第54話 オーク殲滅戦?
だいぶ遅れました。
すみません。
待っててくれた方。ありがとうございます。
読んでいただければ幸いです。
『豚ちゃんの殲滅戦開始だ!』なんて張り切ってみたが、実際は煙を洞窟に流し込む地味なお仕事。 最初は興味津々だったレジー君の視線が5分程で『こいつ本当に大丈夫か?』的な疑心の篭った視線にクラスチェンジ。
・・・少々その視線に痛みを感じ始めた頃。 洞窟の奥からオークが10匹ほどこちらに向かって来るのが「気配察知」と「地図」で確認できた。
「レジー君。そろそろ出て来るんで気を引き締めてくださいね」
そう言うとレジー君は表情を引き締め、臨戦態勢に入った。そして俺は洞窟の入り口横で「隠密」スキルで隠れる。
俺が「隠密」スキルを使用すると、それまで「送風」で洞窟内に流れていた煙が自然の流れを取り戻し、上空へと立ち昇る。
隠れたまま「地図」を使いオークの位置を確認する。
洞窟の入口数メートル手前までオークがやって来ると、そこで『ブゴォ! ブウォウ!』『ブフォオ!』と言った野太い鳴き声?のようなものが聞こえ、オーク達の足が止まった。
見張りのオーク達へ声掛けしてるのだろうか? 暫らく返事を待つように足を止め動かないオーク達。
不味い。 意外と頭が回るようだ。 警戒して直ぐには出てこない。
嫌な汗が背中を流れ落ち、一気に緊張感が高まる。
逸る心臓を抑える様に左胸に手を置き、「隠密」状態のまま必死に考える。
現状、俺が魔法を中断している為、煙は洞窟内に入って行かず、上空に立ち昇っているだけだ。
オーク達は見張りに声掛けをしている様だが、俺達が殺したのでもちろん返事は返ってこない。
大声出しても返事が無く、洞窟内に煙が流れて来なくなったと言う状況を考えると、普通は見張りの2匹がその原因を何とかしている最中だと考えるんじゃないだろうか? そうなると寧ろ手伝おうと洞窟の外に出るんじゃないか?
事態は好転してるんだし、外に出れば異常の原因も調べられる。
それでも出て来ないって事は、警戒する必要がある何かがあるかもしれない。
そう考え始めた俺は1つ見落としていたことを思いつく。
ひょっとして、俺達が殺した際の血の匂いを嗅ぎ取ったとかか?
その場合は確実に警戒するだろう。 もう少し慎重な奴なら奥の仲間を呼んで数を増やしてから事に当たるかもしれない。
そうなると作戦は失敗。 速攻で撤退するのが一番だろう。 こうなると見極めが肝心だな・・・
なんて考えていると、オーク達が全員洞窟の外へと動き始めた。
・・・
こいつ等、なに考えてるんだ。 俺が頭フル回転で考えていたのに、こいつ等無造作に動き始めやがった・・・
俺は何かどっと疲れた感じでオーク達が出て来るのを待つ。
最初に外に出たオークが焚き火を見付けると、鳴き声で他のオーク達に知らせる。すると全員が焚き火の方へ向かい始めたので、10匹目が洞窟の外に出ると同時に俺は最後尾のオークに襲いかかった。
俺の緊張感を返せ!
って事で、全力でぶっ殺しました。
怒りの感情に昂ぶってはいたが、全て首チョンパにして、お肉の質を下げる様な事はしなかった。
「一応、第一陣は退けましたよ」
「そうですね、でも敵の数が増えたらヤバくないですか?」
「そうですねぇ、もう少し楽に戦いたいですよね・・・」
ふむ、もうちょっと考えるべきだな。
出来ればオークには出て来て欲しくないが、ちょっと実験したい事もあるし、少しずつ出て来てもらえるようにするか。
幸い俺は土魔法・・・魔技だっけか? を覚えているので土魔技を使って入口を狭めるか。
そう考えつつ、俺は「地図」を確認して入口付近に敵性反応がない事を確認すると、入口を覗く。
中は入り口とほぼ同じで横幅は3メートル位。 高さは・・・同じく3メートルらいか? 手を伸ばしても全く天井に届かない。
まぁ、多分大丈夫だろう。
「レジー君。ちょっと入口に細工してきますね」
「え?どういう事です?」
「言葉通りの意味ですよ。まぁ、レジー君は気にせず待っててください」
困惑するレジー君に笑顔で答えると、そのまま洞窟の入り口に入る。
ふむ、中も暫くは同じくらいの幅と高さだな。 天井は何か凸凹してて、崩落しそうな雰囲気が滲み出ていてちょっとドキドキする。
そんな感想を零しながら、入口から20メートル程入ったところで足を止めると、俺は土魔技を使って壁を作る様にイメージする。
一応、予定では現在3メートル程ある幅を50センチ位にまで狭めてオークが横歩きしないと通れないようにするつもりだ。その壁を5メートルほど続けた後、10メートル離れた入口側でまた同じように幅を狭めた通路を5メートル位作ろうと考えている。 分かり易く言うと、洞窟内と入口の間に小さな小部屋を作る感じと言えばいいだろうか?
小部屋を作ろうと考えたのは、少しでもオークの体力を削れればとの考えだ。
煙を送り続けても、洞窟内はそれなりに広いので、きっと直ぐには煙が充満しないだろう。そんな状況で出てくるオーク達ならまだ元気一杯だろう。 現にさっき出てきたオーク達も元気一杯だった。
だが、煙を送る手前に小部屋を作っておけば煙は小部屋内で滞留し、洞窟内よりも溜まるだろう。そんな中を進んで来なければならないとなると、オークでも多少むせたりなんかして弱るんじゃないかな? もしくは煙で前が見えない状況で進まなきゃいけないのって、結構神経すり減るよね? その間に窒息しないかな? なんて希望も含まれております。
そんな事を考えつつ、土魔技を使う。 ゲームとかで良くあるあれだ。
「土壁」
そう言って地面を軽く蹴ると、厚さ50センチ位、幅5メートル位、高さ3メートル位の壁が地面から迫り出してきた。
一発で成功したようだ。 どうやら魔法の腕も上がってきている様だ。
よし、これを連発してさっさと作業を終わらせるか。
そう思い、今作った土壁をポンポンと軽く叩いたんだが、その途端に土壁が崩れ、土砂の塊になってしまった。
・・・確かにイメージ通りにできた事は出来たんだが・・・ 形に無理があったようだ。 やっぱりゲームのように土では強固な壁にはならないらしい。
まぁ、今回は壁を作るんだし、強度は程ほどでいいか、土壁は戦闘には役に立ちそうもない事が分かった。
その後も俺は土壁をアレンジし、壁を分厚くして無理のない形に整えながら何とか当初の予定通りに通路を狭め、入口との間に小さな小部屋を作ることに成功した。
その間にオーク達が出て来るかと思って冷や冷やしていたが、新たに出てくる気配は無かった。
作業を終えて外に出ると、オークの死体が4体と、疲れた様子で座り込んでいるレジー君とインディが居た。
「あれ? 何かあったんですか?」
「何かあったって・・・見ての通りオークの襲撃があったんですよ。襲撃って言うか、戻ってきたオークを倒したんですよ」
疲れた様子でそう言うレジー君。あぁ、なるほど。中からは出てこなかったけど、外から中に戻ろうとするオーク達はいたんだ。
俺は労いの言葉を掛けつつ『ヒール』と『リフレッシュ』をレジー君に掛け、インディにも声を掛けて肉の塊を放り投げると、インディは上手に肉をキャッチしてそのまま美味しそうに食べ始めた。
レジー君が例の如くヤバい感じの気持ち良さに浸る声が聞こえてきたが、敢えて無視した。
「それじゃ、作戦を再開しますね。あと、洞窟内から出てきたオークは私が一撃入れてからレジー君が止めを刺してくださいね」
「分かりました・・・って、ちょっと待ってください! 止めさすのって出てくるオークが多かったらじゃないんですか?」
チッ! 覚えてやがったか・・・
「最初はそうでしたが、一応小細工したんでそれ程大量には出てこないと思うんですよ。なのでちょっと調べたい事があるので、協力してください。オークについても、最初に私が攻撃するので殆んどリスクは無いと思いますよ?」
「・・・わかりました」
不審そうな顔をしたレジー君だったが、なんとか了解してくれた。 良かった良かった。
因みに今回試してみたいのは経験値についてだ。
経験値入手については敵を倒せば上がる。 位しかわからない。 パーティ単位で行動た際、敵にダメージを与えれば経験値が上がるのか? それともサポート行動を取っていれば経験値は入るのか? もしくは止めを刺した人物にしか入らないのか? もしくは一律で平均化されるのか? と言った事が不明だ。
今回はダメージを与えたものが経験値を得られるのか? 止めを刺したものが得られるのか?を見極めたいと思う。
今回の見極めは単純だ。俺のレベルが上がれば、ダメージを与えたものが経験値を貰えるって事だろう。俺のレベルが上がらずレジー君のレベルだけが上がれば、止めを刺したものだけが経験値を貰えるって事になる。
後はちょっと難しいが、俺のレベルの上り具合とレジー君のレベルの上り具合を見比べればダメージ量が多い方が経験値をより多くもらえるのか、止めを刺した方がより多く経験値を貰えるのかもわかる・・・かも知れない。
「ところでレジー君。今レベルは幾つですか?」
そう聞くと胸に下げているギルドカードを確認してちょっと驚いたレジー君が答えてくれた。
「レベルが23になってます」
「分かりました。因みに私は・・・変わらず29のままですね、それじゃ、これが終わった後、どれだけ上がったかお互い確認しましょう」
そう言って焚き火に生木を2本追加してから『送風』の魔法を使って洞窟に煙を送る作業を再開した。
蒸し焼き作業を再開して煙を送り始めてから10分程でまた新たにオークの集団が出てきたが、今回は入り口が狭かったので、『ブゴォッ ピギィィッブボォッ』と咽る様な鳴き声を出しながら出てきたところを首を軽くひねってゴキッって音がしたらレジー君の所に放り投げるという単純作業で倒せた。
『送風』を使い続けている為、他の魔法やスキルは一切使っていないが、拍子抜けするほど簡単に倒せる。
最初の内は少数で出て来ていたので数を数えていたが、200匹を超えた辺りから急に数が増え、絶え間なくオークが出て来るので数えるのも忘れて戦闘・・・と言うか作業に没頭していた。
時折、体力の限界を迎えるレジー君に『リフレッシュ』を掛け、レジー君の奇声を聞くことになったり、『無限収納』から焚き火に生木を放り込んだり、倒したオークを『無限収納』にしまう作業が発生するが、それ以外は特に変わらず作業に没頭する。
そんな戦闘とも作業ともとれる行動を繰り返す事に没頭していたのだが、唐突にオークが出て来なくなった。
どういう事だ? と思い『地図』で敵性反応を見ると、小部屋の中にもその奥にも複数の敵性反応は存在していたが、「地図」を見ている内にも幾つか敵性反応が消えていくのが見て取れた。
どうやら焚き火の効果が出ている様だ。 煙にやられて窒息したのか、熱にやられて倒れたのかは分からないが、敵の反抗はもうないだろう。
それでも念の為しばらくは煙を送り続けておこう。
「レジー君。何とか一段落したようです。休憩しましょう。インディもおいで!」
「や、やっと、終わったんですね」
そう言うと、地面に大の字になって荒い息を吐いて寝転がるレジー君。
「えぇ、もうしばらく煙を洞窟内に送り続けますが、それが終わったら洞窟内の空気を入れ替えて死体の回収の序でに洞窟内を探索します」
「・・・1日中ずっと戦い続けたのに、よくそんな元気がありますね」
「え? 1日中って・・・どういう事です?」
「だから昨日から戦い始めて、1晩中戦い通しで夜が明けても戦ってたじゃないですか」
うんざりしたような顔でレジー君が伝えてくるが、夜が来て、夜が明けた事を覚えていない。 敵への警戒と作業に集中しすぎていた様だ。
「すみません。どうも私は夜が来たことを覚えてないんですけど・・・本当ですか?」
「覚えてない? マジですか?! って、それもそうか、なんか一心不乱に戦ってましたからね、俺にもヒールやリフレッシュを定期的に掛けてくれてましたし、それだけ集中してたんでしょう?」
レジー君は話すのも億劫そうに答えた。 相当疲れてるね。 俺の場合はやっぱり「超回復」があるからかな? あんまり疲れた感じがしないんだよね。
なんて思っていると、お腹が鳴った。・・・一日中戦ってたって事は、飯も食べてないって事か。 レジー君も食べてないよな? ちょっと悪い事したな。
そう思いご飯を取り出そうとすると、インディが丁度帰ってきた。
近寄ってきたインディを撫でながら、片手で「無限収納」から水と深皿2つとお肉を取り出すと、皿に肉と水を入れてインディに食事を渡した。
「レジー君。ご飯食べましょう」
そう言って俺は「無限収納」からサンドイッチとステーキを2人前ずつ取り出すと、コップに水を注ぎレジー君に渡した。
「そう言えば、最後に飯食ってから大分立ちますね・・・ 正直、疲れすぎて食欲が・・・って、ぎもぢいぃぃぃぃ! ひゃっはぁぁぁぁ!」
そう言うレジー君に『リフレッシュ』を掛けると、恍惚の笑顔で気持ち良さそうになっている。 爽やかな気分になるって文言はどうなった?! いや、これ、女の子に使うのが躊躇われる魔法だよな・・・ 俺の本音としては掛けまくって試してみたいんだけどね。どうも倫理的にアウト臭いグレーって感じで踏ん切りが付きそうにない。 まぁ、俺に敵対する女性が居たら試してみよう。女性でも敵なら気兼ねなく使えるしね。
「疲れが吹っ飛んだらお腹空いてきました! 有り難く頂戴します」
そう言って食事に掛かるレジー君。 段々単純になって来たなぁ。 って言うか、リフレッシュの弊害だったりして・・・ 強制的に爽やかな気分になるから、それまで気にかけていた事を気にしなくなるとか・・・
まぁ、その辺の考察はまた今度ってことで、俺も食事に取り掛かる事にした。