第53話 オークの塒
遅れてすみません。
リアルの仕事やらなんやらで、しばらく更新遅れそうです。
「ラクタローさ~ん! 待ってくださいよぉ~」
「レジー君、これくらいでだらしないですよ?」
そう言って俺はレジーくんを叱咤する。
「そ、そんなこと言ったって、森に入ってから索敵と戦闘の連続で休みなく動いてるんですよ? もう限界ですって。それに塒までどれだけ急いだって3日は掛かるんすから」
そう言ってゼェゼェと荒い息を吐き、なんとか歩き続けているレジー君だが、そろそろ限界のようだ。
空を見上げると、太陽が中天より少し傾いており、お昼を少し回ったくらいの時間になっていた。
確かにそろそろ休憩しても良いかもしれない時間だな。 それに限界を超えてダウンされるのも困る。
「仕方ないですね、それじゃ、お昼休憩にでもしますか」
「や、やった。ようやく休める・・・」
そう言って地面に寝転がるレジー君に俺は『無限収納』から取り出した水瓶からコップに水を注ぐと食事と共に渡す。
「一応森の中なので休憩とは言っても警戒はしておきましょう」
「わ、わかりました」
そう言って体を起こし水を飲むレジー君を後にしてインディにもオーク肉の塊を出してやると、嬉しそうに近寄って来て食べ始めた。
「よしよしインディ、今のうちにしっかり食べておくんだぞ」
そう言いながらインディの頭や顎下を撫で回した。インディも気持ち良さそうに目を細めながら食事を続けている。
久しぶりに触ったけど、やっぱり触り心地の良い毛並みだ。
一頻りインディを撫で回した後、俺も食事に取りかかった。
今俺は・・いや、俺達はカーチス防風林の奥にある森に来ている。 メンバーは俺、インディ、レジー君の2人と1匹だ。
目的はオーク狩りで、食料と資金の調達を行う予定。序でに可能であればオークの塒の殲滅も視野に入れている。 塒については殲滅は無理かもしれないが、少し思いついた事があるのでチョッカイは掛ける予定だ。
昨日冒険者ギルドを出た後、レジー君を捕まえて今回の狩りに大金貨1枚で雇ったのだ。交渉は難航するかな?と思っていたんだが、幸い『ハウンド』は2週間ほど休みを取ることにしていたようで、ハウンドのメンバーからも特に問題にはされず、レジー君も2つ返事でOKしてくれた。
そして本日、オークの塒目指して森の中を歩いているんだが、塒に近付いている所為か、ゴブリンよりオークとの戦闘が多く、ここまででゴブリン10匹とオーク24匹を倒した。殆んど俺とインディで始末しているんだが、レジー君は緊張しているのか、大分疲れているようだ。
食事も終わって、そろそろ休憩を終わろうかとレジー君の方を見たのだが、ようやく呼吸が整ってきたくらいで、食事も半分くらいしか食べていなかった。
どうしたものかと考えようとして、ふと思い出した。そう言えば俺って回復魔法使えるんだから、何かあったよな?
そう思いメニュー画面から魔法を調べると・・・あった。
「リフレッシュ」と言う魔法だ。効果は体力回復なんだが、なぜか対象者は爽やかな気分になるらしい。 何かしら精神に干渉でもするのだろうか? この魔法を怒っている人やテンパってる人にかけると急に爽やかな気分になって落ち着いてくれるのかな? 意外に便利・・・と言うか、精神に作用するのはなんかヤバそうな感じがする。
まぁ、モノは試しだ。早速レジー君に使ってみよう。
「レジー君。お疲れのようですね」
「え? えぇ、かなり疲れてますよ。それよりラクタローさんはなんでそんなに元気なんすか?」
そう言って俺を訝しそうに見て来るが、正直ステータスの差だ。 体型が丸っこいからって動けない訳じゃないんだぞ!
「私はこう見て結構鍛えてますからね。それにレジー君よりレベルだって上なんですからレジー君より動けるのは当然ですよ」
「なんか、理不尽な気がします」
そう言って肩を落とすレジー君。
「仕方ないですね。それじゃこれでも掛けてあげますよ『リフレッシュ』」
そう言って俺はレジー君に右掌を向けて魔法を唱えると、右掌から青白い光がレジー君目掛けて放たれ、レジー君の全身が一瞬青白い光に包まれる。
「え?おぉ? き、気持ちいぃ~。なんだこれ? 疲れが吹っ飛んだ気がする・・・ ラクタローさん!こ、これって回復魔法ですか?」
そう言って疲労困憊に近かったレジー君が一転。爽やかな笑顔で嬉しそうに聞いてくる。
「えぇ、回復魔法ですよ。『リフレッシュ』と言って体力を回復してくれる魔法です。上手く行ったようですね」
「やっぱり回復魔法って便利ですね~、俺も使えたらよかったのになぁ」
「魔法屋のコレットさんは適性が無くても努力すれば使えるようになるって言っていましたよ?」
「本当ですか? でも俺、魔力が低いんですよ」
「これもコレットさんが言っていたんですが、ほとんどの人はレベル10位あれば初歩の魔法は努力次第で使えるそうですよ」
「と言う事は俺にもまだチャンスはあるって事ですか?」
「えぇ、努力次第だと思いますよ」
そう言って答えると、嬉しそうな顔でお礼を言われた。 ・・・あれ?これって一般的な知識じゃないのか?
レジー君に聞いてみると、知らなかったそうだ。 そもそもレジー君が魔法を諦めた経緯は冒険者として登録した際、魔力が他の人より大分少なかったのが判明し、受付嬢に魔法は才能が無いので他の能力を伸ばすよう言われたのが原因らしい。 まぁ、不得意な事に固執するより得意な事を伸ばせって事だろうが、レジー君は義賊なんだから多少手間取っても色々できた方が生き残る確率は上がるんじゃないかな?
そんな事をレジー君とあれこれ話ながら休憩を終えた。
「さて、それでは敵も近くに居ないようですし、ちょっと樵でもしますかね?」
そう言って俺は槍を取り出す。
「え? どういう事です?」
「いや、ちょっと試してみたい事がありまして、生木を集めようと思ってたんですよ。ただ、防風林は人の手が入っている場所なので木を切り倒すと不味いかもしれないので、大分離れた森の木を切り倒そうと思っていたんですよ。これ位離れていれば大丈夫だと思ったんで生木を集めようと思ったんです」
「態々生木を? 何に使うんです?」
「失敗したら恥ずかしいから教えません」
俺は笑顔でそう言って槍を横に一閃すると、近くの木々が倒れ始め、俺はそれらを素早く「無限収納」に仕舞い込む。 うーむ、やっぱりこの槍の切れ味は尋常じゃないな。
レジー君は呆気に取られたようだが、俺が黙々と作業を開始すると、声を掛けてきた。
「ラクタローさん。俺はどうすればいいんです?」
「あー、そうですね、私のように木を切り倒す事は出来ますか?」
「斧があればできるけど、持ってきてないんで無理です」
「そうですか、それじゃ警戒と索敵をお願いします。あと、暇なら薬草とか食べられる野草の採取をお願いしてもいいですかね?」
「それ位ならできます」
レジー君はそう言って森の中へと消えて行った。
うーん。一応保険掛けとくか・・・
「インディ。レジー君を頼めるか?」
そう声を掛けると、まってましたとばかりに起き上がり、レジー君の後を追う様に森の中へと入って行った。
これで多分大丈夫だろう。 そう思い俺は伐採作業に集中する。
・・・・・・・・・
それからどれ位たっただろう。
レジー君に声を掛けられて気が付くと、大分太陽が傾いており、辺りには出来たての切株が無数に散らばっていた。
「やり過ぎたかな?」
「というか、どれだけ切ったんですか?」
「・・・50を超えた辺りから数えてない」
「まじすか?!」
背中に麻袋を背負ったレジー君に呆れられてしまった。 ま、まぁこれで準備は大体整ったし、もう少し先に進むとしますかね。
「レジー君。それじゃもう少し進むとしましょう」
レジー君から麻袋を受け取りながら提案する。
「え? 今日はもう野営で良いんじゃないですか? こんだけ場所も拓けているんだし、勿体無いですよ」
「先を急ぎたいんですけど?」
「・・・わかりました」
レジー君は諦めたような表情でそう言うと、少し考え込んだ後、先頭に立って歩き始めたので俺は又『リフレッシュ』の魔法を掛けてみた。
「うぉ? 気ン持ち良いぃぃぃ」
と言うレジー君の気持ち良さそうな声が聞こえてきたが、ちょっと先程より声がヤバくなってる気がしたんだが、気のせいかな?
「ラクタローさぁん! 早くついて来てくださいよ! もう少し先に前回俺達が野営した場所がありますから、今日はそこまで行って、そこで野営にしましょう」
テンション高めの笑顔でそう言ってくるレジー君に俺は少し不安を抱えつつも後を追い掛ける事にし、無事野営予定地まで移動した。野営地に着く頃には日が暮れたので初日の探索はそこで終了とした。
道中では何度かオークの部隊と遭遇したが、そちらは美味しく狩らせて頂きました。
そんなこんなで森の中を3日掛けてオークの塒らしき洞窟の前まで来たんだが、入口には見張りをするように2匹のオークが立っていた。 「地図」で確認しても洞窟の中以外は目星い敵も居ないようだ。
「あそこですよオークの塒は・・・」
レジー君が声を潜めて話しかけてくる。
ふむ、あれくらいなら「隠密」からの後背刺突で余裕で対処できるだろう。
「レジー君。取り敢えず、あの見張りをサクッと殺っちゃいましょう。右を私が『後背刺突』するんで、左のをレジー君にお願いしますね。インディは周りの警戒をお願いします」
そう言うと、レジー君は「分かりました」と返事をし、インディは一声吠えると臨戦態勢に入った。
俺とレジー君は『隠密』を使って素早く隠れると、見張り2匹の背後に回りサクッと殺る事に成功する。 もちろんオークの死体は俺の『無限収納』に素早く仕舞い込む。
「それじゃぁ、手早く実行しますかね」
「何をですか?」
「これから洞窟内のオークを蒸し焼きにする予定なんですよ」
そう言って俺は大量に購入しておいた薪を『無限収納』から取り出し始める。
「ど、どういう事です?」
「時間が無いので詳しい説明は省きますが、オークを燻すんですよ」
「??? 良くわからないんですが、具体的には何するんです?」
「洞窟の入り口で生木を燃やして煙を風魔法で洞窟内に送り込むんですよ。洞窟の出入り口がここだけなら、恐らく洞窟内は熱された空気が充満して温度が上昇し、蒸し焼きになると思います」
「へぇー、なんかすごいですね」
そう言ってレジー君は適当な相槌を打ってきた。
うーむ。今一理解されてないな・・・ まぁ、仕方ないか。
「まぁ、そんな訳でこれから薪を組んで火元を作るんですよ」
そう言いつつ俺は取りだした薪をキャンプファイヤーよろしく薪を縦に2本、横に2本と交互に組み始める。
「あのー、俺はどうしたら良いんですか?」
おっと、そうだった。
「レジー君には取り敢えずインディと一緒に周りの警戒と近くに敵が居れば排除もお願いします。準備が終わったら、また説明しますね」
「わかりました」
その後はせっせと薪を組み、5段くらい組んだところで真ん中に藁の束を入れ、また薪を組み続ける。
1mほどの高さになったら、それをを中心にして、同じものを囲むように4つ作り、その上に初日に切り倒した生木を2つ交差させるように乗っけて完成だ。
「よし、後は火をつけて始めるだけだな」
俺は一息つくと「地図」と「気配察知」で洞窟以外に敵が居ないことを確認する。
よし、それじゃ始めますか!
「レジー君! ちょっと集合」
そう声を掛けると、駆け足で戻ってくるレジー君。
「どうしたんですかラクタローさん?」
「準備が出来たんで、早速実行しようと思います。つきましては役割分担しましょう」
「はい、それは良いんですが、俺、そんなに強くないですよ?」
「ああ、大丈夫ですよ。レジー君には周囲の警戒と止めをお願いしますから」
「止め?!」
あぁ、驚いちゃったか。まぁ、作戦は簡単なんだけどね。
1.まず配置だが、俺は洞窟前で兀突骨大王討伐ごっこ。レジー君はその後ろ20メートル位の空いたスペースで警戒。 インディは洞窟外の外敵の駆除。
2.次に俺が炎魔技で火を付けて焚き火。
3.ある程度煙が出てきたら俺が風魔技でその煙を洞窟内に誘導。
4.「3.」を継続しつつ、中から燻されたオークが出てきたらサックリ殺る。
5.出てくるオークが多くソロでの対処が不可能な場合はレジー君の方に適当に蹴り飛ばす。
6.レジー君は警戒しつつ、俺の方から飛んでくるオークに止めを刺す。
7.インディは洞窟外の外敵の駆除。
って事をレジー君にわかる様に少し丁寧に説明した。 『6.』を説明した段階でレジー君が「俺じゃ対処できないですよ」と泣き言を言って来たが、「君ならできる」「敵は俺の攻撃を受けてるから止めを刺すだけだから」等、適当に言い包めて納得して頂いた。
まぁ、そんな感じで慌ただしく説明を終え、それぞれが配置についたのを確認し、実行に移す。
「小火器」
俺がライターの炎を連想しつつそう唱えると、右手の人差し指の先に2㎝ほどの炎が灯った。 よし、成功だ。 それじゃこれで藁に着火するか。
俺は炎の灯った人差し指を藁の束に近付けると炎が藁へと移り、そこからゆっくりと薪にも火が移り始める。 どうやら上手く火が付いたようだ。
俺はキャンプファイヤーを眺め、次第に生木にも火が燃え移り始め、煙が大分出てきたところで次に風魔法を唱える。
「送風」
今度は扇風機で風を送るイメージをして唱えると煙が洞窟の方へと流れ始めるが、今一勢いが弱い。
扇風機が元じゃダメか・・・なら今度はもっと強力な送風機をイメージしてみる。
そうするとMPの減りは増えたが、かなりの速さで煙が洞窟内に吸い込まれる様に入って行く。
おし! これで仕掛けは万全だ。
さぁ、豚ちゃんの殲滅戦開始だ!
兀突骨大王討伐については史実とはちょっと違うかもしれません。