第49話 ギルドへの報告
「すみません。この3人、身分証ないんで入都税払いたいんですけど、銅貨3枚で良かったですよね」
俺は街門で門番をしていた兵士の一人に声を掛け、自分のギルドカードを見せつつ話す。
「あぁ、入都税はそれで合ってるけど、身分証が無いってどういう事だい?」
「簡単に説明すると、彼女達はゴブリンに襲われたそうだ。それで逃げる時に荷物を捨てて逃げたそうだが、どうも荷物と一緒に身分証も捨ててしまったみたいなんだ。それで偶々逃げてる彼女達に俺が遭遇したんで、ゴブリンを退治して王都まで護衛して来たんだ」
俺は少しだけ事実を捻じ曲げて説明する。 だって、事実そのものだと、彼女達があんまりにもあんまりだろう?
「なるほどな、あんた達もとんだ災難だったな」
そう言って気の毒そうな顔で兵士は街門を通してくれた。
さて、それじゃ彼女達とはここでお別れと行きますか。
「えーと、王都に入っていきなりですみませんが、ここでお別れしましょう」
そう言うと、彼女達は驚きの表情を浮かべる。
「も、もうですか?」
そう言って声を掛けて来たのは一番若い10代半ばの少女だった。
「えぇ、お互いここで別れておいた方が良いでしょう。名前も知らないし、お互いの氏素性も知らない。それが一番お互いの為になると思いますよ」
「で、でも、私達ここでどうすればいいのかもわからないんですよ? これじゃ身を売るくらいしかできませんよ」
そんなこと言われてもねぇ・・・ ま、まぁ、多少は同情するけど、これ以上深入りはしないと俺は決めたんだ。 本当は渡す必要もないんだが、数日過ごせる程度のお金でも渡して、後は各々の才覚で生きて行ってもらうか。 1人大銀貨2枚でいいかな?
俺は胸ポケットに手を突っ込む振りをして「無限収納」から大銀貨を6枚取り出す。
「確かにお金もない状態では厳しいですね。 と言う事で、あなた達の支度金を用意しました。 数日は生活できるでしょうから、その間に仕事を見つけるなりなんなりしてください。 私にできるのはここまでです。 それでは失礼します」
そう言って3人に強引に2枚ずつ大銀貨を握らせると、俺は彼女達に背を向けて歩き出す。
「「「待ってください!」」」
「待ちません。私にできるのはここまでと言いました。後はあなた達の人生です。思うまま生きてください」
俺はそう言い残すと、追って来ようとする3人から足早に離れ、角を曲がったところで「隠密1」を発動し、姿を眩ます。
彼女達は角を曲がって来たが、俺の姿が見えないようであちこち見回していた。
彼女達に俺の姿が見えないことを確認した俺は少し軽くなった足取りでギルドへ向かう。
さぁ、これで俺は自由だ!
と言う事で、冒険者ギルドに足を運んだ俺は受付に居たエミリーさんに声を掛け、受けた依頼の報告をしたんだが、そのまま支部長室に連れていかれる事に・・・
また話が長くなりそうだなぁ~ なんて考えつつもエミリーさんの後を付いて支部長室へ行くとジェラルド氏が待ち構えていた。
「良く戻って来てくれた。ラクタロー君。君で最後だ」
「え? 最後?」
「作戦参加者がこれで全員戻って来たって意味だよ」
呆れた声でジェラルド氏が丁寧に返事をしてくれた。 なるほど、俺が戻ってくるのが一番遅かったって事か・・・ うーむ、やはり1週間以内に戻れって事だったようだな。 しくじったか?
「なるほど、全員無事に戻って来たんですね。良かったじゃないですか」
そう言って話題を逸らすと、ジェラルド氏の顔色が少し暗くなる。・・・誰か死んだのか?
「全員無事とは言い切れないんだよ」
憮然とそう答えるジェラルド氏。 あからさまに困ったオーラを出し始めた。・・・が、俺は乗らんぞ。
「そうですか、まぁ、それは置いといて、私の方の報告をしますね」
「・・・」
じーーーっとこっちをジト目で見てくるジェラルド氏。 オッサンにやられても何も堪えんよ。 リーマンやってた俺と腹芸で競おうとするのが間違いだ。 海千山千のオッサン&爺さん連中相手にしていたリーマン時代を過ごした俺に死角はない! 大分泣かされることが多かったけどな・・・
っと、余計な記憶が・・・
「森に入ってからの1日目は他の方々と変わりないと思いますんで、2日目の単独行動を始めたところから報告します。・・・」
そう言って俺は淡々と探索結果の報告をする。
最初はじーーーっと恨めしそうに俺を見ていたジェラルド氏だが、廃村を見付けた辺りの話になると「そんなところに廃村があるなんて話、聞いたことが無いんだが・・・」と思案顔に変わっていたが、俺の報告を中断して質問をすることは無かった。
そうして俺の報告が終わると、ジェラルド氏は疑問点を幾つか俺にぶつけて来た。
「楽太郎君。廃村をゴブリンが塒にしているようだが、そこにキングは居たのかね?」
「いえ、確認はできませんでした。ただ、ゴブリンの大隊長は居ました」
「ふむ、そうなると、そこにキングが居る可能性は低いだろう。本命ではないが、恐らく前線基地のようなものだろう。そうなるとまずそこを叩き潰す必要性がありそうだ。アロマ君」
「はい」
「楽太郎君の見付けた廃村なんだが、100年以内で開拓村を作って失敗したという情報が無いか資料を探してくれ給え」
「分かりました」
そう言うとアロマ氏は部屋を出て行った。 俺も出て行きたい。
「それじゃギルマス。私も報告は以上なので、受付で報酬を貰って帰りますね」
「あぁ、ご苦労だったね。今日はゆっくり休むと良い。その代わりと言ってはなんだが、明日の午前中にまたここへ来てくれ。 それまでに準備しておくから」
と、あっさり帰してくれた。 ただ、準備という不穏な発言が気になったが、今日は敢えて突っ込まず、そのまま部屋を出た。