第44話 森の探索行 4 楽太郎の動き
少し変更しました。
今回は鬱はないと思います。
きっとね。
ゴブリン小隊を4つ潰した後、俺は「地図」で確認すると、「ハウンド」が接敵してしまっていた。やはり間に合わなかったようだ。
そう思い「ハウンド」の光点に向けて走っていたのだが、「ハウンド」の光点をよく見ると3つしかなかった。
・・・どうやら既に手遅れのようだ。選択をミスったらしい。と思ったら、突然赤い光点が1つ増えた。
どういう事だ?と思ったら、今度はその近くの敵性反応が消えた。
ふむ、何かスキルを使ったのだろうか・・・って、そうか、レジー君辺りが「隠密」スキルでも持ってたんだろう。
なるほど、スキルで気配を消されると気配察知で反応できないから消えるのか。距離もあるし、離れてるのに地図に出てたらスキルの意味ないしな。
となると、敵性反応が消えたって事は、スキルで隠れて接近し、必殺の一撃で仕留めた。そんなとこだろう。案外俺の後背刺突と同じ事してたりして・・・ 結構やるじゃないか。
そう感心してしまったが、こんな悠長に考えてる場合じゃなかったな、早く追い着かないと。
走り始めようとして、俺は困惑する。
「ハウンド」の4つの光点なんだが、2つは敵性反応に挟まれた形で存在するんだが、敵性反応の1つと「ハウンド」の光点が全く動いていない。
もう一つの光点はクルーズなんだが、もう一つの敵性反応と付かず離れずの小競り合いの様な動きで動かない光点を庇うように動いている。
どうやら場が膠着している様だ。
そう思っている内に、全く動いていなかった敵性反応が消えた。 うーん、死んだのかな?
そしてもう2つの光点なんだが、結構な速度でその場から離れて行く。
こっちは敵性反応を挟んだ形で移動しているんだが、どうも逃げているのか、先頭のハウンドの光点の近くに敵性反応が2つ、戦闘の光点を追いかける形で動き、そこから少し離れた位置にハウンドの光点が追いかけている。
うーん。どっちに向かえば良いかな。
俺は少し考えたが、膠着してる方は暫らくなら大丈夫だろう。と見切りをつけ、移動を続けている方を追いかける事にした。
おし、それじゃサクッと追い着きますか。
そして俺は暗い森の中を駆けて行く。
・・・そして見つけたのは、グレタの死体だった。
正直、ショックだ。
どう説明すればいいのか、うーん。この場所に来た時からの事をありのまま話そう。
レジー君の叫び声が聞こえ、急いで俺がこの場所に辿り着いた時、そこには血を流して倒れているゴブリンの死体が2体とグレタ(の死体)が横たわっていた。
今思うと、地図で気配の確認をしておけばよかったんだが、その時は寝ている様に見えたので声を掛けて反応を確かめようとしたのだ。
「グレタさん。どこか怪我でもしたんですか?」
当然のことだが、返事は無かった。
血が付いているとか、怪我を負っている様にも見えず。どちらかと言うと意識を失っているように見えたんで、俺は起こそうとしたんだ。
この時も起こす前に脈なり呼吸なりを確認すれば良かったんだが、俺は先に起こそうとしてしまった。
俺が両肩に手を掛けて、「グレタさん。起きてください」と言って上半身を軽く揺すった瞬間。 彼女の首が真後ろへ カクンッと、ありえない方へ曲がったんだ。
慌てたね。 俺は奇声を上げて飛び退いてしまった。
グレタの体はそっちのけで飛び退いてしまった。
その所為でグレタの死体は再び地面に横たわり、今度は首がありえない角度で曲がってしまっていた。
バクバク言う鼓動を抑え込むように胸を押さえ、ただじっとグレタの死体を見詰め、徐々に彼女が死んでいると言う事を頭が理解し始め、理解し始めると、言い知れない嫌な冷や汗がドッと吹き出し、頭は軽いパニック状態で、落ちつくんだ・・・「素数」を数えて落ちつくんだ・・・ って素数ってなんだっけ? なんて訳の分からない事を口走りつつ、爪を噛む。なんて現実逃避をしていた。
そんな感じで、落ち着くのに少し時間を掛けてしまった。
まぁ、誰だっていきなり知り合いの頭がカクンッてなったら怖いだろう? 俺も正直怖かった。今晩夢に出てきそうだ。
まったく!こんなことなら先に小隊長から殺っときゃよかった。
って言ってる場合じゃない。 うーむ、まだ混乱してるようだな。深呼吸、深呼吸。
そう言って俺は何度か大きく息を吸って心を落ち着かせる。
そして改めてグレタの死体を見て考える。
グレタを『生き返らせる』・・・か、元の世界ではイエス・キリストの復活なんて有名な話はあるが、絶対にありえないことだった。
だが、ここは異世界『エターナルプレイス』。こっちの世界では可能らしい。
俺は称号の『聖人』を取得したので「回復魔法」を全て使える。『聖人』固有の術も使えるんだが、こっちはまぁ、また今度にしておこう。
さて、回復魔法の最上位なんだが、なんと蘇生の呪文が2種類もあったんだ。
1つ目は「コーリング トゥ リバイブ」の呪文で、死後1時間以内で肉体の一部でも残っていれば誰でも蘇生可能。生前と変わらない状態で蘇生されるそうだ。ただ、肉体が一片も残っていない場合は蘇生不可能らしい。灰になったりして状態が変わっているのは蘇生可能らしいが、他の生物に丸ごと食べられて跡形もない状態だと蘇生は不可能とのことだ。
2つ目は「リザレクション」こっちは時間の経過は関係なしに肉体の一部でも残っていれば蘇生可能だが、時間の経過に合わせてレベルとステータスが低下するそうだ。因みに掛けられる相手に制限があり、レベル11以上の人間でないと蘇生できないらしい。 この事から、こっちは生き返るとレベルが10落ちる可能性があるって事だな、蘇生の代償として妥当なのかは分からないな・・・なんて思ったものだ。
あと、どちらの呪文でも寿命が尽きた者は蘇生できないらしい。
俺は蘇生呪文の説明を斜め読みした時、改めてこっちの世界は生と死が近いのだと感じた。近いからこそ境界も比較的曖昧で蘇生が出来るのだろうか? とか考えてみたが、良くわからない。まぁ、こちらの世界は俺にとっては異世界だ。『炭酸のある世界』・・・じゃなくて、『地球』とは違う。こういうルールだと言われれば、「そうなのか」と受け入れる事は意外と苦ではなかった。 考え方が何ともゲーム脳的ではあるが、ここのところ理不尽ばかりだったから、俺の倫理観が少々壊れ・・・崩れ・・・、あー・・・そう!麻痺していても仕方ないだろう。
蘇生呪文を使う事は問題ない。次に蘇生呪文を使う事で今後引き起こされるだろう面倒事について少し考えたが、意外と言い包められそうだ。誰かが『グレタは死んでたはずだ!』と言われても、『一時的に呼吸や脈が止まっただけで、俺の「活法」で肉体を活性化させ、その間に回復魔法を掛けて治療した』とか何とか言えば問題ないだろう。
俺は地図で周りに誰もいないことを確認すると、早速グレタに「コーリング トゥ リバイブ」の呪文を掛けるべく近付き、呪文を唱えた。
唱えた瞬間、俺の右掌が白い光に包まれた。少し驚いたが、グレタの方を見ると、なんか胸の辺りに黒い穴の様なものが見えた気がした。
そこに手を当てるのだろう。なぜかそう直感した俺は、右手でグレタの心臓の上、黒い穴に手を置くが、何も起こらなかった。
うん・・・あれ?・・・ おかしいな・・・ 俺はグレタの皮鎧の上から何度か手を当てるが、変化は何も起こらない。
色々考えたが、1つの考えが頭に浮かぶ。
ひょっとして・・・ 直接肉体に触れないとダメなのか?
俺の直感は黒い穴に手を触れると言っているが、念のためだ。 俺は露出しているグレタの腕に右手で触れてみるが、やっぱり何も起きない。
となると、黒い穴が見える場所を直接触れる・・・ってことか?
そして視線がグレタの胸に向く。
オッサン的には嬉しい役と・・・ じゃなかった。 これも蘇生の為だ。 そう自分に言い聞かせ、グレタの鎧を外し、上着を捲っていったんだが・・・
物言わぬ少女の服を脱がせるという行為は、一見、楽しそうに見えるが、実際にやらないといけない状況に陥ると、思った以上に罪悪感が募る。ましてや知り合ったばかりの、それも死体を辱めているような行為で、正直鬱になりそう。
思った以上に精神を削られる俺。
だが、そうも言ってられない。グレタを「蘇生」させるんだ。意識を改め、深呼吸をした後、右手をグレタの左胸。黒い穴の開いている部分に宛がう。
「?!」
その途端。体中の力が吸われるような感覚に囚われ、俺は全身がだるく感じる様な疲労感に襲われる。
疲労感に襲われながらもグレタの方を見ていると、明後日の方向を向いていた彼女の首がビデオの逆再生の様に元に戻る・・・ その光景を見て、俺はホッと胸を撫でる。良かった。 成功してるようだ。
暫らくすると見た目はほぼ完治した様に見えるが、力が吸われるような感覚は相変わらずだ。
まだ蘇生呪文は終わっていないのだろう。あとどれ位かかるのかな。
そんな事を考えていると、突然グレタの口が開いて白い光が天に昇った。
「おぉ?!」
俺は驚いたけど、白い光が天に昇って少しすると、急にグレタに吸われているであろう力の量が激増した。
俺は全身の力が抜けて行くのを感じてメニューから自分のステータスを開いたんだが、HPがかなりのスピードで減って行く。
なまじ数値で自分の命が減って行くのを確認できるだけに、怖さも増すというものだ。
俺はすぐに回復魔法を掛けようと試みたが発動しなかった。
なんで?!って思ったけど、蘇生魔法使ってる最中だから使えなかったみたい。
あるかわからないけど「多重詠唱」のスキルとか持ってないとだめなのかもしれない。
焦った俺は次に「活法」を使おうとしたが、出来なかった。
なんでや?! と思ったが、俺、蘇生魔法使ってる最中だから「活法」に集中できないのが原因かな?
「って事はどうしたらいいんじゃい!」
「なんてアホみたいなことやってる内にHPの1/4持ってかれてる!」
「なんかないか?! 何か、何か何か何かぁぁぁ・・・ あぁ?! あった!」
そう叫ぶと、俺は「無限収納」から目的のものを引き寄せようと必死に探ろうとするが、右手がグレタの胸から離れない。
「?!」
引っ張ったり振り解こうとしても離れなかったのでどうしようと思ったが、左手使えば良い事に気付き、慌てて探る。
人は焦ると単純な行動も中々できないことがあるんだが、この時の俺はまるでコントでもやってる様な状態だった。 ほんと、この時の俺はアホでした。
俺は目的の「薬草」と水を取り出すと、覚束ない手つきで薬草を軽く洗ってから口の中に放り込んだ。
命の危機だけど、やっぱり泥付いたままって・・・ねぇ。 なんか衛生的にもあれでしょ?
焦っているのに時々冷静な俺がいる。
ま、まぁそんな感じで薬草を咀嚼したんだが、これが苦くて不味い。
吐き出しそうになったが、必死に呑み込んだよ。
呑み込んでからステータスを確認する。
暫らくは減り続けていたんだが、少しすると、徐々にHPが上昇したのを確認した。
俺はホッとしたんだが、次の瞬間にはまたHPが減って行く。
俺は慌てて残りの薬草を食べ続ける羽目になったんだ。
そうして俺は命の危機から脱した。
良かった良かった。
グレタがどうなったかって? あぁ、わす・・・
えー、結論から言うと、グレタは生き返った。 序でに普通の回復魔法も掛けて状態も万全。首もしっかり座っていて問題なしだ。ただ、意識は戻っていない。
それから俺の方なんだが、途轍もない疲労感を感じており、冷や汗が流れ出ている。立っているのも苦痛に感じるくらい疲れが酷く、座り込んでいる。
呪文のはずなのに、消費するのはMPだけでなくHPをごっそり持ってかれた。 あと精神力的な何かも持ってかれたかもしれない。
スキルの「超回復」が発動しているが、回復が追い付かなかったようだ。
薬草を食べ続けたが、俺のHPは最終的に半分くらいまで減っていた。
因みにこれが蘇生呪文が成功した後の俺のステータスだ。
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名前 :山並 楽太郎
性別 :男性
年齢 :16
種族 :人間(異世界人)
職業 :冒険者(ランクG)
称号 :聖人
レベル:27
ステータス
HP : 570/1140
MP : 760/910
STR : 813
VIT : 774
INT : 1266
AGI : 849
DEX : 969
MND : 849
LUK : 576
特記事項
猿田彦の加護
建御雷の加護
サスティナの加護
ナシスの加護
ルシエントの加護
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取得スキル
[武術]熟練度 100
[神槍]熟練度 70
[神拳]熟練度 42
[気功術]熟練度 98
[超回復]熟練度 45
[錬金術]熟練度 100
[無限収納]熟練度100
[状態異常無効]熟練度100
[鑑定]熟練度100
[危機察知]熟練度100
[最適化]熟練度100
[気配察知]熟練度96
[回復魔法]熟練度100
[チャネリング]熟練度100
[風魔技]熟練度20
[隠密1]熟練度45
[追跡1]熟練度30
[地図2]熟練度1
[料理4]熟練度100
[炎魔技]熟練度64
[地魔技]熟練度35
MPは150しか消費していないのにHPが半分になっていた。
薬草を5株も生食いしてこれだ。薬草食べなきゃ1/4までHPが減っていたことになる。というか、確か俺、「超回復」スキル持ってるから、本当ならもっと減ってるのか。
思わぬところで自滅するところだった。
蘇生呪文は危険な呪文だな。 出来ればあまり使いたくないもんだ。そう思いながら自分に回復魔法を使い、一息つく。
はぁ、疲れた。 おっさんには堪えるね。 身体は若いんだけど・・・
疲れてはいたが、先にグレタの服の乱れを直し、皮鎧を着せ直してから俺は彼女が目を覚ますのを少し待ったんだが、全く起きる気配もなかったので仕方なく背負って「ハウンド」の残りのメンバーの所に駆け戻ることにしたんだ。
その後、俺が駆けつけると、丁度レジー君がゴブリン小隊長に殺されそうになってたんで、持ってた槍をぶん投げて小隊長の両手を斬り飛ばしたんだ。
「と言う訳なんですが、納得しましたか?」
「え、えぇ。 ありがとう・・・ございます」
そう言ってレジー君は俺に土下座をする。むぅ、畏まられると、こっちが落ち着かないよ。
「あー、そこまでしなくていいですよ。それにそんな態度では他の皆さんに怪しまれるでしょう? 出会った時みたいにもっと楽に話してくれませんか?」
「・・・・は、はい。わかりました」
「いや、敬語も要りませんよ」
「わ、わかった」
そう言いつつ震えている。
こっちとしては怯えさせるつもりは無かったんだが、どうにも畏まっちゃったようで、中々打ち解けてくれない。 困ったもんだ。
はぁ、なんでこうなったかって? あぁ、あの後なんだけど、レジー君がゴブリン小隊長に止めを刺した後、俺がドヤ顔でレジー君に近寄ったら、「間に合ってない」なんて言われちゃってね。
周り確認したら、レジー君以外、全滅してたんだよ。 もう吃驚。
あちゃー、こりゃ参ったな。なんて思ってたら、レジー君が俺が背負ってるグレタに気付いて噛み付いて来た。
「お前!グレタをどうするつもりだ!」
とか言ってね。満身創痍で向かって来るもんだから、危なっかしくて、つい回復魔法を掛けてあげたんだけど、その事にも気付かなかったみたいで、そのまま襲ってくるから、意識が飛ばないよう腹パン一発で黙らせて、グレタを治した事を伝えたんだ。
それでもレジー君は、「グレタは死んだ!」って言い張るから、背負っていたグレタを降ろして確認させた。
呼吸をして眠っているようなグレタを確認したレジー君は、驚きで目を見開き、恥も外聞もなく。グレタを抱きしめながら涙を流し、大声で喜びの声を上げていた。
そんな笑顔を見ていると、助けたくなっちゃうじゃないか。
ふとそう思うと、俺はレジー君に声を掛けていた。
「レジー君。とても大切な話があるんですが、よろしいでしょうか?」
俺の声に反応すると、レジー君はグレタを再び横たえ、涙を拭ってこちらを向き、真剣な表情でこちらを見てきた。
「あ、あぁ、すまない。グレタを助けて貰ったのに、あんな事をしてしまって、本当に申し訳ない」
そう言って頭を下げるレジー君。素直に謝れるって、美点だね。
「いえいえ、誰でもあんな状況にあればパニックになって当然です」
「だけど!・・・いや、ありがとう。本当にありがとうございます」
そう言って又涙が出て来たのだろう。必死に隠そうと拭うレジー君。俺は気付かない振りをして話を進める。
「それでは時間もないので本題に入りますね」
「あぁ、わかった」
「レジー君。クルーズとリディアを助けたいですか?」
「?! あいつらはもう・・・」
レジー君の表情が、何かを睨むような、堪えるような、そんな表情で凍りつくが、俺は真剣な顔付きのまま、同じ問いを被せる。
「もう一度聞きます。クルーズとリディアを助けたいですか?」
「そんなの助けたいに決まってるだろ!だ「分かりました」け・・・」
俺はその答えを聞くと、即答し、再度問いかける。
「では、私が助けましょう。ただし。3つ条件があります」
呆けた様な顔をしていたレジー君だが、すぐに真顔に戻り、話に喰い付いてくる。
「どうやって?!」
「私の条件を3つ共飲んで頂けるなら、お話ししましょう」
「どんな条件だ?」
「1つ、私がこれから行う事や、私に関する情報を他言しない事。仲間にも誰にも話してはいけません。私の事を詮索するのも無しです。
1つ、私の情報元になってください。あなたは義賊です。情報の収集等もお手の物でしょう。私の知りたい事や聞きたい事、何かあった時に頼らせてください。あぁ、一応それなりの代金も払います。
1つ、上記の2つを守った上で、私と接する時は今まで通りでお願いします。
以上の3つです」
呆けた表情になるレジー君。
「た、たったそれだけでいいのか?」
「『たった』、と仰いますが、これが中々難しいんですよ? できますか? 飲めますか?」
「できるし、飲む。 だから助けてくれ!」
「分かりました。では蘇生しましょう」
「そ、蘇生? そんな事できるのか?」
「できますよ。 これでも『聖人』の端くれですから」
「?!」
レジー君の表情が面白いぐらい引き攣っている。『聖人』の称号って、破壊力あるんだな。
「ただ、少々体力が持たないので、レジー君。回復ポーションはありますか?」
「確かリディアが持っていたはずだ・・・です」
「じゃぁ、あるだけ出してください」
「分かっ、り、ました」
「なんか、語尾がおかしいですよレジー君?」
「す、すいません」
と言ったやり取りをしてクルーズとリディアを蘇生したんだが、2人を蘇生すると、レジー君の視線が喜びと尊敬と畏怖が綯交ぜになったような、なんともこそばゆい視線に変わり、言葉も敬語になっていた。
なんともやりにくい感じになっちゃったんで、レジー君達がどうしてこうなったのかの話を聞き、その後レジー君が俺がどうしていたのかを聞いて来たので、ここに来るまでの経緯を話していたのだ。
はぁ、委縮しちゃったレジー君とじゃ、中々話も出来そうにない。どうしたもんか。
「う、うぅ・・・ん」
考えに耽ろうとした所、急に声が聞こえたので、そちらを向くと、グレタが目を覚まそうとしていた。
レジー君はテンパってるっぽくて気付いていないようだ。仕方ないか。
「レジー君。グレタさんが目を覚ましそうですよ」
「え?! 本当ですか?」
「ちょっと見てみますね」
「はい」
そう言ってグレタの横に移動すると、声を掛ける。
「グレタさん。起きてください。朝ですよ」
「うぅーん」
・・・中々起きない。 俺は軽く頬を突いてみたが、やっぱり起きなかった。
まぁ、仕方ないか。
「レジー君。まだみたいです。少々遅くなりましたが、夕食でも食べましょうか」
「は、はい。それじゃ俺、薪を拾いに行ってきます」
そう言って立ち上がるレジー君を俺は制して、「無限収納」に手を突っ込む。
「薪は良いですから、座ってください」
そう言うと、目当てのものが見つかった俺は「無限収納」から昨日ラディッツ氏に作ってもらったオーク肉のステーキを取り出し、レジー君に差し出す。
「はい、オーク肉のステーキですよ」
「?!」
驚きに目を見開くレジー君。そろそろ驚き疲れないだろうか。
「あ、ありがとうございます・・・でも、良いんですか? ラクタローさんの手持ちの食料でしょ?」
「心配しなくても多めに持ってますから、1人分くらい大丈夫ですよ。それに、こういうきつい経験をした時くらい、美味しいものでも食べないとやってられないでしょ?」
そう言って差し出したステーキをレジー君に半ば押し付け、ナイフとフォークを渡す。
「スープもありますから、遠慮なくやってください」
そう言ってスープと序でにパンも出すと、レジー君はまた泣き出した。
「どうしたんです?」
「す、すいません。 ホント。俺。なんて言っていいか。 今日の事。 俺、いや、俺達、ラクタローさんに助けて貰ってなかったら、みんな死んだままでした。なのに、俺、馬鹿みたいにラクタローさんに酷いことしようとして・・・」
ふむ、食事を前にして安心したんだろう。 色々な思いがレジー君の中を駆け巡っているようだ。
「気にしなくていいですよ。誤解は解けましたし、私もレジー君に一発きついのをお見舞いしましたからね」
そう答えると、又レジー君は謝り、泣き出した。
・・・これじゃ俺、保護者みたいじゃね?
見た目は若くなったが、やっぱり中身はオッサンのままなんだな。俺。 急に年寄りになったような気分になるが、レジー君達を救えた事は良かった。素直にそう思えた。
ご都合主義ですいません。