為で、「そこに何かがあるような気がする」と言った感じで、微妙な感覚があるのだ。
さて、これらの情報を踏まえると、敵は5匹。俺のレベルなら正面から戦っても大抵勝てる気がするが、レジー君が微妙だ。 彼も強くなっているが、ゴブリンの時みたいに大隊長クラスが出て来ると、レベル的にはほぼ同じで、キングの加護がある分、敵が有利だろう。 それにここは地下だから小型爆弾や爆発の魔法も使えない。どちらも爆発するから使ったら天井が崩落して巻き込まれる可能性が高い。こればっかりは命あっての物種だ・・・って、あれ? ひょっとして俺の魔法完全封印された?!
そんな感じで沈思黙考していると、レジー君に声を掛けられた。
「それでどうします? このまま俺が先頭で突っ込みますか?」
それは不味いかもしれない。
「いや、私が先陣を切りましょう。 レジー君は先程フラグを立てたばかりだし、何となく嫌な感じがするんですよね」
そう言って俺はレジー君にニヤリと笑い掛ける。
「やめてくださいよ。縁起でもない。 全く・・・ まぁラクタローさんから突撃掛ける件は了解です」
「まぁ、冗談は置いといて、嫌な感じがするのは本当なので、気を付けてください。あと、出来ればレジー君は私の後方に位置取りをして、サポートに回ってください。 私が指示するまでは回避に専念して死なないようにしてください」
俺が真剣な表情でそう言うと、レジー君はどこか不安そうに了承した。
「あーっと、そうだった。 インディ。 お前は扉の前で後続が来ないか見張っててくれ。敵が現れたら殲滅よろしく。 勝てそうになかったら大声で吠えてから逃げるんだぞ」
そう言うと、インディは了解とばかりに1回だけ首を縦に振った。 うーむ、やっぱり俺の言葉を理解しているようだ。
次に俺は『無限収納』から薪を何本か取り出すと次々に火を付ける。 扉の中が真っ暗だと『気配察知』で敵の位置が分かっても見えないのは不安だ。 扉を開けたら適当に幾つかばら撒くつもりだ。
そうして準備を終えると俺は扉の前まで行き、そっと取っ手に手を掛ける。 じわりと滲み出た汗が背を伝い、緊張して下腹部に違和感を覚えるが、一度深呼吸をして気を落ち着かせると覚悟を決める。
「行くぞ!」
そう言って息を吐くと、一気に扉を開け、火のついた薪を部屋の中に放り込み、全て投げ込み終わると俺は部屋に踏み込み一番近い適性反応へと一気に駆け込むと、十文字槍で1匹目の首を狩る。
よし! と思ったのも束の間。そこで見た光景に俺の全身が固まる。
薄暗い明かりに照らされて映し出されるのは大きな机。その上には切り取られた人の足が置かれている。 刃物類、包丁だろうか?は乱雑に置かれ、その脇には骨と肉が選り分けられ、別々の容器に詰め込まれている。
目を背けるように視線を上げると、そこにあったのは天井から吊り下げられている男だ。 苦悶の表情を浮かべ、絶叫しているのだろうが、猿轡を噛まされている為、声がくぐもり小さい音を立てるのみ。
男の両足は既に無く、足の根元を縄で縛られ止血されている。 一見、手当のようにも見えるその行為は真逆の心理から「簡単には死なせない」と言う拷問を楽しむ者特有の嗜虐心からであろう。
不意に吊られた男と目が合うと、男は何かを訴える様に必死に声を出そうと身動ぎする。
ラクタローはあまりの事態に吐き気を催し、堪えるように口元を抑える。が、その時『危機察知』が警告を告げ、ラクタローは反射的に身を屈める。
次の瞬間。ラクタローの頭が先程まであった場所を一本の包丁が通過した。・・・が、ラクタローは吐き気を催している最中に身を屈めたせいで堪えきれずに胃の内容物を吐き出す。 それを見たレジー君は慌ててフォローに入り、こちらに駆け寄ろうとしていたオークにスリングショットで牽制してなんとかオークの接近を阻む。
「ラクタローさん! 大丈夫ですか?!」
「おげぇ・・・ ぐぅぅ、くそがぁ!! こんなもの見せやがって!」
レジー君の牽制のお蔭で胃の中のモノを全て吐き終えることが出来たラクタローは乱暴に口元を拭うと、一番近くにいるオークに向かって掛け込み、怒りのままに殴り付け、吹き飛ばす。
吹き飛んだオークは部屋に吊るされている複数の何かにぶつかりながら部屋の壁に激突するが、俺は吊るされているモノというか物と言うか者・・・を極力視界に納めないように視線を落とすと、気配を頼りに次の獲物に肉薄する。
オークは包丁を振り降ろしてきたが、横にステップして躱し、カウンター気味にオークの脇腹にボディブローを入れる。堪らず前屈みに頽れるオークの後頭部を掴み地面に叩き付ける。
直前に吐いていたとは思えない動きを見せるラクタローにレジー君がぼそりと呟く。
「ありえねぇ・・・」
ラクタローは込み上げる吐き気を怒りで塗り潰し、4匹目に突撃を掛け、オークの顔に目掛けて拳を突きだす。が、オークは横に体を逸らすと、カウンター気味に包丁を突出してきた。 ラクタローは驚愕に目を見開くと、強引に転がる様に包丁を躱す。
ラクタローが床に身を投げ出したのを見たオークは追撃とばかりにラクタローの後を追って包丁を連続で突出すが、ラクタローは器用に床を転がり包丁を躱すと、オークが包丁を突き出すタイミングに合わせて包丁を蹴り飛ばす。
まさか反撃されると思っていなかったオークはあっさりと包丁を飛ばされ、一瞬硬直する。ラクタローはその隙に素早く立ち上がり、オークから距離を取った。
「こいつ、オークの癖に疾い!」
そう言って「鑑定」を発動させる。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :雄
年齢 :12
種族 :オーク
職業 :解体者
称号 :-
レベル:50
ステータス
HP : 1480 (+30 +100)
MP : 113
STR : 780 (+30 +100)
VIT : 500 (+30)
INT : 180 (+100)
AGI : 740 (+30 +100)
DEX : 540 (+30)
MND : 370
LUK : 56
特記事項
オークキングの加護
※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにオークキングのレベルに応じた補正が付く。
「強い! 解体者ってなんだ?!」
思わず声が出てしまったが、敵の強さを見て、俺は幾らか冷静になれた。 これはレジー君じゃ太刀打ちできない。 それにレベルは俺よりも上だ。 職業については・・・後回しだな。
こうなると、もう一匹も確認してみるか。 俺は目の前のオークと睨み合いつつ、もう一匹を視界に納めると「鑑定」を発動させる。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :雄
年齢 :7
種族 :オーク
職業 :解体者
称号 :-
レベル:25
ステータス
HP : 855 (+30 +100)
MP : 59
STR : 530 (+30 +100)
VIT : 300 (+30)
INT : 143 (+100)
AGI : 440 (+30 +100)
DEX : 290 (+30)
MND : 195
LUK : 29
特記事項
オークキングの加護
※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにオークキングのレベルに応じた補正が付く。
こっちはまだレジー君でも暫らくなら対処できそうだな。
「レジー君! 俺の目の前にいるオーク・ブッチャーには絶対に近付くな! お前じゃ勝てない!」
「?!」
「その代わり、そっちで転がってるオーク2体の止めを頼む。まだ息がある。それが終わったら向こうの元気なもう1匹の相手を暫らくしててくれ」
「わかりました!」
がらりと変わった俺の口調に戸惑ったようだが、俺はレジー君の返事を合図に目の前のオーク・ブッチャーに肉薄する。
オーク・ブッチャーは俺とレジー君の短いやり取りの間に新たに包丁を手にしたようで、包丁を持って身構えていた。
オーク・ブッチャーは接近する俺に包丁を連続で突出して来るが、俺は体を左右に振って躱す。
そうして距離を詰めて行くと、連続突きをしていたオーク・ブッチャーが突然横薙ぎを見舞ってきた。
俺は慌てて後ろに飛び退き躱すと、オーク・ブッチャーが舌打ちをした。 こいつ・・・オークの癖に器用な事しやがる。
こっちも獲物が欲しいが、生憎と吐いた時に取り落として今は汚物塗れだ。 と言うか、床を転がった所為で俺の全身も汚物塗れだ。・・・クソォ!
俺の攻撃魔法は爆発系だけだから単純な肉弾戦で決着付けるしかないか。 そう腹を括ると、全身に気を巡らせ全力でオーク・ブッチャーに突撃する。
速さが増した俺にオーク・ブッチャーは驚いた顔をするが、すぐさま包丁での迎撃態勢を取る。俺は右手を手刀の形に固定すると気を込め、「気功術スキル」の技の1つ、『硬気功』を発動し手刀を硬質化させ、包丁の腹を手刀でへし折る。
驚愕の表情を浮かべるオーク・ブッチャーの肘を返す刀でへし折ると、オーク・ブッチャーが絶叫を上げ、膝をつく。
俺はその隙を逃さずオーク・ブッチャーの首を両手で捻り首をへし折って絶命させた。
「ふぅ、結構強かったな。後はもう1匹始末すれば終わりだ」
そう思ってレジー君の方を見ると、大分苦戦しているようだった。
「ラクタローさん! 助けて! こいつ滅茶苦茶強い!」
俺は慌てず『無限収納』から石を取り出すと、もう1匹のオーク・ブッチャーの頭目掛けて投げつけると、あっさり昏倒し、レジー君が呆然とした表情でゆっくりと振り向いた。
「止めよろしく」
片手をあげてそう言うと呆然としたレジー君が我に返り小剣でオークの首を突き刺し止めを刺した。
それを見届けると、俺は床を見詰める事にした。
この部屋で顔を上げるのは勇気がいる。 ヘタレな俺には無理だ・・・