第32話 楽太郎 マークの肉屋で情報収集
文字での説明が難しいので地図書きました。
途中注釈書きましたが、どうでしょう?
無い方が良いのか、あった方が良いのか、今回試しに書いてみました。
俺は冒険者ギルドを出ると、そのままマークの肉屋へ向かう。
今後の事も考えて周りの主要都市の情報を仕入れないとな、取り敢えずお金はある程度稼いだし、王都から逃げるとしてもどこに逃げるべきかの情報は持っておかないとな。
そう考えると、誰に聞けば良いのかねぇ。ギルド関係者は・・・ 多分、マトモに応えてくれそうにないな・・・
そうなると、宿屋のラディッツ親子。あとはルッツさんとマークさん・・・位か。
・・・流石にこの王都に来て6日しか経ってないので人脈が乏しい・・・って、魔法屋のコレットさんにも聞けるか。あの婆ちゃん、若い頃は冒険者とかやってそうだしな。
まぁ、これから行くマークさんのとこで情報収集してみるか。
そんな事を考えつつ、マークの肉屋へと歩き続けた。
マークの肉屋に辿り着くと、丁度お客が店から出て来るところだった。
普通のお客さんも来るんだね。このお店。普通マークさんの格好見たら二度と来ないって言うか、その場で逃げ出すレベルだと思うんだけど、こっちの肉屋はそれがデフォなのかな?
そんな事を考えながら店に入ると、店番は奥さんがしていた。 うん、普段はマークさん。表に立たない様だな。
「こんにちは、マークさんとルッツさんいます?」
「ええ、居るわよ。裏の解体所に居るから、そっちに回ってくれる?」
「分かりました」
そう言って解体所へと向かう。 あそこ、グロ映像と匂いがきついんだよな。だいぶ慣れたとは思うけど・・・
解体所の扉を開けると、やっぱり相変わらずなグロ映像と匂いが漂ってきたが、吐き気はギリギリ大丈夫だった。
少し安堵しつつ中に入ると、マークさんとルッツさんは話しながら肉を切り分けているようだった。
「こんばんわ、お邪魔しまーす」
そう言って挨拶すると、2人から「「おう、良く来たな!」」と返事があった。
「オーク肉、持ってきましたよ。前回と同じで3匹ずつで良いですか?」
そう問いかけると、マークさんが口を開く。
「こっちはそれで構わねぇが、ルッツはどうなんでぇ?」
「俺も3匹なら丁度良い塩梅だと思うぜ!」
2人共問題なさそうだな。
「それじゃぁ、それぞれ3匹ずつで、取引額は前と同じで良いですか?」
そう言うと、ルッツさんが待ったをかける。
「それなんだがな、ラクタロー。1匹金貨4枚と大銀貨5枚でどうだ?」
なんか、値段が上がったな。どういう事だろう? そう考えていると、ルッツさんが答えてくれた。
「いや、マークとも話してたんだが、やっぱり肉の相場が全体的に上がって来てるんだ。だから仕入れも値上げするべきだと思ってな。元々安すぎるのもあって、適正価格とは言えないが、少しでもそれに合わせようと思ってよ」
そう言って何とも微妙な表情で頭を掻くルッツさん。ふむ、出来るだけ安く仕入れたい本音と商売人としての義理を天秤にかけて、義理が勝ったようだな。
この人達、やっぱり良い人達だな。
「分かりました。では、その価格でお願いします」
そう言うと、安堵したように2人とも笑って頷き、商談は成立した。
「それじゃ、早速6匹出しますね。場所はそこのテーブル付近に纏めて出して良いですか?」
「なんだと? もう狩って来たのか?」
「ええ、あと数体ありますが、追加いります?」
そう言うとマークさんが追加で2体買ってくれた。
オークを「無限収納」から出すと、マークさんとルッツさんが状態を確認し、品質には問題なかったそうだ。
例の如く、魔石もそのままなので、血抜きした後、回収の予定である。
マークさんがオークの下処理をしている間に俺は2人にこの世界の地理について聞いてみた。
「すいません。ちょっとお聞きしたい事があるんですが、よろしいでしょうか?」
「おう、どんなことだ?」
「実は、私、あまりこの世界の情勢と言うか、地理に詳しくないもので、この国の周りの国とかを教えて欲しいんですよ」
「周りの情勢とか地理? どっか行くのか?」
「私も冒険者なので、あちこち旅して回ろうかと思いまして、最初はリンド獣王国にでも行こうかと考えているんですが、道のりが分からないので誰に聞こうかと悩んでたんですよ」
そう言うと、マークさんに
「それなら冒険者ギルドにでも行って受付で聞けば良いんじゃねぇか?」
と返されてしまう。俺は慌てて言い返す。
「あまりギルドは信用してないんですよ。どうもここの専属にしたそうな雰囲気があるんで、嘘の情報とか教えられそうで・・・」
そう言って適当に誤魔化す。 マークさんは俺の強さを知っているだけに、ギルドの対応について俺の言い分もわかってくれた様だ。
「ふむ、だが、俺達の知ってる事なんてたかが知れてるぞ?」
「それでもいいんですよ。私は元々そう言ったものに疎いので、常識的な事も知らないことが多々ありまして、最近それに気付いたので知識を広めようと思ってるんですよ」
「それならいいか。ルッツ! 教えてやれ」
「俺かよ!」
「俺は今下処理で忙しいんだ!おめぇ暇だろうが!」
そう言って説明をルッツさんに丸投げするマークさん。
「分かったよ! ったく。しょうがねぇな。 よし、教えてやるか。まず、さっき話に出てたリンド獣王国だが、今はこの国から直接行く事は出来ない。それは知ってるか?」
「隣の国なのに?」
「それも知らなかったのか。2年前までこの国と戦争してたのは知ってるだろ?」
「えぇ、それは知ってます」
「戦争の内容は、身も蓋も無い言い方をすれば、侵略戦争だったんだ。する側、される側で停戦はしたんだが、お互い万が一のことを警戒して、お互いの国の出入りを禁止してるんだ」
なるほど、そう言う事か、となるとどうやっていけばいいのかな?
「まぁ、どうしても行きたいって事なら、東のトマス商連邦から船に乗って行くか、西のスキーム王国経由で陸路で渡るかだな」
初めて聞く名前が出てきた。うーん。地図が無いからイメージできんぞ? 参ったな・・・
俺が困った顔をしていると、ルッツさんが言って来た。
「あー、地図があった方が分かり易いか。うーん、仕方ねぇな。ちょっと待ってろよ」
そう言って解体所から出て行くルッツさん。
その後、マークさんの解体作業を眺めていると、「やってみるか?」とマークさんに誘われたが、丁重にお断りをした。
素人の俺が手を出したら商品にならなくなる可能性がある・・・と言うのは建前で、グロ耐性のない俺には素の状態で解体ショーなんてできる訳がない。 発狂する自信あるぞ。
そんな話をしていると、ルッツさんが何やら巻物を持って戻って来た。
「良いもの持ってきたぜ。本当はこれを見せるのは不味いんだが、ラクタローなら口も堅いだろ?」
そう言われ、頷く俺。地図って御禁制とか?
「いや、禁制品じゃないんだが、商品として扱うのは禁止されてる。この国はもちろん作ってるだろうが、それは一般に公開されていない。冒険者ギルドでも地図は上級冒険者以上じゃないと閲覧できない。ただ、一般人が自作するのは問題ない。俺が持っているのは、俺の爺さんも商人やってたんだが、放浪癖ってやつがあったんだろうな。色々な国を歩く序でに、地図を描いてたんだよ。昔は色々自慢されたぜ」
ルッツさんは懐かしそうに話しながら地図を広げてくれた。地図の禁制云々は国としてはあまり広めて欲しくないって事なんだろう。緩いスタンスだな。
※(注釈) 楽太郎は知り得ない情報だが、国家としては禁止にしたいが、ここは知識の女神の国。なので、見聞を広め、知識を深める行動を阻害する法を作る事は神に背く行為と見做されるので、こういった曖昧な対応を取らざるを得なかっただけです。
地図を広げ終わると、銅貨を1枚地図の上に置いた。(地図の★の部分)
「ここが、今俺達が住んでる。神聖王国サスティリアの王都だ」
なるほど。って、この地図見ると、この国って大陸のほぼ中央にあって、陸路をほぼ制してるじゃねーか。大きな街道を整備すりゃ、交易だけでも物凄げぇ稼げるんじゃねぇか? なんで侵略戦争なんて起こすんだ?
その疑問をぶつけると、商人らしい答えがルッツさんから返ってきた。
「海だよ。この国は昔から海が欲しいんだよ。塩を手に入れる為にな。山でも岩塩とか取れるが、岩塩は採り尽くしちまえばそれでお終いだからな、それに商売ってのは相手が欲しがっていても、多少でも持ってる場合と、持っていない場合じゃ、どちらが高く売れるかなんて、わかるだろ?」
確かに、多少でも持ってれば、高すぎれば我慢する。しかし、持ってなければ、高くても買うしかない。
なるほど、それで宗教上の理由を含めた侵略戦争か、神と人の欲が合わさると碌でもない事になるな・・・
戦争の裏事情が少し聞けた所為で、俺の中の女神サスティナの評価が更に下がる。
「そんじゃ、さっき言ってた方法は、こういうことだ」
そう言って説明しつつ、東のトマス商連邦から船に乗って行く方法を地図を指で指しながら説明してくれる。
これなら分かり易いな。トマス商連邦の方は山々が邪魔で、海路で行った方が速いのだろう。
次に西のスキーム王国経由で陸路で渡る方法も同じように説明してくれる。 分かり易くてありがたい。
「ふむ、そうなると、具体的にどの道を進んでいけばいいんですかね?」
「周辺国の道は分かんねぇが、この国の道なら、大雑把だが・・・っとこれか」
そう言ってもう一枚の地図を広げてくれた。
「えーっと、確かトマス商連邦に行くには、クロスフェードって大都市に行けばいいから、南街道を真っ直ぐ歩けば良かったと思うぞ、そこから先は確か・・・『トールギ街道』を進むんじゃなかったか? で、ウォルシュ砦を抜けて出国するはずだ」
なるほど、分かり易いな。
「あと、スキーム王国経由は・・・」
と説明してくれた。何ともありがたい。ダメ元で聞いたんだが、予想外の収穫だった。
「あと、スキーム王国とジルキル帝国との間で小競り合いが度々起こるようだ。と言うか、ジルキル帝国に起こされてるようだぞ。もし安全策をとるなら東のトマス商連邦経由の方が良いぜ」
そう忠告してくれた。
「ありがとうございます」
俺は改めてお礼を言って頭を下げる。
「他は何かないか?聞きたい事」
「このゴルディ王国に伸びてるカーチス防風林沿いの街道ですが、森の中を走ってますよね?危なくないんですか?」
「確かに他の街道に比べれば格段に危険な街道だ。だが、それなりの護衛を付けてれば問題ない。それにゴルディ王国はそれを押しても魅力的な国なんだ」
「国そのものに魅力があるんですか?」
「やっぱり知らないのか、ゴルディ王国はドワーフの国なんだ。彼らの作る武器や防具、果ては細工物なんかは、俺達人間なんかではとても真似できない程高い技術で作られてる。冒険者ならドワーフ製の武器防具は憧れの一品と言っても過言ではない」
なるほど、ってことは、ひょっとすると、日本刀とかも作ってくれるかもしれんな。俺的には長巻きを作ってくれると嬉しいんだが・・・
「ああ、そうだ。ゴルディ王国への入国は簡単だぞ。お前の場合冒険者ギルドのカードがあれば入れる。ただ、そこに行くまでが大変だと思うがな。何せ魔物が襲ってくる可能性の高い街道を1週間程歩かないといけないからな」
ふむ、結構楽勝っぽいな、その条件なら。いつもの街道をそのまま歩けばいいだけか。
そう考えていると、マークさんが下処理が終わったようだ。
魔石を俺に8個渡してくれた。
「ありがとうございます。マークさん」
「いや、これも仕事だ。一々礼なんぞいらん」
そう言われたが、有り難い事には変わりない。
「しかし、今回も最高品質だったぜ」
そう言って嬉しそうに笑うマークさん。
「おっと、そうだった。代金もってくるぜ。ちと待ってろ」
そう言って店の方に戻るマークさん。
「おっと、それじゃ俺もだな。まぁ、俺はさっき取って来たから先に渡すぜ」
そう言って俺に皮袋を渡すルッツさん。俺は中身を確認し、問題ない事を伝え、ルッツさんとの商談が終わる。
一息つくと、マークさんが戻ってきて、先程のルッツさんと同じやり取りをした。
俺は合計で大金貨3枚、金貨5枚、大銀貨10枚(360万円位)手に入れた。
「いい商売が出来ました。ありがとうございます」
そう言うと、ルッツさんとマークさんは良い笑顔で返事をしてくれた。
暫らく談笑した後、俺はマークの肉屋を後にして宿屋に戻った。