第41話 森の探索行 1
いつもながら、遅くなりました。
申し訳ありません。
1人取り残された俺は、ジェラルド氏の約150メートル後ろに位置取りをしつつ、後を追っている。
一応「追跡」スキルにて各PTのリーダーに目印を付ける。
「地図」スキルは常時表示させているので、赤い光点に名前が上がっているのは「風巻の団」のリーダー「ミロ」・「ハウンド」のリーダー「クルーズ」・「ブレイブハート」のリーダー「フィリップス」だ。
ジェラルド氏は光点が1つだけだから目印無くてもわかるだろう。それに死にそうにないしな。
カーチス防風林をジェラルド氏らしい光点は慣れた庭を歩くかのように一定速度で調子よく進んでいく。
途中何度か敵性反応の近くを通るが、ジェラルド氏は直前で遠ざかる様に移動をするので接敵は今の所していない。
ジェラルド氏を追う様に他の光点が3つに分かれて20メートル程後ろを付いて行っているが、こちらの方は少々危なっかしい感じがする。敵性反応が近付くと、慌てたように遠ざかるか、隠れる様に止まり、敵性反応が離れると、ジェラルド氏の後を慌てて追いかける様に動き出したりを何度かしている。
俺はその更に後ろ・・・大分離れた位置で後を追う様に歩いているんだが、俺は接敵した敵は殲滅している。
と言うのも、接敵しても相手には気付かれないので後背刺突からの奇襲でほぼ方が付く。死体は「無限収納」で片付けるので痕跡もほとんどない。
それに外周部を偵察に来てる奴を殺しても作戦に支障も出ないだろう。なので遠慮なく経験値の肥やしにしているのだ。
そんな事をしつつ、3時間ほど歩き続けると、ジェラルド氏がどうやら森に入ったようだ。「地図」にも、それまである程度間隔をあけて整然と並んでいた木々が、不規則に乱立し始める。
森に入った頃からジェラルド氏の動きが変わる。
障害物を躱すように木々を避けて左右への動きが何度か続く。 それに合わせ後ろに付いている他PTの動きも左右への移動が多くなる。
俺はと言うと、「地図」を見つつ、歩き易そうな場所を探しながらジェラルド氏を見失わないよう歩くだけだ。 森の中では接敵しないよう注意しているが、今の所俺の「隠密」スキルを見破る敵はいないみたいだった。
・・・正直、退屈だ。
あの後も森の中を歩いたのだが、ジェラルド氏は中々暴れなかった。
接近する敵性反応の数は防風林の時より明らかに増えているのだが、密集しているというより、疎らに点在しており、辺りの探索か、食料採集でもしているような感じだった。
森に入って更に3時間ほどが経っただろうか。日も暮れ始めた頃、ジェラルド氏は野営に入った。
他のPTも野営に入るようで、辺りの警戒に少し動いた後、野営に入るようだ。
・・・初日はこれで終わりなのだろうか? ジェラルド氏に確認しようと思ったが、面倒くさい事になりそうなので「ハウンド」のレジー君に聞くことにする。
彼なら話し易いしね、そう考え「地図」の「クルーズ」の光点がある集団に近付くことにした。
「ハウンド」の野営地に近付くにつれ、俺は足音を消し、慎重に歩くことにした。
どうにも緊迫した空気が辺りを漂っているからだ。 「地図」上では敵性反応が5つ、「ハウンド」の光点の上にあり、「ハウンド」に近付いて来ている。
「ハウンド」の位置がバレているのか、敵性反応は真っ直ぐ「ハウンド」の光点に向かっている。
少し前に「ハウンド」の面々も気付いたのだろう。チョコチョコと光点が動いた後、隊形を組み直すような動きをし、敵を待ち構える様に留まった。
どうやら迎撃する様だ。 一当りして敵の実力を見ようって腹なのか、それとも勝てる自信があるのか、どちらにしろ興味深いな。
俺としてはこっちの世界でのPT戦闘って見た事ないし、『風巻の団』の時はゴブリンに囲まれてて見えなかった。というか、そんな余裕なかったしな。それにMMORPGとかでもPT戦闘って苦手で、いつもソロで戦ってたしな。 でもこれから俺も現実として誰かと一緒に戦う事になるかもしれない。先の事を考えると、丁度いい機会かもしれない。見学して参考にしよう。
そう考えを纏めると、見付かり難くなるように俺は木の上に登り、枝から枝に飛び移る様に移動した。
思いつきでやってみたんだが、最初は枝が大きく揺れたが、出来るだけ太い枝を移動先に見定める様にしたら、音も小さくなった。 数回繰り返すと慣れたようで、忍者みたいに次々飛び移れるようになった。俺って意外とすごいのかもしれんな。なんて自分に感心してしまったのは内緒だ。
そうやって移動し、敵の情報を確認しようと「ハウンド」を追い越し、敵性反応を肉眼で捉えれる位置まで出る。 目視で確認すると、やはりゴブリンの集団だったのだが、1匹だけ体格が一回り大きい奴がいたので鑑定で確認する。
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名前 :-
性別 :雄
年齢 :8
種族 :ゴブリン
職業 :小隊長
称号 :-
レベル:15
ステータス
HP : 385 (+100 +50)
MP : 42
STR : 310 (+100 +50)
VIT : 270 (+100)
INT : 70 (+50)
AGI : 300 (+100 +50)
DEX : 260 (+100)
MND : 160
LUK : 7
特記事項
ゴブリンキングの加護
※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにゴブリンキングのレベルに応じた補正が付く。
小隊長か、数日前なら手強いと感じたんだろうが、レベルが上がったお蔭か、脅威に感じる事は無かった。寧ろ雑魚と認識できるレベルになっていた。
レベル制の成長補正って残酷だな。 ちょっと前まで脅威に感じたのに、レベルが上がると、途端に簡単になる。
幾ら小隊長でレベルも高いと言っても・・・って、小隊長?・・・小隊長って事は、ひょっとしてゴブリンは部隊で移動しているのか?
以前ゴブリンの小隊長にあった時の事を思い出し、俺は「地図」を改めて見直すと、小隊長を中心に敵性反応が一定の距離を保って動いているのに気付いた。小隊長の集団の少し後ろを5匹毎に4つの部隊が付き従っているように動いている。 全部で25匹か・・・
こりゃまずい。
「ハウンド」の連中は迎撃するみたいだが、小隊長達を相手にしている間に敵の援軍に囲まれる可能性が高いな。
そうなると、「ハウンド」の面子だけじゃ、逃げ切るのも難しいかもしれん。
うーん。先に忠告して退避させるか、それとも多少危険かもしれないが、小隊長の部隊を残して他の部隊を合流前にスネー・・・じゃなくて、「隠密」からの後背刺突で奇襲を掛けて片付けるか。 どっちが良いか・・・
前者は「ハウンド」の安全を重視するが、説得できないと強制戦闘発生で、「ハウンド」を守りつつの撤退戦か、殲滅戦へ移行する可能性がある。
後者は「ハウンド」の実力を見る事が出来るが、彼らの実力次第でかなり危険な事になるだろう。だが、小隊長を先に俺が打ち取ると、統率者を失った残りのゴブリン達がどう動くか読めない。「地図」と「気配察知」で居場所を特定できても俺は1人だ。バラバラの方向に動かれ、こちらの他のPTに襲い掛かられても俺1人じゃ対処できない。 小隊長を残しておけば最低限の統率ある行動はするだろう。
後者の場合、「ハウンド」が小隊長の部隊を抑えられないと最悪全滅するかもしれない・・・ そんな事は考えたくないな。
って、考えてる内にも大分両者が接近している。
参ったな、時間が無い。説得するにも時間がかかりそうだし、こうなると多少危険だが、小隊長の部隊は「ハウンド」に任せて、他を手早く片付けるしかないか。
そう腹を括ると、俺は早速行動に移した。
俺は「隠密」状態で小隊長の部隊を後にし、その後ろに付いていたゴブリン部隊を急襲した。
部隊の最後尾を歩くゴブリンの後ろに回り、首の後ろを槍で貫く。 叫び声も出せず頽れるゴブリンを尻目に、次の獲物も同じように首の後ろを槍で貫く。
1体目が倒れた音で残りのゴブリンが振り返るが、槍の横薙ぎで3体纏めて首を刎ねた。
5体全てを思ったよりあっさりと屠れた。やはりレベルが上がった所為か、ずいぶん簡単に方が付く。 数日前とは大違いだな。
そんな感慨も次の部隊が近付いて来るので取り止め、「隠密」スキルを再度使用し、同じように奇襲をかける。
そんな行為を繰り返し、ゴブリン小隊長の部隊以外を殲滅したころには、既に「ハウンド」とゴブリン小隊長の部隊が接敵していた。
やっぱり間に合わなかったか、そう思いつつも足を動かし、彼らの元へと駆ける。