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第36話 楽太郎とレイラの密談

遅くなり申し訳ありません。


何とか書けました。

「それでは、お話を聞かせて貰いましょうか?」


 俺がそう言ってレイラに話の先を促したのは、貴族街にある、とある喫茶店の隠し部屋でのこと。


 店の名前は不明だが、やたら高級そうな雰囲気のお店で、レイラが店員と話した結果、ここに通された。


 窓もなく、重厚な壁に囲まれた重苦しい内装は秘密会談でもするような雰囲気であり、幾つか気になる点もあるのだが、ここはあえてスルーしよう。


 元近衛騎士副隊長だしな、こういった場所の1つや2つ知っていてもおかしくないだろう。


 そんな事を考えていたのだが、レイラは下を向いて何か考えている様に震えている。


「お話が無いのであれば、私は失礼させてもらいますが?」


 そう言って腰を浮かすと、すかさず手を掴まれた。


「ま、待っていただきたい。話すにしても、心の準備というか、どう話を纏めていいものか考えあぐねているのです」


 ふむ、内容を纏めきれていないということか。


「それでは時系列順に何が起こったかを説明して頂ければいいと思いますよ」


 レイラは俺の言葉を聞き、幾つか前置きをしてきた。


「すいません。話す内容なんですが、この国の機密も含まれるので他言無用でお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」


「・・・そんなに簡単に国の機密を教えて問題ないのですか? 言ってはなんですが、今日会った初対面の相手に話す内容じゃないでしょう?」


 そう言うと、レイラはこちらを真剣な表情で見詰め、こう言ってくる。


「あなたになら話しても大丈夫だと思います。あなたの返答を聞いて確信しました」


 何やらわたくし(・・・・)の事を信用されている様だ。 まぁ、別に誰かに話そうとも思わないしな。


 俺は溜め息を吐くと、話の先を促した。


「それでは、話を始めさせて頂きます。 この国に生まれた私は、女神サスティナ様を信奉しており、毎日お祈りを捧げていました。その甲斐あってか、有り難い事に10歳の頃、サスティナ様の加護を頂戴いたしました」


 そこから暫らくレイラの話が続くのだが、中々表現が個性的と言うか、分かりにくい部分も多かったので、俺が意訳し、理解した内容を説明すると、レイラは10歳の頃にサスティナの加護を受けたそうだ。そこからは順風満帆の生活で、近衛騎士副隊長にまで出世したとのこと。このままサスティナの信徒として生きて行くはずだったのだが、その思いは1週間ほど前に打ち砕かれたそうな。


 なんでも王城で勇者召喚の儀式が行われ、1人の男が現れたのだが、その男は異世界から勇者として召喚されたにも関わらず、その責務を放棄して逃げ出したそうだ。


 実際は責務を放棄したんじゃなくて、誘拐犯から逃げただけなんだけどな。


 レイラもその勇者を捕まえようと努力したそうだが、あっさり負けてしまい、瀕死の重傷を負わされたそうだ。その所為で3日程生死の境を彷徨ったそうだが、王城の魔術師や神官達に手当をされ、5日程で全快したらしい。


 意識が戻ったのは4日目の朝。まだ全快していない状態だったそうだが、戦闘での後遺症等を調べる為にステータスを確認したところ、加護が消えていたそうな。


 大変ショックを受け、混乱して色々やらかしたらしいが、その辺は記憶が曖昧で何をしたか覚えていないとのこと。


 混乱は1日も過ぎれば落ち着いて来たそうで、サスティナ教会の関係者に消えた加護について相談したところ、今までにも加護を失う事例は幾つかあったそうだ。


 1つは神への信仰心が失われた時。もう1つは神の不興をかう、もしくは神と敵対した時。それ以外にも神の試練で一時的に加護を失うことはあったそうだが、試練の場合、神から事前に通達があるそうで、そちらの可能性はほぼ無いだろうとのことだった。


 レイラ自身信仰心を失ったという自覚は全くなかったので、そうなると『神の不興をかった可能性が一番高い』と言われたそうな。


 納得のいかないレイラは瀕死の重傷を負わされた時に地下室の中に居た人物の1人から真相を聞き出したそうだ。地下から来た男が言っていた勇者と言う単語を出したら、色々詳しく教えてくれたそうだが、その内容に驚き、そして加護を失った原因が『勇者に敵対した事だろう』と推察し、酷く落ち込んだそうだ。


 その件を話す時のレイラは己の思慮の至らなさに打ちのめされた様な低く落ち込んだ声で語っていた。


 どうやらレイラは勇者召喚をしている事は知らなかったらしい。 あの時は王命で『これより先、誰も立ち入らせるな。又、我々以外の何者かがここより現れた場合は出来れば懐柔、もしくは捕縛しろ。どうしても無理なら抹殺せよ。』と言われただけで、中で何をするか等の詳細は説明されていなかったそうだ。 機密性の高い仕事をしている所ほど良くある話だ。


 レイラとしては上役の指示に従っただけなのだろうが、レイラが失った代償は相当大きなものになったようだ。なにせ、それまでの人生を捧げてきた神様に見捨てられたんだからな。


 俺が敵対していた勇者(・・)なだけに、少々耳が痛い気がする。


 俺個人の考えとしては、レイラが俺に敵対したのは仕方ない事だとも考えている。


 職業として近衛騎士を現代に置き換えれば、シークレットサービスのようなものだろう。


 自分の雇い主の家から武装した不審人物が急に出てきて、事前に依頼主からそれらしい打診を受けていたら、まず間違いなく取り押さえようとするだろう。 寧ろ最初から殺しに来ていないだけマシかもしれんな。


 仕事の上で敵対する連中についてはそれ程恨みは無いが、襲われるのであれば相応の対応をさせて貰う。自分の命が掛かっているから当たり前だ。


 そう言う場合は『事情を知らない実行犯』より寧ろ、それを指示した『黒幕』に憎悪を向けることになる。 黒幕はもちろん女神サスティナにこの国の王族だ。


 女神サスティナや王族(馬鹿な連中)に使われる側は大変だな。 と言うか、あの連中に何とか意趣返ししたいんだが、どうしたらいいんだろう。俺としては、3柱の女神(さんばか)をこちらの世界で邪神に仕立て上げたいんだが・・・情報操作の仕方って、ネットに乗ってるかな?


 情報戦で奴等の信者を減らしつつ、他の神の信徒に3柱の女神(さんばか)を邪神扱いさせるようにできたら、面白そうだな。 王族はどうすればいいかな。


 おっと、話が逸れたな、まぁ、そんな感じでレイラは加護を失ったそうだが、他にも加護を失った人物が何人かいたそうだ。


 1人はサスティナ教会の司教。タニア=サンティルスだ。頭お花畑のツンツン美人。彼女はショックで今だに寝込んでいるそうだが、司教位は解かれている様だ。なんでも司教になる条件の1つに『女神の加護を持つ者』と言うのがあるそうで、その条件を満たせなくなったので司教位を剥奪されたそうな。 自業自得で笑える。


 もう1人は時期が多少遅れてはいるが、2日前に『ロベルト』とかいうサスティナ教会の神殿騎士を目指していた若者だそうだ。彼はとある人物に卑怯な襲撃を加えようとしたそうだが、そのまま返り討ちに遭い、加護を失ったそうだ。聖職者にあるまじき行為と見做されたんだろう。きっと。


 現在、教会は立て続けに関係者が加護を失うという前代未聞の大醜態に頭を悩ませているそうだ、タニアの次の司教が決まらないらしく、内輪揉めの真っ最中らしい。中々面白そうな感じになっていて笑える。


 そう言えば、第3王女だっけ?あいつは加護を失っていないようだ。 俺に小突かれた筈なんだが、どうしてだろう。俺が敵と認識したのではなく、面倒臭い相手として対応したからだろうか?良くわからない。


 まぁ、そんな感じで教会は今、身動き取れない状況らしい。序でに王城の様子なのだが、国王が引き籠りになったらしい。なんでも『殺される。あの(オーガ)のような勇者に殺される』と戯言の様に繰り返しているそうで、心がポッキリ折れたようだ。


 レイラは全快した後、それらの情報を集め、深く落ち込んだそうだ。そして神の不興をかった自分には近衛隊は不相応な場所だと感じ、辞職したそうだ。 実際はあの国王に従う近衛隊がレイラには相応しくなかった様な気もするけどな。


 まぁ、それでレイラは間違いを犯した自分を鍛え直す為、冒険者になろうとギルドに行き、俺を見付けたとのことだ。


 と言った感じで、色々と面白い話を聞くことが出来た。個人的に大収穫だよ。この情報は。レイラは正直者と言うか、馬鹿正直すぎるな。


「と言う訳で、サスティナ様の加護を失った私をどの宗派も迎え入れてはくれないでしょう。なにせ神の不興をかったのですから」


 そう言って落ち込んでいるが、そうでもないんじゃないか?


「レイラさん。女神の加護を失ったと言っても、それ程落ち込む事は無いんじゃないですかね?」


「それはどういう意味でしょう?」


 なんか、睨まれた。言葉を掛け間違えたか?


「いえ、逆に女神サスティナから解放されたと考えれば良いんですよ。この世に神様は沢山います。この世界だけでなく、異世界を含めればそれこそ星の数ほど神様がいます。その内の1つの神様に縛られるなんて馬鹿げていると思いませんか?」


 俺がそう言うと、レイラは不思議そうな顔をした。


「独占欲の強い神ほど弱いんですよ。自分に自信が無いから自分だけを信奉させたいんです」


 暗にサスティナが弱い神だと示唆する俺に、レイラは信じられないといった顔をする。


「私は元々信仰心の薄い人間ですが、色々な神様にお願いごとをしますよ? 例えば、勝負事で勝とうとした時は武神や勝利の女神に祈りますし、旅や旅行をする時は道の神、えーと、時空間の神に祈りを捧げ、道中の安全を祈願します。私の地元では八百万の神々と言って、複数の神様を信仰しているんですよ。都合の良いように聞こえますが、この世界には沢山の神様がいて、それぞれの権能を持っているんです。たった1つの神様に縛られてもつまらないでしょう?」


 レイラは俺の顔を見て呆気に取られているようだ。 複数の神を同時に信仰するという発想が無かったようだな。駄目押し行ってみるか。


「因みに、私の地元では複数の神の加護を授かった者も居ますよ」


 俺の言葉に衝撃を受けたようで、レイラは声もなく驚いている。


「女神サスティナに嫌われても、他に神様は幾らでもいます。特に獣神様なんてサスティナと仲が悪そうですし、信仰してみてはどうです? もちろん他の神様でも問題ないと思いますよ」


 そう言うと、レイラは震えながら俺に聞いて来た。


「わ、私でも、問題ないのだろうか?」


「問題なんてありませんよ。要は自分の心の支えになるよう神を信奉すれば良いのであって、神の言いなりになる必要は無いんです」


 そう答えると、レイラの表情は戸惑いを見せつつも、落ち着いたものになっていった。


 うーん、なんか当初の予定と大分違う事を話したようだが、まぁ、良いか。


「心の支え(つかえ)は取れましたか?」


「はい、お蔭様で、目を開かせてもらった思いです」


「では、もう大丈夫ですね」


「はい」


「では、弟子入りは無かった事にさせて貰いますね」


「はい!・・・って、それとこれとは話が違いますよ!」


「ちっ!」


 俺は思わず舌打ちしてしまった。


「これだけ私の事情を話したんです! 弟子入りを許可してください」


 そう言って頭を下げてくるレイラ。


 うーん、困ったな、思った以上に良い情報を頂いたし、無下にするのもな・・・あ、そっか、あれを試練にすれば弟子取らなくて済むだろう。


「仕方ないですね。では我が建御雷流武術への入門試験を行おうと思います。入門試験は1度のみで、再試験はありません。人生で1度きりですが、よろしいですか?」


 そう言うと、真剣な表情でレイラが頷く。


「試験内容は我が流派の最初の儀式。『股割り』をして貰います。『股割り』の最中に悲鳴や声を上げた場合、即失格となります」


「『マタワリ』ですか? 独特の響きがあって、なんだか恐ろしい感じがしますね」


「なに、儀式は単純で簡単ですよ。時間にしたら10分もかかりません」


「そうですか、それで何時、入門試験を受けるのでしょうか」


「そうですね、明日の朝、日が昇る頃に私の泊まっている宿屋の中庭で行いましょう。場所は・・・」


 と場所の説明をすると、間違えない様に俺に付いて来ると言って「頑固な親父亭」まで付いて来た。
























 翌朝、レイラの絶叫が「頑固な親父亭」に響き渡ると同時に不合格が言い渡された。


 お疲れさんだったね、レイラ。




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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