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第42話 森の探索行 2 ハウンドの戦闘

大分遅くなりました。


すいません。


やはり戦闘シーンは難しいです。


拙い表現ですが、読んで頂ければ幸いです。

 時は少し遡る。


 ジェラルドが歩みを止め、野営の準備に入った頃、レジー達「ハウンド」も今日はここまでと、小休止に入っていた。


「はぁ、疲れたぜ」


 そう言ってレジーは地面に寝転がる。


「ちょっとレジー、情けないわね。これぐらいの行軍でへばったの?」


「五月蠅いな。これ位って言うが、俺はお前と違って行軍中はずっと警戒してたんだよ。一体何回魔物と接近しかけたと思ってるんだよ」


「4回でしょ?」


 間髪入れずグレタがニンマリとした笑顔で返答すると、レジーは呆れたように返す。


「13回だ。 はぁ、もうちょいマトモな警戒が出来るようになってくれよ。いくら戦士だからって不意打ちを防ぐくらいできなぎゃぁ?!」


 そう言ったレジーの言葉は、グレタの鉄拳によって続けることが出来なかった。


 間違えた事への照れ隠しなのかもしれないが、恐ろしい女だ。


「痛ってぇ! 何すんだよ、グレタ!」


「う、うるさい! ちょっと間違えただけでしょ!」


「間違えたんじゃなく、知覚出来てないのが9回あったんだろうがぁ?! 」


 ・・・レジーの言葉は、グレタの鉄拳によって続けることが出来なかった。


 仰向けに倒れた後も言い募ろうとするレジーだが、グレタが右拳を見せつける様に軽く持ち上げると、素早く立ち上がり、無言で距離をとる。


「そろそろその辺でやめようか。 2人共、ここが魔物犇く森の中だってこと、忘れてないよね?」


 今にも取っ組み合いでも始めそうな二人に声を掛けて仲裁に入ったのはクルーズだった。


 2人はクルーズの方を見ると、レジーは不満そうに、グレタは慌てた様な顔でクルーズの言葉に従いファイティングポーズを解く。


 一人会話に加わらなかったリディアはレジーの代わりに周囲の警戒をしていた様だ。


 レジーがリディアの方を向くと、一言。


「今の所は問題なさそうよ」


「わりぃ、面倒掛けちまったな」


 そう言ってリディアに片手をあげて詫びるレジー。 それを見てばつの悪そうな顔になるグレタ。


 レジーは辺りを見回すと、真剣な表情になる。


「リディア、何度も悪いが、ちょっと見回りしてくるから、警戒頼む」


 そう言うが早いか、レジーはその場を飛び出した。


「ちょっと! どこ行くのよ!」


 慌てて後を追おうとしたグレタをクルーズが止める。


「待つんだグレタ。ああ見えてもレジーは用心深い。レジーが必要だと判断したなら任せよう。それより俺達も臨戦態勢を整えておいた方が良いだろう。レジーの感はよく当たる。もし外れても安全だったって事で、俺達に実害はないわけだしな」


 クルーズにそう言われ、後ろ髪を引かれる思いのグレタだったが、いつ戦いになっても良いよう準備を始める。


 クルーズは、今回のクエストは貧乏くじを引かされたようだな、と嘆息しつつ、武器の確認に入った。


 リディアはレジーに言われた通りに警戒しつつ、矢筒を背負う。


 そうしてハウンドの面々はそれぞれの準備を進めた。









 仲間の元を離れたレジーは「隠密」スキルを発動させると、幽かに感じた気配の方へと移動する。


 深い森の中である為、音を出さないよう細心の注意を払いつつ、気配の方向以外にも注意して進んでいく。


 俺の気のせいならいいんだけどねぇ。 そんな事を思いながら進むと、幽かだった気配が次第にはっきりとしてくる。


 どうやら期待が外れてしまったようだ。 レジーは肩を落とすが、気配の進行方向次第では移動しなくても済むはずだと、さらに近付く。


 気付かれないよう細心の注意を払い近付くと、ゴブリンの集団が見えてきた。数は5匹。うち一匹は他のゴブリンより頭一つ分ほど大きいし、雰囲気に危険なものを感じる。


 レジーは近くの木に身を隠すと、ゴブリン達の進行方向を確認すると、食料調達でもしているのか、何かを探すようにこちらに向かってきている。


 歩みは遅いが、確実に近付いて来ていた。 しかもレジー達が回避すると、ギルマスが野営している場所付近にゴブリン達が行く事になりそうだ。


 ギルマスが負けるとは思わないが、作戦は恐らく失敗と言う事になるだろう。 そうなった場合、自分たちに責任を押し付けられるかもしれない。


 普通はそういう考えに陥りそうになるが、レジーは自分の役割を心得ていた。


 斥候はありのままを仲間に報告するのが役割だ。考えるのは後でもいい。


 そう結論を出すと、レジーは急ぎ仲間の元へと向かった。









 レジーは仲間の元に戻ると、見て来たことを報告する。


「・・・って事で、向こうからゴブリンが5匹、ゆっくりとこっちに向かってるんだが、どうする?」


「接敵は極力避けるよう指示されている。ならば俺達が回避すればいいんじゃないか?」


 クルーズの答えにレジーが聞き返す。


「そうするとギルマスの野営地に一直線っぽいけど、いいのか? 作戦失敗するかもしれないぜ」


「ふむ、となると今度は殲滅することになるが、ゴブリン達がどれ位強くなっているのかが分からないからな」


 そう言うと考えこむクルーズ。


 実は「ハウンド」は別のクエストを受けていた為、3週間前から王都を離れており、戻って来たのは3日前。 その為、ゴブリンキングが現れた後のゴブリンとは戦っていないのだ。


「あのさぁ、ゴブリンなら倒しちゃえばいいんじゃない? 強化されてるって言ってもゴブリンはゴブリンでしょ? 普通のゴブリンなら倍の数でも私達は倒して来たじゃない」


 グレタは自信満々の顔でそう言うが、もし楽太郎が聞いていたら逃げる事を勧めただろう。


「俺も普通のゴブリンが多少強くなっただけなら殲滅を選択するんだが、今回レジーの話だと1匹だけ他の個体より頭1つ分でかい奴がいるってのが引っ掛かるんだ」


「そんなのはちょっとした個体差じゃないの?」


「もしそのでかいゴブリンがハイゴブリンだったら、難易度が大分高くなる。そうなると俺達で倒し切れるとは限らないしな」


 少し弱腰にも見えるクルーズの意見にグレタは反論する。時々レジーに振ったりするが、レジーはどちらでも良いようで、中々話が進まない。


 そんな中、リディアが折衷案を出す。


「それなら、ゴブリンに一当てして、勝てそうなら戦う。敵いそうにないなら逃げれば良いんじゃないかな? ゴブリンなら撒くのは簡単でしょ?」


 その案に一同考え直し、クルーズが口火を切る。


「うん、リディアの案が良いんじゃないかな? 敵の戦力もわかれば今後の方針も立て易くなる」


「私はもちろん賛成よ」


「俺も異議なし」


 結論が出れば、後は即行動。 少し先に開けた場所をレジーが見つけていたので、そこで待ち伏せる事になり、クルーズは盾、グレタは遊撃、リディアは弓で牽制し、レジーは1人離れた位置で後背刺突(バックスタブ)を狙う。


 もし敵が強く、敵わないなら、クルーズ、グレタ、リディアは散開して他のPTに迷惑を掛けないよう、カーチス防風林を抜け、街道まで一気に逃げる。もし逃げ切れないと思ったら、迷惑をかける事になるがギルマスの所まで逃げる。 ギルマスならきっと簡単に始末してくれるだろう。


 簡単だが作戦を立て、実行に移す。


さぁ、戦いが始まる。











 どれだけ経っただろうか、時間にすれば短かったようにも思うが、レジーにとってはとても長く感じられた。


 幽かな葉擦れの音と共にそちらを凝視すれば、ゴブリンの集団がレジーの視界に入って来た。


 レジーは「来た!」と思った瞬間、自分の鼓動が大きく脈打つのを感じた。


 自分を落ち着かせるよう、軽く深呼吸をし、見付からないように木の陰に隠れる。


 ゴブリン達は先程見回りした時と同じように、食料調達でもしているのか、何かを探すように進んでは、時折木の実や下草を摘んでいるようだ。


 周りを見回しながら進むゴブリン達は、レジーにとっては非常に厄介な相手だ。「隠密」スキルを使用しているが、このスキルは解除されても使用者には分からず、敵の反応でしか見付かったかどうかを判断できない。その為レジーはゴブリン達の詳細な動きは見ずに、気配を殺して隠れることに専念する。


 遅々として進まない行軍にヤキモキしながらも、レジーは耐え忍び、ゴブリン達が通り過ぎるのを待つ。


 ゴブリン達がレジーのすぐ脇を通り過ぎ、離れて行くと、レジーは息を吐き呼吸を整える。 本番はこれからだ。


 そう気合を入れると、レジーはゴブリン達の後を追い追跡を開始した。











 クルーズは静かにゴブリンの接近を待っていた。


 グレタは時折肩や首を回して緊張を解し、自身の獲物である小剣2本を弄びつつ、辺りを見回す。


 リディアは弓の弦を弾きながら警戒を続ける。


 そんな状況がどれだけ続いただろうか。とても長く感じられる静寂の中、唐突にリディアが声を上げる。


「近付いてきた」


「?!」


「ようやくか」


 クルーズは前方に注意を向けると、抜刀し、盾を構える。


「リディア、予定通り弓の射程に入ったら矢を撃て、外しても構わない」


「了解、リーダー」


「グレタはそっちの木の陰に隠れてろ。ゴブリンが俺と接触したら後方から奇襲をかけるんだ。その後は付かず離れずで攪乱してくれ。あとチャンスがあれば攻撃するのを忘れるなよ」


「分かったわ」


「リディア。判断は難しいかもしれないが、レジーの後背刺突(バックスタブ)やグレタの奇襲が失敗した場合や、成功した場合でもその後の推移によっては撤退命令を俺の代わりに出してくれ。俺もゴブリンの対処に手一杯になりそうだからな」


「了解」


 そう言うと、リディアは少し硬い表情で工程の返事を返した。


 それぞれが配置について暫らく・・・ ゴブリンの集団は姿を現した。


 ゴブリンは各々武器を持っているようだ。先を進む4匹のゴブリンはそれぞれ棍棒や錆びた剣を持ち、その後を歩く大きいゴブリンは、自身の身長より大きい剣。恐らく大剣だろう。を引き摺りながら歩いていた。


 ゴブリン達の服装は粗末な腰布のみで、大きいゴブリンは背に籠を背負っているようだ。


 敵の数を数え、レジーの報告通りである事を確かめると、リディアは先制の一矢を放つ。


 相手に気付かれていなかったのが功を奏したのか、矢は先頭に居たゴブリンの肩に命中。 ゴブリンの悲鳴が森に響いた。


 その間もリディアは矢を放つが、初撃以外は中々当たらなかった。 距離もあるし、敵もこちらを認識した事で木の陰に隠れてしまったからだ。


 矢を受けたゴブリンは暫らく悲鳴を上げていたが、やがて悲鳴から怒りの怨嗟へと昇華すると、リディア目掛けて狂ったように突撃を始める。


 他のゴブリンも同じように突撃をし始めるが、大きいゴブリンが声を上げると、左右ジグザグに走りながら進む。恐らく矢の狙いを散らす目的だろう。 そして一際大きいゴブリンは怒り狂ったゴブリンの後を追って直進している。


 クルーズ達はその連携の取れた移動に目を剥いた。


 今までのゴブリン達なら弓矢等お構いなしに真っ直ぐ突撃していただろうが、怒り狂っているゴブリン以外はそれぞれ矢の狙いを定めさせないように動いている。まるで訓練されたような動きを取っていたからだ。


 大きいゴブリンも直進するゴブリンの陰に隠れ、最短距離を詰めて来る。 リディアが大きいゴブリンに狙いを定めると、大きいゴブリンは前を走るゴブリンの陰に隠れるように身を屈めるので、偶々後ろを走っているという訳でもない。


 リディアは大きいゴブリンやジグザグに走るゴブリンは後に回し、突撃してくるゴブリンに狙いを定めるが、手負いのゴブリンは持っている棍棒で矢を防いだり弾いたりしている。何本かは体に傷を作るが、短い苦悶の声を上げるだけで、そんなのはお構いなしと言った感じで一心不乱にリディアに向けて突撃を続ける。


 そうして突撃を続けるゴブリンがクルーズまであと数歩となった時、リディアの矢がゴブリンの膝に当たり、ゴブリンが激しく転倒する。痛みで倒れたと言うより、急に足が動かなくなって勢いのまま転んだようだ。


 クルーズとリディアは一瞬ホッとするが、次の瞬間、倒れたゴブリンの足を大きなゴブリンが握り、力任せに投げ付けてきた。


 あまりの事に呆然としたクルーズだが、投げられたゴブリンはリディアへと一直線に飛んで行く。


 このままではリディアに激突してしまう。 そう思った時には、クルーズは反転し、リディアの元へ駈け出していた。


 リディアもクルーズ同様に一瞬呆気に取られ、反応が遅れる。 それでも必死に躱そうと横へと飛び出す。


 投げられたゴブリンは痛みより突然の浮遊感に驚くが、リディアの方へと投げられると、怒りをぶつけるべき相手(リディア)へと飛んで行く事を理解し、狂気の表情を浮かべ、未だに握っていた棍棒を憎き敵へ叩き付けようと構える。


 ゴブリンを投げ終えた大きいゴブリンはそのままクルーズ達に突撃する。


 他3匹のゴブリンもこの時になると、左右へのジグザグ移動を止め、真っ直ぐクルーズ達の方へと突撃を開始する。


 投げられたゴブリンがリディアに渾身の一撃を叩き込もうと振りかぶる。


 リディアも回避行動は取ってはいるが、完全には躱せず。恐怖に顔が歪む。


 そこへクルーズが割り込み、盾を差し込む。ぎりぎり間に合った。 クルーズはそう確信した。


 だが、キングの加護を受けたゴブリンの膂力は恐ろしい力を発揮する。


 ゴブリンの一撃は盾に防がれるが、盾が一撃を防いだように見えたのは一瞬。盾を差し込んだクルーズの左腕はゴブリンの一撃にまるで抵抗していないかのように、あっさり弾かれる。そして、ゴブリンの一撃はリディアへと吸い込まれ、彼女の足に痛打を与える。


 クルーズの盾がクッションになったとはいえ、ゴブリンの一撃は彼女の足をへし折るのに十分な威力を持っていた。


 悲鳴を上げるリディアを目にしたゴブリンは不快な笑い声を上げると、投げられた威力そのままに地面へ激突し、何度か跳ねる様に転がり動かなくなる。


 それを見届けかけたクルーズにグレタの声が飛ぶ。


「クルーズ! 後ろ!」


 クルーズは慌てて後ろを振り返ると、大きいゴブリンが直ぐ傍まで接近していた。


 クルーズは動けないリディアを庇うように大きいゴブリンの前に立つと、構えを取る。


 大きいゴブリンは新たに声のした方を探る様に見つめると、後ろのゴブリンに向けて声を上げる。


 すると3匹の内2匹がグレタが隠れていただろう場所へと向かう。錆びた剣を持ったゴブリンと棍棒を持ったゴブリンだ。


 残り1匹はそのままクルーズの所に向かってくる。


 グレタの奇襲は先程の警告で失敗と言う事だろう。


 他のゴブリンもさっきのゴブリンと同じ位の強さだと仮定すると、グレタが2匹を相手取るには無理がある。これは撤退するしかない。だが、リディアは足を負傷し、依然戦闘継続中、このまま見逃してもくれないだろう。 逃げるだけでも一苦労だな。


 そうクルーズが思考を巡らしていると、クルーズに向かっていたゴブリンが絶叫を上げて倒れる。


 ゴブリンの絶叫に大きいゴブリンもそちらを見ると、倒れたゴブリンの後ろにレジーが立っていた。 どうやら後背刺突(バックスタブ)が成功したようだ。


「残りの2匹を片付ける! それまでそっちのデカ物の足止めは任せたぜ!」


 そう言うとレジーはグレタに向かった2匹のゴブリンの後を追って行った。


 ・・・これならイケるか? そうクルーズが考えを変えると、今度は逃げるのではなく、大きいゴブリンを足止めするという厄介な仕事に取り組む為、気合を込めて大きいゴブリンを睨みつける。


 大きいゴブリンは動けないリディアの前に立ちはだかるクルーズを睨むと、低い声で唸り、突撃を開始した。












 グレタは2匹のゴブリンが向かって来るのを確認すると、その場から遠ざける様に引き付けながら走ろうとするが、これまで倒してきたゴブリンよりも遥かに速い走りに驚き、追い付かれない様に全力で走るが引き離せないという恐怖を味わっていた。


 まいったな。 これでもスピードにはそこそこ自信があったんだけど、全力で走っても引き離せないなんて、それにリディアを襲った時のあの筋力が奴等にあるってことは、完全に格上って事になるじゃない。それが2匹も追って来るって、正直勝てる気がしないわ。 逃げるにしてもどうやって撒いたらいいのか・・・。


 はぁ、こんなことなら最初の情報をそのまま信じておくんだった。そうすれば戦おうなんて選択肢は最初から無かったのに・・・


 そう言った思いが胸中を占める。グレタはゴブリンが強化されているという話を聞いてはいたが、その強化についてあまりにも突拍子が無いため、話半分にしか聞いていなかったのだ。


 まさか本当にこれほど強くなっているとは思いもしていなかった。だが、今は格上の魔物2匹に追われる立場で、場所は山の中。不慣れな自分より追って来るゴブリンの方が慣れている。 事実、徐々に距離が詰まってきている。


 このまま追い付かれる位なら、戦って活路を見出そう。グレタはそう腹を括ると、横手に見えた少し拓けた場所を戦場と見做し、そちらへと向かう。











 レジーはグレタの後を追って森の中を走っていた。


「全く、こんなところで全速で走ってどうすんだよ・・・」


 そう愚痴を零しながらもレジーはグレタの後を追う。勿論「隠密」スキルを使おうとしたが、こんなほぼ全力で走らなきゃいけない場合、隠密を発動しても解けてしまう。その事をレジーは知っていたので今回は後を追う事を優先し、走り続けている。


 グレタは相当本気を出して走っているようで、レジーも全速ではないが、少しづつしかゴブリンに近付けない。 と言うか、グレタの本気の走りにゴブリンが平然と付いて来ている事の方が異常だ。


 その一事をとっても現在非常に不味い状況であることがレジーにもわかる。


 これから戦闘に入るだろう状況を考慮すると、ゴブリンに気付かれないようにする必要があった。


 グレタなら逃げ続けるより戦う事を選択するだろう。そうなった時、レジーがゴブリンの背後から奇襲をかけた方が生存率が上がる。


 事実、先程ゴブリンを仕留めたのもレジーが奇襲を掛け、後背刺突(バックスタブ)を成功させたからだ。


 レジーがゴブリンに気付かれた場合、グレタとレジーで挟み撃ちの形になるが、正直2対2だ。レジーは義賊で戦闘では中近距離を不規則な動きで攪乱しながら戦うスタイルだし、グレタは手数と回避が命の軽戦士。どちらも素早さが売りの戦闘スタイルだが、今のゴブリンの速さを考えると、こちらの持ち味はほぼ潰されていると考えた方が良いだろう。レジーとしては一匹を引き付け、振り回しつつ、グレタの相手しているゴブリンにもちょっかいを出してグレタが攻撃できる隙を作るのがベストだが、ゴブリンがこれだけの素早さを持っているとそう簡単にはいかないだろう。


 そうなると、やはり初手で奇襲をかけて1匹を倒したい。倒せなくても手傷は負わせたい。その思いがレジーに待ったをかけ、一定の距離を取らせた。


 そんな事を考えていると、ほぼ直進しかしていなかったゴブリンが急に曲がった。どうやら戦闘開始のようだ。 レジーは早くなる鼓動を抑え、速度は落とさず、より慎重に進む。


 レジーが戦場を視界に捉えると、既に戦いは始まっていた。


 グレタは2匹の内の1匹と交戦し、もう1匹は辺りを警戒しているようで、攻撃の間隔が長いが、攻撃を止めると辺りを見回している。


 グレタは何とか凌いでいるが、防戦一方となっていて、このままじゃ数分も持たないだろう。


 ・・・これは不味い。 奇襲は使えそうにないな。


 レジーはそう決断すると、左の小手に巻いていた紐の様なものを腕から外すと、ダーツの様な短い矢を番える。所謂スリングショット。日本風に言えばパチンコをセットし、狙いを警戒しているゴブリンに絞る。


 ゴブリンが後ろを向いた瞬間を狙い、足を狙って狙撃する。 矢はレジーの狙い通りゴブリンの脹脛に当たり突き刺さると、ゴブリンの悲鳴が上がる。


 レジーは打ち終わると悲鳴を上げているゴブリンに向かって素早く走り込み、襲いかかる。


 悲鳴を上げているゴブリンはレジーを視界に入れると、親の仇でも見た様な怒りの形相に変わり、足に刺さった矢を引き抜くとレジーに投げ付けた。


 レジーは慌てて横に跳んで躱すが、走った勢いは殺がれ、その間に怒り狂うゴブリンは体勢を立て直し、棍棒を構えると、突進を始める。


 これで1対2から2対2になり、多少グレタが楽になるかと思われたが、やはりステータス的に格上のようで、変わらず厳しい戦いが続いている。


 レジーの相手は足に負傷をしているが、怒りによるアドレナリンが痛みを飛ばしているようで、レジーに猛攻を仕掛け、レジーは必死に振り回される棍棒を躱しつつ隙を伺う。


 暫し場が膠着し、次第にグレタとレジーが押され始めた。


「クソッ! レジー! 何とか打開できないの?!」


 ジリ貧の状況でグレタが痺れを切らし始める。


「こっちだって今手一杯なんだよ! もう少しだけ粘れ! そしたら多分何とかなる!」


「わかった! 粘れば何とかなるんだね!」


「あぁ、一応その予定だ!」


「一応って何よ!」


「確実じゃねぇンだよ! ならお前が何とかしろよ!」


「こっちの無視してそっちのゴブリンに突撃掛けるくらいしか思いつかないよ!」


「それは止めとけ! 今背中見せたらお前死ぬぞ!」


「仕方ないわね! あんたの案に乗ってあげるよ! 失敗したら許さないから!」


 そう言うとグレタは防戦を続ける。


 そこから更に防戦を続けると、レジーと戦っているゴブリンの動きが鈍り始めた。


 ゴブリンは怒りの形相はそのままに、気焔を吐きながらも足を止めてしまう。 どうやらレジーが矢に仕込んだ痺れ薬が効いて来たようだ。


「ようやく効いたか」


 レジーはそう言葉を零すと止めを刺しに近付こうとするが、グレタから声が飛ぶ。


「レジー! 早く! 早くこっちもお願い!」


 見ると、グレタも限界が近付いていた。


 レジーは一瞬迷うが、グレタの応援を優先し、グレタの元へと急ぎ駆けつける。


 剣を持ったゴブリンを前後に挟み込む形で戦闘を続けると、グレタが劣勢で戦っていたはずのゴブリンは成す術もなく最期はレジーの背後からの一撃で倒れた。


「これで後一匹始末すればクルーズの応援に行けるな」


「えぇ、そうね。急がないッ!?」


 ゴキッ と言う音がしたと思った時には、既に遅かった。


 グレタの首がありえない角度で曲がり、糸の切れた人形の様に地面に倒れる。


・・・・・・・・


 原因を作ったゴブリンを見ると、悔しそうに叫び、次に投げ付ける石に手を伸ばしていた。


 どうやら痺れているの足だけのようだ。


 レジーを狙ったようだが、外れてグレタに当たった。 それを直感した瞬間。レジーは切れた。


 怒声を上げ、ゴブリンに突進する。


 ゴブリンが石を投げつけてきたが、わかっていれば躱すのは容易だ。


 僅かばかりのゴブリンの抵抗もお構いなしに怒りのままにレジーは止めを刺す。


 怒りのままに獲物を突き刺し、既に死んでいるだろう死体を滅多刺しにすると、思い出したようにグレタの元へと走った。


「グレタ・・・ おい! グレタ! 起きろ! こんな時になんの冗談だよ・・・」


 そう言ってレジーはグレタを助け起こそうとするが、ありえない方向へとひん曲がった首が、レジーにグレタの生存を否定させる。


 怒り・悲しみ・後悔・・・その他様々な感情が綯交ぜになった絶叫を上げると、クルーズの元へと走り出す。


 犠牲は1人で十分だ。 もう誰も死なせない! 死んで欲しくない! 間に合ってくれ!


 そう願い、レジーは全力で駆け戻った。



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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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