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第1話 鬼武者、異世界に立つ!

眼を開けると、薄暗い部屋の中だった・・・

周りを見回すと、30人程の人間に囲まれているようだ。

 格好はヒラヒラのドレスを着た女性や貴族服なのかな?やたら装飾されている服を着込んだオッサンに、金属特有の鈍色を放つ西洋甲冑?を着込んだ護衛と思しき者がいる。「騎士」ってやつか?初めて見るな。

 立ち姿からすると、大したことは無さそうだな。

 部屋は窓のない石造りのようで、床からは硬い感触が伝わってくる。

 部屋の所々に松明?があり、煌々と燃えている。


「おぉ、勇者が召喚されましたぞ!」

嬉しそうなオッサンの声が聞こえた。


 そちらを向くと、女の子かな?が倒れており、それを介抱する女性と、その後ろ数メートル先の椅子に王冠を被った40歳くらいのオッサンが座っている。その横にいた50歳くらいのオッサンが興奮した顔で俺の方に寄ってくる。 なんか怖い。


 今の俺の格好は鎧武者の格好で面貌を付け素顔を隠した状態だ。鎧は全身真っ黒で、兜の鍬形は鬼の角のように鋭く突き出し、面貌の表情は怒りで塗り固めた様な見た目、腰には刀を差し、右手には十字槍を持っている。夜道で出会ったら迷わず走って逃げるだろう。

 室内にいる半分くらいがこちらを警戒して臨戦態勢のようだ。舐められない様声を低くして、口調も威圧する感じに変えて問答しますか。


「ここはどこだ」

問いを発すると、寄って来たオッサンが口を開く。


「ようこそ御出で下さいました。勇者殿。私はこの国で宰相を務めさせて頂いております。ニクス=ヘルゲンと申します。ここは勇者殿の居た世界とは異なる世界『エターナルプレイス』にある神聖王国サスティリアの王城で御座います」

 俺の姿を見ても動揺しないとは、中々出来たオッサンだ。

 事前に神様から異世界に召喚されていることは聞いてるが、詳しい経緯は知らなかったな、そう言えば。


「どういう事だ?」


「実は今、我が国は滅亡の危機に瀕しているのです」

この台詞から長々とオッサンの説明が続いた。


 要約すると、神聖王国サスティリアでは『サスティナ』を奉っているが、獣人の殆どは『ライガ』という大地の神を奉っているそうだ。途中こっそりと猿田彦様にもらった携帯端末で大地の神「ライガ」について検索すると、通称『獣神様』と呼ばれ、獣人たちに大層親しまれているとのことだ。


 神聖王国を名乗るサスティリアとしては自分たちの奉る『サスティナ』より『ライガ』の方が人気があるのが不満だったようで、お隣の獣人の国であるリンド獣王国に『ライガ』ではなく『サスティナ』を主神として祀るよう要請したそうだが、リンド獣王国からは「宗教は個人の自由であり、国が束縛するものではない」という俺からすれば至極まともな回答が来たそうだ。

 その返答に激怒したのが神聖王国サスティリアの前国王「シェリフ=シーベルト=サスティリア」で、こんなくだらない理由で戦争を起こしたそうな。


 戦いは激しく、お互い一歩も引かず、次々と人命が失われていったそうな・・・

 そうして戦争は5年程続いたが、この世界には魔獣と言うものが存在する。戦争前は王国の騎士や兵士が魔獣の討伐をしていたお蔭で、街道や人里にはほとんど出没しなかった魔獣だが、戦争が起こり、騎士や兵士の姿が見えなくなると、村や町を襲い大繁殖してしまった。もちろん街道にも頻繁に出没し、行商人は国外へ逃げ、国が荒れ、食糧難に陥り、事態が深刻になってから漸く前国王「シェリフ」は停戦を申し出て戦争終結。各地に軍の精兵を送り込み、自身も魔獣討伐に出たのだが、そこで大型魔獣に出会い死亡。

 その後、父親の跡を継いで国王になったのが「シュリスト=シーベルト=サスティリア」で、目の前にいる王冠被ったオッサンのことだ。痩せぎすで覇気の無い顔付きをしており、何処かの路上生活者だと言われても信じてしまうだろう。


 現状、魔獣の討伐を軍と冒険者ギルドで必死に行っているが、戦争で騎士も兵士も冒険者も死に捲り、軍の人員は戦争前の3分の1以下、冒険者に至っては上級冒険者の数は戦争前の1割にも満たない数で、大物魔獣の討伐は全くできない状況だとか。


 困り果てて神頼みってことで女神サスティナに祈りを捧げると、異世界の勇者召喚のアーティファクトを賜ったそうだ。


 こっちの世界は神も王も無能で無責任だ・・・本当に嫌になる。


 なんて世界に来てしまったんだ・・・ 泣きたい。


「・・・と言うことで、勇者殿、貴方には我々を救って頂きたいのです」

 ニッコリ笑顔でこちらを見てくる。

 ・・・こいつはアホなのか、確認してやるか。

「ニクスとか言ったな」


「はい」


「今の説明を要約すると、無能な前国王を諌める事もできず、無駄な争いを起し、隣国に迷惑をかけた挙句、自国を満足に治める事もできなくなり、神に頼った挙句、異世界人の俺を拉致してお前らの尻拭いをしろと。 本気で言っているのか?」

 俺の的確な突っ込みにニクスの顔が苦しそうに歪む。

 こいつ、自分達がどれ程非常識なお願いをしているか分かってるな。

 だが、対応の仕方が不味いだろ。 こんなやり方、相手がよっぽどの馬鹿か中二病発症者位しか騙せんよ。

 中二病を克服して真面目な社会人やってた俺からすると、余りにもお粗末だ。

 ならこっちも試してみるか。そう考えていると、言葉を掛けられた。


「勇者殿、お怒りとは思いますが、我が国はそこまで切迫した状況なのでございます」

 慌てて表情を取り繕ったニクスが頭を下げてくる。 国王らしき人物「シュリスト」だっけ?ま、「国王」でいいか。を見てみると、こちらを泣きそうな目で見ている。

 哀れさを装っているのか? なんか、苛つくな。


「ニクスと言ったな、俺が自分の世界でどういった立場の人間だったか、知っているか?」


「と言いますと?」


「お前の国にはどれ程の国民がいる」

 ニクスは不思議そうな顔をするが、思い出すようにして答える。

「およそ200万人です」

・・・少ないな人口。数千万人くらいいると思ったんだが・・・


「少ないな、あまりに少ない。俺には俺の世界の住人60億以上の命運が懸かっていたのだ。高々200万のちっぽけな国を救うために、俺の世界の住人60億を殺したんだぞ。一つの世界を破滅させたんだ。どう責任を取る?」


 まぁ、俺が魂分けたことで何とかなったけど、本当に破滅寸前だったからな。


「ろ、ろ、60億人?! ・・・」

 ニクスの顔が真っ青だ。 そのまま二の句を告げずに固まっている。他の連中は・・・と周りを見回すと、ニクスと似たり寄ったりの表情で固まってる。


「自分の世界を滅ぼした者共に力を貸す馬鹿がいると思うか? それ以前に無理矢理誘拐した奴らに尻尾振って付いて来る人間がどこにいる? 寧ろこの国が滅ぶよう俺の憎悪を全てぶつけてやろうか?」


 そう言って国王に怒りを込めた視線を向け、十字槍の石突を勢い良く床に叩き付けると、槍が20㎝くらい床にめり込んだ。 表情は変えなかったが、むしろそっちに驚いた。


 国王は短い悲鳴を上げて震え始めた。

 ・・・本当に苛付いて来るな。俺は苛付きを言葉に乗せて怒声を上げる。

「貴様! どう責任を取るのかと聞いているのだろうが!!」


 怒声を上げた直後、背後から殺気を感じ、半身を捻って背後からの一撃を躱す。ついでに襲撃者の体が流れたところに肘鉄を喰らわすと、襲撃者が背後の壁に叩きつけられていた。 自分の反応も含めて、まるでバトル物の漫画みたいだが、建御雷様との軽い運動(・・・・)が無かったら死んでいたかもしれない。演技のつもりだったが、本気で怒りが湧いてくる。


「己らの都合で呼び出し、都合が悪ければ問答無用で襲うとは、全く、度し難い屑共だ!」


 間近で俺の怒声と殺気を受けたニクスが気絶した。


 それを見た騎士たちが一斉に襲ってくる。

 左手側から襲いくる騎士に向かって一歩踏み出して剣の腹を叩いて軌道を変えようと剣を叩くと、簡単にへし折れた。背後から突き出される剣を小手で払うと、こちらも簡単にへし折れる。呆気に取られる襲撃者二名の腹を左右の拳で打ち抜くと壁まで吹っ飛んでいった。

 それを見て右手側からの襲撃者は突撃を中止したようだが遅い。素早く懐に飛び込み腹部を殴りつけると、また壁まで吹っ飛んでいった。

 殴っただけでポンポン人が吹っ飛ぶとは、俺のステータス、相当愉快なことになってるんだな。

 非現実的な出来事に浸っていると、幾つか人の声が聞こえた。


 声の出所を探ると、騎士数人が部屋の隅で魔法の詠唱?をしているようだ。面倒なので床から槍を引き抜き、ニクスに突き付けて一言。

 「殺すぞ?」


 たった一言で声が止んだ。

 ニクスを槍の穂先に引っ掛けて詠唱していた一団の前まで行き、全員を小突いて気絶させた。

 最初の一人を気絶させたら残りが動こうとしたが、抵抗する前に素早く小突いて無力化できた。


 俺はニクスを槍の穂先に引っ掛けたまま国王に近付く。

 襲撃に参加しなかった6人の騎士たちが王の前で盾を押し出し守ろうとするが、俺には関係ない。

 そのまま近付いて行くと、国王の前で少女を介抱していた女性が徐に立ち上がり、俺の前に立ち塞がった。


見た目二十歳位だろうか? 艶のある銀色の髪で首の後ろで纏めているようだ、顔立ちはやや冷たい印象を受けるが、知的な雰囲気を纏っている。可愛いというより美人と言う言葉がしっくり来る感じだ。

 全体的にはスリムな体型なのに、胸だけが大きく膨らんでいる。 いや、全体がスリムだから胸がより大きく見えているだけなのか? そんなことを考えつつ問いかける。


「何か用か?」


「私は女神サスティナを奉るサスティナ教会で司教を務めております。タニア=サンティルスと申します。此度の件、貴方様には突然の出来事にて、大変驚かれたことでしょう。しかし、此度の勇者召喚は我が女神からの神託によるものなれば、これは貴方様への神よりの試練でございます。どうかこの国を救っては頂けないでしょうか?」


「断る」


「何故でしょう?」


・・・頭痛い。今までの話がわかってないのか?

「お前は現状を把握しているのか?」


「私からは、貴方様が神からの試練から逃げようとしているように見えますが?」


「俺からすれば縁も所縁もない場所に誘拐され、誘拐犯の都合の良い奴隷になれと言われているのが現状なんだが?」


「ならばそれが貴方様への神の試練なのです」


 ・・・狂ってるな、この女・・・


「お前は神に死ねと言われたら死ぬのか?」

 俺は有態な質問をすると。


「死ねます」

 と何でもない事のようにタニアは答えた。

 本当に狂ってるな、この女・・・ しかし、こういうのを相手にするのが一番きついんだよ。

 俺はため息を吐くと、一言

「問答無用」

 と言ってタニアの腹を軽く小突く。タニアは膝から崩れ落ち苦悶の表情で床に転がる。


「?!、な、何故こんなことを・・・」

 這いつくばったままタニアが弱々しく呟く。

 俺はしれっと言ってやる。

「神からの試練だ。 お前からすれば俺は神からの試練から逃げている様に見えるのだろう。ならば俺に試練を受けさせてみろ。ま、軽く小突くだけで倒れる様じゃ、お前の神に対する信仰心も高が知れているがな」


 俺のその言葉に火が付いたのか、タニアは苦悶の表情を浮かべたまま必死に立ち上がる。が、立った瞬間、俺は左腿を槍の石突で軽く小突く。

 タニアは激痛に悲鳴を上げ、床を転がり回る。


「どうした、お前の信仰心はその程度か。俺の前に立ち続ける事すらできんのか?」


 その言葉に涙を流しながらも歯を食いしばってタニアは立ち上がろうとするが、左足が生まれたての小鹿のようにフルフル震え、上手く立てないようだ。

 暫く震えながら、ようやく立ち上がるが、その瞬間、またしても俺が今度は右腿を小突く。


 タニアは悲鳴を上げてまたしても床に転がり回る。 なんか楽しくなってきたな。俺ってSの才能あるかも。

 それから3回ほど「立ち上がったタニアを転がし、罵倒する」を繰り返すと、タニアが起き上がれなくなった。


「やはりお前の信仰心は大したことがないな、司教のお前がこれではサスティナ教会も高が知れているな」

 そう言って高笑いしてやった。意外に楽しいなこれ。


 悶絶し、悔し涙を流しているタニアを余所に周りを見回すと、先程の殺伐とした空気が一変していた。

 ドレスを着た数人の女性が頬を赤く染めて興奮したように見てくるし、貴族服着たオッサン2名はハアハア言ってるよ。オッサン見て、なんか興が醒めた・・・


「こ、これは? どういう状況なんだ?」

 槍の穂先を見ると、引っ掛けていたニクスが目覚めたようだ。意外にタフかもしれない。このオッサン。


 気持ちを切り替えてニクスに答える。

「お前の国の騎士に襲われたのでな、その落とし前を国王に取って貰おうと思ってな」


「?! ど、どういう事ですか?」


「言葉の通りだ」


 驚いて周りを見回すニクスだが、壁際に頽れた騎士や部屋の隅で倒れている騎士を見て状況を把握したようだ。


「も、申し訳ありません。勇者殿。平に、平にご容赦を!」


「駄目だ、許さぬ! それに見てみろあの顔を。あれが国王か?」


 そう言ってニクスに国王の方を見せる。

 そこには俺の威圧に下を向き、震え、怯える男がいた。


 俺は歩みを止めない。 6人の騎士達が盾を構えたが盾に一蹴り入れると騎士達が纏めて吹っ飛んだ。

・・・この国の騎士って弱いのかな・・・

 俺はそのまま国王の前まで進んだ。


「何か言うことはあるか、国王よ」


国王は震えたまま言った。

「た、助けてくれ。こ、殺さないでくれ、儂の所為ではない。儂の所為ではないのだ 」


その言葉を聞いた瞬間。怒りが再燃する。怒りと殺気、憎悪の感情が渦巻き激昂した。

「貴様が俺を拉致したのだろうが! そして、貴様の騎士が俺に無礼を働いたのだろうが!この期に及んで見苦しい言い訳や命乞いが通ると思っているのか!この屑が!」


 白目を剥いて国王が気絶した・・・


 ・・・槍の穂先にいるニクスも気絶した・・・

 ・・・タニアは悶絶継続中・・・

 ・・・部屋の中にいる人間全員気絶した・・・


 ・・・取り残された俺は笑えない。

 ・・・腹立ち紛れに床を蹴ると、床が割れた・・・ 


 どうしよう?


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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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