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第30話 楽太郎、幾らかの本音がポロリ

日間ランキング5位になってました。

吃驚しています。

読んで下さる皆さん、ありがとうございます。


 俺こと楽太郎は、支部長室へと職員のお姉さんに連れて行かれた。


 お姉さんがノックをすると、中から返事があり、俺を伴って入室した。


「ご苦労さま、エイラ君。 楽太郎君を連れて来るのは骨が折れただろう?」


 そう言ってジェラルド氏が労いの言葉をお姉さんにかける。


 お姉さんはエイラって言う名前なんだ。 初めて知ったよ。


 お姉さ、・・・エイラさんはチラリとこちらを見ると、笑顔でこう言った。


「それ程でもありませんでしたよ。ラクタローさんは噂と違い、意外と紳士的でしたから」


 俺の噂? どんなのだろ? ちょっと知りたいなぁ、と言っても、ギルドの知り合いって、ジェラルド氏、アロマ氏、クレオ氏、エミリーさんにエイラさん位だし、メリッサちゃんとシェリルちゃんには早々会えないし、聞けないよなぁ、後は・・・


 そんな事を考えていると、俺に向けてジェラルド氏が話し始める。


「ようやく来てくれたね、ラクタロー君。 昨日(きのう)から待っていたよ」


 うーむ、ジェラルド氏の笑顔が怖い・・・昨日からって、この人家に帰ってないのかな? と言うか、ギルドが家なのか? 結構不定期にギルド来てるけど、居なかった事が一度もないよね、ギルドマスター・・・っとと、返事しないと。


「おはようございます。ギルドマスター。 それで、何かご用でしょうか?」


 俺は務めて平静を装いつつ、ごく平凡な質問を返す。 余計な事を言うと怒らせそうだ。


「ふむ、その前に、君が昨日来なかった理由を教えて貰えるかね? 」


 ・・・一番触れられたくないこと聞かれた。 どうしよう。


「えーっと、個人的な用事だったので、あまり話したくないのですが、ダメですか?」


「ダメだねぇ、今は一刻を争う事態なのだよ。それを個人的な用事で1日潰したんだ。理由の説明は必要だと思うが?」


 うーむ、俺は「また今度」と答えていたので別に昨日ギルドに行かないことで責められる必要は無いと感じているんだが、それ言うと拗れそうだな。


 ジェラルド氏の眼の下に薄っすらと隈が出来てるし、正直に話すか。


「えーと、実は、私はある飲み物の開発をしているんですよ」


「? 飲み物の開発?」


「はい、少々特殊な飲み物でして、それを再現しようと日夜努力しているのですが、中々実を結びません」


「それはそんなに重要な事なのかね?」


「私の生涯を掛けるに値する目的です!」


 真剣を通り越して睨むような眼つきでジェラルド氏に即答する俺。


 あ、ジェラルド氏、少し引いてる・・・


「因みに、冒険者になったのも、その開発費稼ぎで手っ取り早いからです」


「・・・君は、それだけの力を持っていながら、研究者だというのかね? とても信じられんよ」


 ジェラルド氏が疑わしそうにこちらを伺っている。 なぜだ?!


「私の体型を見れば戦闘に向かないのが分かりませんか?」


「君の場合、体型と動きが恐ろしいまでに反比例しているからね」


 そんな風に思われてるのか、結構心に痛い言葉だよ。


 中々信じて貰えないな。どうしたらいいのかな。


 暫らく考えていたが、あまり良い案が思い浮かばない。


 1つだけ、あるにはあるが、俺の情報を1つ開示することになるんだよね。


 あんまり言いたくないんだけど、このままじゃジェラルド氏も納まらないだろう。


「ギルドマスター、これから私が言うことは他言無用でお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ああ、それは構わんよ」


「では、人払いをお願いします」


 支部長室には俺とジェラルド氏の他にもアロマ氏とクレオ氏が控えていたのだ。


「ふむ、わかった。 アロマ君。クレオ君。すまんが、暫らく席を外してくれ給え」


 2人から抗議の声でも上がるのかと思ったが、あっさりと退出していった。 うーん。あれ?なんか調子狂うな・・・


 2人が退出し、暫らくすると、ジェラルド氏に話の先を促された。


「さて、これでここには私と君以外は誰もいない。先程の話の続きをお願いしようか」


「分かりました。 所で、ギルドマスターは生産系スキルについて詳しい方ですか?」


「生産系スキルかね? 一般人よりはかなり詳しいと思うが、知らないスキルももちろんあると思うよ」


「では、薬師のスキルについては?」


「珍しいスキルだね。確か薬草とかを調合して様々な薬を作り出すスキルだったと思うが、それが関係するのかね?」


 ふむ、珍しいスキルなのか? 少し聞いてみよう。


「こちらでは珍しいスキルなんですね。 少し話から逸れますが、どうして珍しいんでしょうか?」


「それは回復魔法があるからだ。 この国は女神の名を関しているだけあって、神職者がそれなりに多い。その所為もあってか、怪我や病気は神殿で治せる。だから殆んどの者は薬に頼らないんだ。 それに薬師スキルを得るには調合を繰り返す必要があるが、調合素材を揃えるにはお金が掛かり過ぎるし、自力で集めるにもそれなりの危険がある。その点、回復魔法は適性と魔力さえあれば呪文を覚えれば使える。適性が無くても神職者になればある程度は使えるようになるからね。 そう言った事情があるから、薬師のスキルを持っている者は珍しく、薬が高い原因でもある」


「なるほど、この国の特色が出てるんですね」


「そうとも言えるね。しかし、他の国でも似た様なものだと思うんだがね? しかし、こんな話が出ると言う事は、薬師スキルを持っているのかね?」


 他の国でも薬師は珍しいのか、覚えとこう。 しかし、ジェラルド氏は察しがいいね。話がサクサク進むよ。


「えーと、実は私、『薬師』スキル系の最上位である『錬金術』を取得してるんですよ。 と言うか、本来そっちが本業でして、戦闘系スキルはほんの護身用程度に齧ってるだけなんです」


 錬金術が本業ではないが、戦闘メインでない事は本当なので、そうアピールする。 こっちに来るまでは戦闘行為そのものと無縁だったしね。 戦闘なんてゲーム内でしかした事ないよ。


 俺の言葉を聞いたジェラルド氏は、なんか固まってるよ。 表情も体も・・・


 俺は苦笑しながらも話を続ける。


「私の見た目でもお分かりとは思いますが、私、本来は争い事が苦手なんですよ。 ただ、舐められるのは嫌いなので、舐められない様、手を出して来た者には『俺は強い』アピールの為、少々エグイ事もしましたし、それなりの張ったりをかましたりもしました」


 そう言って本音を少し吐露すると、ジェラルド氏も納得したようだが、驚きが全く隠せていない。


「ラ、ラクタロー君。 君、あれだけの戦闘センスと技量を持っているのに、本業は錬金術師だったのかい?」


「はい、そうですよ。この王都に来るまで魔物との戦闘も経験した事ありませんでしたし、それまでは屋内の仕事がメインで、肉体労働系もあまりした事なかったですね」


 そう言うと、ジェラルド氏の眼が驚愕に見開かれる。 人が驚く様を見るのって、面白いね。


「信じられん。それだけの膂力と肉体的強さを備えているのに・・・」


「そこはレベルが上がってるからでしょう。私、今レベル23ですから、一般人からしたらかなり逸脱してると思いますよ?」


「・・・」


 ジェラルド氏は何やら考え込んでいる様だ。


「因みに、私が錬金術を取得したのも、その飲み物の再現の為なんですよ」


 これは本当の事だ。後は料理スキルを取得できれば、コーラ作成に一歩近付くだろう。


「さて、それでは、最初の質問の答えですが、昨日はその飲み物を作成する為の実験をしていたんですよ。私にとって一番重要な事柄です。それに比べれば、カーチス防風林やその奥の森での出来事は私にとってどうでも良い事なんですよ。 ギルドマスターの依頼を受けたのも、単に手っ取り早くお金が稼げるから受けただけですし、この王都がゴブリンやオークに襲われても私はこの王都を離れて別の地で目的を成し遂げるだけです」


 そう言って正直な本音を伝えると、ジェラルド氏は目を剥いた様に驚いていた。


 俺はまたも苦笑しつつ、話し続ける。


「この王都に私が最初に抱いた感想は、『なんて治安の悪い場所なんだろう。』です。既に6日程この王都で過ごしていますが、私が行ったことのあるどの街よりも断トツで治安が悪いんですよ。この王都と言う場所はね。そんな場所に愛着や未練なんて湧かないし、出来るだけ早く立ち去ろうとさえ思ってますよ」


 この台詞にはジェラルド氏も怒るかな?と思ったのだが、難しい顔で質問された。


「この王都の治安が悪いと思った原因は何かね?」


「たった6日しか過ごしていないのに、女性のレイプ現場に出くわしたのが1件。私が直接絡まれたものでも、窃盗というか、強盗かな?が2件。後は殺意をもって襲われたのが1件。因みに全て撃退しましたが、その結果、女性のレイプ現場以外は全て冒険者が犯人でした」


 そういって皮肉気に笑うと、ジェラルド氏が沈痛な面持ちで額の汗を拭う。


 以前「冒険者は破落戸の集まりではない」と俺に言ったのに、俺に対して犯罪行為を働いたアホは全て冒険者だったからだろう。


「申し訳なかった、ラクタロー君」


 重苦しい雰囲気を纏ったジェラルド氏が静かに頭を下げ、謝罪する。


「別に良いですよ。組織の頂点が下っ端の手綱を握れていない事は良くありますから。ただ、そう言った経緯もあるので、この王都と言う街はあまり好きではないですね」


 そう言って毒の混ざった本音がポロっと零れてしまった。


 俺のその言葉にジェラルド氏の眉も一瞬ピクッと跳ね上がるが、事実であり、直ぐにどうこう出来るものでもないので反論できない様だ。 申し訳ない。本当につい本音が漏れただけなんだ。


 気不味い空気が流れるが、強引に話題を戻す。


「そう言う事なので、私はその飲み物を作る為に現在、お金やその他の環境を整えつつ、実行出来る実験や研究は迅速に進めて行く事にしています。 なので、ある程度資金が貯まれば、王都を離れるだろうし、キナ臭い事になればその前でも立ち去るでしょう」


 今後の俺の方針を正直に伝えると、それが真実であると悟ったのだろう。ジェラルド氏の顔が曇る。


 諦めてくれたかな? そう思ったのだが、実際は真逆の行動に出られた。


「ラクタロー君。君の目的とその方針は十分に理解した。そして君の本音も良くわかった。 しかし、その上で私は君にお願いしたい。 ゴブリンキングとオークキングの討伐に力を貸してほしい。 どうか、この願いを聞き入れて貰えないだろうか?」


 ジェラルド氏は俺の本音を聞き、それでも頭を下げてお願いをしてきた。


 正直、こういうのは対処に困る。


 思えばこのジェラルド氏は多少強引ではあるが、俺にとって悪い人物ではない。 と言うか、ギルドマスターではあるが、権力を笠に着て言う事を聞かせる様な事をせず、只の冒険者である俺に頭を下げれる。できた人物だ。


 こういった筋の通った正面からのお願いをされると、正直断り難い。


 俺は暫らく考え込み、脳みそをグルグル回転させていたが、結論は最初からほぼ出ていた。


 俺は溜め息を吐くと、


「分かりました。 協力します」


 と答えた。


 ジェラルド氏は嬉しそうに表情を崩すが、俺は賺さず掌をジェラルド氏に向け、言葉を発する。


「ただし、私は死ぬ気はありません。 命の危険を感じたら即座に逃げ出しますので、そのつもりでお願いします」


「もちろんだ。それは冒険者の常識だよ」


「それと、ここで話した私のスキル関係のお話や、目的については他言無用でお願いします」


「それも了解した」


 そう言ってジェラルド氏は手を差し出してきた。


 俺はジェラルド氏の手を握って握手をする。


 俺の本音を話す前と後で、なんか立ち位置が入れ替わったような気がするが、気のせいだろう。


 そうして俺はジェラルド氏に協力することになった。




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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