第28話 ドミグラスソースの裏側で・・・ (第20話の支部長室でのやり取り)
大変遅くなりました。
最近仕事で疲れる事が多くて・・・
楽太郎が退出してからの支部長室では、トレイン行為に及んだ冒険者2人組の尋問が始まっていた。
大体の経緯はミロの説明で把握しているが、この2人が何故カーチス防風林へ行ったのかについては判明していなかった。
「それで、ギルドの掲示板にはカーチス防風林及び、その奥の森には中級冒険者のパーティ以上でないと、立ち入らないよう、通達があったと思うが、君達はどうしてカーチス防風林へ行ったのかね?」
そう言って例の2人組に笑顔で質問したのは冒険者ギルド・サスティリア支部のギルドマスターであるジェラルド=ベルジュであった。
顔は笑っているが、瞳の奥は一切笑っていない。
縄で縛られている2人は疲労、もしくは恐怖。それとも引き摺られている間にもうどうでも良くなったのか、目は虚ろでどこを見ているかも定かでは無くなっていた。
・・・
その他の一同は様子を伺っていたが、これと言った反応はないようだ。
「ふむ。 仕方ないか。 余りこういうことは好きではないのだがね」
ジェラルドはそう言って溜め息を吐くと、直ぐに顔を引き締め、2人組を睨み据えると、徐に殺気をぶつける。
呆けていた2人組は一瞬で目に光が戻り、それと同時にジェラルドに怯え、気圧される様に震え上がる。
直接殺気をぶつけられていない者も室内の温度が一気に下がったように感じられ、その上、口が一瞬で乾いたような感覚に陥る。
「ふぅ、正気に戻ったかね」
ジェラルドがそう言うと、室内に満ちていた濃密な殺気は嘘の様になくなるが、室内の人間は皆一様に静寂を保っていた。
ただ、ジェラルドに視線を向けられた2人組だけは壊れた人形の様に首を縦に激しく振っていた。
「結構」
そう言って周りをジェラルドが見渡すと、他の一同は顔を引き攣らせてジェラルドの方を見ていた。
「諸君、どうしたのかね?」
不思議そうにジェラルドに問いかけられるが、誰も声を出せない。
唯一アロマのみが返答をした。
「マスターの威圧で皆さん驚いているんでしょう。 初めて見る方には少々刺激が強すぎると思われます」
それを聞くと、ジェラルドは顔を顰めるが、すぐに軽い口調に戻ると、
「それは失礼した。 手っ取り早い手段ではあるんだが、周りにも影響があるのが玉に瑕でね」
そう笑うと、周りの緊張も少し解けたのか、安堵の息を吐く音が疎らに聞こえた。
室内の雰囲気も若干和らぎ、落ち着いた頃を見計らって、ジェラルドは2人組に問いかける。
「それでは、どうしてカーチス防風林に無断で入ったのか、また、モンスターを引き連れてきた事に対する説明をしてもらおう」
そのセリフを皮切りに2人組の説明が始まった。
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2人組の男の名前はビフとゾルフと言う。冒険者ランクは共にG級で、もう少しでF級に上がれる所まで来ていた。
本当に後もう少しで中級冒険者の仲間入りだと意気込んで、王都から3日ほど離れた場所での討伐依頼を2週間前に受けたのだが、その討伐依頼でビフが怪我をした。
依頼そのものは達成したが、怪我を治す為、ビフは冒険者稼業を暫らく休むことにした。
ゾルフは単独で依頼を受けようかと考えたが、昔からの友人であり、同じ村から冒険者になろうと誓い合って王都に来た仲だ。1人で先に中級冒険者の仲間入りをするのも躊躇われたので、ゾルフも冒険者稼業は休んで、この2週間はのんびりと羽を伸ばした。
そうして2週間が経つ頃にはビフの怪我も治り、本日より冒険者稼業へ復帰したのだが、この2週間、金銭的にほぼ無収入でいた為、懐事情はあまり芳しくない。
手っ取り早く稼げ、鈍った感を取り戻す為にも近場の簡単な討伐依頼を受けるつもりだったのだが、初級掲示板には近場の討伐依頼がなく、カーチス防風林への立ち入り制限が書かれていた為、ギルドの窓口に相談した。
ギルドの窓口では現在、カーチス防風林でのクエスト依頼は中級冒険者のパーティ以上の依頼になっていると言われ、近場での討伐依頼は初級冒険者向けはないと言われた。
初級冒険者向けの討伐依頼は王都より少し離れた場所しかなく、近場での依頼なら配達や採取系の依頼を勧められたが、カーチス防風林でのゴブリン討伐が中級冒険者以上になったことが納得できず、なまじっかカーチス防風林でのゴブリン討伐を何度も熟して来た経験があるだけに、「多少強くなっていても自分達なら大丈夫だろう」と高をくくって、その足でカーチス防風林へと向かった。
カーチス防風林へ向かう途中で『風巻の団』にもギルドで言われた同じ台詞を言われ、戻るよう追い払われた事で更に反骨心を煽られた。
高々ゴブリン如きに何を怯えているのか。何時から冒険者ギルドは腰抜けの集団になったのかと、ビフとゾルフは憤慨してしまった。
ビフとゾルフは王都に戻る振りをして、街道から外れて草原に入り、そのままカーチス防風林を目指し、歩き続けた。
草をかき分けながらの道中ではギルドへの不満を言い合いながら、怒気を強め、次第に歩みは早くなり、警戒行動も雑になっていった。
そんなこんなで、幸か不幸か無事カーチス防風林へと到着したビフとゾルフは早速防風林の中へと入っていった。
防風林に入って30分が経った頃、1匹のゴブリンを見付ける。
普段のビフとゾルフなら、ゴブリンは基本的に集団行動を取る生物であることを熟知している為、他に仲間がいないか警戒し、暫らく観察していただろう。
だが、今回はギルドへの不満と己自身への過信、そしてゴブリンへの侮りが重なり、あたりを警戒する事もなく、そのままゴブリンに襲いかかった。
雑に接近した為、不意を討つ筈のビフの初撃は、襲撃者の接近を直前で気付いたゴブリンに躱された。
次のゾルフの攻撃はゴブリンに弾き返され、ゾルフは体勢を崩してしまう。
ビフとゾルフは信じられないものを見たように一瞬固まる。
ゴブリンはその隙に雄叫びを上げる。
仲間を呼んでいるのだ。
その雄叫びを浴びて我に返ると、ビフとゾルフは気を引き締め直し、連携してゴブリンに襲いかかったが、攻撃は尽くゴブリンに躱され、いなされ、時に反撃までされ、まるで格上の戦士と戦っているような絶望感を味わう。
その頃にはギルドへの不満なんぞは吹っ飛び、自分たちの愚かさを実感し始めていた。
たった1匹のゴブリンに死闘を演じる羽目に陥っていたビフとゾルフの耳に、近付く足音が聞こえてきた。
その音が聞こえてきた瞬間、退治していたゴブリンが厭らしい笑みを見せた。
その嗤いは、普段であればビフとゾルフに怒りを覚えさせたものだろう。しかし、今の状況では破滅へ導く悪魔の笑顔に見えた。
ゾルフは嫌らしく嗤い続けるゴブリンへと我武者羅に剣を振るうが、掠らせることすらできず、ゴブリンの嗤いを更に誘うだけだった。
だが、そんな油断したゴブリンの顔に向けて、ビフが土を投げかける。
調子に乗って嗤っていたゴブリンは、目に土が入り、急に慌て出す。 片手で目をこすり、剣を持ったもう片方の手を振り回す。
ビフとゾルフは好機と見て、ゴブリンには構わず、一目散に逃げ出した。
そこからは彼らも良く覚えていないが、何度かゴブリンに遭遇し、その度に反対方向へ逃げたり、樹上へ隠れたりと、紆余曲折あって街道へ。
街道に出てからは王都へ向けて走り続けた。
途中誰かの制止の声が聞こえたが構ってられなかった。 必死に逃げ続けた。
逃げ続けた結果、草原で槍を持った冒険者に昏倒させられ、そのまま捕縛されて王都へと戻ってきた。
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と言う様な事らしい。
話を聞き終えると、ジェラルドは頭が痛くなるのを感じた。
全く、己の実力も顧みない駆け出し冒険者の見本のような失敗例だな。
本当の駆け出し冒険者のラクタロー君ならギルドの掲示板を見た時点で、カーチス防風林には近寄りもしなかったろう。 実力は抜きにしても、冒険者4日目の新人と比較して、その稚拙な行動を見ると、どうしても見劣ってしまうな・・・
以前であれば実力のある上級冒険者が抑えに回ったり、初級・中級冒険者が上級冒険者の派閥に参入することで、上級冒険者が初級・中級冒険者の手綱を握り、ある程度の秩序が取れていたんだが・・・ はぁ、やはり戦争で上級冒険者がごっそり削られたのは痛いな。
全く。これからギルド内の秩序をどう修復・・いや、作り直すべきか、頭の痛い問題だな。
等と考えていたら、アロマに袖を突かれた。 おっと、そうだった。 思索に耽る時じゃなかったな。
「良くわかった。 ビフ君にゾルフ君だったね」
「「はい」」
「君達には罰を与える。まず、ギルドランクをI級に落とす。そして昇級はこれより1年は出来ない。あと、今回の件で警備隊に迷惑をかけた分はギルドが肩代わりするが、この費用は君たちの借金とする。 踏み倒そうとしたらそのまま奴隷落ちだからがんばり給え」
そう言い渡すと、2人の表情は絶望に満ちたものへと変化したが、これだけの事をしたのに犯罪者にならずに済んだことを感謝して欲しいくらいだ。
楽太郎君が居なかったら、恐らく『風巻の団』の面々も全滅していただろう。それに王都にも少なからず被害が出ていた。
今回は完全に彼に救われた形だ。 彼が冒険者になってくれていて本当に助かった。
「警備隊の方々、大変申し訳ない話ではありますが、今回王都への被害はありませんでしたし、警備隊の出動については金銭での解決でお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
ジェラルドへの返答には、一番年上で経験豊富な警備隊第7班隊長のハンスが答えた。
「我々警備隊は王都を守ることが仕事です。よって、今回の件に関して特に金銭等を冒険者ギルドに頂く必要はありません。ただ、今回カーチス防風林の異変について警備隊へ情報が流れて来なかった事についてお聞きしたい」
金銭よりも、情報の提供が無かった事について詰問したいようだが、今回はこれが裏目に出る。
「おや、連絡が行っていないのですか? 昨日の早朝にこのアロマを使いに出し、緊急事態の手紙を警備隊本部の大隊長カリスト殿にお渡ししたのですが?」
ジェラルドがそう答え、受取の証しである署名入りの受取証書を見せると、ハンスは目を見開き、その後、目を瞑り、額に手を置いた。
「申し訳ない。警備隊内部で情報伝達のミスがあったようだ。 今後はこのような事が無いよう努力する」
そう言うのが精一杯だったようだ。 どうやら警備隊の中でも色々あるようだ。
そう察したジェラルドは、差し出がましいとは思ったが、恩を着せるには良い機会なので、次の台詞を口にする。
「では、次からはギルドからの緊急の知らせがある場合は、警備隊の支部の方にも手紙を送らせて頂きましょうか?」
その台詞にハンスは苦い顔をしながらも、お願いすることにした。 警備隊内部の不和を曝け出した上にこれでは恥の上塗りだが、王都の警備上、非常に有益な助けだ。外聞より実を取ったのだ。
因みに警備隊の本部は貴族街にあり、城下町とはかなり離れている。 貴族街の警備には向いているが、城下町の警備に赴くには時間が掛かる。そこで警備隊は城下町にも支部を作り、貴族街と城下町の警備をそれぞれに担当させたのだが、それが警備隊内部での格差にも繋がってしまったようだ。
基本的に警備隊内部では貴族や平民と言った身分の差は存在しない。と言うより、身分差を笠に着て警備隊での階級が下の者が上の者に楯突くと、そのまま処分されるのだ。
警備隊は王直属の部隊であり、王都の守りの要である為、身分の貴賤は淘汰され、階級での秩序が絶対となっている。
それが周知の事実であり、貴族達の間でも不可侵の領域となっている。
そんな事もある為、王への絶対の忠誠を誓う者も多い。
そんな彼らとしては、王の住まう王城により近い本部勤めの隊員は城下町支部の隊員を下に見る傾向がある。
王により近い職場で働くことが一種のステータスに思えているのだろう。
実際は城下町で王都の外への警戒や都民のトラブル対応をしている城下町支部の方が王にとって頼りになる存在なのだが・・・
警備隊本部の大隊長カリストもその例に洩れず、王への絶対の忠誠を誓っている。
その為、城下町支部を軽んじ、情報共有の遅延や備品購入の遅延等、細々としたことで後回しにする傾向がある。
そんな狂信的な隊員を嫌う者は本部からの移動を願い、城下町支部へ転属すると、それが更なる意識のずれを生み、確執が深まる。こうして警備隊内部ではじわじわと不和が生まれている。
そう言った警備隊内部のいざこざに辟易しながらも、ハンスはジェラルドの出した緊急事態の手紙の内容について、恥を忍んで確認した。
ジェラルドは快く引き受け、手紙の内容を教えてくれた。
手紙の内容は以下の5点を丁寧に書き綴ったものだったそうだ。
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1つ.今回、カーチス防風林及びその奥の森にて、ゴブリンの異常繁殖が確認されたこと。
2つ.そのゴブリンが、ここ数週間で異常な程の力を付けて来ており、拙いまでも統制の取れた行動をし始め、初級冒険者では対応できず、中級冒険者のパーティ以上で当たらないと勝てないこと。
3つ.2つ目について熟慮した結果、ゴブリンキングが生まれた可能性が高く、早急な討伐が必要であること。
4つ.冒険者ギルドでは犠牲を減らす為、カーチス防風林及びその奥の森への立ち入りを制限する。それに伴い国からも調査を行い、カーチス防風林及びその奥の森への立ち入りを制限してくれるよう要請。
5つ.以上を踏まえ、警備隊及び国軍にゴブリンキング討伐の遠征を依頼。
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ジェラルドの手紙の内容を聞いたハンスとクリスタは皆顔が引き攣っていた。
ありえない。 そう思いたい心と、これ程の情報が流れてこない警備隊本部への不信。
それぞれの表情が雄弁に物語っていた。
「と言う事なのですが、更に悪い情報が1つありまして」
ジェラルドがそう言うと、ハンス達の顔色が驚きを通り越して呆れが混じり始める。
「この上まだあるんですか?」
ハンスが疑わしげに聞き返すと、ジェラルドは事も無げに言って来た。
「ええ、まだ未確認なんですが、どうもオークにもキングが生まれた可能性がありましてね」
ハンス達はドン引きした。
もし事実なら、王都は未曽有の危機に晒されている。
警備隊本部どころか、王城へ報告し、指示を仰がなくては・・・
焦燥に駆られるハンスだったが、ジェラルドから待ったがかかる。
「すみません、ハンス殿。あくまで未確認の情報なので、我々も今調査をしている所なんです」
そこでハンスが我に返ると、取り乱した事をジェラルドに詫びた。
頃合と見たジェラルドは締めに掛かる。
「それでは今回の件は警備隊の方々からは特にお咎め無しと言う事で宜しいでしょうか」
「ああ、申し訳ない。今回の件は警備隊の方でも手落ちがあったようだ。冒険者ギルドとしての対応は間違っていないと思われる」
「どうもありがとうございます」
そう言ってジェラルドが深々と頭を下げると、話はこれで終わりとばかりに、ハンスは支部長室より退室して行った。
警備隊第2班の隊長クリスタが思い出したように1つ質問をした。
「因みに、今回のゴブリンの掃討数は何匹ですか?」
それには「風巻の団」のリーダーミロが答えた。
「50匹です」
それを聞くとクリスタの顔が明るくなった。
「強化されたゴブリンをそれだけ倒せるとは、あなた方は強いんですね」
その台詞に「風巻の団」の面々は苦笑いを返す。
「いえ、先程退出した冒険者の『ラクタロー』さんが、ほぼ1人で倒されたんです」
その答えを聞くと、クリスタの表情が驚愕を顕にするが、
「失礼とは思うが、あの体型でそれ程の強者だとは思えないのだが?」
と懐疑的な眼差しに変わり、ミロを睨むクリスタ。そこにジェラルドが口を挟む。
「クリスタ殿。1つ忠告をしますと、彼を侮辱するような真似は慎まれた方がよろしい。彼は模擬戦ではありますが、私に勝っているのです。それに、怒らせると怖いですよ」
少々砕けた口調でおどけて見せるジェラルド。それを受け、険悪な雰囲気を払拭する為の冗談だろうと思い、クリスタは笑顔で応える。
「分かりました。私も気を付けます。忠告、ありがとうございました」
そう言ってハンスの後を追う様に支部長室から退室していった。
足音が遠ざかると、ジェラルド一同はホッと胸を撫で下ろす。
皆が一息ついたところで、ジェラルドは次の議題を上げる。
「さて、お次は先程罰として与えようとしたものだが、警備隊には不要と言われたので、代わりに今回のゴブリン討伐報酬をビフ君とゾルフ君の借金とすることで罰としよう」
ビフとゾルフは顔色を変えるが、構わず続ける。
「確かゴブリンの討伐報酬はオーク相当に上がっていたな、今回の討伐数が50匹だから・・・金貨5枚だな」
ジェラルドのその台詞を聞くと、ビフとゾルフは悲鳴を上げたが、命の値段としては安いものだ。
後の手続きはアロマに任せる事にして、アロマを先頭に縛られたままのビフとゾルフにも退室してもらう。
3人が去った後に残ったのは、風巻の団の6人とクレオ、私の8人だ。
ここからが本題だ。
「さて、ミロ君。ゴブリンと直接やりあった君達に聞きたいんだが、いいかね?」
「ええ、問題ありません」
「ありがとう。 今回は数で押されたみたいだが、例えば君達と同数のゴブリンと戦った場合、勝てるかね?」
そう質問すると、ミロは難しい顔をしたが、少しすると答える。
「恐らく勝てると思います」
「では、君らの倍数であった場合、勝てるかね?」
今度は即答で答える。
「残念ながら勝てません」
予想していた通りの返答に、少々困ってしまう。
こうなると、次の手は・・・
そう考えていると、ミロから提案があった。
「ギルドマスター、ロミーナはどうでしょうか? 彼女は高レベルですし、ここ何回かは一時的とは言え、パーティを組んで依頼を受けているそうですし、そのメンバーもかなりの実力者と聞きます」
そう言われて、ロミーナの事を思い出す。
アルファーノ子爵家の令嬢で実力もあるが、負けん気が強く、貴族気質が鼻に付く為、パーティを中々組めずにいたと思っていたのだが、良い仲間と巡り合えたのだろうか?
「クレオ君。本当かね?」
「はい、ロミーナ嬢は現在4人パーティを一時的にですが組んでおります。なんでも今受けている依頼が成功したら正式にパーティを組むそうです」
ふむ、なるほど。それならロミーナのパーティに討伐依頼をしてもいいかもしれんな。
「因みにクレオ君、ロミーナ君のパーティのメンバーはどうなっているのかね?」
「斥候役も熟せる軽戦士のジャン。加護持ちのロベルト。火炎の魔術師ブリジットの3人。何れもそこそこ名の売れた者達です」
ふむ、確かジャンとかいうのは、聞き覚えがあるな、上級冒険者のセルジオが拾った戦災孤児だったかな。 剣の腕は中々のものだが、感情的になり易く、喧嘩が絶えないと昔セルジオに相談された事があるな。
ロベルトは確か、女神「サスティナ」の加護を持つ神殿期待の新人だったな、本人が神殿騎士を目指していたので、修行として冒険者になった際、神殿から圧力を掛けられた。その所為で本人はパーティを組んでくれる相手が見付からないとかで、悩んでいたな。
ブリジットは確かサディウス王国出身の腕利き魔術師だとか言っていたな、ギルド内でも何回か問題を起こしていたが、全て相手に問題があった為不問になっていたな、なんか、女版ラクタロー君のようだ。
ふむ、癖の強い者達が一堂に会して意気投合したようだな。 このギルドにとっては良い事だ。早速依頼をしてみるか。
「クレオ君。以前ラクタロー君に提案してもらった調査方法を試したいのだが、囮役をラクタロー君、ないし私がするとして、調査パーティを彼等『風巻の団』とロミーナ君のパーティと、あと2つほど適当なパーティを見繕って欲しいのだが、出来るかね?」
そう尋ねると、クレオは暫らく考えた後、返答を返す。
「今挙げられた2つのパーティに多少見劣りしても良いと言う事であれば、可能です」
「よろしい。それでは早速それぞれのパーティに打診してくれ給え」
「了解しました」
そう言うとクレオは支部長室から退室していった。
部屋に残ったのはミロを始めとした「風巻の団」のメンバーだ。
「ギルドマスター。何をするつもりですか?」
真剣な顔でミロが質問をしてくる。
「なに、ゴブリンキングの根城を見付けようと思ってね、その為に必要な人材を今から集めるんだよ」
「?! それはかなり危険な調査になるんじゃないですか?」
「なに、1番危険な役目はラクタロー君に任せる予定だから安心してくれ給え」
そう言うとあからさまに安堵の溜め息を吐くミロ。 うーむ、まだまだ若いな。と、ジェラルドは内心で苦笑してしまう。
1番の危険はないだけで、調査役も十分に危険なんだがね。 交渉事に従事するにはまだまだ若すぎるか。
その点ラクタロー君は中々の老獪さが伺える。あの齢でどれ程の経験を積んでいるのか・・・ それに彼の戦闘技術にも大いに目を見張るものがある。
レベルこそ低いものの、総合的なステータスはかなり高いだろう。それに私を遥かに超える洗練された戦闘技術。私もあと10歳若ければ教えを乞うていたかもしれない。
彼を見ていると若い頃を思い出すのか、心が昂ぶるのを感じる。
そんな事を考えていると、支部長室の扉がノックされる。
「どうぞ」
返事を返すと、「失礼します」とクレオの声が聞こえ、その後に続いて男女4人が入室してきた。
「丁度ギルドにロミーナさんのパーティが居られたので、こちらにお呼びしました」
タイミングが良すぎる気がするが、まぁ、いいだろう。
「ありがとうクレオ君。助かったよ。 それと、ロミーナ君。ジャン君。ロベルト君。ブリジット君。久しぶりだね」
そう言ってクレオに労いの声を掛けつつ、入ってきた面々に挨拶をする。
「「「「お久しぶりです。ギルドマスター」」」」
其々が返答を返す。
「そう言えばロミーナ君。小耳に挟んだんだが、君達はパーティを組むことにしたのかね?」
「はい、今回の依頼を達成し、皆さんと相談した結果、パーティを組むことになりました」
「ほう、それは目出度いね。それでパーティ名は決まったのかね?」
「それがまだ決まっておりません。これから皆さんと話し合って、決めようと考えている最中です。 近日中には決まると思いますので、その時はよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるロミーナ。 ふむ、心なしか自信に満ち溢れているように思える。
良い仲間に出会えたようだ。 ジェラルドは後進の者の成長を喜ぶように笑みを見せた。
「パーティ登録の時は喜んで手伝わさせて頂こう。さて、そろそろ本題に入りたいのだが、よろしいかな?」
そうジェラルドが言うと、4人の表情が真剣味を増した。
「それでは本題に入るのだが、今現在カーチス防風林に立ち入り制限を行っているのは知っているかね?」
「はい、先程掲示板で確認しました」
最低限の情報は入っている様だな。
「実はその件なのだが、現在、カーチス防風林及びその奥の森にゴブリンキングが生まれた可能性が非常に高いのだよ」
そう言うと4人の表情が驚きに変わる。
「本当ですか?」
「ほぼ確信を持って言える状況だ」
そう答えると、ロミーナは黙し、ジェラルドに続きを促す。
「そこで君達にゴブリンキングの根城の発見及び調査を依頼したいのだが、良いかな?」
依頼内容を明かすと、ロミーナ達は視線を交わし合う。
「すみません。少し仲間内で話し合っても良いでしょうか?」
「まぁ、待ち給え。もう少し依頼内容を詳しく説明しよう」
そう言ってジェラルドはロミーナ達にラクタローの考えた作戦を伝えた。
「その作戦の中核となる陽動を担当するパーティはどちら様でしょう?」
ロミーナがそう質問すると、ジェラルドの顔が少しだけ曇った。
対面した事のない者には説明しずらい人物なのだ。 ラクタローと言う人物は・・・
「名前はラクタローと言うのだがね、最近冒険者になった者で、猟獣にフォレストウルフを従えているやり手の冒険者だ」
ジェラルドの説明を聞いたロミーナだが、名前に心当たりがなく、最近冒険者になったと言うところに喰い付かれた。
「失礼とは思いますが、その方の冒険者ランクは幾つでしょうか?」
ジェラルドは苦虫を噛み潰した様な渋い顔で答える。
「・・・G級だ」
その言葉を聞くと、ロミーナ達の表情があからさまに変化した。 不機嫌な表情に・・・
「初級冒険者に作戦の中核となる役目をお与えになるつもりですか? その方より私達の方が適任だと思われますが?」
ロミーナ達は自分達が軽んじられたと思ったのだろう。
その言葉にジェラルドはキッパリと答える。
「君達ではラクタロー君の足元にも及ばんよ。 実力が違いすぎる。 彼は模擬戦とはいえ、私に勝ったんだよ?」
そのジェラルドの言葉にロミーナが反論する。
「お言葉ですがギルドマスター。あなたは戦争での負傷が元で満足に戦えない体になったとお聞きしましたが? そんな方に勝ったからと言って納得することはできません!」
「その情報は既に古いよ。残念ながら私の足は治っている。完全な状態で負けたのだよ」
そうジェラルドが言い募ると、ロミーナは嘲笑交じりに侮蔑の言葉を吐く。
「ではギルドマスターも大したことが無いのですね。まさか初級冒険者に負けるとは。ずいぶん耄碌した「小娘。いい加減にしろよ?」」
ロミーナの言葉を遮り、ジェラルドが殺気を込めた言葉を被せる。
ジェラルドの殺気を浴び、ロミーナどころか、残りの3人も動きが固まる。
まるで空気が重さを持っているかのように、重苦しい重圧が全身にかけられ、言葉を発する事も出来ない。
「この程度の殺気で身動きも出来ん未熟者共が小五月蠅く囀るんじゃぁない」
けして大きな声ではないが、室内に響く声は底冷えのする様な冷たさを孕んでいた。
身動きのできない4人は次第に恐怖が浸透し始めたのか、小刻みにガタガタと震え始める。
ジェラルドは頃合を見計らい殺気を消すと、期待外れであったと嘆息し、言い放つ。
「君達はどうやら小人の集まりであったようだ。 この依頼は無かった事にしてくれ給え」
そう言うと、ロミーナ達を支部長室から退室させた。
足音が遠ざかるのを確認すると、ジェラルドは溜め息と共に呟いた。
「さて、困ったものだ」
「ギルドマスター。やはり彼女達は性格面で適さなかったようですね」
ミロがジェラルドの言葉に乗せる。
「のようだな。はみ出し者が傷をなめ合って徒党を組んだだけのようだ」
「「困ったものだ(ですね)」」
支部長室からは深いため息の音が漏れた・・・
今回、多少書き方が変わってるかもしれません。