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第2話 鬼武者 城を出る

 部屋のあちこちで人が倒れている。

 それを見て、どうしたものかと、周りを見ると扉が見えた。

 両開きの扉で分厚そうだ。

 国王が居た方向とは正反対の位置にある。たぶん出口だろう。


 ここは王城とか言っていたから、外にも護衛が待機しているだろう。

 そう考えると、ここから出るのに面倒になるな。

 うーん、国王人質にして逃げるか? いや、国王人質にしたら躍起になって追ってきそうだ。

 そのまま外に出た方がいいかな。


 そう考えて周りを見回すと、最初に倒れていた女の子から声が漏れてきた。

 タニア以外には無視されていた少女だ。誰なんだろう?と思ったら、少女のステータス画面が現れた。

 

 ----------------------------------------

名前 :リコリス=シーベルト=サスティリア

性別 :女性

年齢 :14

職業 :サスティリア第3王女

称号 :女神の巫女

レベル:5


ステータス

 HP : 50/80

 MP : 13/120

 STR : 30

 VIT : 45

 INT : 100

 AGI : 65

 DEX : 42

 MND : 80

 LUK : 111


特記事項

 サスティナの加護


 そういや、スキルで鑑定があったんだっけ? 忘れてたよ。へー「リコリス」って言うのか。鑑定って便利だねぇ。

 そんなこと考えてたら、リコリスが起き上がった。周りを見回している。

 あ、こっちに気付いた。 と思ったら、後ずさりしてる。・・・あ、俺、今、鎧武者だった。そりゃ怖いか。


 それでもリコリスはこちらを見て声をかけてくる。

「あ、あのー、勇者様ですか?」


「違う」


「・・・では、どちら様で?」


「貴様らに拉致された異世界人だ」


「では勇者様ですよね?」


「違う」


「でも、私が召喚して、出てきたんですよね?」


「お前が俺を攫ったのか」


「違います。勇者様を召喚したんです」


「だから、勇者召喚の儀式で異世界人の俺を攫って来たんだろうが、この犯罪者」


「犯罪者じゃありませんよ。王女です。だから、勇者召喚で呼ばれたのが貴方なら、勇者様ですよね?」


「違う」


「・・・?」


 リコリスはわからないといった感じで小首を傾げている。

 あー、頭痛くなってきた。

 こっちの世界の女はタニアと言いリコリスと言い、頭の中お花畑ばっかりか・・・泣きたい。

 面倒になってきた。 もういいや、このまま逃げよう。先程の騎士達は大したことなかったし、逃げるだけなら大丈夫だろう。

 そう考え、部屋の扉に向かって歩くと、リコリスから声がかかる。


「どちらへ行かれるのですか?」


「外だ」 


「どうしてですか?」


「ここに居たくないからだ」


「どうしてですか?」


「・・・、お前等が嫌いだからだ」


「そ、そんな! 待ってください 勇者様!私何かしましたか?」


「誘拐」


「してません!」


 リコリスの質問に答えながら、扉までの間に転がってる邪魔な障害物(にんげん)を槍の石突で左右に適当に転がし歩く。

 自分の行動も大概酷いと思うが、気絶した振りして下から攻撃されても面白くないので、念の為にね。


 扉の前に着くと、深呼吸を一つ。さぁ、何が出ても良いように集中し、警戒しつつ扉を開けようとすると・・・


「待ってください!」


 両手を広げてリコリスが扉の前に立ち塞がった、が、俺はもうまともに問答する気はない。


「待たぬ」

 と一言言って、リコリスの腹部を軽く小突く。

 リコリスはそのまま頽れ、呻き声を上げるが、気にせず俺は扉を開けた。






 扉の先は薄暗い階段だった。見上げれば螺旋状に続く階段が上に伸びている。手摺りはなく、20メートルほど続いているだろうか。 所々に松明が掛けてある。 まだランプもない世界なのかな。そんなことを考えつつ、気配を探るが、人の気配はなさそうだ。


 とりあえず進むか。階段に足をかけると階段の表面はざらついていた。滑り止めかな?

 俺が歩くたび、ガシャガシャと鎧が音を立てる。


 階段を登り終えると、また扉があった。

 今度は躊躇なく無造作に開けると、5メートルほど離れた位置から騎士が20人程こちらを向いて壁際に整列していた。


「なんだこりゃ?」

 思わず零した言葉に右側に居た騎士が誰何する。


「貴様! 何者だ! 陛下はどうした!」


 この騎士、なんか強そうだな。他の奴とは雰囲気が違う気がする。

 見てみるか。そう判断すると、騎士のステータスが目の前に表示された。


----------------------------------------

名前 :レイラ=カストール

性別 :女性

年齢 :18

職業 :近衛騎士副隊長

称号 :護衛(ガーディアン)

レベル:15


ステータス

 HP : 270/270

 MP : 80/80

 STR : 180

 VIT : 150

 INT : 120

 AGI : 220

 DEX : 140

 MND : 170

 LUK : 30


特記事項

 サスティナの加護


 げ、女だった。それに俺より素早くて精神も高いのか・・・ 道理で強そうに見えたわけだ。

 他の騎士たちも殺気立ち獲物を構え威嚇してくる。

 参ったね、こりゃ。ま、しょうがないか。極力面倒は避けるとするか。

「俺は貴様等に勇者召喚された異世界人だ。下の部屋にいた者共なら眠っているぞ。今のところは大事ないが、そのまま寝ていたら風邪をひくかもな」


「どういう状況だ?それは!」


「どういう状況と聞かれてもな、俺もわからんよ。俺を勝手に連れて来たのは貴様等だろうが」


「・・・仕方ない。おい、エギル。貴様の部隊を連れて下へ行け」


 エギルと呼ばれた騎士が返事をし、ここにいる騎士の半数を伴って下に通じる階段を下りて行く。

 俺は何気ない所作で指示された騎士達が扉を潜ると、開いていた扉を閉めた。

 おし、これで敵が半分に減ったな。


「では、失礼する」

 一声かけて堂々とその場を後にしようとするが、またしてもレイラに止められる。


「どこへ行かれる?」


 お、言葉が少し柔らかくなったな。

「外へ」


「貴殿は勇者ではないのか?」


「違う」


「ならば何処から入って来た」


「俺はお前たちに拉致されたのだ」


「拉致?」


俺は溜め息をこぼし、今日何度目かの問答に答える。

「個人の自由を奪い、別の場所へ強制的に連れ去ることが拉致だ。つまり勇者召喚とは異世界人を拉致する術だ。 俺は自由を奪われ、別の場所へ強制的に連れ去られた。実行したのはお前等だ。つまり俺はお前等に拉致されたんだよ」


「?!」

俺の言葉に衝撃を受けたようだな。二の句が継げないようだ。


「俺は拉致した犯罪者共と一緒に居たいとは思わない。故に外へ出て自由を取り戻す。邪魔をするなら相手になるぞ、犯罪者」


 俺は嘲りを声に含ませ言い切った。

 レイラは一瞬肩を怒らせたが、堪えたようだ。他の面子はレイラの様子を伺っているが、俺に敵意を向けている。と言うより、殺気だなこれは。

 俺はそのままレイラの横を通り過ぎ、そのままこの場を立ち去ろうとするが、レイラにまた呼び止められる。


「待たれよ」


「待たぬ」

 レイラの呼び止めを無視し、そのまま歩こうとすると、他の騎士たちが立ち塞がる。

 俺はそれを無造作に槍の石突で小突きながら歩き続ける。俺は少し強めに小突いてるつもりなんだが、何故か騎士が吹っ飛んでいく。


 少しの間呆然とそれを見ていたレイラだったが、思い出した様にこちらに切り掛かって来る。

 レイラの一撃を槍で受け止めると、今度は俺が口を開く。


「何の真似だ」


「貴様こそ、我が隊の騎士に何をした!」


「道を塞ぐ愚か者を退かしていただけだが?」


「貴様、ここを何処だと思っている!」


「知らんよ」


「ここは神聖王国サスティリアの王城なるぞ、場を弁えろ!」


「知らんよ、犯罪者。犯罪国家の王城がなんだというのだ」


「貴様ぁぁぁ!許せん! 死ねぇぇぇ」


 軽く挑発してみたが、効果は抜群だったようだ。狂ったように剣を振り回し、突き込んでくる。

 流石に速い! と思ったが、驚いたのは最初だけ。数合打ち合うと余裕で捌ける様になる。というか、段々動きの先読みもできるようになった。

 レイラはそこそこレベル高そうだし、一発本気で殴っても死なないよね。そう考え、槍を左手に持ち替え、レイラの袈裟切りを左手の槍で逸らし、カウンターで右拳を思いっきり腹に打ち込む。

 『ガアァァァン』という甲高い音と共に吹っ飛んでいくレイラ。石壁で止まると思ったが、石壁も割れて減り込んでしまった。


・・・なにこれ?と少し放心していると、レイラが吐血した。


 まずい! 殺っちまったか? とレイラのステータスを見るとHPが『270』から『20』になっていた。

 暫くステータスを見続けるが変化はない。 死ぬ様なことは無さそうだ。と、ホッとした。

 その後すぐに他の騎士たちを見回すと、こちらを怯えたように警戒している。


「俺は外へ出る。邪魔するやつはああなるぞ」

 槍の穂先でレイラを示し恫喝すると、騎士たちはあっさりと武器を仕舞った。


「よし、ではそこの貴様、出口へ案内しろ」

 比較的近くにいた一人の騎士に声をかける。

「えぇ?お、俺ですか?」


「貴様は自分が勤める建物の出口すら知らんのか?そんな無能はいらんよな?」

 そう答えてやると、青褪めた顔で「こちらです」と慌てて案内を始める。


 案内される道すがら、城内を見回すと、所々に絵画や彫刻、花瓶などが飾られており、華やかな印象を受けるが、俺個人としては無駄の塊に見える。

 お城ってこういうものなのかな、初の西洋城見学だが、余り感動しなかった。

 そんなことを考えながら歩いてる内に、こっちのお金を持っていないことに気付いた俺。

 どうしよう?と思ったのも束の間、目の前に金色の彫刻が現れていた。


「おい、これは金か?」

 道案内をしている騎士に聞く。

「この初代国王像ですか? そうですよ。純金製と聞いてますよ」

 質問しつつ「鑑定」スキルで確認すると「純金製」と出る。

「そうか、ではこれを頂くとするか」

 そう言うや否や、俺はその金ぴか像に手を置くと、金ぴか像が一瞬で消える。

 俺の「無限収納」のスキルで仕舞い込んだのだ。


「え?!」

 道案内役の騎士は驚きの声を上げ固まっている。表情は兜で見えないが驚いているんだろう。きっと・・・

 暫く放置したが、そのまま動かないので声をかける。

「おい。早く行くぞ」


「えぇ? あ、は、はい!」

 壊れた玩具のようにギクシャクと歩き出した。


 そうこうしていると、ようやく城の出入り口に辿り着いた。

「これで外に出られるか、長かったな。それじゃ、案内ありがとう」

そう言って案内役の騎士の顎先を霞める様に拳を当てると、騎士が倒れた。


「これで良し!」

 そう言って外に出ると、太陽は既になく、空には赤い月と欠けた青い月が浮かんでいた。

 ほんとに異世界なんだな、ここは・・・ 自分が見ている光景が、地球ではないことを証明していた。


 呆然と2つの月を眺めていると、城の方から騒がしい声が聞こえてきた。どうやら追っ手を掛けるつもりらしい。

 まったく面倒くさい。俺は鎧武者の格好のまま城門の方へと走り、城門を守る門兵を軽く蹴散らしてから、悠々と夜の城下町へと向かった。





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