第39話 作戦決行日
大変遅くなり、申し訳ありません。
さて、今日はゴブリン・オークの塒探索依頼の日だ。
突然ではあるが、こう見えて俺は重圧や緊張に弱い。 突発的に発生した事態に対しては余り緊張しない、と言うか緊張する余裕がないので、感じないだけと言うのが正解かな? なのだが、事前にやりたくない事が決められていると、日程が近付くにつれ、緊張するのだ。ピークを迎え始めるのは前日の夜から当日にかけて、実際の事に当たっている最中になればある程度開き直って事に当たれるのだが、予定の直前辺りが一番緊張する。異世界召喚前でも客先での会議やプレゼンの当日などは、仮病で欠席できないか? なんてしょっちゅう考えていたくらい緊張に弱かった。 まぁ、実際は休めずそのまま会議やプレゼンに参加したんだけど・・・ まぁ、そんな訳で、昨日の夜は早めに寝たんだが、なかなか眠れず、一旦寝ても2時間ほどでまた起きる。を何度か繰り返したせいで、寝起きも悪かった。
緊張の為、下腹部当りがモゾモゾする。 自分が小心者なのはわかっていたが、こうやって緊張するのはどうする事も出来ない。緊張しない方法なんて見付からなかったのだ。 『人と言う字を書いて呑み込む』とか、『直前まで自分の好きな事を考える』とか、『人を野菜だと思え』とか、色々試したが無駄だったのだ。
今回はまだ腹痛にまで達していないだけましだ。そう思う事で誤魔化しつつ、柔軟体操をする為、中庭に移動する。
中庭で体操を始めると、次第に体操へ没頭していくので、お腹のモゾモゾは気にならなくなっていた。
なるほど、緊張をしない方法は、より恐怖を感じる地獄を味わう事なのかもしれないな。柔軟体操を怠ると、あの地獄の股割が待っていると恐怖する事で柔軟体操に没頭でき、緊張を忘れられた。 35年間見付からなかった方法が建御雷様の軽い運動で見付かるとは、さすが神様。・・・すごいです。
そんな感じで緊張が解れて、心なしか心も軽くなったので、気分良く食堂でご飯を食べていると、クレオさんが食堂に入ってきた。
その不意打ちに、俺は忘れていた緊張感が一気に噴き出し、心臓が跳ねる様に一際高い鼓動を脈打つのを感じた。
クレオ氏は人を探しているようで、キョロキョロ食堂を見回し、俺と目が合うと、そのまま近付いて来る。
「おはようございます」
そう言って俺の横に座ってくるクレオ氏、緊張で嫌な汗が背中を流れるのを感じつつ、俺は何かやらかしたか? と考えるが、思いつかないので遅れて挨拶を返し、また食事を再開するが、先程と同じ料理であるのが信じられない位、味を感じなかった。
心を落ち着けるため、食事に集中したかったが、無言のままクレオ氏が俺をじーっと見てくる。
本当に何かやらかしたのかな? そう考えるが、心当たりが全くない。 とにかくこっち見るの、やめて貰えないだろうか。 気になるし、落ち着かなくなるんだけど・・・
そんな事を考えていると、ラディッツ氏が注文を取りに来てくれた。
「おう! 姉ちゃん。何食うんだ?」
俺はホッと一息つく。
「すみません。私は要らないです」
「食堂に来て飯食わねぇなら他行って貰えねぇか? 見ての通り、今の時間はそれなりに繁盛してっから無駄に席を占領されるのは困るんでぇ」
困ったような顔をしてラディッツ氏は周りを顎で示す。 ラディッツ氏の言う通り、食堂は結構な賑わいがあり、今は満席ではないが、いつ満席になってもおかしくない位には人が入っている。
「・・・」
無言でラディッツ氏を見詰めるクレオ氏だが、心なしか不服そうだ。俺は今こそクレオ氏を遠ざけるチャンスとばかりにラディッツ氏にフォローを入れる。
「クレオさん。ここは食堂なんですから、注文しない人が席を占有するのは営業妨害になりますよ。それともそれが目的ですか?」
そう言うと、クレオ氏はこっちを睨んできたが、俺は目一杯涼しい顔で受け流す。 心の中ではさっさとどっか行ってくれ、それが無理でもこっちを見詰めるのをやめてくれ。そう祈りながらクレオ氏の様子を伺う。
クレオ氏は暫し黙考した後、肩を落として注文をした。
「ラクタローさんと同じものをください」
俺は心で泣いた・・・
「おう!了解!」
ラディッツ氏は笑顔でそう言うと、厨房に戻って行く。
クレオ氏はラディッツ氏が去るのを確認すると、俺の顔を見続けるのであった。
俺は食事中ではあるが、下腹部がモゾモゾし始めるのを感じた。 決して変な意味ではない!
暫らく味気のなくなった食事を異に流し込む作業を続けたが、苦痛というか、苦行になって来たので、クレオ氏に話題を振る。
「今日はゴブリンとオークの塒探索の日ですよね。 何かあったんですか?」
「特筆することは特にない。探索するパーティは『風巻の団』と、あなたを含めて4チームになる」
ふむ、追加で2チーム集めたって事か、しかし、顔合わせで揉めなきゃいいけどな。 顔合わせ早々に揉めて作戦に支障が出るのは困る。 あぁ、なんか、胃が重くなってきた。
俺の内心を読み取ったかのようにクレオ氏が口を開く。
「大丈夫、追加の2チームは斥候能力はもちろん、人格面でも問題ないチームを選んだ」
なるほど、それなら問題なさそうだな。
少し安堵できたせいか、少しモゾモゾが治まった、今の内に食事の残りを片付けるか、そう考え、クレオ氏をチラ見すると、やっぱりこっちを見ている・・・
「あのー、あんまり見られると、食べにくいんでやめて貰えません?」
「・・・意趣返し」
この一言に再度考えるが、心当たりが浮かばない。
「なんの?」
「私がここに来ることになったことへの・・・」
どういうことだ? そう思ったが、続いてクレオ氏がここに来た理由を教えてくれた。
「ラクタローさん。あなたがギルドに来るか不安だったので、ギルドマスターが私を派遣した。 今日からギルドマスターが現場に出るから、その分の事務仕事も増えるのに、こんなくだらない事で時間を取られてしまった・・・」
と言って肩をガックリ落とすクレオ氏。 うーむ、ご愁傷様ではあるが、それって俺の所為か? 俺を信用できないジェラルド氏の所為だろ? こっちの信頼裏切りまくった結果だろうに。
そう疑問をぶつけると、目を逸らされた。
八つ当たりか・・・勘弁して欲しい。只でさえ緊張しているのに! と少し怒りが湧くと、先程まで気になっていた緊張感がまた少し薄らいだ感じがしたので、食事に集中してさっさと食べ終わる。
「それじゃ、お先に失礼しますね」
そう言って食堂を出ようとするとクレオ氏が引き止めに掛かるが、更にその後ろからラディッツ氏がクレオ氏の食事を持ってきた。
「へい、お待ち! オーク肉のステーキにオーク肉のシチュー、それとパンで、銀貨2枚だ!」
「?!」
クレオ氏はラディッツ氏を見て驚きのあまり固まっているようだ。 値段は普通の人の朝食代の数倍だからね。 それにオーク肉は結構な高級食材らしいしね。
それに俺はラディッツ氏が動き出したのを見計らってから仕掛けたのだ。 クレオ氏にこのまま付いて来られると精神的にきつい。
俺はクレオ氏が焦って固まっている隙にさっさと部屋に戻って用意を整えると、冒険者ギルドに向かった。
後ろから追って来るであろうクレオ氏を警戒しつつ歩いていると、後ろから猛然とクレオ氏が近付いて来るのが[地図1]でわかったので、一旦路地裏に隠れて[隠密1]を使い、大通りに戻る。すると、クレオ氏は俺に気付かず、追い越してギルドへと駆け込んで行く。
・・・クレオ氏、事務職と思っていたけど、かなり足が速いんだねぇ。
冒険者ギルドに着くと、入口の前でクレオ氏が怒り面で仁王立ちしていた。 ・・・なんか怖い。
[隠密1]を発動したまま、他の冒険者が中に入るタイミングに合わせて中へとすり抜ける。 もちろんクレオ氏に気付いた様子はない。 朝食を味気ない物にしてくれた意趣返しはこんなとこかな。
それにしてもこのスキル、思った以上に使えるな。
そんな事を思いつつギルドの中に入ると、俺は[隠密1]を解除し、何食わぬ顔で受付の列に並んで先日のゴブリン討伐とオーク討伐の報酬を受け取りつつ、支部長室へと案内された。
俺は案内された支部長室の前で深い深呼吸を数回繰り返すと、腹を決めてドアをノックする。中から入室許可の声が聞こえ、支部長室へ入る。
「おはようございます。ギルドマスター」
「おはようラクタロー君。 おや、クレオ君は一緒じゃなかったのかい?」
「あぁ、宿屋に来られていましたが、食事をされるとのことで、私は一足先にこちらに向かうことにしました。後から来るんじゃないですかね?」
しれっと惚けておいた。
「そうかね。まったく、同行するよう指示しておいたんだが、困ったものだ。あぁ、ラクタロー君。もうすぐ今回の作戦に参加するメンバーが集まるから、暫らく待ってて貰えるかな? アロマ君。お茶を頼むよ」
そう言ってジェラルド氏は書類を持って部屋を出て行った。
「分かりました」
アロマ氏も返事を返すとお茶の用意の為、部屋を出て行く。
支部長室に一人取り残された形だが、逆に一人になった所為か、落ち着いて来た。 後は流れに乗って仕事を熟すことを考えよう。
暫らくしてお茶の用意を持ってアロマ氏が戻って来た。
序でにクレオ氏も怒りの形相で入ってくる。
「・・・」
「・・・」
クレオ氏と無言で見詰め合うこと暫し、アロマ氏も良くわかっていない様だが、クレオ氏の様子に呑まれ固まっている。
先程まで緊張していた俺はと言うと、支部長室に入ったことでもう逃げられないと腹を括れた所為か、緊張感は大分落ち着いていた。
下腹部ももうモゾモゾしない。 うん、大丈夫。何とかなりそうだ。
クレオ氏は一先ず無視するか。 それより先に固まってるアロマ氏にお茶を入れて貰おう。
「アロマさん」
「は、はい?!」
「お茶貰えますか?」
「あ、すみません。直ぐにお出しします」
そう言って慌ててお茶を出すアロマ氏。
アロマ氏の出してくれた紅茶かな? を味わいながら暫し時間が流れるに任せ、体を弛緩させる。 横目でクレオ氏の様子を伺うと、クレオ氏はこちらを睨んだまま固まっている。
緊張感が解れたお蔭で精神的余裕が生まれる。 チラリとクレオ氏を見ると、まだ怒っている様だ。自然と笑みが浮かんでくる。
「勝ったな」
気付くと俺はそう呟いていた。 ぽつりと声が漏れた程度だと思うのだが、クレオ氏には声がはっきり聞こえたようで、より深い怒りが俺に向けられる。
クレオ氏が怒れば怒るほど緊張感が解れ、次第に笑いが込み上げてくる。
「クレオさん。これが本当の意趣返しですよ」
そう言って笑うと、クレオ氏は顔を真っ赤にして悔しそうに部屋を出て行った。 まぁ、自業自得だよね。八つ当たりで人様の食事の邪魔したんだから、食べ物の恨みは怖いよ。 特に俺のはね。
したり顔で満足してた俺にアロマ氏が質問してきた。
「クレオと何かあったんですか?」
お茶を出しながらアロマ氏が聞いてくる。
「ええ、今朝方ですが、私の食事の邪魔をクレオさんがしてくれたんで、意趣返しを少々。 ものの見事に嵌ったので、溜飲も下がりました」
そう言って笑うと、アロマ氏に不審そうな視線を向けられる。
「ま、まぁ、今日の仕事にあたり、私の緊張をクレオさんが解してくれたんでしょう」
そう言って慌てて訂正すると、アロマ氏は笑って返事を返してきた。
「何を言ってるんですか? ラクタローさん。あなたには必要ないでしょう。あんなに強いんですから」
・・・俺ってどんな風に見えてるんだろう。
「一応わたしは冒険者になって10日も経ってないんですが? 因みに他の冒険者と共同であたる仕事なんて初めてですよ? それにこう見えて人見知りする方なので、色々な意味で失敗しないか不安なんですよ」
そう言って肩を竦める。 これは俺の偽りない本心だ。 ある程度覚悟を決めた今だから開き直りも出来ているけどね。
「そ、そうでしたっけ・・・? で、でもラクタローさんなら大丈夫ですよ。私が保証します」
良い笑顔でそう断言してくるアロマ氏だが、何を根拠に保証するんだろうねぇ。
そんな事を考えていると、支部長室の扉が開いた。
「ラクタロー君。待たせたね。ちょうど今回の作戦に当たる他のパーティが揃ったみたいなんで、連れて来たんだ」
そう言ってジェラルド氏が部屋に入ってくると、続いて複数の男女が次々と支部長室に入ってきた。
ひとり、ふたり、さんにん・・・じゅうさん、じゅうよん・・・全部で14人か、ジェラルド氏と俺を含めると全部で16人で今回の仕事にあたるのか、人数的には多いのか少ないのか分からんな。
まぁ、俺に関して言えるのは、全員の名前は覚えられないだろうって事だ。
全員が入ると少々手狭に感じる支部長室ではあったが、全員が座るのを確認して、ジェラルド氏が各人の説明に入る。
「それでは本日から始める作戦について、それぞれを紹介しておこう。 まずは最初に居た彼だが、彼はラクタロー君だ」
そう言って俺の方に視線を向けて来るので、俺はタイミングを合わせて立ち上がると、自己紹介をする。
「どうも、山並 楽太郎と言います。先日冒険者になったばかりの若輩者で、ランクはGです。皆さんの『おっと、待ってくれ給え』」
そう言って自己紹介に割って入るジェラルド氏。
「話の腰を追って申し訳ないね。ラクタロー君。だが、1つ訂正させて貰おう。君のランクなんだが、本日付で『D』に昇格が決まった」
ジェラルド氏のその台詞に一同の眼が見開かれ、俺に集まる。 ・・・ランク上げる早すぎだし、ランクが3階級特進ってありえんよ。 俺は焦って聞き直す。
「ギルドマスター。私はつい10日ほど前に冒険者になったばかりなんですが、昇格が早すぎませんか?」
「いや、そんな事は無いよラクタロー君。短期ではあるが、君が討伐したゴブリンとオークの数は合計で100体を優に超える。それに『風巻の団』が襲われた強化ゴブリン達50体も一人で殲滅している。これらは公式に記録に残っているからね。それらを鑑みた結果、君の昇格が決まったんだよ。これについて反論する者はいなかった。実力を正当に判断し、昇格させるのも私の仕事なのだよ。それではギルドカードを渡して貰えるかな?」
そう言ってこちらに手を出してくるジェラルド氏。 お金欲しさに依頼を達成し続けたのが裏目に出たか・・・ 俺は暫し逡巡した後、自分のギルドカードを差し出した。
ジェラルド氏はにこやかな笑顔でカードを受け取ると、アロマ氏にカードを渡して「更新を」と一言伝える。 アロマ氏は受け取るとそのまま退室していった。
どうにも、嵌められた感が拭えないが、何ともできん。自己紹介の続きでもするか。
「えーと、それでは続きを。ランクはDになったとのことで、皆さんの足を引っ張らない様、努力したいと思います。初対面の方々が多いとは思いますが、今後ともよろしくお願いします」
そう言って一礼し、自己紹介を終える。ま、まぁ、こんな感じでいいかな?
その後は他のメンバーの自己紹介が始まったが、情報は以下の通り。
『風巻の団』
リーダー:ミロ 戦士 男性
ベルタ 義賊 女性
ロナウド 騎士 男性
ルツィエ 魔術師 女性
ルミドラ 助祭 女性
コンラート 狩人 男性
『ハウンド』
リーダー:クルーズ 戦士 男性
レジー 義賊 男性
グレタ 戦士 女性
リディア 薬師 女性
『ブレイブハート』
リーダー:フィリップス 戦士 男性
アドニス 戦士 男性
ダミアン 義賊 男性
ポール 神官 男性
サミュエル 魔術師 男性
職業の「義賊」だが、意味合いはほぼ「盗賊」や「トレジャーハンター」と言った意味と同じだ。ただ、盗賊は犯罪者に付けるものなので、「義賊」という呼称が一般的らしい、どっちも賊って付いてるけどね。
ギルマスのジェラルド氏については割愛しておく。ソロだしな!
自己紹介を終えると、今回の作戦の説明に移る。
今回の作戦は森の中に入ってからになるのだが、その前のカーチス防風林でも敵との遭遇が予想されるため、十分注意を促す。一応今日集められたPTはそれぞれ斥候役を熟せるチームしかいない。
今回の作戦の内容だが、以下の通りだ。
1.今回の作戦期間は1週間。
2.ジェラルド氏は森深くで入って暴れる。 その後、敵が20~30匹ほど集まって来たらカーチス防風林方面へ敵が追い付ける速度で逃走。街道に出たら全速で王都と反対側の街道を走る。
※ 街道まで連れて行くのは敵が防風林内で散開しないように誘導する為
3.森に入るまではジェラルド氏以外の者は気配を殺し、接敵を避けながらジェラルド氏を追跡する。
4.もし接敵した場合、ジェラルド氏が囮行動をとる前であれば、速やかに殲滅する。 接敵した敵に勝てそうにないのであれば、そのまま即時撤退する。(ラクタローは撤退不可、速やかに殲滅すること)
※ 撤退した場合、まだ作戦行動が可能であれば再度作戦へ復帰する。
5.接敵がジェラルド氏が囮行動をとった後であれば、速やかに撤退する。(ラクタローは敵を倒さず、単独で森に入り、塒の探索へ移行すること)
6.ジェラルド氏が囮行動を終え、追跡していた敵が撤退行動に移った場合、それぞれのPT単位で行動し、後を追い、塒まで追跡する。
7.途中で接敵した場合は速やかに撤退する。
8.塒を発見した場合はその場所を覚え、速やかに撤退する。塒が洞窟等の場合は中を確認せず撤退する。
この8項目をジェラルド氏はその理由も含めて説明を行っている。 今回は偵察が任務で戦闘はしない前提での作戦だ。敵陣深くに偵察することになるので、敵に察知された場合は他のPTに後を任せ、戦闘になる前に逃走することを強く言い含めている。 逃走する事でゴブリンやオークの注意を引き、他のPTが動き易くなるメリットもあるので、その点も説明し、『見付かる=失敗』ではない事を伝え、暴走する可能性も下げる。 と、ジェラルド氏は中々に話し上手のようだ。
ただ、所々、俺だけ作戦難易度が上げられてる箇所があるんだが・・・ その所為で他の皆様の視線が刺さる刺さる。 個人的にはあまり注目されたくないんだけどねぇ。
そんなこんなで、ジェラルド氏の説明が終わる頃には作戦参加者のほぼ全員が俺の方に視線をチラチラと寄越すようになっていた。
参ったね。ジェラルド死、いやいや、ジェラルド氏め! やってくれたよ、ホントに・・・
今すぐ頭を抱えて蹲りたい気分だが、何とか思い止まって作戦会議が終わるまで耐え忍んだ。
そんな感じで作戦会議が終わると、そのままカーチス防風林へと向かうことになった。
カーチス防風林及び森の中の移動について簡単に説明すると。ジェラルド氏が単独で戦闘を進み、その左側後方を『ハウンド』の一行が追い、右側後方を『ブレイブハート』の一行が追う。そしてジェラルド氏の真後ろを『風巻の団』が追うと言う事になっている。あと俺は他の面子と被らない位置に居れば良いとのお達しだ。 俺だけ配置適当だったり、作戦の難易度高かったり・・・ なんか当りがきつい・・・
肩を落としつつカーチス防風林へと他のPTと歩いていると、背中を軽くたたかれた。
「大将! 元気無さそうだけど、どうしたんだい?」
叩かれた方を見ると、陽気そうな男が笑顔で訪ねて来ていた。
「どうも」
そう空返事を返すが、内心では誰だっけ? と少々焦ったが、「鑑定」を思い出し、急いで起動する。
「えーと・・・確か、『ハウンド』のレジーさん? で合ってましたっけ?」
「おぉ、俺の名前を覚えてくれてたとは、中々記憶力が良いねぇ」
そう言ってさらに笑顔になるレジー、えーと、年齢は17歳か、若いなぁ。って、今の俺の方がもっと若いか。
そんな事を思っていると、レジーが更に口を開く。
「あんたがどんな人かちょっと興味があって声を掛けさせて貰ったんだけど、今少し良いかい?」
「えぇ、歩いてるだけですし、少々退屈していたので、話し相手になって頂ければ幸いです」
「ありがとよ。って言うのもなんか変かな? まぁいいや」
そう言うと軽く頭を掻くレジー。
「実は今サスティリアの冒険者ギルドであんたの事が結構噂になってるんだけど、知ってる?」
「噂ですか?」
「ああ、色々な噂があるんだが、幾つか眉唾ものの噂もあるんで、ホントかどうか聞きたくてさ、いいかい?」
レジーはそう言ってにっと笑うと、後ろから伸びた手で頭を叩かれてた。
「レジー! 初対面でいきなり馴れ馴れし過ぎよ。 ごめんなさい。ラクタローさん」
そう言ってレジーの頭を賺さず下げさせた・・・と言うか頭が地面すれすれになってるんだけど・・・ えーっと、誰だっけ? 俺は又しても『鑑定』を使って名前を確認する。 名前は「グレタ」か。 ホント『鑑定』覚えといてよかった。
「えーっと、グレタさん・・・で合ってます?」
「えぇ、そうよ、合ってるわ」
「レジー君の言動は特に不快ではありませんでしたよ。寧ろ暇だったので、話をするのは渡りに船で助かった感じもするので、特に謝る必要はありませんよ」
そう言うとグレタは少し驚いた表情になる。 うん? なんか驚くようなこと言ったか? と考えていると、謝られた。
「あ、あー、ごめんなさい。ちょっと、噂と大分違うようなんで、驚いちゃって・・・」
どうやら表情に出ていたようだ。申し訳ない。
「グ、グレタ、あ、頭、は、は、離してくれないか? こ、この体勢は・・・き・・つ・・い・・・」
うーむ、レジー君。体を二つ折りにしながらも器用に歩いてるが、大分苦しそうだ。 そう思いグレタを見ると、慌ててレジーの頭から手を離していた。
レジーは暫らく咳込むと、落ち着いたようでグレタに悪態を吐くが、グレタに睨まれると俺を挟んで反対側に逃げてきた。
「はぁ、ったく。俺が楽しくラクタローと話そうと思ったのに、何で邪魔するかね?」
「それはラクタローさんに失礼な事を言ってるからよ」
「本人気にしないって言ってるんだし、別にいいじゃねーか」
「それでもよ!」
「・・・」
ふむ、中々息の合った会話だな。長い付き合いのようだ。 っと、それより俺の噂ってなんだろう?
「あのー、すいません」
「え?あぁ、わりー、こっちから声かけてほったらかしだったわ」
そう言ってレジーが謝ってくる。
「ちょっと聞きたいんですが、私の噂ってどういうものなんです?」
「えーと、幾つもあるんだけど、どういうのが知りたい?」
どういうの?・・・って事は、1つや2つじゃないって事か、どんな尾鰭がついてるんだろう。知りたいな。
「できれば全部知りたいんですが、よろしいでしょうか?」
「全部か、結構あるからな、全部話すのは一苦労だ。まずはよく広がってるものから話しても良いか?」
「えぇ、お願いします」
「おう、わかったぜ! まずは一つ目な。 えーと、確かラクタローが冒険者登録に来た時、『餓狼の牙』が因縁付けに絡んで来たのを全員叩きのめして酷い拷問にかけたとかいうやつだな。特に女は腕をベキベキにへし折って真面に使えない状態にしたってやつだな。更にギルドの壁に『餓狼の牙』の連中の血で絵を描いたとかなんとか、恐ろしく非道で残忍な所業で、その場にいた誰もが恐怖のあまり動けなかったって話だ」
俺は片手を額に当てた・・・ 確かに細かなとこは違うが、概ね合ってるな。
「まぁ、俺は『餓狼の牙』の連中は嫌いだったから、その話聞いた時は胸がスッとしたぜ! それに、後日『餓狼の牙』の連中は全員警備隊にしょっ引かれてブタ箱行きっておまけ付で心から喜んだもんだぜ!って・・・ホントの事なのか?」
話しながら俺の表情を伺いつつ質問してきた。 ・・・答え難いよ。
「えーと、まぁ、概ねは合ってますが、細かい所が、その、えーっと、違ってますね」
「どこが?」
「・・・」
「「教えてくれない?」」
声が一つ増えた? と思ったら、グレタもちゃっかり聞いていた。
「はぁ、分かりました。教えます。仕方ないですね」
そう言って俺は事のあらましを説明する羽目になった。
訂正したのは『餓狼の牙』が絡んだのは俺じゃなくて、俺の猟獣に手を出そうとしたことと、ギルドの壁に絵は描いていないって事だ。 まぁ、壁に顔から叩き付けてたから、その痕跡を見ると、絵に見えたかもしれないが、意図的に描いてはいないので訂正しておく。 あと、あの女は俺を殺そうとしたので、見せしめとして腕をジグザグにへし折ってやったことを認めたらレジーもグレタもドン引きしてた。
「そ、そうか、腕をジグザグにへし折ったのか・・・」
「や、やっぱり噂通りの怖い人だよ、レジー・・・」
と言って2人の声がトーンダウンした。 まぁ、自分でもちょっと過激かな? とは思ったけど、そこまで怖がるか?
「あの、一応言っておきますが、私は人に害を成す気はありませんよ? 寧ろ今話した内容の通り、犯罪者を無力化し、自分が何をしたのかを思い知らせただけです。私からすれば降りかかる火の粉を払っただけで、暴力的な解決をしましたが、それだけです。私は必死に自衛しただけですが、何か怖い所がありましたか?」
「・・・あれ? そう言われると、確かに・・・強盗は重罪だし、腕を折られたその女だって喧嘩に刃物使って背後から襲ったんだから、殺されても文句を言えない立場だしな、むしろ殺されないだけマシだったんじゃぁ・・・ あれ? うーん・・・」
そう言って2人共考えると、怖い理由が思い付かなかったようだ。 良かった良かった。
「理解して貰えたなら、次の噂を教えて貰えませんか?」
「おう、いいぜ、次はな・・・」
と言った感じで、カーチス防風林まで、話は続き、余り緊張せずに済んだ。
因みに彼らのPTの残りのメンバーのクルーズとリディアもあの後、話に加わって中々楽しい時が過ごせた。
他のPTはこちらに聞き耳を立てていた様だが、話に加わることは無かった。
俺と同じで内気なんだろう。 きっと。